「私」と赤い鎧
へこんだ盾を投げ捨てると白銀の鎧は落ちている剣を拾い上げる、胸の前で一度交差させ脱力するように剣を下げた。
(ヨーシヨシヨシ)
私は心の中でほくそ笑む、こんなに上手く操作できるなんて。
今の私は余剰魔力のせいで軽い剣とかは制御不能だったのに、この漆黒の鎧の重量のおかげか操作する事が出来ている。
武術の武の字も知らない私は漆黒の鎧に格ゲーで見た事のある構えをさせると白銀の鎧が斬りかかってきた。
白銀の鎧の左逆架沙義の剣を上半身を捻る様に避けると振り上げた左腕の死角から鈍い輝きを発し猛烈な突きが装甲の薄い脇腹に放たれた。
私はとっさに漆黒の鎧を操作し右の籠手と腕甲でギャリギャリと火花を散せながら強引に軌道を逸らす、遠隔操作なので反応が遅れる…いや遠隔だからこそ反応出来てるのかも知れないけど。
しかし、あの鎧に剣戟なんて効果無さそうなんだけど、なんて考えてたら漆黒の鎧の右側腕甲が半ばまで切り裂かれていた。
「うそー!何で切れてるの!」
『マリョクヲ、マトワセテイルカラダヨ』
あの少年の声が聞こえる…頭の中に…。
『モウスコシ、ジカンガカカリソウダヨ』
訳が分からず思わずハイと返事をしてしまうが、急いで下さい―!
白銀の鎧の右上方に伸びきった左腕が手を捻ると漆黒の鎧の額当に吸い込まれるように肘打ちが直撃した。
耳をつんざくような金属音を響かせ漆黒の鎧は兜が少し体に沈み大きく仰け反る。
見てるととても痛そうだが私にはダメージは無い!操作している私も思わず仰け反ってしまったけどね!
私は目の前の見えない白銀の腕を掴むように腕を動かす、漆黒の鎧に撃ち込まれた左腕を両手で掴ませ背負い投げが如く地面に叩き付けた。
ゴスン!「ぐえっ」
同じ動作をしたらエル兄さんに思いっきりチョップを喰らわせてしまった。
「ああぁごめんなさいエル兄さん!」
さっきの漆黒の鎧からのダメージも残っていたのかバタリと倒れ込むエル兄さん。
「エルゼルしっかりしなさい…エルゼル!」
フィル姉さんが抱き抱えるが白目を剥いて気絶してしまったようだ。
「…か、仇は討つから…ね」
『ナイス、トドメ!』
(違うし、ワザとじゃ無いし!)
白銀の鎧は衝撃で小さく跳ね上がると地面を殴り付け宙を舞い、器用に体勢を立て直しながら漆黒の鎧から離れて行く。
追討ちを狙って漆黒の鎧を駆けさせる、2メートルを超える巨体が見事な走りで白銀の鎧に迫ると左手に持っていた剣を落とし白銀の鎧は掌を漆黒の鎧に向けた。
嫌な予感がする、そう思ってももう停められない、そのまま駆けさせ体当たりする!重量は十分、体当たりでもそれなりのダメージを与えるはず。
目の前まで迫り決まったっと思った瞬間、眼の前が真っ白に染まる。
「うわぁぁ」
「なに、なにが、ファナちゃん!」
太陽を見た時のように視界が白く染まる、これは私があの時使った太〇拳?
漆黒の鎧から意識を外し魔法障壁に魔力を注ぐと何かがぶつかる音と共に障壁が激しく揺れた、すぐに治療術の奇跡で自分の視力を回復させると目の前の障壁に漆黒の鎧が倒れ込んでいた。
白銀の鎧に眼を向けると見事な上段蹴りの姿でこちらを見ている、蹴り飛ばされた…か。
今の内にとエル兄さんの額に手を当て治療術の奇跡を発動させると小さく呻き声を上げ目を覚ました。
「うぐぅ…ファナ…お前…」
プルプルと拳をつくるエル兄さんに
「ワザとじゃ無いのワザとじゃ!」「二人ともこんな時に何ってるの!」
『キミタチ、ホントニ、オモシロイネ』
(いきなり話しかけるなー女神みたいに…って女神アリアは?)
『カノジョハ、セキヲハズシテルヨ』
(おのれ、駄女神め…って知ってるの?女神アリアを?)
『マァマァイソガシインダヨ、デモコノママジャ、キミタチ、マケチャウネ』
(戦えって言ってもどうすればいいんですか?)
『フム、ソノヨロイヲマトッテミル?」
(へ?纏う?)
『ヨロイニ、マリョクヲトウセバ、ソレナリニ、タタカエルヨ?』
(鎧を着て戦うの…?)
『ソレシカナイネ、ショウヘキヲカイジョシテ、ヨロイノソバニ』
(うぅ…分かりました)
鎧を纏うとか意味が解らないけど少年の言葉を信じる事にした、自分でも警戒心無さ過ぎだと思うけど頼れるのが不思議な少年だけ、少なくとも彼は敵では無さそうだし、なにより女神アリアを知っているようだったから。
「・・ファ・・ナ・・ちゃん」
「ファナちゃん大丈夫?」
気が付くと心配そうなフィル姉さんに両肩を掴まれ軽く揺らされていた、頭の中で少年と話していて気が付かなかった。
「大丈夫です、フィル姉さん」
少年の言葉を信じる。
「フィル姉さん、エル兄さん少し下がっててください」
「ファナちゃん?」「どういう事だファナ?」
二人の周囲に障壁を張り前面の障壁を解除する、障壁の中で何かを叫んでいる二人に背を向け私は漆黒の鎧に近付くと鎧が歪むように私の髪の中に吸い込まれた。
「うわぁぁ・・・吸い込んだよ・・・」
『アイテムボックス、ノコウカダヨ』
『カイシュウシュウリョウ、ヨロイヲ、キミヨウニ、チョットイジルヨ』
(もう驚きません…)
白銀の鎧はまだ動かない、さっきから行動がどうもおかしい私達には近づかないし…アレは何かに恐れているような警戒の仕方だ。
『サテ、デキタヨ、ホウホウハ、キミニマカセルヨ、ヨロイヲ、マトウンダ』
頭の中に鎧の姿が浮かぶ、これがアイテムボックスの仕様?着ると言ってもサイズが違うけど…
鎧よ!
心の中で叫ぶと髪が輝きながら伸び鎧の腕部と脚部が生え私を挟み込むように鎧が組みあがってゆく。
驚きの余りギュッと瞑っていた目を開けるとそこには太く赤い鎧の腕、視線を下げると赤く変色した漆黒の鎧だった。
『マリョクヲ、マトッテミテ』
少年の声が響く、私は身体強化の要領で魔力を纏うと今まで感じた事が無いような万能感に包まれた。
「ウァ…何…凄い…スゴイ…」
『ソノヨロイト、アイショウガ、イイミタイダネ』
『サァ、オモウゾンブン、タタカウトイイヨ』
その言葉が終わるよりも早く私は白銀の鎧に向けて駆け出していた。
『ホントニ、チキュウジンハ、オモシロイネ』
少年の楽しそうな声は私には…はっきり聞こえなかった。




