第78話 ★別離と邂逅の迷宮 ~第1層(後編)
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カーリーが僕の腕の治療を終えて、再び歩き出す時にディーナが言った。
「隊列を組み替えましょう。狭いので後ろからだと魔法が撃ちにくいのですが、一方で敵もよけられないと思います。なので私が前列に回りたいのですが」
「ディーナの魔法の弾幕を抜けて来た強敵を抑えられるのはカーリーね。じゃあワタシが後列に下がって、支援魔法で援護するわ」
マイダがそう言ってディーナの定位置、つまり僕の隣に入った。
ダンジョンはその後もずっと直線が続いた。
幸い強敵も現れず、歩き疲れた僕らはその日の行動を終えることにした。
少なくとも「迷」宮って感じじゃないな。
夜営の準備をしていると、マイダがまたガサゴソと自分の荷物をあさっている。
今度はなんだろう?
「じゃーん!」
マイダが取り出したのは、金と銀の2つの小さな女神像だった。
「なんだいそれ?」
マイダが聞いて欲しそうにチラチラとこちらを見ているので、僕は聞いてやった。
「ダンジョン内で魔物が接近してきたときにアラートを出してくれる女神像、1セットよ。結構高かったのよね。こうやって……」
マイダが、20メートルくらいだろうか、僕たちの休憩している場所の先に走っていって前向きに金の女神像を設置した。続いて後方20メートルにも銀色のを置く。
「これで魔物が近づいてきたら、警報が発せられるわ」
「へえ、それは確かに便利だな」
横で聞いていたカーリーが言った。
その後、みんなで夕食をとっていると、ビーッというアラーム音が聞こえてきた。どうやら後方の銀の女神像に反応があったようだ。
カーリーが食事中も横に置いていた剣をとると、急いで立ち上がって後方に向かった。
僕らもカーリーに続く。
カーリーは銀の女神像あたりで、立ち止まった。
「誤報かな。敵が見当たらない」
追いついた僕らにカーリーが言った。
「おかしいわね。前に試したときはうまくいったのに」
マイダもあたりを見回しながら言う。
その時、ディーナが少し先の天井を指差した。
「いました」
見ると、かなり小型のスライムが天井の片隅にはりついており、じわじわこっちに進んでくる。
ディーナが、さっそく小さなファイアボールを放ってそのスライムを駆除すると、銀の女神像の警報が止んだ。
「感度は十分みたいだな。これなら見張りなしでも休めそうだ」
カーリーがそういうと、ディーナも頷いて言った。
「シルフの1体に、頼んでついてきてもらっているので、一応追加で監視してもらいます。たた、迷宮は風が抜けないので、シルフがかなり弱ってまして、もう少し進んだら帰してあげないとなりません。この女神像は助かりますね」
僕らは、見張りを立てずに全員で休息をとることにしたが、幸いその夜は、それ以上の魔物は現れなかった。
翌朝。
といっても地下なのでよくわからないが、十分に休んだ感じがする僕らは目覚めると出発の準備をした。
朝に弱いマイダもちゃんと起きている。宵っ張りなヒトだから、むしろ薄暗いのがいいのだろうか。
「よし、みんな準備できたか? じゃあ行こう」
カーリーが言った。
今日も普段と違って、ディーナが前衛に入って歩き出す。
あれ? でもなんか変だ。
「カーリー、そっちは反対じゃないか? 戻っているような気がするんけど」
僕が立ち止まって言った。
「ワタシも、そんな気がする」
方向音痴のマイダが隣で自信無さげに言った。
「そんなことはないだろう。こっちが進行方向だと思うぞ」
カーリーが言うと、ディーナも頷く。
僕は周囲を見渡してみたが、真四角の直線の通路がずっと続いているので何の手がかりもない。
でも、確か反対だと思うんだよな。
「じゃあ、二手に分かれてみる?」
マイダが言った。
「そりゃやめておいた方がいいよ。危ないし」
僕が慌てて止めると、自分の方向感覚の怪しさを思い出したのか、マイダも頷いて歩き出した。
だが、その直後、カーリーが何かに躓いて転びかける。
屈んで拾い上げたのは、昨夜魔物の監視に使っていた女神像だった。銀色の方のやつだ。
「あ、ワタシうっかり回収するの忘れてたわ。もう一つも取ってこなくちゃ」
マイダが華麗にUターンして、もうひとつの金色の女神像を取りに戻ろうとした。
その時僕はあることに気づいた。
「カーリー、ディーナ、やっぱり変だよ。昨日、夕食の時に後方にスライムが現れた時、置いてあったのはこの銀の女神像だ。だから僕たちは、入り口のほうに戻ってる」
「マイダ、そう言えば例の自動マッピングの巻き物だと、どうなってますか?」
ディーナがまだ釈然としていない感じでたずねた。
マイダが荷物からスクロールを取り出し、みんなで覗きこむ。うん、やはり逆に進もうとしているように表示されている。
「どうもそのようだな……。めずらしくマイダとレンレンに方向感覚で負けたみたいだ」
カーリーが言った。
まあいつもと隊列を変えてるし、そのせいかもしれないな。僕は思った。
「なんでしたら別れて確認を……いえ何でもないです」
ディーナが話し始めたが、途中で顔をしかめて頭を振った。寝起きで頭がぼーっとしているのかもしれない。
僕らは正しいと思われる方向に歩き始めたが、相変わらず直線の、全く変化がない通路がずっと続いた。
そして、みんながいい加減、「魔法で同じところをずっと歩かされているんじゃないか」とか「そもそも無限なんじゃないか」とか言い出した頃になって、突然それは終わりを迎えた。
まず最初に、ディーナが警戒のため前方に飛ばしていた光の精霊の灯りが、ふっと消えた。
「何かとぶつかったみたいです」
ディーナがそう言って、新たに精霊を召喚しなおし、前方に飛ばした。
そして今度は途中で止め、みんなでその先に目を凝らす。
「正面に壁があります! 行き止まりでしょうか? いえ、床面に何か見えます。下層への階段かもしれません」
最も遠目が効くディーナが言った。
「行ってみよう」
カーリーがみんなを促した。
近づいてみると、床面にあったのは、まさしく下層への入口だった。
でもそれは、想像していたような階段ではなく、つや消しの真っ黒な石でできた滑り台のような通路だ。
僕らは代わるがわる下を覗き込んだが、かなり長いようで、カンテラの小さな灯りでは先がよく見えない。
ディーナが光の精霊を送り込んでみたが、狭いので途中で壁にぶつかって消滅してしまう。
「降りてみるしかないな。みんな同時だと危ないから別々に」
カーリーがそう言うと、ディーナが頷いてから言った。
「私が最初に降りましょう。すぐに光の精霊を召喚して危険が察知できますし、それに……いえ何でもありません」
「それなら、コレ使ってもらおうかしら」
マイダがまた荷物をひっくり返して探り出し、絹のような光沢がある糸が巻いてある、小さな糸巻きを取り出した。
「魔法のロープよ。細いけどとても丈夫で、かなり長いわ。ディーナに結んでもらって、何か起きたら急いで引っ張りあげましょ」
「へぇー、準備がいいな」
僕は何だか背中が痒くなって、ポリポリと掻きながら言うと、マイダが得意の?「得意げな顔」をした。
以前から本当にダンジョンに興味があったようだ。
ディーナが早速、魔法のロープを腰に結びつけると、糸巻きを僕に渡した。
ロープというか、まるで糸のような細さなので、力がかかると痛いのではないかと思ったが、触ってみるとどうもそうではない。保護するような魔法も掛けられているようだ。
「では、降りてみます」
ディーナが決断すると、カーリーが心配そうに言った。
「私が行くべきなのかもしれないが……。何かあったら合図してくれ。急いで引っ張り上げる」
ディーナは頷くと、慎重に滑り台のような通路を降り始めた。僕が持つ糸巻から、スルスルと魔法のロープが出て行く。
しばらくして、下の方からディーナの声が聞こえてきた。
「かなり深いです。まだ下りが続いています。……あ、どうやら下まで着いたようです。光の精霊を召喚してみます」
通路の下の方が、ぼうっと少し明るくなった。しかし、ディーナからの連絡はない。
「ディーナ、どうだ?」
沈黙に耐えかねたカーリーが叫んだ。
「何も……、何も見えません!」
長い通路を伝わって、普段は冷静なディーナの、明らかに動揺した声が聞こえてきた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
ダンジョン第2層へ続く・・・




