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後編:〈魔女〉と契約、またこんど。

さすがに注釈が必要かなと思ったものには注釈を入れました。

 ペトラちゃんは有言実行の人らしく、例の会見から2週間後には「サモロスト王国国家安全保障局」(KSSA)が発足した。してしまった。

 つうかさ。これさ。ペトラちゃん、絶対に前々から根回ししてたでしょ。国家の機密情報を統制したり、対外諜報を統合的に管理したりするような組織が、2週間で作れるはずないじゃなーい。


 とはいえいくら神童ペトラちゃんでも、世の中には無理ってものがある。今回の場合だと「器」(つまり組織としての枠組み)はいい感じなんだけど、「中身」があんまり揃ってない。なにせ私が中核スタッフなくらいだからな!


 あ、当然ですけどペトラちゃんからのオファーは受けました。

 受けるしかねーだろ、あんなの。仮にも後輩ちゃんが健気にいろいろやってるんだしね。


 そんなこんなで現状、KSSAにおける最初の会議が開催されてるわけなんだけど、案の定、お世辞にも状況はよろしくない。

 第一回ってことで、出資者とか国王陛下の名代とか軍のお偉方とかが鈴なりになってるってのが、とにかく良くない。


 具体的に言うと、KSSA局長はペトラパパ、実務はこれまで国王陛下のもとで密偵を管理してたっていう触れ込みのエルヴァスティ卿が副局長として管理するっていう体裁なんだけど、まずはここに軍からクレームが入った。

 「我軍にも偵察局があり、彼らの献身的な仕事によって、サモロスト王国の平和は守られてきたのだ」ってやつ。偵察局からもKSSAの重鎮としてマットソン卿っていう偉いさんをお迎えしてるんだけど、「現場を取り仕切るのがエルヴァスティ卿」っていう段階で、マットソン卿的には「許しがたい」ってわけ。


 でまあ、会議には軍のお偉方も参加してるから、マットソン卿としてはメンツに賭けても引き下がれない。

 で、エルヴァスティ卿にしても、国王陛下の名代が見てる以上、メンツに賭けて引き下がれない。


 そんな感じで会議開始から2時間かけて、議論はほとんど前進しないままに休憩タイム。オブザーバーとして参加してるペトラちゃんもウンザリ、ペトラパパもウンザリで、休憩室代わりの控室には可愛いウンザリと厳ついウンザリが2つ並んでいる。二人の対面に座ったヤンセン閣下(私の身元保証人役)は緊張しまくり、私は長椅子でウトウト。


「……スティーナさん。

 この状況は、間違いなく私の失策です。

 ですがこのままでは、サモロスト王国は後手を取り続けます。

 現状を打開できる、良い策はないものでしょうか?」


 ウトウトしてると、真剣な顔でペトラちゃんから献策を乞われてしまった。ペトラパパも、私のほうをじっとりと睨んでいる。むむう。しゃーないですねえ、給料分は働きますか。


「やっぱりですね、議論を尽くすってのが、一番大事だと思います。

 議論を尽くせば、後腐れもありませんから。

 だからこのまま、会議を一週間ほど続けましょう。

 それで万事解決します。それが最速、かつ、最適解です」


 わりと投げっぱなしジャーマン気味な私の言葉に、ヤンセン閣下が真っ青になって反論した。


「馬鹿なことを言うな!

 このまま一週間だと!? そんな非効率的なことをしている暇はどこにもないし、そもそも列席されている方々だってそこまで長期間、臨席を願えるわけがなかろう!」


 はい、実に優等生的な見解ですね。

 でもねえ、だから、なんですよ。

 実際、ペトラパパは苦笑いしながら、ヤンセン卿を手で制してみせた。


「なるほど。〈魔女〉の名は伊達ではない、か。

 良かろう。KSSAの局長として、スティーナの策を採用する」


 はぁ!? みたいな空気が控室に充満する。なんと、あのペトラちゃんですらびっくりした顔をしてる。まぁそうでしょうねえ。機械系の工学一本で来てる子が、こういう組織工学(・・・・)を目の当たりにすると、意味不明ってしか思えないだろうからねえ。


「ではそろそろ、会議を再開するとしよう。

 ペトラ。すまんが他の控室にも会議の再開を伝えてくれ」


               ■


「今回は良い勉強をさせて頂きました。

 改めて、ありがとうございます、先輩」


 一週間後、私はペトラちゃんが総力を傾けて作ったという、魔法と物理でガッチガチにセキュリティを固めた部屋にお招き預かっていた。長椅子に横になりつつ、ペトラちゃんが手ずから淹れてくれた滋養強壮がウンタラ的なお茶をいただく。うげー、これ不味い。


 そうそう。第一回KSSA合同会議は、あれから4日後に無事決着した。


 あのままずーーーーーーーーっと会議を続けた結果、まずは初日の夜に各界のお偉方は引き上げってことになって、次の朝にはもうちょっと若手の連中が代理で参加ってことになった。

 で、ギャラリーが変わってからも意地の張り合いは続いたけれど、3日目の夜にエルヴァスティ卿が体調不良でぶっ倒れ、「これだから軟弱な文官はダメなのだ」と言い放ったマットソン卿も、翌朝の会議には出席できなかった。

 なんでもマットソン卿のもとに「勝利の祝杯」をお届けしたボーイ(・・・)がいたらしく、疲労の極限で勝利の美酒を痛飲したマットソン卿もまた、その夜のうちに緊急搬送となった次第。

 うっわー、なんか気の利くふりをして悪いことをするボーイ(・・・)だなあ。


 結局、4日目の朝の段階で会議室にいたのは、両陣営の若手オブザーバーと、局長のペトラパパ、第三者オブザーバーのペトラちゃんとヤンセン閣下、それから私だけ。

 この惨状を前に、局長御自ら「KSSAにおける任務は、王国きっての激務である。会議を3日続けた程度で前後不覚になるような人間を責任者として、遂行できるものではない。最低限の自己管理すらできぬような人間も、KSSAには不要」と関係者全員をきつく叱責。


 一方、ギャラリーはといえば2日目くらいからこっちの狙いに薄々感づいていたようで、彼らは彼らで独自に折衝を始めていた(こっちの仲介はペトラちゃんがやった)。

 言うまでもなくこっちの会議も喧々囂々の罵り合いになったそうだけど、参加者しているのは実務畑の若手たちだ。互いに粘り強く落とし所を探した結果、4日目の夕方には双方の上司から「改善案」が提出される運びとなった。


「運も良かったですね。

 落とし所として理想の人材がいたってのは、特に幸運でした」


 運が良かったとは言ったけれど、まるで計算なしにこんな賭けに打って出たわけじゃあない。エルヴァスティ卿にしても、マットソン卿にしても、【ステータス】が最初は「健康」だったのが、最初の2時間が経過した段階で「やや不健康」に変化したからだ。

 これは持久走させりゃ共倒れするだろうし、仮に片方が勝ち残っても「足払い」するのは簡単じゃないかなーっていう読みが、綺麗に的中してくれたという次第。


 ともあれ「改善案」で示されたのは、偵察局でバリバリやってたんだけど、任務中に大怪我をして事務方に回されて燻ってたのを、国王陛下の側近が直属部隊に引き抜いた、という数奇な運命を辿った人。

 ティノっていう平民で、40歳くらいのオッサンだけど、気力体力経験ともに素晴らしい。

 なにより第一声でペトラパパに向かって「俺ぁもう、俺自身も、部下にも、無理をさせるつもりはないですからね。それでもいいってんなら、雇ってください」と言い放ったのがグレイト。ああいう職場においては、理想の上司です。


「それで、なにやら込み入ったお話がある、と伺ったのですが。

 込み入ったお話とは、いったい?」


 あーそうだった。不味いお茶で忘れかけてた。わざわざペトラちゃんに手紙を書いて、内密の話ができる環境を作ってもらったのには理由がある。


「KSSAの件なんですが。

 せっかくなんですが、私は一時的にスタッフから外させてほしいなあ、と。

 それよりも優先してやるべきことがあると思うんですよね。なので出向って形で、しばらく外に出たいなー、というお願いです」


 私の無法なお願いに、ペトラちゃん様はちょっと眉をひそめる。


「出向、ですか。

 動き始めたばかりのKSSAを安定させるには、先輩の力が欠かせないと思うのですが……」


 それはそれで正論なんだけどねえ。


「そこなんですがね。やっぱ封建社会、舐めちゃダメですよ。

 立ち上げのデリケートな期間だからこそ、私みたいな野良犬がちょこまかしてるのはマズい。それを痛感してます。幸い、ペトラ様のお父上はやり手(・・・)なご様子ですし、ティノさんも申し分ない現場監督っぷりです。

 この二人でどうしても手に負えないってことになったら、私が何かやっても変わんないと思うんですよね。いやま、お手伝いするのが嫌だって話じゃあないんですが」


 ペトラちゃんは顎に手をあてて、ちょっと思案顔。でも悩んでいたのは一瞬で、すぐに話しの核心へと飛び込んできた。このあたり、さすがは高橋研のホープって感じ。ハッシー先生の研究室、頭の回転が遅い人だと生きていけないからなあ。


「なるほど。完全には納得できませんが、おっしゃりたいことは理解しました。

 ということは先輩は、私を説得するだけの『別の道』(AnotherWay)をお持ちだ、ということですね?」


 そういうこと。

 なので私は、ペトラちゃんが御自ら注ぎ足してくれたマズいお茶で唇を湿らせながら、とっておきの打ち明け話をする。


「これはペトラ様――というか白瀬さんにだけ、お伝えしたいことなんですが。

 私って、なんだか変な力があるんですよね。具体的に言うと、任意の人間の【ステータス】を見れちゃうっていう、なんともゲームめいた能力ですね」


 私の告白を聞いたペトラちゃんは、まあ、と小さく驚きの声を上げた。


「【ステータス】能力ですか。

 そういう能力が存在する、とは聞いていますが……実際にそのホルダーに会ったのは初めてです。

 その力について、もっと詳しく教えて頂けますか?」


 問われるがままに、簡単に質疑応答。さすがは機械工学上がりの白瀬さんらしく、質問は具体的かつ実用性を問うものばかりだ。おかげで「現状ではこんなことができる」「それを使ってこんな悪さをしてきた」というのは、すんなりと伝わった。


「それで、ですね。

 KSSAで私が微力を振るわせてもらったとしても、即効性はないんですよね。そりゃあ今はゼロが1になりつつあるっていう状況なんで、影響は大きいとは思いますよ? でも現実(・・)ってやつに立ち向かうとなると、やっぱそれって誤差なんですよねえ。しょせんは『1』でしかないですもん。

 だけど、いまはまさに、戦争が始まる直前です。

 ってことになると、もっと即効性のあるお手伝いをしたほうがいいだろう、と思うわけなんですよ。具体的に言えば、この【ステータス】能力を機械的に(・・・・)駆使する方向性で」


 そこまで言った段階で、白瀬さんは私が何を考えているのか、見抜いたようだった。「アリですね」と小さく呟くと、「でもそれって、先輩にひどい負担をかけますよね」と言って、渋い顔をした。


「そうでもないんですよコレが。

 【ステータス】で確認する限り、私の地位レベルはマイナスに振り切ってます。

 つまりですね、『普通の人たち』が私に抱く悪感情って、今より悪化することはあり得ないんですよ。要は、完全にやり得。

 これを活用しないってのも、もったいないでしょ?」


 私の提案に白瀬さんはしばらく考え込んだけれど、やがて「わかりました」と頷いた。このあたり、実に判断が合理的で気持ちいいですね。

 いや、できの良い後輩とは良いものですなあ。それが絶世の美人ちゃんなら、なおさら。


 みたいな感じで軽く鼻の下を伸ばしていたら、白瀬さんは急に「ペトラ様」の顔になって、立ち上がった。お? 何か急用ですかね?

 でも、続くペトラちゃんの言葉は、私の予想とは真逆だった。


「先輩、ちょっとお時間、いいですか?

 先輩は私に、大事な秘密を教えてくれました。

 だから私も、先輩に大事な秘密を教えます」


               ■


 ペトラちゃんの秘密ってなんじゃらほい? もしかして城下町に住んでる平民男子に、こっそり恋してるとか? そういうのだったら「いますぐやめろ。マジでやめろ。洋ドラオタクなら『ウィンターズ、立場をわきまえろ』で分かれ」以外に忠告できませんよ?


 とか思ってたら、ペトラちゃんはいかにも忠実な老執事でございって顔した人にてきぱきと命令すると、私を連れて馬車に乗り込んだ。それから走ること30分くらいで城下町の門を出て、さらにまた30分くらい走ったあたりで馬車が止まった。

 馬車を降りて周囲を見渡すと、ある程度まで人の手は入っているけれど、わりと天然な感じの森の中。これはあれかなー、お貴族様専用の狩場とか、そういう類の何かかなー。


「ここはサモロスト王族の御料地です。

 ヤルヴァ国王陛下から特別な許可を得て、この場所を私の実験場(・・・)として使わせてもらっています」


 お、おう。一段階上だった。

 ってことは、アレか。こりゃあ間違いなく、特級の機密ってやつだ。

 なにせ御料地ってことは、普通なら入るだけでも死罪級なんだから。


 ペトラちゃんに案内されるがまま、私たちは森の奥へと入っていく。

 途中から明らかに重量物を何度も運んだとおぼしき(わだち)が目立つようになった。おおーい。ペトラちゃん、まさか前世の知識をフル活用して、超チートな何かを作っちゃったのかなー?


 そうやって5分も歩くと、突然視界が開けた。

 前世で見た野球場(ボールパーク)がいくつか入っちゃいそうなくらい、だだっ広い広場がつくられている。広場のあちこちには、ぶっとい轍。うおーい。これはアレ(せんしゃ)とかアレ(そうこうしゃ)か。

 確かにアレ(せんしゃ)なら原始的な(そしてヘリコプターと違って現実的な)やつをレオナルド・ダ・ヴィンチが考案してるから、魔法を上手く使えばやれちゃう気もするけど。


 ……なんていう予想は、斜め上方向に裏切られた。


 前世で言えばイギリスのボービントンとかロシアのクビンカとかにありそうな、でっかい倉庫に案内された私は、そこに並ぶ鋼鉄の兵器の群れを見て、思わず馬鹿笑いしちゃいそうになる。

 いやいや。いーやいやいや。これは、ない。これはないですよ。草不可避。マジですか。ねーよ。ない。あり得ない。だめだ、腹筋が攣る。


「壮観でしょう? っていうか、笑っちゃいますよね。

 私も初めて見たときは、笑っちゃいましたもん。

 でも、これがこの世界における、最強の兵器。通称〈神機〉。

 この世界における会戦は一般に、〈神機〉の戦いによって決着がつきます」


 ペトラちゃんはうっとりとした目で、漆黒の巨人を見上げる。その数、11体。


「全高3.804メートル。乾燥重量6.387トン。巨大な魔法水晶を動力源とし、その出力は最大で230馬力。最大トルク、51kg/m。最高速度は地面のコンディションに左右されますが、時速50kmに迫ります。

 無補給での連続稼働時間も218時間と、決戦兵器としてはまったく問題ありません。

 乗員は1名で、コクピット正面の装甲厚は最大14ミリ。〈神機〉相手の戦闘においては紙のようなものですが、普通の人間が使う武器でこれを貫通するのは不可能です。

 まさに〈神〉の名を背負うに相応しい性能と言えるでしょう」


 歌うようにスペックを語りながら、ペトラちゃんは唯一、ブルーシートっぽいものがかけられた機体に近づく。

 そしてペトラちゃんの一挙動でブルーシートが跳ね上げられると、そこには鏡面のような深い青(ガンブルー)に染められた、ひときわ大きな〈神機〉があった。


「これは450年前の戦闘でかく座し、廃棄されていた機体を、私がリストアしたものです。

 私がこの子を見つけたのは、こちらの世界で私が6歳になった頃のことでした。

 それからずっと、私はこの子を再生させることに命を賭けてきたと言っても過言ではありません。

 設計図を探して禁書庫を漁り、希少金属からパーツを削りだし、不慣れな魔導エネルギー理論を学んで、魔法水晶との同調にも成功しました」


 ペトラちゃんの誇らしげな言葉を聞きながら、私は呆然と蒼き巨人を見上げた。

 なんというか、アニメの世界そのままっていうか、あまりの馬鹿馬鹿しさに笑っちゃいそうだ。


 でも、私はもう、笑えなかった。


 それくらい、この蒼き巨人は、美しかった。

 工学畑の端くれにいた人間として、この完璧なる機能美には、官能すら覚えてしまう。


 これは、死と破壊を撒き散らすことに特化された、堅牢なる芸術品だ。


「全高4.274メートル、乾燥重量8.103トン。最大出力、360馬力。最大トルク、76kg/m。最大戦速は、時速約50km。連続稼働時間は162時間が限界ですが、重大な問題にはなり得ません。

 現状では世界最強の〈神機〉であると、自負しています」


 ペトラちゃんの自負に、疑念を差し挟む余地はない。

 〈神機〉同士の戦闘が近接武器によるもので決着するのであれば、2トン以上の重量差と、130馬力の出力差は、大人と子供が戦うくらいの差になるだろう。


 でも――だからこそ、私は白瀬さん(・・・・)に問わずにはいられなかった。


「白瀬さん。

 あなたの前世は、この規模のロボットのコクピットの中で燃え尽きる(・・・・・)ことで終わったはず。

 それなのにまた、あなたはこれ(・・)に乗る。

 いや、乗るだけじゃなくて、これで戦おうとしている。

 ……そういう、決意なんですね?」


 私の声は、震えていたと思う。

 私なら――私なら、そんなの、絶対に無理だ。


 でも白瀬さんの答えは、実に綺麗だった。


「永井先輩。それは、順番が逆です。

 私は、戦争なんて嫌いです。馬鹿げてます。そもそも〈神機〉は戦争のためではなく、建設事業や災害救助といった局面でこそ、その力を発揮すべきですしね。

 もちろん、この子がまた壊れてしまいかねない場所に、この子を連れ出すなんて、考えたくもありません。

 この子を使って他の〈神機〉を壊し、人を殺すだなんて、ぞっとします。それに、この子に乗って戦争に行けば、見ず知らずの誰かが操縦する〈神機〉に殺されるかもしれないと思うと、胃の下のあたりがギュッとします」


 白瀬さんの慈しむような視線が、蒼い〈神機〉に向く。


「でも私は、この子に乗って、戦います。

 なぜなら私は、この子に乗りたいからです。

 この子には私の理想と、果たせなかった夢が、全部詰まっているんです。

 そしてこの社会は、〈神機〉に乗るからには、戦うことを求められます。

 だから私は、戦います」


               ■


 ペトラちゃんに〈神機〉を見せられた日の夜から3日ほど、私はまた高熱を出して寝込んでしまった。お医者様は「精神的に不安定なのが、体調に出たようですね」という見立て。

 ぐぬぬ。つまりこれは、あれだ。幼児と一緒。興奮しすぎて、熱が出ました。


 いやー、でもあれを見て興奮するなっていうのは、無理。絶対無理。乗れるものなら私だって乗りたいもん。乗らなくたって、見てるだけでも幸せ。ていうかまた見に行きたい。その後で熱を出して倒れても知るもんか。

 だからあれを作ったペトラ=白瀬ちゃんが「あれに乗るためなら人殺しだってするし、殺される覚悟だってある」と言い切るのは、遺憾ながら、「わかる」としか言えない。


 その後、ヤンセン閣下に「大事を取って」追加で4日ほどの休暇を強制され、それはそれでありがたく拝領してベッドでグダグダさせてもらってから、私は改めて「新しい仕事」に着手することにした。

 具体的に言えば、ペトラちゃん経由でペトラパパの権力をちょいと拝借して、軍の医療部門に入り込んだ。まったくもう、ペトラパパったら謹厳実直な支配階級って顔してるのに、娘の「おねがい」には甘いんだから。


 諜報部門から医療部門に出向したのには、理由がある。

 即効性という面で見れば、こっちのほうが私の【ステータス】能力は活用しやすいからだ。


 現状では一応、サモロスト王国とヴァリアーク王国は『とても強い緊張状態にある』という範囲に留まっている。

 ヴァリアーク王国は既に軍隊を越境させてクロノベリ県に進駐しているが、今ならまだ『重大な国境侵犯行為があった』ところで矛を収められる……まあ、収まるはずもないんだけど。

 なので今のところは「あとはどっちが先に宣戦布告するかというだけの問題だけど、まだ戦争中ではない」という、そういう段階。


 ……ではあるんだけど、軍の医療部門は既にパンクしはじめている。


 いやさ、考えてみ?

 数千人規模の、武器を持った集団が、国のあちこちから移動したり、国のあちこちで訓練したりしてるんですよ?

 刃物の扱いに慣れてない徴募兵がついうっかり指先をナイフで切っちゃいましたってあたりから始まって、行軍してるうちに迷子になって行き倒れ同然で見つかりましたとか、部隊の中で喧嘩が起こって刃傷沙汰にまで発展しましたとか、訓練中に事故りましたとか、負傷者が出る要素には事欠かないってこと。


 こうなってくると、医療部門はいろいろ難しい問題に直面していく。

 こと、「治療魔法」なんていう便利なものがあるから、話はもっと面倒くさくなる。


 例えば。大怪我をして今にも死にそう(に見える)兵士と、まぁそれほどの怪我でもないなっていう(ように見える)兵士が担ぎ込まれてきたら、治療術士が前者に魔法を使って、後者は医療班が応急手当てをする、みたいな分担になるわけだ。

 でもこれ、あくまで初期診断が正しければ、って話。

 あるあるだけど、前者が「派手に出血してるけど、実はそこまで深刻でもない」人で、後者が「ぱっと見たところ大丈夫だけど、実は内臓に深刻なダメージがある」人だったりするんですわな。


 で、こうなってくると私の【ステータス】魔法は、宣言したとおり、「機械的に」大活躍する。

 要はステータスが〈健康〉なら「ツバでもつけとけ」って話だし、〈瀕死〉なら「今すぐ治療術士を!」ってわけ。

 そしてこっちがより大事だけど、複数人の怪我人が搬送されてきて、さあ誰から治すってことになった場合、私は「治療を諦めるべき人」を迅速に選定できる。アイ アム トリアージ・マッシーン。


 そして案の定、トリアージ・マッシーンとしての私は、医療部門に出向した初日から大活躍してしまった。

 武器を満載にした荷馬車がひっくり返って、荷馬車に乗ってた兵士たちと、荷馬車の近くにいて巻き込まれた兵士たちが、ぐっちゃぐちゃな感じになって運び込まれてくるなんていう、「このために私は来たんだよ!」みたいな状況が発生したんで。


 スティーナ・ザ・トリアージマッシーンが大活躍した結果、初手で3人が見捨てられ、その代わり10人が一命をとりとめた。

 担当してた治療魔術部隊長曰く、「あんたが容態を正確に見切ってくれなかったら、半分以上は死んでたかもしれん」とのこと。〈魔女〉スティーナ、いい仕事しました!


 でも、治療の現場を見てた一般の兵士からは、悪魔か魔女でも見る目で見られましたね。そりゃそうだ。なにせ私が「この人はもうダメだ」って判断すると、そこで見捨てられちゃうんだもん。

 途中で何度か、イキった兵士に胸ぐら掴まれて、「医者なら最後まで諦めんなよ!」とか怒鳴られちゃった。てへ。


 ま、しゃーない。もうね、これはしゃーない。

 兵隊さんが「諦めんな!」って叫ぶのも必然なら、私が「もう無駄だから治療しない」って判断するのも必然。戦友が目の前で死のうとしてて、それを医者が見捨てるような状況で、「ここはプロとして冷静に判断すべき」とか要求するほうが頭おかしい。


 もちろん私だって、万能ではない。

 今は「各地から軍隊が集まってきている場所」で仕事をしてるけれど、だからといってあちこちの地方で起こっているであろう「効率の悪い命の助け方」まで指導できるわけじゃあない。

 それに純粋に効率だけを考えれば、1~2ヶ月以内に始まるであろう戦争の最前線に赴いて、決戦となる会戦の場でトリアージ・マッシーンとしての力を駆使する――それまではKSSAの幹部職として諜報関係をケアするってほうが、たぶん正しい。


 でもあえて私は、決戦の前段階から【ステータス】を使いまくる現場にいようと思った。

 医療スタッフとの連携を高めるにあたっても「同じ釜の飯を食っておく」のは大事だ。それに私自身、もともとは医療従事者じゃなかったから、いきなりトリアージをするってことになると判断をミスる可能性もあると思った。


 でも何より、【ステータス】を使いまくったらレベルが上って、もうちょい有益な情報が獲得できるんじゃね? っていう推測――というか賭け――があった。


 そしてその賭けに、私は勝った。


 だから私はまたしても重傷者が運び込まれたと聞くと、大急ぎで救護テントに走る。3人の兵士が川で溺れたらしい。


【ステータス】

名前:トーヴェ   状態:瀕死(5分)

地位レベル:5

好感度:-18(-3277)


【ステータス】

名前:ヴァリオ   状態:瀕死(1分)

地位レベル:5

好感度:-24(-3277)


【ステータス】

名前:ザクリス   状態:極度に不健康(3時間)

地位レベル:6

好感度:-7(-3277)


 レベルが上がった結果、状態情報の後ろに「時間」が見えるようになった。

 この数字は、対象となった人間の「余命」だ(ちなみに「健康」な人だと数字が出てこない)。


「トーヴェを急いで治療。まだ確実に間に合う。

 ヴァリオは捨てる。

 ザクリスは後回しでいい。体温の保持だけは忘れるな」


 私の指示に従って、医療術士がトーヴェの治療を始める。担当術士の詠唱が完成したその瞬間、ヴァリオのステータスが変化した。


【ステータス】

名前:ヴァリオ   状態:死亡

地位レベル:0


 ……もしかしたら、兵士ヴァリオにも治療呪文が間にあったかもしれない。

 あるいは間に合わずに、死体に向かって治療呪文が浪費されることになったかもしれない。

 ただ、「治療術士の使う〈大治癒〉(ハイヒーリング)の詠唱時間は平均83秒」という数字を持っている私としては、兵士ヴァリオは捨てるしかなかった。

 だってここは戦場で、戦場において人は人ではなく、ただの数字なのだから。


 まったく。


 異世界に行っても、人類って、つらいね。

 つらい。


               ■


 私が医療部門に出向してから50日ほどで、サモロスト王国はヴァリアーク王国に対して正式に宣戦布告した。この宣戦布告にともない、クロノベリ県の近くに集結していたサモロスト軍は、ゆっくりと移動を開始する。

 目標地点は、サハヴァーラ平原。ルーネ川が作ったこの平原は、〈神機〉を含めた大規模な軍隊が激突するにおあつらえ向きの地形だ。ルーネ川を使った水運で兵站負荷が下がるのも大きい。


 いやあ、両軍合わせて2万くらいの兵士が並ぶこの風景は、前世ではちょっと考えられない景色だ。やっぱすごいですよ、2万人。何がすごいって、この2万人が殺し合いに来てるってのが、マジですごい。アホらしい。同人誌の買い出しくらいにしとけよ。


 私は医療部門に入り浸りというか、「戦闘が始まったら絶対に天幕から出るな、お前を恨んでいる味方の兵士に『戦死』させられるぞ」とヤンセン閣下に厳命されている。そりゃそうか。好感度ペナが-3277とかあるもんな!

 なくてもマイナスだけど。

 実際、ヤンセン閣下は今回、私のお守りという大役を拝領したそうだ。うーん、武人としては不本意じゃろうに。すまんこってす。


 仏頂面してるヤンセン閣下に守られつつ、夜明けには決戦だというお触れを聞く。いよいよですなあ。あーやだやだ。


 とか思ってたら突然、ヤンセン閣下にお手紙が届いた。閣下は素早く内容をチェックすると、仏頂面が渋い顔に変化。凶報ってやつですかね?


「……ペトラ姫が、貴様を呼んでいるそうだ。

 念のため、途中までは俺が護衛する。行くぞ」


 お、おう。ペトラちゃんから呼び出し。

 あれですかねー、やっぱ命がかかった戦いの前夜だし、緊張しますよねえ。お話相手が欲しくなったかな。でもこういう状況なら、イケメンの婚約者さんとかとこっそり婚前交渉とかしちゃうものなのでは? 普通に考えて、ペトラちゃんに婚約者さん、いるよね?


 とかアホなことを考えながらヤンセン閣下のあとをついて歩いていくと、なんだかどんちゃん騒ぎしているでっかい天幕に案内された。

 ほへ?

 いやその……この体育会系のノリっていうか、より正確に言うと七帝戦が終わったあとの学食宴会のノリみたいな状況って、ペトラちゃんには全力で似合わない気が……。


 戸惑ってると、「さっさと入れ」とヤンセン閣下に背中をおされた。

 よろけるように、天幕の中に入る。


 天幕の中は、案の定、修羅場だった。


 居並ぶ若人はみんな綺麗な軍服を着ているけれど、もう誰も彼もが襟元を緩めまくって、だらしないったらありゃしない。そして猛烈に酒臭い。これはあれだ、具体的には思い出したくもないけど、サッポロがソフトな感じのアレの匂い。H大のバカどもが必ず持ち込んでくる、アレ系のアレ。

 そしてそんな馬鹿飲みの空気に、ペトラちゃんは見事に馴染んでいた。うっそ、実はあの人、前世では体育会系?


 てなことを思っていたら、「ウエーイ!!! かんぱーい!! かんぱーい!!」とわけのわかんないテンションでコップを押し付けられ、ほとんど無理やりキッツイ酒を飲まされた。うげ。く、くそ、私はなあ、酒の味だけにはうるさいんだぞ!!

 なので反射的に、私に酒を無理強いした阿呆の頬を張った。で、ビンタしたその途端、自分が殴った相手がヴァリアーク王国の軍服を着てるってことに気がついた。


 はあ?


 私に頬を張られた男は一瞬足元をよろけさせると、馬鹿笑いしながら「効いてねえ、効いてねえぞお! おら、乾杯! 乾杯だ!」とかわめきながら、手に持っていたコップから酒を一気飲みする。


 ……なんぞこれ。


 戸惑っているとペトラちゃんが私の腕を掴んで、「飲みましょう先輩!」と絡んできた。あー、もうこれはアカンやつですね。一緒に飲むしかないパターン。


 まあいいか。いい機会だから、ちょっとペトラちゃんっていうか、白瀬さんに説教しとこう。


「いい、白瀬さん。

 明日はね、危なくなったら、すぐに脱出すること。

 私はねえ、たぶん、戦争っていうものについては、あなたより詳しい。

 だから言うけど、死んじゃあだめ。絶対に。たとえ両足が千切れちゃっても、生きてさえいれば、何かができる。それを忘れちゃあ、ダメだよ。

 第一あなた、そんなにいいご身分なんだから、『女の喜び』とかも知らないんじゃない?

 積極的にオススメはしないけど、未経験なことがあるってのは、なんかムカツクでしょ?」


 私の説教を聞いた白瀬さんは、最初はクスクス笑っていたけれど、やがて耐えられなくなったのか、大爆笑を始めた。

 で、こっちは真面目に言ってるんだって、と説教をしようと思ったら、とんでもない爆弾発言。


「ウフフ~。だいじょーぶですよー、せんぱーい。

 だってー、あたしー、ハッシーせんせーと、けんきゅーしつで、えっちしちゃったんですもーん。

 ウフフ~。ウフフフ~。どうだー。うらやましいでしょー。ワハハー!」


 ……はい?


「あたしもぉ、はじめてだったんですけどぉ、ハッシーせんせいもぉ、はじめてだったんですってぇ。

 ウフフ~。ウフフフ~。ハッシーせんせいの、どーてー、うばっちゃいましたー!! ワハハー! まいったかー、ながいー! どうだー、ながいー、まいったと、いえー! ワハハー!」


 ……かくして私はペトラちゃんを地面に預けると、いろんな人と3時間ほど乾杯をし続けた。

 で、深夜を告げる鐘の音にあわせて、ヴァリアーク王国の軍服を着た連中は帰っていく。ペトラちゃんは天幕の隅っこで熟睡。私はポカーン。

 仕方ないので自分の天幕にこっそり帰って、ありったけの水を飲んでから、毛布にくるまった。


 なんだったんだ、あれは。


               ■


 翌朝。夜明けとともに、いよいよ戦闘が始まろうとしていた。

 あちこちでラッパが鳴り響き、〈神機〉が起動しはじめる。ペトラちゃん、酒が残ったりしてないかしら。


 〈神機〉という決戦兵器がある以上、この世界の会戦の展開は大きく2つに分かれる。

 1つは、最初から〈神機〉を投入するパターン。これが一般的。

 もう1つはまず歩兵や騎兵が戦って、劣勢になった側が〈神機〉を投入するというパターン。こっちはあまり選ばれない。


 でもサモロスト王国側は今回、騎兵の突撃で戦端を開いた。後者のパターンってことだ。ヴァリアーク王国側もカウンターチャージでこれを迎え撃ち、両軍ともに騎兵を援護すべく歩兵が突撃して、本格的な戦闘が始まった。


 さもありなんだな、と思う。

 なにせペトラちゃんは、サモロスト国王ヤルヴァ陛下も寵愛する、国の宝みたいな才能だ。そのペトラちゃんを、なるべく前線に出さずに戦いたい。そんな気持ちは、めっちゃわかる。


 その気持ちは前線の将兵にも伝わったようで、30分くらいで戦況は我が方有利、といった様相を見せ始めた。

 実際、これはこれで良い知らせだ。敵方の〈神機〉が先に突撃しなくてはならない状況になれば、こっちはその布陣を見た上で対応できる。


 さて、個人的には戦況の行く末を見守りたいけれど、そうも言ってはいられない。前線での激突が始まってしばらくして、後方に搬送されてくる負傷者は急激に増えている。

 このあたり、治療魔法って偉大だなって思う。地球で「会戦」が戦争の行方を決めていた時代においては、負傷者は前線で死ぬだけだった。治療なんてしても、ほぼ意味がないから。

 でもこの世界には治療魔法がある。後方に搬送すれば、大金をかけて育成した騎兵の命を救えたりする。だから負傷者が後方に運ばれてくる。


 というわけで、私の仕事は一気に増えた。

 というかまさに、「このために私がいる」と言わんばかりの状況。なにせこっちは地位レベルも見れるので、「今すぐ治療すれば助かるであろう雑兵」と「今すぐ治療したほうが無難な貴族」なら、後者を優先するっていう判断が瞬時にできる。


 いやさ。

 我ながらアレだと思うんだけどさ。

 この世界では、まだまだ教育が普及してないんですよ。

 平民の教育にかけられてるカネ&時間と、貴族の教育にかけられてるカネ&時間では、桁が5桁くらい違うんです。

 要はね、「テキサスの州兵と、ネイビーシールズの隊員、先に救うならどっち?」みたいなのが、「地位レベル」に出ちゃうんですってば。


 クソだな、ほんと。


 そうやって治療術士からのヘイトまでもを溜め込みながら仕事をしていると、前線でわあっという大きな悲鳴と歓声が上がった。

 見なくてもわかる。敵の〈神機〉が突撃を開始し、それに対して味方の〈神機〉もカウンターで突撃を始めたんだろう。

 ここまで来たら、私にできるのはただ、祈るだけだ。

 6歳の頃から〈神機〉で戦うことを前提として生活のすべてを絞り込み、しかも圧倒的に格上な〈神機〉のレストアまで成功したペトラちゃんは、確率論的に言えばこの戦場を制するだろう。でもねえ、所詮、確率は確率でしかないんだよねえ。


 ……なんてことを思いながらトリアージ・マッシーンとして仕分けをしていると、戦場から突如、凄まじい爆発音が聞こえた。


 なんぞ!?


 この世界に、爆薬とかあったの!?


 思わず手を止めて、天幕の外に首を出そうとした私を、護衛として張り付いているヤンセン閣下が制した。


「貴様は――やはり、そこまで忘れていたか。

 〈神機〉は動力源たる魔法水晶が安定している限り、損傷した部位すら自動的に修復する。

 だがあまりに損害が重なりすぎると、魔法水晶は暴走し、爆発する。

 つまり〈神機〉乗りにとっての戦いは、勝利か、死か。それだけだ」


 ……なんだよ。


 なんだよ、それ。


 おい、なんなんだよ、それは!


「だからこそ〈神機〉乗りは決戦の前夜、敵味方の区別なく、酒盃を酌み交わす。

 彼らはたとえ戦場で最高の好敵手と出会っても、その次(・・・)がない。

 そして〈神機〉と戦えるのは〈神機〉のみであるがゆえ、絶対的な不利を背負っても、彼らはけして降伏しない。

 それゆえに、彼らは戦う前に、互いの善戦と修練を褒め称えあうのだ」


 ヤンセン閣下がそう語る間にも、1つ、2つと爆音が響く。

 それは、また1人〈神機〉乗りが死んだという、音。


「王国の魔法学院とはそもそも、〈神機〉の乗員を育成するための場だ。

 それゆえに、学院生が多少放埒なことをしても、大目に見られる。過去の貴様はそこにつけこんで、やりたい放題をやったがな。

 だがそれでも多くの人々は、いつか貴様も〈神機〉に乗り、王国のために命を賭すと思っていた。だから、貴様の行いを、許した」


 そんな、ことで。

 そんなことで、アウロラちゃんは、頑張らなきゃいけなかったのか。

 アウロラちゃんだけじゃあない。過去の私が踏みにじった人たちは、意味のない「頑張り」をしなくちゃいけなかったのか。


「怒るならば、怒れ。

 呆れるならば、呆れればいい。

 俺自身、怒りしか感じないさ。俺達はなにもかもを〈神機〉乗りに押し付けて、いつかどこかで散華する彼らの命を盾に、名誉だ軍功だと喚くばかり。

 こんなものが(・・・・・・)世継ぎたる貴族の義務だと言うなら、俺は世継ぎになどなりたくなかった!」


 ああ、怒るさ。怒らせてもらおう。

 けれどそれと、これとは、別だ。

 どんなに怒りに心が震えても、私には捨てるべき命と、救うべき命がある。

 少なくともそれが、今の私の、戦いだ。


 だから私は震える声で、ヤンセン閣下に問いただす。


「数だけでいい。

 敵の〈神機〉は、何機?」


 何もかも理解したという顔で、ヤンセン閣下は「14」と一言。


 そうですか。こちらは2機、数で負けている、と。

 でもペトラちゃんがあの〈神機〉を駆る以上、2機の差なんて誤差でしかない。

 だから問題は、何回あの爆発音がするか、だ。


 【ステータス】で〈瀕死〉の兵士たちを選り分け(・・・・)ながら、私は戦場に耳を澄ます。すでに3回の爆音が鳴った。その数は1つ増え、2つ増え、10を越え、15を越え、そして18回目の爆音と同時に、味方から大きな歓声が上がった。どうやら我が方の勝利、ということのようだ。


 総勢26機のうち、18機が喪失。

 つまり我軍は4機を失ったという計算になる。


 大勝利といえば、大勝利。

 けれどあの芸術品が合計で18機も喪われた戦いに、勝利もクソもあるか。


 「勝った」「俺達の勝ちだ」という歓声に沸き立つ天幕の中で、私とヤンセン閣下は行き場のない怒りを煮えたぎらせていた。


 ……でもそのとき、またひとつ、戦場に爆音が響き渡った。


               ■


「馬鹿な!?」


 激しく狼狽するヤンセン閣下。

 天幕で浮かれていた負傷兵たちも、一気に静まり返る。

 そりゃそうだ。今の爆発音は、この戦場に〈神機〉を破壊し得る何か新たな脅威が現れた、ということなのだから。何百年にも渡る彼らの常識から言えば、けしてありえないことだろう。


 でも、私に言わせれば「馬鹿な」も何もあったもんじゃあない。

 だってこれは、戦争なのだ。

 そして戦争であればこそ、「最強の兵器」は、いつまでも最強ではいられない。


 そうである以上、事態は1秒を争う。

 私は狼狽しきったヤンセン閣下の手を強く握って、その目を見つめた。


「どうやら、このいくさ(・・・)を、戦争(・・)にした馬鹿がいます。

 おそらく、かつてない数の人が死ぬでしょう。戦争(・・)ですから。

 でも私は、なんとしても、ペトラ姫だけは救いたい。

 そのために、閣下のお力をお借りできますか?」


 ヤンセン閣下は、一瞬で平静を取り戻した。さすがは「武人」だ。

 彼はさんざん自分を卑下したが、これなら十分、頼るに値する。この人になら、背中を預けたって後悔しないだろう。


「……〈魔女〉よ。ひとつだけ聞く。

 ペトラ姫を救出できる可能性は、いかほどだ?」


 ああ。いい、質問だ。

 とても、いい、質問。

 彼が覚悟を固めるためではなく、私に覚悟を固めさせるための、上官(・・)が発するべき問い。


「万に一つも、勝算はありません。

 閣下、私と死んでくださいますか?」


 ヤンセン閣下の解答は、実にサッパリしていた。


「万に一つ、あればよい。

 我らサモロスト軍1万騎、全員で勝負すれば勝ちの目もあろう。

 動くぞ。走りながら、貴様の作戦を聞かせろ」


               ■


 天幕の外に出ると、漆黒の〈神機〉がまた一つ、爆散していた。

 幸いにしてペトラちゃんの愛機はまだ健在だけど、それもいつまで持つかは分からない。ペトラちゃんは既に攻撃の正体に気づいているようで、左手に固定された盾をかざしているから、もうちょっとは耐えるだろうけど。


「教えろ、〈魔女〉!

 ヴァリアーク王国は、何をした!?」


 私は走りながら(そして50メートルほどで息があがりながら)、短く「弓です」と答える。


「弓? 弓ごときで〈神機〉の装甲が抜けるはずがないだろう!

 ましてや一撃で魔法水晶を暴走させる破壊力など……」


 ヤンセン閣下はそこまで言って、真相に思い至ったようだ。おお、ヤンセン閣下って普段は微妙だけど、戦場での判断はめっちゃ早いな!

 これ、意外とすんごい将軍になるかもしれない。


「ご想像の、とおり、ですよ。

 超巨大な、クロスボウを、作って、遠距離から、狙撃すれば、14ミリの傾斜装甲、くらいなら、撃ち抜け、ます。

 ましてや鏃に、不安定な、魔法水晶、とやらを、使えば、一撃必殺でしょう」


 ぜいぜい。はあはあ。


 見るに見かねたのか、ヤンセン閣下が私の腰を抱えて、肩の上にひょいと担ぎ上げる。負傷者を運ぶ要領。でも、その、うっぷ。こ、これ、酔う。酔います。


「理屈はわかった。

 なら、どうする!? どうやってその巨大クロスボウと、戦う!?」


 そこなんですよねえ。そこが難しい。

 ていうかね、ここで大本営発表してもしゃーないですね。

 ヤンセン閣下は、私の腐った本音も飲み込んでくれる度量をお持ちなんだから。ここで無駄に楽天的なことを言うだけ不誠実ってものです。


「勝てません! 無理です!

 もっとはっきり言えば、我々はもう、負けました!

 〈神機〉同士の戦いで勝利を収めたのに、その〈神機〉がなすすべなく撃破されている!

 一度は勝ったと思って気が緩んだ兵士たちが、この現実から立ち直れる可能性なんてゼロです! それこそ、万に一つもありゃしない!」


 実際、自軍後方はもう浮足立ち始めている。

 指揮官たちが必死で統制を保とうとしているけれど、目の前で次々と爆散していく味方の〈神機〉を見た兵士は、もはや敗残兵と変わらないだろう。


「ですから閣下! 我々の狙いは、ただ一つ!

 ペトラ姫を、無理やりにでも、救出します!

 あの方の力は、これからのサモロスト王国に、欠かせません!」


 ついでに言うと、もしペトラちゃんがここで戦死したら、ペトラパパも発狂しちゃうだろう。自領の農民から浮浪者まですべてかき集めて武装させ、単独で自殺的突撃をやらかしかねない。

 それくらいには、ペトラちゃんも領民に慕われてるっぽいし。

 でもペトラちゃんに続いてペトラパパまで失ったら、この国は本当におしまいだ。


「貴様の分析のすべてに、同意する!

 ならば、ペトラ姫を救出する方策を教えろ!」


 ヤンセン閣下が肩越しに怒鳴りつけてくる。

 あはは。そこなんですよねえ。でも、そこも正直に言っちゃいましょう。


「ありません!

 誰よりも早くあの〈神機〉の近くに駆けつけ、外からハッチを開いて、強引に戦場から連れ去る! それ以外、方策なんてあるもんですか!」


 私のノー・プランを聞いたヤンセン閣下は一瞬硬直したが、すぐに大笑いし始めた。うっさいなー、そこまで笑うことないでしょー。


「ハハハ! 〈魔女〉が万策尽きたか!

 だがそれならば、この局面においては俺のほうが〈魔女〉より上を行ったな!」


 お? ここにきてヤンセン閣下、覚醒!?

 なんかスーパーすごい作戦とか、思いついちゃった!?


 ……とか思ってると、なんだか生暖かい物体の上に放り上げられた。

 お、おう? これって、まさか?

 そして次の瞬間、ヤンセン閣下が私の腰を後ろから強く抱きかかえる。


「俺なら闇雲に二本の足で走るのではなく、味方の騎兵の馬を奪って走る。

 どうだ〈魔女〉、俺の策は?」


 あっはい。お見事です、閣下。棒読みしたくなるくらい、お見事。

 つうか味方の馬を奪うとか、あんた山賊ですか。


「本当は貴様を背負う形で乗りたかったのだが、今は一刻を争う。

 抱きかかえる形での騎乗で、我慢してくれ。

 なあに、万策尽きた〈魔女〉など、俺に向かって飛んでくる矢の盾になる程度しか役立つまい?」


 ……F**K。F**K。F * * K!


               ■


 まあ、あれだね。

 人生、いろいろ、ある。


 私の前世も大概だったけど、こっち(・・・)も大概だ。

 死刑囚としてクソまみれのまま死ぬかと思えば、かつて自分が酷くイジメた相手の命を救い、お貴族様のカネと女を洗ってスワッティングしてみたら戦争が始まって、異世界で奇跡的に会った研究室の後輩には「先生の童貞を食いました」と告白され、生まれて初めて馬に乗ったのは戦場のど真ん中。

 ああ、紋章学、楽しかったなあ。フランゼン師匠、師匠の忠告はめっちゃ正しかったっす。


 ……現実逃避してる場合じゃあない。


 こうやって馬で爆走してるいまも、ペトラちゃんの〈神機〉には攻撃が集中している。でもって逸れた一撃がわりと近くに着弾して爆発、ヤンセン閣下奇跡の馬術で転倒こそ免れたものの、舞い上がった泥が私達の全身にこびりついている。

 射撃レートが遅いってのだけが唯一の救いだけど、敵はそこを数で補ってる。この感じだと40台か、下手すると50台くらいバリスタを用意したな? ってことは予備を含めて80台くらいは持ってきてるはずだ。

 クソが。間違いない。こんなこと(・・・・・)を思いつくヤツは、10中8か9、「同郷」の人間だ。理念的に言えば、これは我らが愛する赤軍が編み出したPAKフロント(※1)に限りなく近い。弾頭がHE(※2)ってのが、これまた合理的すぎてめっちゃムカツク。


「もっと! もっと早く! 走れないんですか!!」


 懸命に、叫ぶ。

 あれだ、馬術を知らない人間の戯言と思ってください。


「精一杯の速度で走ってる!

 それより、本当に外からハッチを開けるのか!?

 〈神機〉の搭乗員が外に出るのは、乗り手がそれを望んだときのみ! それが〈神機〉乗りの鉄則だぞ!」


 ヤンセン閣下が叫び返す。


 あー。うん。そこはその、あまり理論的には、説明できない。

 でもねえ。あると思うんだ。

 だってさあ、前世ではコクピットから脱出できなくて焼け死んだんでしょ、白瀬さん。


 でさ。きっと彼女、もう一度自分がそうなるかもってのを、心配してるわけじゃないんだよね。


 たぶん彼女、死ぬ前に、ハッシー先生が必死で外からハッチを開けようとしてたの、聞こえてたと思う。ハッシー先生のことだから、外からハッチを開ける機構も絶対に用意してたはずだしね。

 でもハッシー先生を、周りの人が止めたんだろう。

 だってさあ、燃料まわりに火が回ってたんでしょ? そりゃ止める。止めますよ。ハッチを外から開けに行ったら、爆発に巻き込まれて死ぬ可能性、めっちゃ高いもん。


 きっとね。


 きっと白瀬さん、それを気に病んでるんだと思うんだ。

 自分が恋した相手が、自分が設計したロボットの中でローストチキンになっていくのを、ハッシー先生は半狂乱で阻止しようとしたはずなんだよね。

 その叫び声を聞いて――そんな思いをハッシー先生にさせたことを、白瀬さんは、今もきっと気に病んでる。

 だってあの子は、私と違って、いい子だもん。


 だから。

 だからきっと、ハッチを外から開ける、何かわかりやすいメカニズムが、ある。

 絶対に、ある。


 白瀬さんは、天才エンジニアだ。

 ユーザーの愛情に答えられなかった機能は、絶対に改良してるはず。


 ……でもそのとき、ペトラちゃんの〈神機〉に向かって、同時に2本の矢が放たれた。

 コクピットを狙った矢は盾で止まったけれど、頭を狙った矢は狙いをあまたず命中する。


 その一撃と同時に、ペトラちゃんの〈神機〉が青白い光を放ち始めた。


               ■


 ペトラちゃんの〈神機〉が光り始めたのを見たヤンセン閣下は、馬を急停止させた。そのまま馬首を返して、自軍陣地に戻ろうとする。

 そんな閣下に、私は力いっぱい肘鉄を入れた。


「なんで引き返すんです!?

 もうちょっと、もうちょっとで、たどり着くじゃないですか!」


 でもヤンセン閣下は断固として首を横に振った。


「遅かった。ああなっては、どんなに長くても30秒ほどで魔導水晶が暴走、爆発する。

 逃げるぞ、〈魔女〉。いまや貴様の悪辣さこそが、王国を救う鍵だ」


 そんな。

 そんな、ことって。


 私は必死になって、青白く光る〈神機〉を見る。

 遠くから、敵軍の大歓声が聞こえる。

 敵も、あの規格外の〈神機〉を討ったと、確信しているのだ。


 でも。

 でも!


 そのときふと、私の視界に【ステータス】画面が浮かび上がった。


【ステータス】

名前:蒼騎士   状態:崩壊(5分)

地位レベル:na


 ……これは。

 これは、まさか。


 でも今は、躊躇っている場合じゃあない。


「ヤンセン閣下! 朗報です!

 あの〈神機〉は、少なくともあと5分は爆発しません!

 お願いです、どうか! どうか、この〈魔女〉を信じてください!

 私はこれまで山ほど人の道に反することをしてきましたが、閣下に嘘だけは言わなかったはずです!」


 私の言葉を聞いて、ヤンセン閣下はピクリと身体を強張らせ――そして1秒もしないうちに、ふたたび馬首を〈神機〉へと向け直した。


「貴様を信じよう、〈魔女〉。

 それに、そもそも俺は、貴様の『一緒に死んでくれ』という策に乗ったのだったな。

 俺の命、貴様に託す。俺を殺してでも、ペトラ姫を救出しろ。

 これは命令だ!」


               ■


 ペトラちゃんの〈神機〉まで全速で走った段階で、「蒼騎士」崩壊までの残り時間は、3分。これならまだ、余裕を持ってやれるはずだ。


 馬から降りた私は、まずは蒼騎士のハッチを強く叩く。歪んだ装甲板が、めっちゃ熱い。これは、マズい。もしかしたら内部は――

 不安でパニックを起こす前に、落ち着いて【ステータス】を確認。


【ステータス】

名前:ペトラ・リーヒマキ   状態:瀕死(3分)

地位レベル:119

好感度:92(-0)


 大丈夫、まだ生きてる。でも残り3分。〈神機〉の外に出して、馬に乗せて、ヤンセン閣下と2人で陣地に走ってもらっても、間に合わない。

 ……いや、まだ手はある。


「ヤンセン閣下! ペトラ姫はまだ生きています!

 ですが非常に危険な状態です!

 どうか、3分以内の詠唱で、閣下に使える最上級の治療魔法の準備を!

 それから、詠唱中は神機を盾にしてください!

 間違いなく、敵は私達を攻撃してきます!」


 言い終わるより先に、私達の周囲にザクザクと矢が突き立った。

 〈神機〉の爆発に巻き込まれないように遠くから射っているせいで狙いは甘いが、あまり分の良くない運試しだ。それに、そう遠からずバリスタの一撃が来るだろう。


 それはヤンセン閣下もわかっているはずだ。

 でも閣下は私の指示に従って、素直に〈神機〉を遮蔽にとり、〈完全治癒〉(フルヒーリング)の詠唱に入った。私の記憶が正しければ、呪文の完成まで2分。十分に、間に合う。


 さて。落ち着け、

 まずは、呼びかけだ。

 〈瀕死〉といっても、意識があるかないかは、分からない。

 私だって〈瀕死〉になったことがあるけど、意識はあったし。


「ペトラ様――いえ、白瀬さん!……白瀬君!

 順子! 順子! 返事をしろ! 返事をしてくれ!

 ハッチを、ハッチを開けるんだ!」


 途中からハッシー先生の声真似をする。


【ステータス】

名前:ペトラ・リーヒマキ   状態:瀕死(5分)

地位レベル:119

好感度:89(-0)


 ……よし、効果あり。

 白瀬さんの意識レベルは不明だけど、私に一言文句を言うまでは死ねないと思ったっぽい。こういう場面では、その手のつまらない「意地」が、生死を分ける。

 でもこれでもハッチが開かないってことは、たぶん内部の機構はほとんど死んでると思っていい。仕方ないよね。なにせ蒼騎士君は、崩壊寸前だ。無理言っちゃいけない。


【ステータス】

名前:蒼騎士   状態:崩壊(154秒)

地位レベル:na


 おお、ここに来て私もレベルアップしたかな。

 分単位じゃなくて、秒単位での表示になった。

 今はそれ、めっちゃ助かる。


 となると……どこだ。外からハッチを開けるハンドルか何か。絶対に、その手のものが、あるはず。


 慌てず、急げ。そう念じながら、私は慎重にハッチ周辺を観察する。


 その途端、右肩に激痛が走った。


               ■


「スティーナ!」


 ヤンセン閣下の悲鳴が、遠くで聞こえる。

 吐き気と、耳鳴りがする。目の前で、光が渦を巻く。


 ……クソ。ハズレを引いた。

 たぶん、右肩に、矢を受けた。


 脳の奥の方で、ガンガンと激しく鐘を鳴らすような音が聞こえる。

 この感覚は、前世でも味わったことがある。


 クソ。クソ、クソ、クソ!


 でも、今度こそ、私は、負けない。

 前回は、この予測不能な痛みに、身動き、できなく、なった。

 そして、誰も、助け、られなかった。


 でも、今度は、違う。

 一度、死んだ、人間を――甘く、見るな!!


 意識を集中させる。痛みを知覚の外に追いやる。

 本当に追いやれるわけではないけれど、できる。できると、信じる。

 できなくては、いけない。

 私のためじゃなく。

 ペトラちゃんのため。ヤンセン閣下のため。

 できなきゃ、いけない!


 歯を食いしばると、視野が少し鮮明になった。

 そのせいか、唐突に私は「正解」にたどり着いた。

 なんのことはない、跪いて下から見上げると、漢字(・・)で「緊急開放」と書かれたパネルが見つかった。ご丁寧に、パネルの周囲には黄色と黒のストライプ。

 なるほどね。白瀬さんは、こういう形で保険をかけたか。

 いつ爆発するかもわからない〈神機〉に接近してパイロットを救出しようなんて人間は、私くらいしかいないだろうからね。


 ちょっとだけ悩んでから、地面に落ちていた適当な鎧の破片めいたものを掴み取り、「緊急開放」と書かれたパネルを全力で殴りつける。案の定、パネルが割れて、ハンドルが露出した。これは――ハンドルを引っ張って、回すタイプか。

 だけどこれって……。


 一瞬だけ躊躇したけど、覚悟を決めてハンドルを左手で握る。右手には、もう力が入らない。

 途端に、握った手のひらに激痛が走った。魔法水晶とやらの崩壊熱のせいで、ハッチ開放用のハンドルも焼けているのだ。


 クソ。クソ、クソ!

 こんなところで、優柔不断な13歳男子みたいなことをさせんな! 最低だな、俺って!


 激痛をこらえつつ、全体重を乗せてハンドルを引き下ろす。

 最近は少し持ち直してきたとはいえ、基本的には激ヤセしたままの身体が、こんなときには恨めしい。

 でもハンドルはじわじわと動き、やがて私は完全にハンドルをおろし切ることに成功した。


【ステータス】

名前:ペトラ・リーヒマキ   状態:瀕死(98秒)

地位レベル:119

好感度:92(-0)


【ステータス】

名前:蒼騎士   状態:崩壊(67秒)

地位レベル:na


 よし。これなら間に合う。はずだ。たぶん。


 でもそのとき、上空から風切音が聞こえた。

 おそらくは、私に向かって飛来する矢の音。


 頼む! 当たるな! ここで、当たらないで!


 ちらりと、空を見上げる。

 空は数十の矢で、黒く染まっていた。


 ああ。

 これは……だめっぽい、なあ――。


               ■


 そのとき、私に向かって落下しつつあった矢が、突如としてすべて吹き飛んだ。


 はい?

 えっと……何が、起こったのかな?


「やあ、久しぶりだねスティーナ君。

 それから、我が親愛なる弟よ!」


 ……げげ。この声は、バカ殿ニルス卿?

 なんでこんなところに?

 てか、今のはいったい、何の魔法?


 あー、いや。そういえばニルス卿って、風の魔法の達人とか言ってたっけ。

 あれってただのビッグマウスじゃなかったんだ。


 この好機を逃がすほど馬鹿じゃあない。

 私は必死で身体を捻って、ハンドルを回そうとする。

 右に、180度。

 それで、このハッチは、開くはず。


 でも、ここにきてハンドルは、ぴくりともしない。

 焼け付いたのか、それとも内部でスタックしてるのか。

 どちらもあり得るけれど、原因究明が今の課題じゃあない。


 と、そのとき、私の手がハンドルからはねのけられた。

 手の皮がハンドルに焼き付いて、ベロリと剥がれる。痛い。


 私からハンドルを奪ったのは、ヤンセン閣下だった。

 閣下の手からも、白い煙が上がっている。

 ヤンセン閣下はそれでもなお、ブツブツと何かをつぶやいていた。おそらくは、治療呪文の詠唱。なんていう根性。


 ここまでされては、私も意地を見せるしかない。

 ヤンセン閣下に手を重ねて、ハンドルに体重を乗せる。


 そこに、またしても矢羽の音。

 そしてその矢羽が、弾ける音。


【ステータス】

名前:ペトラ・リーヒマキ   状態:瀕死(58秒)

地位レベル:119

好感度:92(-0)


【ステータス】

名前:蒼騎士   状態:崩壊(27秒)

地位レベル:na



 状況は、ほぼ極限。



 でも思わず、軽口を叩いてしまう。

 前職での、教訓。

 状況が悪ければ悪いほど、冗談を忘れるな。


「ニルス卿。デートの約束は、してませんよ?」


 ニルス卿は大笑いすると、幾多のご婦人方を魅了してきた声で言い返してきた。


「君のような個性的な女性に、一度はお相手して欲しくてね。

 〈魔女〉とデートした男は、王国初だと思うんだよねえ!」


 思わずといった感じで、ヤンセン閣下が、笑う。

 重ねた手の下で、ヤンセン閣下の手に一層の力が篭ったのが、わかった。


 その瞬間、ハンドルは一気に右回転し――そして、ハッチが開いた。


【ステータス】

名前:ペトラ・リーヒマキ   状態:瀕死(4秒)

地位レベル:119

好感度:92(-0)


【ステータス】

名前:蒼騎士   状態:崩壊(17秒)

地位レベル:na


 マズい。ペトラちゃんが一気に死にかけてる。

 理由を考える前に、私はヤンセン閣下に「治療呪文!」と叫ぶ。

 ヤンセン閣下は素早く詠唱を完成させた。


 それとほとんど同時に、矢羽の音。

 そして矢羽が弾ける音。


【ステータス】

名前:ペトラ・リーヒマキ   状態:極めて不健康

地位レベル:119

好感度:92(-0)


【ステータス】

名前:蒼騎士   状態:崩壊(10秒)

地位レベル:na


 よし。おそらくこれはアレだ、歪んだハッチの一部がペトラちゃんの身体を圧迫していたせいで、血流を阻害していたのだろう。逆に言えば、そのおかげでペトラちゃんは大出血を免れた。ハッチが開いた結果、傷口から大出血が始まって、それでペトラちゃんは死にかけたというわけだ。セーフ。


 いや、セーフじゃねえよ。

 あと10秒でペトラちゃんをハッチから出して、爆発圏内から脱出しなくちゃいけない。


 あれ、これ無理じゃね?


 ……いや、そんなことを考えるな。

 動け。最後まで、動け。

 人は、いつか、死ぬ。

 だから、止まって、死ぬな。


 ハッチの中に飛び込んで、ペトラちゃんを担ぎ上げる。


 また、大量の矢羽の音。

 矢羽が弾ける音。


 ああもう。あのバカ殿ニルスがこんなに仕事してんのに、ここまでか。ここまでなのか。




【ステータス】

名前:蒼騎士   状態:崩壊(12秒)

地位レベル:na




 ……!?


 ハッチの外に出ながら、思わず〈蒼騎士〉を見上げる。


 ああ――ああ、そうか。

 そうなのか。

 あんたも、ペトラちゃんのことが、好きなのか。


 こんなに、頑張っちゃうくらいに。


 また、大量の矢羽の音。

 矢羽が弾ける音。



【ステータス】

名前:蒼騎士   状態:崩壊(13秒)

地位レベル:na



 ありがとう、〈蒼騎士〉。

 あんたのご主人は、絶対に生きて帰す。

 絶対に、だ。


 また、大量の矢羽の音。

 矢羽が弾ける音。


 ペトラちゃんを、ヤンセン閣下に預ける。

 もう、一刻の猶予もない。〈蒼騎士〉が頑張ってくれているうちに、ここから離れないと。


 そう思って、バカ殿ニルス卿のほうを、向き直った。


               ■


 バカ殿は、何本もの矢に、身体を貫かれていた。


 彼は風の魔法の達人だけど、それでもすべての矢を跳ね除けることは、できなかった。世の中、無理なことは、無理。無理なのだ。

 だから彼は、自分の身体に命中する矢はあえて逸らさず、私達に命中する可能性がある矢だけを跳ね除けた。



【ステータス】

名前:ニルス・ヤンセン   状態:瀕死(49秒)

地位レベル:87

好感度:96(-3)


 数字が示してる。

 もう、誰が何をどう頑張っても、ニルス卿は死ぬ。


 ……ああ。


 ああ、だから。


 だから、私は。


 ヤンセン閣下が、私を担ぎ上げ、肩に乗せる。抵抗しようと思ったけれど、苦痛と疲労で身体が言うことを効かない。女二人を抱えたまま、ヤンセン閣下は馬に飛び乗った。


「貴様の体重ごときで、馬の行き足は変わらん。

 兄上が守った命だ。ここで捨てておけるか」


 だから。


 だから私は、精一杯の大声を出す。


「ニルス卿!

 最高の、デートでした! 楽しかったですよ!」


 馬が、走り始める。


 背後から、声が、聞こえる。


「楽しんで頂けなら、我が身の幸い!

 さらば、〈魔女〉殿! 次は地獄での逢瀬を!」


 それからきっかり10秒後、私達の後ろで、大きな爆発が起こった。

 本能的に「ここまで離れたら大丈夫だろうな」と思えるような距離での、爆発。




 ああ。


 だから。


 だから、私は。


 だから私は、頑張っちゃう奴らが、嫌いなんだ。




 次の瞬間、爆風と衝撃波で、私の意識は綺麗に消し飛ぶ。




               ■


 サハヴァーラの戦いは、サモロスト王国の大敗に終わった。


 唯一の希望は、会戦に参加した兵士のうち、戦死者は意外と少なく、ほとんどは逃亡による敗北だった、というあたりか。

 「逃亡の罪を問わない」ことにして軍を再集結させることができれば、数の上ではまだそこまでひどい敗北にはなっていない。

 幸いと言っていいのかどうか、〈神機〉は双方とも全滅してるわけだしね。


 で、こっちは超絶ラッキーな話なんだけど、会戦の3週間後、サモロスト王国には初雪が降った。例年より90日近く早い、冬の到来。

 結果、ヴァリアーク王国軍も一旦は軍勢を解散して、最小限の駐屯部隊だけをクロノベリ県の各地に置いている状態だ。

 冬になるとこっちから仕掛けることもおぼつかないから、春までは休戦といったところ。


 敗戦後、ペトラちゃんは2週間ほど鬱に入っていたけれど、〈蒼騎士〉がペトラちゃんを守ろうとしてくれたことを話すと、「守られた私がこんなことでは恥ずかしいですね」と言って、精力的な活動を再開した。

 ペトラちゃんの主治医ズは「まだ安静に」を繰り返しているが、まあ、ああなったエンジニアを止めるのは難しいだろう。


 ヤンセン家ではニルス・ヤンセンの葬儀が行われ、それにあわせてラウーノ・ヤンセン閣下の正式な家督相続が発表された。

 ちなみにニルス卿の葬儀には無数の女性たちがおしかけ、パーティなのか葬式なのかわからなくなってしまったが、誰もそれに文句を言わなかった。

 まったく、あの人にはお似合いの葬式だ。


 私はといえば、徹底した魔術的治療を受けたおかげで、右手も回復したし、重度の火傷を負っていた左手も綺麗になった。

 体力のほうも少しずつ上向いてきたみたいで――というか、実を言うと従軍中は体重が増え続けていた――最近は長椅子でなくてもケツが痛くない。楽ちんなので、ヤンセン閣下と話をするときはまだ長椅子を使っているが。


 まあ、あれだね。ヤンセン閣下をはじめお貴族様と兵士諸君は「サモロスト軍の糧食は豚のエサだ」と文句ばかり言ってるけど、そんなことはないと思うんですよ! だってあれ、美味しいじゃん! 実際、私は従軍中に体重が増えたわけだし。

 そんなわけで、あの会戦からこのかた私は軍の糧食を横流ししてもらって、毎朝毎晩ウマウマと飽食している。


 ああ、それから、安定期に入ったアウロラ姫とも、ついに面会した。

 実を言うと、私としてはアウロラちゃんには、会いたくなかった。前世では小学校3年、4年とひどいイジメにあって、そこから不登校生活に入った経験があるから、「自分が(記憶はないとはいえ)イジメていた相手に会う」というのは、思いっきり心臓に悪い。


 でも、ニルス卿の最期を目の当たりにして、思い直した。


 この世界でも、人間はコロリと死ぬ。

 私だって、いつかどこかで、うっかり(・・・・)死ぬだろう。

 だから、話すべきことがある相手とは、生きているうちに、話さなくてはならない。


 かくしてアウロラちゃんと面会した私は出会い頭にジャンピング土下座をして、「もういいですよ」と言われても5分くらい正座し続けた。それで許されるものではないと分かってはいるけれど、私なりの、ひとつのけじめだ。

 あと、アウロラちゃんも「子供と私の命を救ってくれたことに、どうしてもお礼が言いたかった」そうで、このあたりも互いに言うべきことは言った、というところだろうか。


 そんなこんなで、私は暖炉の前の長椅子に横になって、今後の方策についてヤンセン閣下に改めて話をすることにした。

 ちなみに【ステータス】の件は、ヤンセン閣下にも話してある。


「で、ですね。

 実はちょっとやってみたいというか、組織的にやるべきだな、と思っているプランがあるんですよ。だいぶ、私的な欲求も混じってるんですが」


 ウォッカ(っぽい酒)が入ったグラスを片手に、私はヤンセン閣下に提案する。

 ヤンセン閣下は大きなため息をつくと、自分のグラスを取り出し、ウィスキー(っぽい酒)をなみなみと注いだ。


「聞くだけ聞こう、〈魔女〉スティーナ」


 む、だいぶ乗り気ですね、閣下。

 最近、私もそのあたりの機微がわかるようになったんですよねー。


「これはまだ極秘ですが、ペトラ姫が〈神機〉に代わる決戦兵器の開発に着手されています。

 まあ、あの感じだと春には試作1号がロールアウト、夏にはプロトタイプが試験的に実戦投入、3年後くらいには量産型が戦場に並ぶって感じですかね。

 でまあ……この新型〈神機〉なんですが、やっぱり、拭い去れない弱点があるんですよ」


 最高機密をベラベラと喋る私に向かってヤンセン閣下は渋い顔を見せつつ、グラスを傾けて先を促す。


「結局は〈神機〉ですからね。簡単に言えば、『よく燃える』んです。

 いや、よく燃える、は言い過ぎですね。燃えるときは燃える、かな。

 でも燃えてドカンと行けば、やっぱり貴重なパイロットを失ってしまう。これはいまのサモロスト王国にとっては、取り返しのつかない損失になります」


 実際問題、失った〈神機〉も痛いが、精鋭パイロットを11人も失ったというのは、果てしなく痛い。この手のものは、人的損失が一番痛いものだ。


「で、ですね。

 まあその、この前、閣下とニルス卿と私でやったみたいな、パイロット救出作業を専門にやる部隊を、作れないかなと。

 あのときは2人+αで行ったから全員が死にかけたわけで、もっと組織的かつ計画的にやれば、パイロットの救出率は飛躍的に上がるし、救出部隊の損害だってそこまで悲惨なことにならないと踏むんです」


 ニルス卿の名前がでたところでヤンセン閣下はピクリと眉をしかめたが、その続きを聞いた彼はもっと渋い顔になって、反論した。


「だがその救出部隊は、貴様が仕切らねば話しになるまい。

 なにせ貴様しか、〈神機〉がいつ爆発するか、正確には読み切れんのだからな」


 まあ、そうなんですがね。

 で、だからこそ、私的な欲求ってやつでしてね。


「そう、これは私がやらなきゃいけないことなんです。

 あーあー、ちょっと待って下さい。ちゃんとした理由もあるんですって。

 実はですね、私の地位レベル、現在値は-32649なんですよ。

 なんじゃこれと思って可能性を考えてみたんですが、元値の-32768から、ペトラ姫の地位レベル119だけ上昇した……っぽいんですよねえ。

 つまり、〈神機〉から救助したパイロットの地位レベルぶんだけ、私の地位がプラス方向に動くみたいなんです」


 必死の説得なのに、ヤンセン閣下は「それがどうした」的な顔。

 んもー、戦場でないと、なんでこんなに鈍いかなー。


「いいですか。私は異様に低い地位レベルのせいで、『普通の人』とはまともに付き合えません。それこそスキあらば暗殺しようと思うのが、『普通』の反応です。

 このお屋敷の方々はそこまででもないですけど、本当に『普通』の人は、好感度補正に-3000くらい入りますからね。絶対殺す、ってやつです。

 となると、このままでは私、必ず護衛が必要になっちゃうんですよ。さきの従軍時みたいに。

 それってあまりにも非効率的です」


 ヤンセン閣下、そこでぼそりと「俺が護衛する。それでいいだろうが」。

 あーもう、ほんとアカンな、この人は。戦場以外では、ほんとアカン。


「それじゃダメなんですって。

 自覚がないかもしれませんが、閣下は戦場でこそ最高の能力を発揮するタイプの方です。閣下こそが、今後のサモロスト軍を率いるべき方なんですよ。

 そういう名将の器が、〈魔女〉の護衛だなんて、非効率も非効率、非効率の極みです」


 ヤンセン閣下は、なおも不機嫌。

 おっかしいなあ、こんなにヨイショしてるのに。


「なので私としてはせめて-1000くらいまで地位レベルを上げて、『普通に嫌なヤツだわ』程度のところまで反応を戻したいんですよ。

 そうすれば閣下はもっと自由に活躍できるし、私も閣下の権力を使ってもっと気楽に悪巧みができます。

 すべては、サモロスト王国のために。

 どうですか?」


 長い、沈黙が落ちた。

 窓の外で降りしきる雪の音が聞こえそうなほどの、沈黙。


 暖炉で薪がはぜる音だけが、パチパチと響いていた。


 たっぷり5分ほどの沈黙の後、ヤンセン閣下は一気にグラスを煽った。


「サモロスト王国のため、か……。

 確かに、貴様の策は合理的だ。週明けにも、まずはリーヒマキ卿に提案してみよう。もちろんペトラ姫にもだ。

 この2人がOKというなら、俺としては止めることもできん。

 貴様の好きに、やってみろ」


 お許しが得られたので、私は長椅子から恭しく礼をする。

 ヤンセン閣下はそんな私を鼻で笑うと、部屋から出ていった。


 さて、さて。


 うん。まあ、ね。


 まあ――しょせん、私は〈魔女〉だ。


 今の「私」の記憶がどうであれ、過去の事実は消せないし、罪も消せない。

 だから、これで、いい。


 これで、いい。



 そう思いながら、私はグラスに入ったウォッカを飲む。


 窓の外は、いつしか吹雪に変わっていた。

 サモロスト王国の冬は、まだまだ厳しさを増しそうだった。




【ステータス】

名前:ラウーノ・ヤンセン   状態:非常に健康

地位レベル:91

好感度:93(-3)


*1:隠蔽した対戦車砲の群れによる深い縦深を持った、対戦車に特化した防衛ライン。ちなみに現代の歴史研究においては、「PAKフロント」は存在しなかったとする説も有力。


*2:High Explosive。爆発する弾頭。


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