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逆襲の花嫁  作者: 海野宵人


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幼馴染み (3)

 冒険者としての活動は、最初はシリルも一緒だった。属性の相性を考慮しつつ二人で相談しながら、どちらが魔法での攻撃役となるかは行き先によって変えた。


 こうして一緒に活動する中で、ユージェニーはますますエルドウィンのことが好きになっていった。彼は彼女に甘いけれども、ただ甘やかすだけではない。いつだって必ず、成長できるよう上手に誘導してくれた。


 エルドウィンと婚約するきっかけとなったのは、実はルシアンだ。


 彼女が十四歳になった頃から、ルシアンとの遭遇率が妙に増えた。そして顔を合わせるたびに、思わせぶりなことを言われる。


「ユージェニーは、どんどんきれいになっていくね」

「ありがとうございます」


 普通ならただの褒め言葉として受け取ればよさそうなものなのだが、どうにも視線がいやらしい。不快でたまらず、両親に相談したほどだ。


 けれども「ときどき『偶然』顔を合わせて、そのたびに褒め言葉を口にする」程度は、本来なら目くじらを立てるようなことではない。ましてや相手は貴族、こちらは平民である。なるべく顔を合わせないようにするくらいしか、手の打ちようがなかった。


 なのに、知り合いの少女たちはこぞってうらやましがる。


「いいなあ。ルシアンさま、ジニーに気があるんじゃない?」

「ないない。ただ単に、ご自分になびかない女の子が珍しいだけでしょ」

「えー。玉の輿、うらやましい!」

「気が早すぎるって……」


 げんなりした彼女がつい「だいたい、わたしが好きなのはエルドだし」と本音をこぼすと、少女たちは呆れたように首を横に振る。


「うーん。エルドかっこいいけど、冒険者だもんなあ」

「いいじゃないの、冒険者。エルドは実力あるもの」

「ふうん」


 ユージェニーが反論しても、少女たちからは気のない返事しかこない。どれほど格好よくとも、冒険者は彼女たちの恋愛対象外なのだ。彼女たちがエルドウィンの魅力に気づかなくてよかったと思う反面、それを歯がゆくも思う。


 ユージェニー自身も冒険者として活動しているのだと打ち明けたら、彼女たちはいったいどんな反応を見せるのだろう。そう思うことはあっても、もちろん実行することはない。だってそれは、エルドウィンとの秘密なのだから。


 唯一とれる自衛策として、ユージェニーは全力でルシアンを避け始めた。しかししばらくすると、なんと彼は父の工房に顔を出すようになった。普通、貴族はそんなところに顔を出したりしない。屋敷に呼びつけるか、従者を遣いに出すものだ。


 しかもどんな手を使っているのか、不思議と彼女が在宅のときを狙い澄ましたかのように訪れる。直接顔を合わせてしまえば、むげにもできない。渋々ながらも、相手をせざるを得なかった。


 こうして追い詰められた彼女は、ある日、名案を思いついた。窮すれば通ず。さっそくエルドウィンを捕まえ、やぶから棒に切り出した。


「エルド、結婚して!」

「え?」


 出し抜けの求婚に、エルドウィンは目をまたたかせてぽかんとした。何を言われたのか、わけがわからないといった様子だ。


 ユージェニーは急に不安になった。


「他に誰か、結婚したい人がいる……?」

「いや、いないよ。だけど、何だって急に結婚なんて言い出したの?」


 問われるがまま、彼女は自分の窮状を説明した。それにエルドウィンは「なるほど」とうなずく。


「でもジニーなら、他にもっといい相手がいくらでもいるんじゃない?」

「いい相手って?」

「何もこんな冒険者風情じゃなくてさ」

「わたしも冒険者よ?」

「ジニーは別に生業にしてるわけじゃない。いわゆる冒険者とは違うよ」


 諦める方向に説得されたのが悲しくて、次第にユージェニーは悄然(しょうぜん)としてきた。泣き落としなんてするつもりがないのに、何だか涙までこぼれてきそうだ。


「でも、わたしは結婚するならエルドがいい。エルドは嫌?」

「一生、結婚とは縁がないと思ってたからなあ。でも確かに、結婚するならジニーがいいな」

「本当⁉」

「うん」


 現金なことに、こぼれかかっていた涙はたちまち引っ込んだ。


「じゃあ、結婚してくれる?」

「まだ無理だよ」


 せっかちなユージェニーに、エルドウィンが笑う。


「結婚は十六歳からしかできないって、法律で決まってるんだ」


 なんということだ。彼女はがっかりして肩を落とした。そこへエルドウィンが現実的な提案をする。


「だから、婚約しよう」

「婚約?」

「結婚を約束すること」

「する!」


 そうと決まれば、善は急げ。すぐさまユージェニーは、彼の手を引いて両親に報告に行った。両親とも「おやおや」と呆れた笑いをこぼしただけで、反対はされなかった。


 どちらかというと「本当にいいの?」とエルドウィンの心配をしていた。いつものように娘の強引なおねだりに負けたのではないかと、疑ったようだ。


 実のところ、その想像は的を射ている。けれどもエルドウィンは、そんなことはおくびにも出さなかった。それどころか「婚約しようと言ったのは、僕のほうからです」と請け合うことまでしてくれた。彼のそういうところが、ユージェニーは大好きだ。


 ダグラスも反対したりはしなかった。ただ苦笑いして、肩をすくめただけ。


 こうしてとんとん拍子で婚約が決まり、神殿で婚約を結んだ。「安物でごめん」と言いながら、エルドウィンはちゃんと婚約指輪を用意してくれた。値段なんて関係ない。ユージェニーは舞い上がるほどうれしかった。


 ところが正式に婚約を結んでからほどなく、ユージェニーが間もなく十五歳になろうという頃に、両親が馬車の事故で亡くなる。弟と二人きりになってしまったユージェニーに、ルシアンが庇護を申し入れた。だがここで、ダグラスが二人の後見人を買って出てくれた。おかげでルシアンの申し出を断ることができたのだった。


 だがその半年ほど後、シリルが原因不明の病に冒される。そしてルシアンが特効薬なるものを渡してきたのだ。しかもそれは、実際に効果があった。おかげでルシアンを避けるどころか、薬を融通してもらうため、定期的にフィッツシモンズ子爵邸を訪れざるを得なくなってしまった。


 それでも何とかルシアンをかわし続けて十六歳の誕生日を迎え、ようやくエルドウィンとの結婚にこぎ着けたのに。彼は冤罪(えんざい)で逮捕されてしまった。だから彼女はルシアンから逃げ出して、エルドウィンに会いに来たのだ。



 * * *



 ユージェニーが語り終わると、アンは「なんてロマンチックなの!」と目を輝かせた。その感想に、ユージェニーは苦笑する。ロマンチックというよりは、サスペンス寄りではないだろうか。

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