王女様、近くないですか!?
──勇者パーティの美少女たちが、なぜか俺を見ている。
勇者じゃなくて、インキュバスの俺を。
「……素敵」
金髪の王女が頬を赤らめ、すっと歩み寄ってきた。
あれ? 勇者の隣にいるはずのお姫様だよな? 普通ならヒーローに恋するポジションじゃないの?
「えっと……王女様? 視線、間違ってません?」
俺が慌てて後ずさると、王女は小さく首を振った。
「いいえ。あなたの瞳……吸い込まれそうで……」
そう言って、俺の袖を掴んで離さない。白く細い指が熱を帯びていて、布越しに伝わる体温が妙に生々しい。
焦った俺は、思わずその手を振りほどこうとした──のだが。
結果、王女の指先をそっと包み込むような形になってしまった。
「ぁ……っ♡」
王女の肩が小さく震え、潤んだ瞳がさらに熱を帯びる。
(ちがう! 握るつもりなんてなかった! 俺はただ外そうとしただけだ!!)
「俺の方がカッコいい! 姫、こっちを見ろ!」
勇者が必死に剣を掲げ、光を放つ。
まさに“勇者”って感じのキメ顔なのに、王女は全く振り返らなかった。
「勇者様、ごめんなさい……今は、あの方から目を逸らせませんの」
さらに俺の袖をぎゅっと引き寄せ、上目遣いで覗き込んでくる。
その潤んだ瞳に、俺の胸の鼓動は勝手に早まった。
(落ち着け俺! いやこれはインキュバス補正だろ!?)
知らないうちに、俺の体から甘ったるい香りのような“何か”が漂っていた。
どうやらインキュバスの特有のフェロモンが出ているらしい。俺自身は必死に否定してるのに、その効果で王女はますます頬を赤くしている。
「あなたの声……耳の奥まで響いて、熱くなる……」
至近距離で囁かれ、俺の首筋に吐息がかかる。
「ちょ、近い近い近い! ゼロ距離すぎるって!」
「悪役風情が……! 姫を惑わせるな!」
嫉妬と羨望が混じった表情の勇者が歯ぎしりして剣を振り上げる。
「いやいや! 俺が惑わせてるんじゃなくて! 勝手に惚れられてるだけだから!!」
俺の必死のツッコミも虚しく、王女は袖を掴んだまま離さない。
勇者がどんなに必死にアピールしても、彼女の瞳は俺だけを映していた。
(おい、どうしてこうなった……!? 俺は悪役、モテないポジションのはずだろ!!)
額を押さえて天を仰ぐ俺の周りで、勇者の空回りする姿と王女の甘い吐息だけが、やけに熱を帯びて渦巻いていた。




