壹
時間の中から日時丸の癇癪を宥めて、無事、自分の現実に戻って来た十开。依頼も入っていない今日は、学生の本分である勉学に励んでいる。
今は四時間の数学の授業が終わり、昼休みが始まったようだ。ザワザワと学校中が喧騒に包まれている中、十开と日時丸の二人は颯爽と昼食を済ませ、案の定閑散とした図書室のテーブルに腰掛けていた。
「はぁ? いしぶみぃ? なにそれ」
非常に静かな図書室で、どんなにか細く喋れど声はハッキリと聞こえる。しかしながら、利用者のいない空間で遠慮するわけもなく、(大きくもなく小さくもない)いつも通りの声量だ。
「なにって、この前言ってた墓守協会通信のアプリだけど」
彼女が今も探しているという父の情報採取に役立つだろうと、十开の二番目の兄が開発した墓守協会公認のデバイスを目の前に差し出し見せつけていた。
アプリをタップすると、碑という文字が浮かび上がり、一秒後アプリの中身が露わになる。
じっーっと、それを凝視していた日時丸は、息を呑むとこう告げた。
「……だっっっっっっっっっっさっ!」
彼女の反応は辛辣なものであった。
小さい”つ“の数が異様に多いのは十开も察することが出来た。それくらい彼女の感性に引っ掛からなかったのだろう。
本来は三文字で完結する貶し言葉に、十开は固まったまま動かない。何故かと問われれば、『ダサい』と言われたこのアプリを開発した一人でもあるからだ。
十开は言葉を探していた。
結論。
肝心な要因を作った彼女の言葉を無視して、アプリの説明を始めた。
「……この墓跡のマークを押すと文字が打てる様になる。彫刻の文字の所を押せば投稿ができて画像も添付可能で、投稿されたものが良いと思ったら、この花マークを押す。共有したいと思ったらこの四角の額縁マークを押す。どうだ、面白い機能があるだろ?」
「だからくそださいって」
「……」
「な、なに、その、あからさまショック受けてる顔……え、なに? まさか? これあんたが作ったとか言わない?」
彼女の一言に、十开の滅多に動かない表情筋が、萎れた形に成り果てた。
「ださい……」
「そう! 普通にダサいのよ! センス皆無! なにこの、虹色の文字。フォントも元々入ってたやつだろうし、デザインと文字のギャップが激しすぎ」
客観的に誰が見てもそう思うだろう、と日時丸は指摘した。
無料の素材を有り合わせて作った感満載のアプリ。
「広告ゲーの方がまだマシだわ」
アプリが開発されてから十年以上経っている。勿論、使用者の誰しもがダサいと思っていたに違いないが、日時丸のように指摘する人は居らず。何故かと言えば墓守は年がら年中忙しいため正しくさえ機能していれば問題ないと思う人が多かった。
また、協会の支柱である墓守の後継に言えるはずもない。
日時丸という現代的な少女は、常に洒落ていて流行りものに聡いこともあり、デザインも使いたいと思う要素として優先順位が高い。尚且つ十开とは気が置けない仲すぎることもあり、率直な意見を交わせるのだ。
「まぁ、あんたの家族全員ださ……センスないから、まじ仕方ないんじゃん? 」
彼女は正である。彼女の言うことに負はない。
彼女の様な感性を持つ側からしてみれば、墓守家のセンスの無さは地獄。一体どんな企画会議の末、何処の誰に需要があって作られたのか知り得ない文字が羅列したTシャツ然り。奇抜な柄、ヴィヴィットな色。
組み合わせれば小洒落た形にはなりそうなものの、そこに至るセンスが皆無であるため、どうにもどうともならない。
Tシャツの件はまた別物だが、服が悪いわけではない、魅せるセンスがないだけで。
「それとさぁ……」
その原因が当人のセンスだけで終わらないと言うのが事実。
(アイシェはこいつのこと肯定し過ぎなのよ)
日時丸は今日は私事で休んでいる、十开全肯定の淑女を思い出す。
「ま、貰っとくわ。役には立ちそうだもん」
「役には立つよ、流石に……じゃあこれ渡しておく」
十开はデバイスを渡したが、表情は腑に落ちないでいた。
勿論、彼は彼でこのデザインを気に入っているからである。




