MAGICIAN IN BATTLEFIELD
今回もよろしくお願いします。
「たぶんまだ敵は納得してくれません。これからはあなたの出番ですよ、ナッジスパロウ将軍」
「ええ、わかってます。ここまでのお膳立て、感謝します」
アレウロは馬にまたがり、臨戦態勢の眼差しに切り替える。
包囲されていた敵軍の中央から突然恐ろしいまでの大きさの魔力の奔流が上がる。
「なんだこれ…黒い…魔力…?」
「イスラフェル殿、アレが我が国の魔術将軍です」
『虚空鎖』
呪文の後魔力の柱が収束して鎖のような形になり、まっすぐにアレウロに向かって降りかかる。そして台風のようにアレウロの周りで渦を巻き、そして今にも巻き付かんとする。
『エアロブレス』
アレウロは矢を一発撃って鎖を打ち砕く。
「史上6人目にして現代唯一の”闇”属性の魔法使い。その固有術式虚空は魂を閉じ込める”絶対”の牢獄」
アレウロは語りながら次の矢を構える。
「ダゴン王国魔術将軍シュヴァルツ・オドゥム。…またの名を”絶対”のシュヴァルツ」
敵の中央から、黒馬に乗った老人が出てくる。一見すると近所に住んでいるおばあさんという感じだが、その異質さはそれこそ誰が見てもわかる。闇魔法の象徴とも言える溢れ出る黒い魔力。敵に回したらヤバい。
「あんなのを相手取って生きて帰れるんですか…?」
「イスラフェル殿、私を誰だと思ってるんですが?一応、私も将軍ですよ」
アレウロは馬を駆り、シュヴァルツと距離をとりつつも盆地に降りていく。
「来たの?坊や。ついこの前まであれだけ小さかったのに」
「坊やはやめてください。私はもう27歳だ」
「あらまあ、もうそんなに…それにしても、あなたにこんな突拍子もない戦術を思いつくかしら…」
「思いがけない人材を見つけたんです。その人に少し手を貸してもらいました」
「そう…、じゃあお話はここまで。殺し合いよ、弓術将軍”旋風”のアレウロ」
「…そうみたいですね」
お互い短期決戦を望んでいる。なおかつ、どちらもダゴン最強格の魔術師。ならば答えは一つ。
『『神稀解放』』
アストラル魔法のぶつかり合いだ。
『ウィンディ・ヴァルチャー』
『ダークネス・カメロケラス』
アレウロのハゲワシの結晶体とシュヴァルツの巨大な頭足類の結晶体が、二人をリングに閉じ込めるかのようにその周りで追いかけっこを始める。
竜巻のような魔法陣を顔に浮かび上がらせたアレウロとひび割れのような魔法陣を浮かび上がらせたシュヴァルツ、弟子と師匠の睨みあい。
二人の動きは同時だった。相手を自分ごと虚空に取り込み強制的に自分に有利な戦場に引き込むシュヴァルツと、魔力を動かし物質を崩壊させる風を吹かせるアレウロ。二人の力は拮抗していた。
「ホラホラ、早く負けを認めなさい?じゃないと一生ここから出られなくなるわよ?」
「師匠こそ早く降伏してください。じゃないとお体がバラバラになってしまいますよ」
シュヴァルツは鎖を増やし追い打ちをかける。ただの鎖ではない。虚空のより深いところに引き込む鎖だろう。魂を閉じ込めるだけじゃない、もはや「個」という情報を保てずに消滅してしまうだろう。ヤバい、魔法って面白い。僕もいつかアストラル魔法使ってみたいな。
アレウロは魔力を矢じりに込め、竜巻のように放出させながら鎖を消滅させる。
「なんで師匠はそっち側にいるんですか?クリスタ殿下がお治めになった方がダゴンのためになるのは明々白々」
「世の中綺麗ごとだけじゃ回らないわ。力のあるものが上に立つのが一番平等に近い。強者のもと労働し、利益を皆で等しく享受するのがあるべき姿よ」
「何をおっしゃているのかわかりませんね。それでは民はそのうち堕落して皆働かなくなる。弱い覇者が民と等しく働き、それぞれ利益を追求していけば結果的に国を強くすることにつながる」
「あなた魔法については面白いことを言うのに、そういう所は本当にかわいげないわよねえ…」
その間にもシュヴァルツは鎖をふるう手を止めない。
ふと、顔に当たる風に混じって小さな砂粒のようなものを感じた。このあたりは草原だから、砂塵が吹き荒れるということはあまりないはずだ。風に手をかざしてみるとすぐにその正体が分かった。
「イズ、これって…!」
アズラエルもこの異様な現象に気づいたらしい。
「ええ、魔力鉱ですね」
強大なアストラル魔法同士が同時に2つ起動された結果、周囲の魔力の濃度が急上昇して固体化したのだろう。おそらく、自然から産出する魔力鉱はこのように生成されているはずだ。
「ちょっと近づきすぎてるかもしれないですね。下がりましょう」
素早く前線の部隊に指示を送り、丘上の砦まで下げさせる。
「こういう場合は、アストラル魔法が切れたところを狙って一気にたたみかけるのが良いんじゃないか?」
アレウロの部下から焦ったような声が出る。
「いや、よく見てください」
アレウロの方を指差す。
「僕らが邪魔してたんです」
意図を察してアレウロは一瞬僕にアイコンタクトを送り、魔法の出力を上げてシュヴァルツの鎖を一掃する。仲間を巻き込まないように手加減していたのだ。
シュヴァルツは魔力もろとも吸い込もうと展開された虚空を押し広げるが、自軍の兵士が巻き込まれそうになるのを見て、背後のアケメネスを一瞥する。
「そう、来ないのね…」
ドラゴンの魔力探知は生物界最高峰だ。たとえどれだけ隠しても僕=サイエンティストだと一目で見破るだろう。ならば自身が一度敗北したことがある僕がいる限り、アダマント・ドラゴンとヴィーヴルが前線に出張ることはない。
「そう、私たちは負けたのね…」
鎖をかけようともすべてアレウロが振り払ってしまうのを見て、ヴィーヴルは名残惜しそうに呟いた。全軍を人質に取られている状況でアストラル魔法による逆転も叶わず、切り札であったヴィーヴルも出てこない。状況的には僕らの完全勝利だ。
「降伏するわ、坊や」
シュヴァルツはアストラル魔法を解除した。
「良し。行け」
時期を見計らって騎馬部隊に指示を出し、丘を降りてシュヴァルツを確保させる。
「あなたもそうだけど、この局面を作り出した軍師に敬意を表するわ。単純な一対一じゃあなたはもう死んでた。どんな人物なの?一度会ってみたいわ」
「…多分会ったら師匠のあごが外れると思いますよ」
シュヴァルツは抵抗もしない様子だったので、手を縛る程度の拘束でアレウロに連れられて大人しく本陣に連れてこられるようだ。
* * *
「もうそろそろ私たちの本陣です。まあ彼はそんなに厳しい人じゃないから、あまりきつい処分はしないでしょう。僕もしませんが」
シュヴァルツは同じ馬車に乗っているアレウロの話を聞いていた。
「その『彼』っていうのは…」
「先ほど師匠が会いたがっていた人です」
馬車が本陣に近づくにつれて、何か圧のようなものが増していくのを感じる。
(何、この感覚は…?)
シュヴァルツが感じていたのは、胸の奥がゾッとするような感覚。恐怖だ。
シュヴァルツは馬車を降りた瞬間、何がそう感じさせているのか理解した。
「あらまあ…」
熟練の魔術師が何百人集まっても到底敵わなそうな底なしの魔力。ここまで近づかないと探知できないくらいこの強大な魔力を隠している技術もそうだが、彼女が一番驚いたのはその発生源だった。
「あらあら…」
いくら歳を多く見積もっても20に達しているとは思えないほど幼い少年だった。しかもかなりの美形だ。少なくともこの距離では絶対に敵わない、ダゴン最強の魔法使いにそう思わせるほどのオーラを放っている。
「1ヶ月前にアケメネス駐在員に任命されました、イスラフェル・フォン・レラティビティ一等魔術将校と申します」
「…最初からあなたが戦えばよかったのではなくて?」
「ダゴンの問題は極力ダゴン人が解決すべきと心得ており、アスターテ人は策を提案するのみにとどまっていました。もちろん、本当にまずくなったら私も出るつもりでしたが」
シュヴァルツは開いた口が塞がらない様子だ。
(こんなに優秀な人材がいたとは…)
良いことを閃いた、とばかりにシュヴァルツは口を開いた。
「あなた、私の後継者にならない?ダゴンの次の魔術将軍の座を確約するわ」
「御心遣い感謝します。ですがいまだ学生の身分ですし、何よりすでにヴァサーゴ陛下に一等将校という位を与えられておりますので…」
「気が変わったらいつでも来てちょうだい。悪いようにはしないから」
「師匠、イスラフェル殿がお困りです。無理な勧誘はもうおやめください。それと温かい食事を用意させておりますので、こちらへ」
警備員付きの天幕にシュヴァルツが連れて行かれる。
「さあ、僕らも夕飯にしよう。捕虜たちにも兵士と同じ食事を出してくれ」
「…良いのですか?」
「ああ。そのために10万人分の補給ルートを整えたんだ」
その夜は、ちょっとした宴会になった。
読んでくださり、ありがとうございました。
最近入試関係で立て込んでて、カクヨムも含めて全く更新できてません。すみません。




