【電脳遊戯戦】
《サリュー》の使用する【大剣使いの英雄 サラテリ・マハル】
《冬都》が使用する【復讐の狙撃手 ステア・ウィラル】
支援役の二人が共に指定した【協和を祈る魔道士 フレイヤ・ウィラル】
三人は、前作で数人の仲間と共に世界を救う為の旅をしていたが、ウィラル兄妹が生まれた国には世界崩壊を目論む邪神・エルヴァスティアの心核が眠っていたことが判明。
サラテリは共に旅をしていた誼みとして二人には手を掛けない代わり、連れ立っていた他の仲間と共に【粛清】の名の下に彼らの国を滅ぼした。
今作では前作から引き継がれた主軸メンバー達のその後や、新規加入のキャラクター達それぞれの物語が楽しめる様に作られている。
《全国遊撃対戦》ではマッチングしたキャラクター達によってオリジナルワンシーンが展開される。
恨みを持っているのは《サリュー》だが、前作によって深い因縁が生まれ、剣と銃を交わすために繋がった英雄と軍人の関係性は《サリュー》と《冬都》の歪んだそれに似ているように感じる。
† † †
『よぉ、ステアのおっさん。アンタまだ生きてたのか?随分しぶといな』
辛うじて立ち続けている建物の柱横を抜け、朽ち枯れた木々が並ぶ広場の中央。
水を忘れた噴水の縁へ腰を下ろし、黄昏時に似た髪色をした男がこちらを見る。
『お前の持つ〈英雄〉って肩書きが外れるのを見届けるまで、野垂れ死ぬ気は無えよ、サラテリ。』
ゆるりと立ち上がった軍人─ステア・ウィラルの、重く低い怒りに満ちた声が耳へ響く。
警戒する猫の様に此方を睨む女─フレイヤ・ウィラルを背後へ退がらせ、脚に装備していた片手銃へ手を掛ける。
─選択キャラクターの視点で相手を見ていることで自身が彼に言われている様な錯覚を覚える。
対戦プレイヤーである《冬都》も前作で使用していたキャラクターと同一のものを使っていると思うだけで異様に興奮して心臓が高鳴る。
「さぁ遊ぼうぜ《冬都》さんよぉ…積年の恨みたっぷり晴らさせてもらうぜぇ?」
† † †
『降伏した者達の命を狩る必要性は無かった筈だ。同胞の無念、その命を持って償ってもらう…!』
二挺一対の片手銃を引き抜いて安全装置を外しながら、銀髪の青年─サラテリ・マハルを見据え、ステアは自らの中の復讐心を音に変えたかの様に、重く低い声を落とす。
『逆恨みはよせよ、此処には鍵の一つがあった、俺はそいつを壊す役目を持っていた。となりゃ此の国が滅ぶのは運命だったんだよ。アンタと妹は生かしてやったんだ、恨むのは筋違いだろ?』
『命乞いをしていた者を嗤いながら切り捨てたのは誰だ。他の奴らの制止も聞かず、ただただ虐殺を楽しんでいただろうが!』
『あーあーうるせーなぁ、アンタのお小言は聞き飽きた。死んだ奴らと同じ様にその首を刎ね飛ばしてやるよ』
英雄と呼ばれる男は、その肩書きには凡そ似合わない悪どい笑みを浮かべる。
─獲物を待ち侘びていた《ソリュー》も、画面の向こうで彼と同じ笑いをしている事だろう。
恨みを長く引き摺る人間は、半端な制裁を与えたところで反省しない人間は、嫌になるほど見てきている。
被害を更に出す前に止めるには、この電脳遊戯で完膚なきまで撃ちのめす他にない。
「他人の時間を奪った罪は重い。《ソリュー》、だったか…此処で潰す」
他人を巻き込んでしまったこの因果は、ここで断ち切らねば。
腹が立つほど晴れきった薄水色の空。
焼け崩れ風化した住居が其処彼処。武具の破片、枯れた草は風に転がされてゆく。
サラテリは大剣を構え、ステアは銃を構え腰を僅かに落とし見据える。
『年寄りの立つ舞台じゃねーぜ?引導渡してやるよ、おっさん』
『図体ばかりデカいガキには仕置きが必要だな、覚悟はいいか』
【Circle of Revenge on fate…】
【Who laughs at VICTORY?】
【GO Onrush!】
開幕と同時。
すかさず地面を蹴り出して速攻で間合いへ入り、サラテリは大剣を薙ぐ。ステアはバックステップで飛び退くも、剣先が僅かに接触。体力ゲージを数ミリ削りとる。
「攻撃は最大の防御ってなァ!」
射撃者に一定距離を保たせる事は、後々の命取りに繋がる。
銃での攻撃は距離によってダメージ率が変わる。遠距離から射出された銃弾が一発当たるくらいであれば然程気にならないが、連続射撃による弾幕になれば反撃の隙を狙う事は難しい。
再度前へと踏み込み、ただの打撃になる事は承知で縦横無尽に剣を振るう。
防御姿勢を取りつつ数回に分けて後退してゆくが、戦闘消極判定に入り、ステアの体力は徐々に大きく削れてゆく。
「年長者の余裕って奴か?おっさん」
『喋ると手が留守になる癖は変わらねェんだな、サラテリ』
射撃攻撃に比べて攻撃の発動が遅いため、避けられるものだと油断した。
ガード態勢を崩さない男の言葉に攻撃の手を緩めてしまい、ほんの一瞬の隙を突いたステアがサリテリの腹部に蹴りを決めると、その身体が後方へ大きく吹き飛ばされる。
無防備状態だった事でたった一撃で四分の一ほど削られ、昏倒状態を示すシグナルが明滅。
ステアは攻撃の手を休める事なく、反撃することが出来ない距離を保ちつつ容赦無く銃弾を撃ち込んでくる。
抵抗しようにも仮初の身体は動かず、気づいたときには彼の妹であるフレイヤの支援によって回復したステアが、切らした弾を再装填するモーションをとる。
『お前は粛清にかこつけて、命乞いする奴らまで殺していたな?』
(……なんだ?今のセリフ)
この音声認識変換システムは、発した言葉をゲームの世界観とキャラクター性を損なわぬ様に変換して相手へ届けるものだ。それが例え【対戦相手】への悪態誹謗中傷だとしても、全て台詞として返還される。
認識プログラムの資料は多少見ているため、ある程度の音声変換前の発言の予測はできる。しかしステアの台詞の基となる語句の一部は対応していない物のような気がする。
『自分の勝利を獲る為なら、何しても構わねえってか。とんでもねェ外道がいたもんだ』
(コイツ、キャラに入り込み系かよ、気持ち悪りぃ…)
過去の自分はこんな奴に負けたのかと思うと腹が立つ。
『説教なんか聞きたかねェな!』
ようやく操作キャラクターの身体に力が戻り、剣の柄型コンソールを薙ぎ振るうも、その刃は軍人の肉体に当たる事はなく虚しく空を斬る。
なりふり構わず振り回しながらステアへと前進させるも、返された銃撃は脚へと被弾し、体力ゲージはさらに削り取られる。
大剣を体前に構え、相手の放つ弾幕を耐えるが、防ぎ切れない分がメーターを更に徐々に減らしてゆく。気付けば更に戦闘を続けるならば回復は不可欠な状況まで追い詰められていた。
特殊攻撃を行う為の魔力ゲージは3/4ほどまで溜まってはいる。
広範囲攻撃を放てば相手を怯ませる事はできるだろうが、このキャラクターが使える魔術攻撃は前方に向けてのみの射出攻撃だ。発動前に気付かれて回避行動を取られてしまったら無意味なものとなり、絶対絶命となってしまう。
「何してんだクソ山!」
青山の使うキャラクターは相手の支援者と同キャラクターで、一度だけ戦闘者を回復出来る。
普段であればこちらから言わずとも強化支援や回復を行うのだが、何故か今日はなにも行動を起こそうとしない。
『どうした、もう終わりか?』
「よ、終夜さん…これ以上続けるのはやめましょう…!」
『アァ?!ふざけんじゃねェよ!』
「台詞変換で相手が入り込んでるように思うだけです!あちらは「テメェの意見なんざ要らねえンだよクソ山!さっさと回復援護しろ!やられちまうだろうが!」
提案に突沸した蘇我野の罵声は会話として誤認される。しかしそんな事など一切気にも止めずに青山をまくし立てるが、彼女は普段のように黙り込む事はなく、小窓を開いて再度ゲーム中断を提案し続けた。
「止めましょう?あのステアさんは私達より上級の請負人の方がやられてるかもしれないんですよ?私達の不正が」
『五月蝿ェってんだよ!そんなに殺されてェのか、あァ?!』
筐体内に反響する程の声で凄んだ瞬間、短く上がった声と共に画面上のゲージが半ば程まで回復する。
「最初っからやってりゃ良いんだよ、クソ山アホカ。おら…早く強化もしろよ」
「するのは構いませんけど、御宅さん、負けが決まってるようなモンですよ?」
「……は?!だっ、誰だ?!」
支援者部屋から聴こえた男声に、思わず振り返る。先程まで小窓から見えていた怯えながらも睨む青山は居らず、いつだったかに見たような気がする男が嘲笑いながら画面へ指を差す。
『手を止めるなんて随分と余裕だな?だが、もう終わりだ』
自分の怒号が止んだ室内にステアの声が静かに響く。指し示されたスクリーンへ視線を戻せば、軍人の身体と握る銃は赤みのある光を帯び、此方を睨め付けるカットインが表示される。
「なっ、お、おいクソ山!アンタでも良い、緊急回避のコマンドを」
「この状況でよくそんなご冗談を。そもそもその[クソ山]っての、一体誰のコトなんです?」
まさか、女性に対してそんな発言しておりませんよねぇ?
間延びした様な口調の問い掛けに反論しようにも、目前には奥義を繰り出す寸前のステアが迫っている。
バックステップを行うためにコマンドを踏み込むも既に遅く、次の瞬間、サラテリの身体はステアによって蹴り上げられて身動きが取れなくなった。
『この負けがお前の最期だ、サラテリ』
『や、やめろっ、ふざけるなっ!』
叫んだと同時、大型散弾銃から撃ち出された弾は夕空で破裂し、流星雨の如く降り注ぐ。
空へと蹴り上げられた青年の身体は、流星弾に次々と砕き貫かれる。
やがて細かな影に変わり、筐体内が一瞬発光すると、サラテリの姿は画面から消えていた。
【Winner】
【Steyr Weral/Freya Weral】




