LONELINESS
今回もよろしくお願いします。
* * *
アスターテ全体を描いた地図の前で、数時間前から幹部陣によって徹夜の会議が続けられていた。
「…ともかく、今はまず何よりも斥候だ。だが、そもそもそんな人手をどこから持ってくるんですか?どこ現時点で無に帰したと言ってもいいレイヴンの情報ネットワークを作り直すなんて、最低でも10年はかかりますよ。部分的にも何とか復旧できないんですか?」
かなり疲労した様子の男性の声だ。
「無理だな。このシステムはほぼすべてのルートでアル=イスカンダリーヤを経由して情報がやり取りされている。必要な資料と魔道具もすべて王城だ」
レーレライが机にうつぶせになりながら答える。そもそも極めて機密性の高い情報システムだから、全体像を把握しているのは国王と情報将軍しかいない。
「今までに確認できた限りだと、アル=イスカンダリーヤから少なくとも半径50キロ圏内では中継点が全滅だ。私の直属に調べさせているが他も似たようなものだろう。分かりやすく言えば、我々は目玉をつぶされた状態だ。イスラフェル、何か策はないのか?あのすごい速さで飛ぶ奴は使えないのか?」
「…お手上げです。極超音速加速は使えば確実に寝込むくらい恐ろしく消耗が激しいんで、できる限り温存しておきたいです。情報伝達で使うなら特定の情報を一か所に届けるくらいでしょうか。ここから王国を復興できる存在がいるなら、それは神様でしょうね」
机の上で横になって毛布をかぶりながら、もうろうとする意識で僕も何とか頭を回す。
なぜ僕に限って奴らは避けるんだ?シルベライセン将軍や先生の方が僕よりずっと強い。僕なんか避けて何があるんだ?おそらく僕が彼らにとって目障りである理由があるはずだ。本来の固有魔法については誰にもばらしていない。僕が何か知っていることか?それとも僕の交友関係?血筋?
そもそもなんで裏ネットワークの中継点をピンポイントで見つけ出せたんだ?そういう魔法があるのか?そんな能力の悪魔、いないはずだぞ…?囮の情報を流して足取りをつかむ手もある。だが、それをしようにもまずはとっかかりとなる中継点の人物について知らなければどうしようもない。
…内通者?
1年前の戦争からそうだ。相手はやけにアスターテ軍の事情に詳しい。内部に多少内通者がいるだろうと思っていたが、まさかレイヴン幹部に…?
容疑者はレイヴンにおいての作戦行動をある程度把握・指揮できる権限を持つもの、つまり三等将校以上の位にいる僕以外の隊員22人+将軍4人。内通者の主目的は敵情視察と情報収集。そのため今ここにいない18人の幹部と先生、シルベライセン将軍は候補から除外。とすると容疑者はショット三等将校、ネルツ三等将校、ゼルゲ三等将校、テイラーニ等将校、ウィルソン一等将校、アルマロス将軍。レーレライはもちろん、皆主に本部や王都圏で仕事をしているので僕もよく見知ったメンバーだ。
この場合情報を不用意に一か所に集めないほうがいいんじゃないか?いつどこで敵サイドと連絡を取っているかわからないから、隠せることは隠しておきたい。
何かあったときのために誰にも知られずに軍隊を集める必要もある。それもいざとなったら城攻めくらいはできるくらいの戦力だ。それを信用できる誰かに任せないといけない。
…いや、僕がいるじゃないか。僕の移動速度があれば、リアルタイムで盤面をコントロールできる。どの状況を伝えてどの情報を隠すか、誰も見通せない全景を僕だけがすべて見通せる。それなりの状況を作ってやれば敵は自分から姿を現すだろう。例えば…、国境沿いの5つの要塞のうち「どこか1か所を拠点として残存兵力を再編する」状況、とか。
全ての情報が現場から上層部に伝わる過程で僕を経由するならば、僕だけが内通者をあぶりだせる。
やるしかない。
「限界です。3時間仮眠します」
ムクッと起き上がり、レーレライにそう告げる。
「ああ、ほかの者も適度に休息を取れ。最高のパフォーマンスを維持するのも仕事のうちだ」
力のない返事が各所で上がる。
僕は自室へ行くふりをし、こっそり外出用のハッチに手をかけた。転移魔法はアケメネスにマーキングしてあるが、システムは本部で管理・監視されているため一度でも起動すれば足がつく。手間だが自力で行くしかない。
ハッチを開くと激しい風が吹き込んだ。レイヴン本部は東部山脈の地下に存在する。内部には天気や日差しの変化、建物まであるが、実際は巨大な空洞の中を結界を使って地上の環境に限りなく寄せている構造だ。
標高2500mを超える山の中腹にハッチがあるため、一年中雪が積もっている。腕輪に内蔵している気温計を見ると、マイナス5度を指している。
『転送開始』
凍死する前に急いでスーツを呼び寄せ、内蔵ディスプレイで進路を定める。アケメネスは現在位置から西南西の方角に2230キロ、10分56秒の空の旅だ。
『極超音速加速』
この作戦は僕以外のアスターテ人には絶対に知られてはいけない。助けを求めるのは、ダゴンだ。
* * *
「陛下、夜分遅くに失礼いたします。レラティビティです」
アケメネス城にコッソリ忍び込み、クリスタの部屋の前に行く。
「イスラフェル!どうしましたか?」
幸い起きていたらしく、すぐに出てきてくれた。
「ご無礼をお許しください。緊急のお話がございます」
「…わかりました。部屋にお入りなさい」
「ここから先は特一級の機密事項です。とはいってもいずれ周辺諸国にも知れ渡ることではありますが」
「分かりました」
「1週間前、アル=イスカンダリーヤが何者かの手によって陥落しました。主犯はおそらく数年前からアスターテで活動を続けている『トランティーロ』と名乗る反国家組織と思われます。現在ヴァサーゴ陛下は王都で行方不明、アズラエル殿下を暫定的な指導者として我が軍がアル=イスカンダリーヤ奪還に向けて動き出しました。おそらく国境沿いの者たちは非常用の段取りに沿って情報統制を始めているとは思われますが、連絡はとれておりません。そして私は軍内部に内通者が存在することを突き止めました」
「ちょ、ちょっと待って!アル=イスカンダリーヤは世界最強クラスの城ですよ!そんな簡単に陥落するわけが…」
「敵が十数体の悪魔を伴って攻めてきたら、人間が造った人間から守るための城郭は果たして機能するでしょうか?」
「まさか…そんな…」
「その”まさか”が、今起きているのです」
クリスタは言葉を失った。
「アスターテは一度滅んだといってもいい。そのせいで領域の維持ですらままならない状況です。そこで、ダゴンの東部方面軍10万をお借りしたい」
「それを国境の警備に充てるということですか?」
「ええ。我々の問題は我々だけで対処するつもりです。ですがこの先を考えると、どうしても兵が足りなくなります。絶対に迷惑はおかけしません。国境警備だけでいいので何とか…」
「いいでしょう」
…ん?今、良いっつった?マジで?このクソ忙しくてダゴン国内でも人手が足りないときに?
「表向きアスターテには恩は無いということになっています。ですがイスラフェル、あなた個人には一生かけても返しきれない借りがあります。助けが欲しいならいつでも言ってください」
「感謝します…!」
あまりにも簡単だったが、第一関門突破だ。
読んでくださり、ありがとうございます。
久しぶりにサンライズに乗りました。やっぱり安心感ありますね。さすが僕ら鉄オタの心の実家。
友人「お前の実家移動式だったのか」
霧島「せやで、俺の実家に一緒に挨拶来る?」
友人「ツインなら良いよ」
霧島「取れるかボケ」




