『僕』と聖女と勇者4
突然現れた老人。
誰に気付かれる事無く背後を取られた。
どうすればいい?
この窮地から・・ファナだけでも・・
ゆっくりと剣帯に吊るした魔剣に手を伸ばす。
「ふむぅ、これは何とも面白い!儂にくれぬか?」
そう言いながら、老人は水晶をこちらに向けと、ファナが慌てたように小さく叫び水晶に向かって腕を伸ばす。
「ダメ、その水晶は大事な物なの!」
「そうか、なら仕方ないのぅ」
老人は残念そうな顔で水晶をファナに渡すと、それを奪い取るようにして抱え込み後ずさった。
「さてさて、ここからが本題じゃが、どうして攻撃を仕掛けて来たんじゃ?」
老人は腰の辺りを撫でながら背を起こし、髭を撫でつつ僕達を見渡した。
その姿はただの爺さんだ、だが温厚そうなその表情からは想像しえない威圧が掛けられ押し潰されそうになる。
お前達が人族では無いから・・とは言えないか、なら何だこいつ等は?
「私はこの子達の保護者でフィルノールと申します」
師匠が立ち上がり胸元に片手を添え老人に軽く頭を下げる。
「ではそなたに伺う、何故、攻撃してきた?」
老人の問いと同時に僕らの傍らに何かが放り投げられ、地面を転がった。
「お姉ちゃん!」
「ミリルさん!」
ミリルさんだった、ファナと師匠の悲鳴のような声が耳に響く。
ミリルさんは苦悶の表情を浮かべ小さく呻き声を上げているが命は大丈夫そうだ。
ファナが居れば怪我を治す事も出来る。
ミリルさんの安否を確認でき安心したのも束の間、僕たちの周囲に他の3人が居た、状況がさらに悪くなった。
赤い鎧の男に灰色の髪の女、眼つきの悪い青年。
「何やってんだ?爺?」
「この者達に何故、攻撃を仕掛けて来たか問うておるんじゃが・・」
「さっきの火の玉はこの女でしょ?こいつらはどうでもいいんじゃないの?」
「・・・・」
鎧の男以外がガヤガヤと僕たちを尻目に話し込み始めた、逃げだす隙も無いか。
「「「で、どうしてなんじゃ?」だ」の?」
「・・・それは、発せられた・・禍々しい殺気・・・」
ファナに抱えられるように上半身を起こしたミリルさんが鎧の男を見据える様にし声を絞り出した。
「その殺気・・気配・・・魔物に限りなく近かった」
「お姉ちゃん、じっとしてて」
「ほほぅ、あの距離でサンの殺気を感じ取ったか!」
老人は感心したといった顔で手を叩き他の3人を見ている。
ミリルさんはファナの腕に手を添えている、魔力を回復している様だが。
「ファナの危険に成りそうなモノは・・・排除します」
「ハァ?そのザマじゃぁ護るも何もねぇだろ」
眼つきの悪い青年がつまらない物でも見る様にミリルさんを見ると、二人に近付いてしゃがみ込んだ。
「弱ぇ奴が吠えんじゃねぇぞ?ちょいと強い程度じゃ何も護れねぇ、今のお前みたいにな!」
「この中で最弱のアンタに言われるとか最悪ねぇふふ」
「あぁ?気絶してたお前が言うかぁ?」
「気っ気絶じゃないわよ、寝てたのよ!余裕過ぎて眠たくなったのよ!」
「・・・はぁぁ?」
「元気じゃのぉスーにローよ」
青年と女が言い争いを始めた・・この隙に。
柄に手を添え魔力を込め始めると、瞬時に両手首を赤い鎧の男に捕まれ体ごと引き上げられた。
「・・なに・・くっ」
「俺達は魔力の流れには敏感だから奇襲なんて無理無理・・・って、おい」
「・・・」
「ねぇその剣もね、いいじゃない、これでさらに二本」
「ふぅむ、見つかったな」
両脇の魔剣をひったくられ、そのまま放り投げられた。
ぬかるんだ地面を転がり身を起こした時、信じられないものを見た。
「まぁまぁじゃねーか?」
「他の者は持っておらんようじゃし、追加は2本だけかのぉ」
「まぁいいじゃない、これで3本、やっと帰れるわ」
赤い鎧の男とウーと名乗った爺さんが剣に魔力を通しているようだ、剣刃が眩しい程に白く輝き周囲を照らし始めた。
僕達では、どんなに魔力を流しても剣が赤く光を纏うだけなのに、その輝きはいったい何なんだ。
老人は剣を携えたままファナ達を見据えた、何かを見極めるようなその視線に危険を感じ取り駆け出した。
その時、ファナ達をウーの視界から遮るように師匠が立ち塞がる。
「私がこの子達の責任者です、ですからこの子達には手を出さないで下さい、お願いします」
「師匠!」
ウーは手にした剣を見て、空いている一方の手で頭を掻きつつ
「しもうたわい、違う違うぞ勘違いじゃ…」
剣を赤い鎧の男に渡すと、こちらに向き直した。
「こちらを攻撃してきた理由も分かったしのぅ、サンの奴の殺気のせいで、儂らも良い迷惑じゃて」
そう言ってケタケタと笑いだした。
「儂らはもう帰るとしようかの、剣も見つかったからの、この剣は返して貰うがぁ文句あるまい?」
文句があろうが、反論する事は出来ない、どの道力尽くで持って行くだろう。
ファナは黙ったままだ、鎧も剣も髪の中に隠したままだし、このまま3本を失ってもまだ残っている、事を荒立てる事も無い。
師匠もこのままこいつらが帰ってくれればっと考えているのだろう「はい」と頷いた。
戦っても勝てない、勇者の能力を持つミリルさんっでも勝てなかったのだから・・・。
「ウー爺、帰るわよ!準備してよ!」
「やっと帰れるぜ」
「・・・」
僕達の事など全く気にしない様子でまた騒ぎ始めた。
「やれやれ、急かすで無い老体に響くわぃ」
やれやれと言った表情で僕達を見ると、握手を求めるように手を差し出してきた。
「お主たちは強くなれる、だが、よく観察しよく知ることも大事じゃ勇気と無謀は別物じゃよ、勝てぬと分かれば逃げればいいんじゃ死んでしまっては意味が無いからのぅ」
そう言ってから
「まぁ儂らからは逃げきれんじゃろうがな」
とまたケタケタト笑うと、差し出したままの手を振って見せてきた。
師匠、ミリルさん、僕、最後にファナと握手をした時、老人は握ったファナの手をしげしげと見ながら何かを取り出した、それは大きな"羽"だった、この時、怪しいと思うべきだった、ファナの手を掴むべきだった。
「せっかくじゃから、面白いものを見せてやろう」
老人がその羽を天高く掲げる
「これは"キメラの尾羽"と言ってな、貴重な道具なのじゃよ」
宝石のように輝く羽に老人が魔力を注入する。
「キメラの尾羽よ、我らを彼の地に」
老人とその仲間たちが瞬時に上空に飛び上がる。
老人に手を握られたファナと共に。




