第28話 男のはずの聖がスカートを履いてたんだが、俺の脳がバグった話
ゆういち「やっべ、早くケーキ買って帰らねぇと、姫花を待たせちまう!」
放課後の廊下を駆け抜けながら、俺は焦燥感でいっぱいだった。
妹との約束の時間は、もう目前――遅れたら、あの子はきっとむくれて口きいてくれなくなる。
めんどくさいけど、可愛い妹だ。なにより――今日は、俺の大切な妹・姫花の誕生日。
「全力ダッシュ案件だろ、これは……!」
息を弾ませながら昇降口を抜け、靴を履き替えたそのときだった。
ふと、視界の端に――ひときわ異彩を放つシルエットが飛び込んできた。
(……ん? あれ、今のって……聖?)
何気なくそちらに顔を向けた瞬間、目が釘付けになった。
淡い水色のスカートが、春の風になびいていた。
それを纏っていたのは、どこか氷のように気品をまとった美少女。
そして――その正体は。
「……おい嘘、だろ」
如月 聖。
俺の幼なじみで、男のはずの“聖”が、まるでどこかの社長令嬢みたいなオーラを纏ってそこに立っていた。
その姿は幻想的で、どこか浮世離れしていて。
「おいおい……バグか、これ」
頭がついていかない。心臓の鼓動ばかりがうるさい。
でも俺は、あえて目を逸らした。
「……まぁ、他人の空似だろ」
自分にそう言い聞かせて、俺はその場から逃げるように、足早に帰路についた。
プレゼントを無事に買い終えた俺は、息を整えながら駅前の小さなケーキ屋へと足を踏み入れた。
「チリン――」
ドアベルの音が軽やかに鳴り、甘く優しい香りが鼻をくすぐる。
(よし、これであとはケーキを選ぶだけ……!)
そう安堵した、まさにその瞬間だった。
ショーケースの向こう――
見覚えのある横顔が、俺の視界を撃ち抜いた。
(……ん?)
風にふわりと揺れる、水色のスカート。
繊細なシルエット、凛とした雰囲気。そして――
(……スカート!?)
帰り道で見かけた、“あの女の子”と同じ服装。
まるで写し鏡のように、そこにいたのは――如月 聖によく似た姿だった。
いや、もはや似ているどころじゃない。
目が合った、その瞬間。
(えっ……ゆういち!? なんで、こんなところに……?)
やばい――って、やばい、やばいってば……!
今日に限って……しかも、よりによって――ゆういち!?
(私、今、“この姿”なのに――
見つかっちゃった……!)
(嘘でしょ、嘘……お願い、気づかないで。見ないで……っ)
視線をそらそうとしても、身体が動かない。
心臓の音が、頭の中まで響いてくる。
なのに――
聖――いや、瓜二つの”彼女”が、まるで見つかってしまった罪人のような瞳で、俺を見つめ返していた。
「……あれ?」
俺の口から、情けないほど間の抜けた声が漏れる。
冷蔵ケースよりも冷たい空気が、心臓の奥まで染み渡っていくような――
けれど確かに、胸の奥は熱く跳ね上がっていた。




