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第24話 推しの寝顔を前に、俺の理性がバグってる


(……あたしの、ばか)


薄く目を開けた安城恵梨香の視界に、驚愕の表情を浮かべた――神田ゆういちの顔が飛び込んできた。


(やばい……完全にバレてる!?)


眠気は瞬時に吹き飛び、脳内に警報が鳴り響く。修羅場。この状況は明らかに――修羅場!


だが、安城の頭は冷静だった。いや、逆に冷静すぎて怖いレベル。


(選択肢は二つ……)


①正直に「部屋間違えた」と謝る。

②手刀で気絶させて立ち去る。永眠してもらう勢いで。


(……どっちも地獄。でも……②しかないわね)


と、そのとき。


(……なんだ、夢か……)


呑気な声が、彼の心から漏れてきた。


(まさか……今の状況、夢だと思ってる!?)


まさかの選択肢③が頭に浮かぶ。

③夢だと思わせて、寝かせてから立ち去る。


(ナイス第三ルート……!)


安城はそっと、優しく心の中で囁く。


(そう……あなたは今、夢を見ているの。おやすみなさい……)


――だが。


(……これって推しの顔、じっくり見れるチャンスじゃね?)


(はぁぁぁあああああ!?)


内心で絶叫する安城。


(寝ろ! 今すぐ寝なさい!)


(推しの寝顔見放題とか、マジで前世でどんな徳積んだ? てか俺、国救ったん?)


(そんなバカなこと言ってないで、今この状況から“私を”救いなさいよ!)


安城の理性が限界突破するそのとき――


(……②、実行するか)


構えかけたその瞬間。


(なんかこの安城……寝てるのに、殺気出てね?)


(――しまった!!)


彼は、格闘センスだけは本物だった。


(ダメダメ、深呼吸よ!スゥー……ハァー……殺気、セーフ!)


(……やっぱ見るのやめとくか。ってか、見たいけど)


(見るな!!)


(うわ……まつ毛めっちゃ長っ……鼻、整いすぎじゃね? 肌……赤ちゃんか?)


(だ、だめ……顔がニヤけちゃう……)


(採点するなら……ちょい厳しめで……7兆点ってとこか)


(厳しくねぇし!!!)


(てか、いい匂いすんな……どこのシャンプー?)


(あんたの家のシャンプーだわよ!!)


そのとき。

彼の脳裏に、あの白いワンピースがふっとよぎる。


(……今日の安城、似合ってたな。お姫様みたいで)


ふわりとしたシルエット、透けるような白。


(プレゼント、無理やりだったかな……でも、後悔はしてない)


静かに寝返りを打つゆういち。

安城は、そっと心の中で――感謝を囁こうとした。


(……大切にするわ。素敵なプレゼント、ありがとう)


――ピキィン。


その瞬間、ゆういちの瞳がすっと開いた。

“能力”が、発動してしまった。


「……大切にするわ。素敵なプレゼント、ありがとう」


安城、凍りつく。


(な、なに……!? 今……声に出した!?)


「え? 今の……安城の声……?」


――まずい、完全に気づかれた。


(……もう、②しかない)


安城が構えた、そのとき。


「……本当に、いい夢だな。嘘でも……すげぇ嬉しいわ……」


そう呟くと、彼はふっと脱力して――再び眠りについた。


静かな寝息が、部屋に満ちる。


「……ばか。嘘じゃないわよ」


安城は小さくつぶやいて、ゆっくりと立ち上がった。そして、そっと部屋を出て、自室へ戻る。


――朝。

カーテンの隙間から、光が差し込む。

ゆういちは布団の中で、ぼんやりと目を覚ました。


(……なんか、すっごく……いい夢を見てた気がする)


夢の内容は、思い出せない。ただ、胸の奥が妙にあたたかかった。

ふと、床に視線をやる。


「……ん?」


そこには――一本の、金色の髪の毛。


「……なんで、こんなとこに……金髪?」

一瞬だけ、胸に引っかかる感覚。

でも、すぐに頭を振って振り払う。


「……まぁ、いっか」


苦笑しながらそうつぶやくと、布団をはねて立ち上がった。洗面所で顔を洗いながら、ふと思う。


(……もう二度と見られないかもしれないな、あんな夢)


静かに水を拭い、ため息のような息を吐く。

そして、リビングへ向かう足取りはまだ少し重かった。


──扉を開けた、次の瞬間。


視界いっぱいに、朝の光と――

白いワンピースを纏った安城恵梨香が映り込んだ。その隣には、にこにこと笑う妹・姫花の姿。


「…………え?」


言葉が漏れる。

一瞬、現実が夢に追いつけない。


でも、そのワンピースは――昨日、自分が選んだ、あの一着で。

安城はそっとこちらに目を向け、微笑んだ。


「……おはよう。ちゃんと起きられたのね」


その一言が、やけに胸に刺さる。


(……なんでだよ、こんなことで)


鼓動がひとつ、大きく跳ねた。


姫花「えへへ、お姉ちゃん、すっごく似合ってるでしょ?」


(……夢、じゃなかったのか? それとも――)


ゆういちは答えの出ないまま、ゆっくりと息を吐いた。


金色の髪の毛。

白いワンピース。

あの夜の、温もり。


すべてが少しずつ、静かに――

“現実”へと、形を取り始めていた。

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