【東都 中央地区α+?】 ※疾風視点
後ろ頭に感じる柔らかさと頭を撫でる感触に目を開ければ、困ったようなホッとしたような顔が覗き込む。
「…落ち着いた?」
「……ワリ、どのぐらい寝てた?」
「そんなには長くないけど、ずっとうなされてた」
「…そうか」
つか俺、なんで寝てたんだ?何かがずっと引っかかっている。
さっきまで話してたら、誰かが、頭に浮かんで……。
「疾風ごめん、テーブル一回片づけてきちゃっていい?」
「あぁ…今起きる」
身体を起こしてやれば、服裾を直して笑いながら嫁さんは席を立つ。
その瞬間、今までには感じなかった花のような匂いがふわりと広がって、そこを中心にリビング中へ香りが広がっていく。
「……なぁ、いま香水つけてたりするか?」
「うん?つけてないけど、何で?」
「いやなんか…さっきからお前、石鹸みてぇな匂いがする」
「なぁにそれ、おかしい。私には何にも感じないし、なーんにも付けてないわよ」
部屋中香っているのに、わからないなんて事があるのか?
声が鼻声って訳じゃねえから風邪っぽいとかではなさそうだし、そもそもこんな噎せ返りそうな匂いに気付かねえなんて事、昔はなかった。
─ 昔って、いつだ?
…やっぱり、さっきからずっとおかしい。
「…悪い、片付け任せていいか?もう少し部屋で寝てくる」
「え?ここで寝てても」
「いや。部屋に、行く」
あからさまにしょげる嫁に「ごめんな」と一言おいて、部屋を出る。
リビングのドアを閉めても、やっぱり匂いはずっと残っている。あいつの傍にいる時よりは多少薄い気はするが、それが部屋を出たからなのか鼻奥に残っているだけなのかはわからない。
(……この部屋、なんだったっけか)
玄関ポーチより少し手前の右側のドアの前で止まり、首を傾げる。
一つ前の部屋は俺達の仕事道具を置いておく物置部屋だが、この部屋は何を置いていたかよく覚えていない。
─ 一緒に仕事してる奴がいたはず、だよ、な?
また怠くなってくる頭と呼吸に耐えながら、よくわからない…よく覚えていない部屋のノブを下げ、扉を押す。
カーテンが引かれて薄暗い室内に人の気配はないが、生活感は多少ある。
廊下まで広がっている匂いは、此の部屋にはあまりしていない。
それどころか、俺の吸ってる煙草とは違う刻み葉の匂いすらする。
嫁さんと一緒にいた時より気楽だし、怠かった頭も苦しかったはずの呼吸も楽になっていくような気がする。
(……さっきまであんなキツかったのに、なんでここだけ落ち着いてるんだ)
明かりを灯し、深海色のカバーが掛かったベッドに腰を落として、サイドチェストの携帯ゲーム機を手に取れば、電源が入れたままだったのかスリープが解除されて画面が映る。
「……何だ、こりゃ」
画面には、さっきのテレビCMに出ていたモデルの男が点滴に繋がれた俺の手首を掴んでいる映像が、不鮮明に映し出されていた。




