第1話 初恋に絶望した俺を救ったのは、高嶺の花のギャルでした。
「……にしし♡ ゆういち、久しぶりだね?」
目の前にもう縁を切ったはずの初恋のトラウマ。
その彼女の笑顔を見た瞬間――
背筋が凍った。
忘れるはずがない。
それはかつて、
絶望の底に沈んだ俺の手を引き上げてくれた笑顔だった。
誰よりも俺を理解してくれて。
誰よりも近くで寄り添ってくれて。
――そう、信じていた頃のままの笑顔。
「わたしね、ずっと……ずっと会いたかったんだよ?♡」
ふわり、と揺れるピンク色の髪。
物語のヒロインみたいに綺麗で――
それなのに。
その笑顔の奥に潜む“毒”を、
今の俺は嫌というほど知っていた。
彼女は一歩、また一歩と距離を詰める。
逃げる暇すら与えないまま、
細い指で俺の胸元をつん、つんと小突いた。
「まさか進路まで変えちゃうなんて、予想外だったよ?」
ぞくり、と悪寒が走る。
その瞳は、
獲物を見つけた捕食者の目だった。
――逃がさない。
――どこへ逃げても見つけ出す。
――何度でも捕まえ直す。
言葉なんてなくても分かる。
その視線は、
そう告げていた。
目の前にいるのは――
かつて“初恋”だった少女。
もう二度と会わないと思っていた。
いや、違う。
俺が、二度と会わないと決めた相手だ。
人生から切り捨てたはずの存在。
忘れたかった。
忘れなければ、前に進めなかった。
なのに――
「……どうして、お前らがここにいるんだよ……」
掠れた声が喉から漏れる。
彼女は笑ったまま、
ゆっくりと語り始めた。
そして、その瞬間。
俺は悟った。
ああ――
これは再会なんかじゃない。
絶望の“続き”だ。
終わったと思っていた過去が。
忘れたはずの傷が。
封じ込めたはずの記憶が。
全部まとめて、
牙を剥いて襲いかかってくる。
逃げ場なんてない。
これは――
過去と向き合わされるための、
残酷すぎる答え合わせ。
そして。
終わったはずの日々が、再び動き出す合図だった。
♢♢♢♢
時は、少し遡る。
――彼らと再会する、そのずっと前。
あいつらと決別し、
俺が“新しい人生”を始めようとしていた頃の話だ。
高校入学の日。
「花の高校生活? ……ああ、くだらない」
桜舞い散る校門を、気だるげにくぐる。
俺の名前は、神田ゆういち。
はっきり言う。タダのフツメンだ。
そんな俺にも、かつて――
“好きな人”がいた。
物語のヒロインみたいに綺麗で、
優しくて、
誰からも愛される眩しい女の子。
最初から分かっていた。
フツメンの俺には、
到底釣り合わない相手だってことくらい。
……頭では理解していた。
それでも。
心だけは、どうしても諦めてくれなかった。
だから俺は努力した。
彼女に振り向いてもらうために。
彼女の隣に立てる人間になるために。
報われる保証なんてどこにもないのに、
泥を啜るような日々の中で、
みっともなく、
不格好に、
それでも必死にもがき続けた。
――努力は、きっと報われる。
そんな綺麗事を、
本気で信じていた。
中学時代。
俺の隣の席には、一人の女の子がいた。
本郷愛理。
優しくて、明るくて。
いつだって俺をまっすぐ見てくれていた。
『将来は、ゆういちのお嫁さんになりたいな』
『私だったら、ゆういちを一人にしたりしないよ』
その言葉に――
俺は、どれだけ救われていたんだろう。
どれだけ勘違いして、
どれだけ信じてしまったんだろう。
気づけば俺は、
彼女の隣に立つためだけに走り続けていた。
学年トップの成績。
部活ではレギュラー。
内申点だって申し分ない。
全部――愛理に好かれるため。
“隣に並んでも恥ずかしくない男”になるためだけに。
そして――
中学三年の冬。
俺は、全てを懸けた。
「愛理……ずっと好きだった」
震える声を、無理やり押し出す。
怖かった。
逃げたかった。
それでも逃げなかった。
「俺と……付き合ってほしい」
握り締めた拳の感覚だけは、今でも覚えている。
緊張で震えていた。
けれど、想いだけはどこまでも真っ直ぐだった。
そして俺には、自信があった。
あれだけ努力したんだ。
報われないはずがない。
努力は、必ず報われる。
――そう、信じていた。
だからこそ。
『ごめん……私はゆういちと付き合えない』
『……そんなつもりじゃなかったんだ』
その言葉で、
俺の世界は静かに壊れた。
……しかも。
あの時、彼女は――笑っていた気がした。
どこか楽しそうに。
それでも俺は諦めなかった。
(諦めるな……)
(受験が終わったら、もう一度告白しよう)
そう自分に言い聞かせて、
惨めでも前を向こうとした。
――だが。
その翌日。
彼女は、
クラスのイケメンで人気者――真田蓮也と付き合い始めた。
教室のドアの前で手を繋ぐ二人を見た俺は、
逃げだすようにその場から走り出す。
(……惨めだ)
そいつは。
俺の“親友”だった。
俺が愛理を好きなことも。
告白することも。
全部、蓮也は知っていた
何を失ったのか、
もう分からなかった。
裏切られたのは言葉か。
信頼か。
それとも――希望そのものだったのか。
答えなんて、どうでもよかった。
雨の中。
俺はただ叫んでいた。
「……ふざけんなよ」
喉の奥から、血を吐くみたいに言葉が漏れる。
「結局……顔なんじゃねぇかよ」
視界が滲む。
それが雨のせいなのか、
涙のせいなのかも分からなかった。
「どれだけ中身を磨いても……」
「どれだけ努力したって……」
「最初から“見られもしない”なら――」
拳を握る。
歯が軋むほど、強く。
「そんなもんに……意味なんてねぇじゃねぇかよ……!!」
脳裏に蘇る。
『ゆういちのお嫁さんになりたい』
『私だったら、一人にしないよ』
――笑わせるな。
「好きでもねぇくせに……!」
震える声が雨に溶ける。
「なんで……っ
なんで、あんなこと……簡単に言えたんだよ……!」
あの言葉が、
どれだけ俺の支えだったか。
あの笑顔が、
どれだけ俺を救っていたか。
その全部が、
今では最初から存在しなかった幻想みたいで。
胸が、潰れそうだった。
“努力は裏切らない”?
――ああ。
笑わせるな。
努力ってのは、
最初から勝てる素養を持った奴が、
最後の一押しに使うものだ。
凡人がどれだけ泥臭く足掻いたって、
届かないものは届かない。
どれだけ頑張っても。
どれだけ自分を磨いても。
選ばれない時は、選ばれない。
――報われない努力なんて、いくらでもある。
俺は、その現実を。
骨の髄まで思い知らされた。
だから――
俺は、その日を境に。
努力することをやめた。
どうせ意味なんてない。
どうせ報われない。
だったら最初から――
踏み出さなければよかったんだ。
桜の舞う高校の廊下。
俺は小さく息を吐いた。
(俺、何回同じ事考えてんだよ……)
(もう切り替えろよ……)
思い出したくもない過去を振り払うように顔を上げた、その時だった。
「――ねぇ」
不意に、声がした。
その声に顔を上げる。
そこにいたのは――
一人のギャル。
金色の髪に黒いリボン。
夕焼けを溶かしたみたいな髪が風に揺れる。
腕にはアクセサリーがいくつも光っていて、
思わず目を奪われた。
そして。
瑠璃と琥珀。
左右で色の違う、
幻想みたいなオッドアイ。
その姿を見た瞬間――
俺は、呼吸を忘れた。
――綺麗だ。
ただ、その一言しか浮かばなかった。
「ねぇ……そこ、どいてくれるかしら?」
凛とした声。
どこか棘があって、
近寄りがたい。
けれど。
そんな冷たさすら、
彼女の美しさを際立たせる装飾に思えた。
高嶺の花。
その言葉が、
これ以上なく似合う存在だった。
その顔を見た瞬間――
胸の奥に溜まっていた黒い感情が、
ほんの少しだけ薄れた気がした。
(……ほんと、男って単純だな)
(可愛い子見た途端これかよ)
さっきまで世界の終わりみたいな顔してたくせに。
美少女一人見ただけでこれだ。
「……わりぃ……すぐどくわ」
慌てて道を開ける。
彼女は何も言わず、
俺の横をゆっくりと通り過ぎていく。
その背中を――
俺は無意識に目で追っていた。
――やっぱりすげぇ可愛い。
そう思った、その瞬間。
「……やっぱりすげぇ可愛い」
……口に出ていた。
(は!?)
(俺今、口に出したか?)
(初対面の相手に、いきなり可愛いとか…)
全身の血の気が引く。
「――っ」
彼女の肩が、ぴくりと跳ねた。
しまった、と思った時にはもう遅い。
金髪のオッドアイギャルは、
ゆっくりと振り返る。
その幻想みたいな瞳が――
真っ直ぐ、俺を射抜いた。
その時の俺は、まだ知らない。
この出会いが――
俺の壊れた世界を塗り替えることになるなんて。
この少女が――
俺の人生を救ってくれる、
“推し”になるなんて。
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※本作は、一部AIの補助を参考にしながら執筆していますが、物語の構想・登場人物・表現の最終決定はすべて筆者が行っています




