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after

 二人は今、のんびりと公園内を散策している。


 手を繋ぐ二人は、はた目には初々しくも仲睦まじいカップルに見えるだろう。いや、実際、二人にとって今日が記念すべき初デートであることは間違いのない事実だ。


 だがさやかはずっと難しそうな顔をしている。


「あ、あの」

「なんですか?」

「その、さっきの話なんだけど」

「さっきの話って?」


 きょとんとした柴崎に、さやかは言いにくいことを切り出した。


「私が人じゃない力を持っているってこと……なんで知ってるの?」


 問いかけに怯えが含まれているのは、嫌われても仕方ないと覚悟しているからだ。


 こんな変な力を持っちゃった私なんて、誰だって嫌だよね……。


 すると、柴崎は先ほどから握っているさやかの手を上げてみせた。


「僕、北野さんのことがすごく好きなんです」

「あ……ありがとう」


 嬉しいけれど説明し難い複雑な気持ちを抱えるさやかに、柴崎は足を止めてきちんと向かい合った。


「それと……僕、実は人間ではないんです。神なんです」

「……え? 神って、神様のこと?」

「はい。それとですね、僕は体の一部と共に他人に神力を分け与えることができるんです」

「し、しんりき」


 突然の話に頭がついていかない。

 だが柴崎はどんどん話を進めていく。


「この前、北野さんにキスをしたじゃないですか」


 さらりと大事件に触れられ頬をほてらせたさやかに、柴崎は笑みを浮かべたものの、即座に厳しい表情を作った。


「すみません、あの時のキスで北野さんに僕の力が流れてしまったようなんです。北野さんへの想いが強い分、余計に力が流れてしまったようで……。衝動的にしてしまったのもよくありませんでした……。今、こうして手を介して北野さんに分けてしまった力を取り戻してはいるので、もう大丈夫だとは思いますが……」


 そこで柴崎がもう一度「すみません」と言い、小さく頭を下げた。


「僕、もう二度と北野さんにキスはしません。もう二度とこんなことにはならないように気をつけます。だから……お願いします、僕と付き合ってください」


 そこまで言い、「お願いします」と再度付け加え、柴崎が深々と頭を下げた。


 さやかは柴崎の下げた頭を長い間見つめていたが、やがて悲し気につぶやいた。


「……そんなの嫌」


 その直後、あれほど晴れ渡っていた空に重い雲が立ち込めた。


 急転直下、晴天から一気に雨雲に塗り替えられた空に、声にならないどよめきが周囲に満ちていく。これからひどい雨が降る前兆なのだろうと足早に公園を去っていく者が大半、だがあまりの急な変化に追いつけず呆然とする者もいたり、ショーの始まりのように浮かれ出す者もわずかながらいるなど、反応は様々だ。

 

 顔をあげた柴崎はひどく辛そうな表情になっていた。


「そ、そうですよね。僕みたいな奴、嫌ですよね。残念ですけど……でも仕方ないですよね」


 諦めんと、己に言い聞かせれば言い聞かせるだけ、空を覆う雲の厚みが増していく。


「今日は来てくれてありがとうございました」


 無理やり笑ってみせた柴崎に、


「そ、そうじゃなくて」


 さやかは勇気を出した。


「そうじゃないの。私も柴崎くんのこと好きだから……」

「……え?」


 突然、白く輝く陽光が厚い雲をつき破った。


 海面へと差し込んでいく光の一筋は神々しく、「おおー」といたるところで声が上がる。誰もが足を止め、天を仰ぎ、または海の方を凝視している。


 ただ、二人の初々しいカップルだけは違った。二人は、二人だけの世界に浸っていた。揺れる視線をお互いで受け止め合い、想いを確かめ合っている。それこそがこの世でもっとも大切なことだと言うかのように。


「こんな僕でも……好きだと言ってくれるんですか?」

「うん……好き。好き、です。だからキスしてくれないのは嫌だな、さみしいなって……そう思って……」


 突然――天から放たれる光の矢が海面を二つに割った。


 周囲のどよめきはもはや最高潮に達している。まだここに残っていた者のほとんどが海沿いの黒い柵に群がり、身を乗り出し、この奇跡の瞬間を目に焼き付けんと必死だ。写真や動画を撮る者も至るところにいる。


「……柴崎くんがどんな人でもいいの。ううん、人じゃなくても神様でもいいの。だって柴崎くんは柴崎くんでしょ?」


 割れた海面が右に左に、厳かに道をひらいていく。それに伴い、天から差す光の領分が広がっていく。空に満ちていた闇が音もなく取り払われていく。世界は明るさに満ちていく。「ねえ、どこかに神様いるんじゃない?」「いるかもしんない!」そんな声がちらほらと聴こえる。


「北野さん……本当にいいんですか。本当に僕でもいいんですか……?」

「いいの。柴崎くんがいいの。でもお願い、悲しいことは言わないで……? キスしないって言われるとすごく悲しくなるから……きゃっ」


 柴崎がさやかを抱きしめた瞬間――。


 曇り空は霧散し、宇宙の先まで見渡せるほどのすがすがしい晴天に戻った。


 そこに大小二つの虹がかかり、一拍置いて、溢れんばかりの拍手喝采が起こった。

こちらは2018夏企画「告白フェスタ」参加作品です。


告白とハッピーエンド、二つの縛りのある企画でしたが、なかなかハッピーエンドが成立せず、この話に至るまでにいくつもの作品を途中まで書いて放り出しました^^;


結局、最近はやりの現代ファンタジーっぽい感じにしてみましたがいかがでしたか?


甘ったるい恋愛のような、ファンタジーのような、若干ミステリちっくな、ちょっとホラーな…と、よく分からない内容ですが、そのあたりの振れ幅を楽しんでいただければと思います。


ちなみに、彼視点の設定はけっこう適当です。汗。

ライト文芸系などでは、今、和物の神様や妖ものが多いのですが、仏教系は珍しいかなーと思って使ってみました。でも最後の海の割れるシーンはモーゼっぽいです。


企画参加作品、他にも多々ありますのでぜひお読みください♪


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