「私」とダンジョン4
「ん…あ…」
暖かな感触がする…思わず体を捻り頭の位置を変えようとすると何?今度は変な感触がある。
耳元からから頬に、また体を捻り反対側の耳元にまるで頬擦りする様に頭を動かす。
(ん……何これ…?)
何かを抱き締める様にしていた腕を動かし確認する、少し柔らかくでもしっかりとした…温かい。
(サワサワサワサワ・・・・)
おぼろげに瞼を開き瞳だけで見渡すと小さな魔法の明かりに照らされた恥ずかしそうなエル兄さんの顔が見えた。
(ん…何故俺はエル兄さんを見上げているんだろう?サワサワサワ…)
訳が分からずぼーと顔を見てると数秒
「起きたか?」
一気に目が覚めた、いつの間にかエル兄さんに倒れ込んでいたらしい今の俺の状態…所謂膝枕………されてた。
一気に顔が紅潮する。しかもエル兄さんの腰の辺りに抱きつくようにして…短い時間だろうけどしっかり眠れた気がするのが、く、悔しい。
「お、おはよう…ございます…」
今更恥ずかしがっても仕方ない、色々醜態を晒しているしな!もう怖い物なんてないよ
「おはよう、良く寝てたな、そろそろ離してくれ」
何を触っていたのか恐る恐る確認するとエル兄さんの尻だった…思いっきり撫でてたよ。
(うごあ・・・これじゃ変態じゃないか・・・男の尻とか興味ないしー)
項垂れながらゆっくりと体を起し言い訳を考えていると
「髪酷い事になってるぞ?ファナ」
自分の後頭部を指差し小声で笑っている。
「笑うとか酷くない?」
クシャクシャになった髪を手櫛で整えながら首を左右に振るとソコ、ココと指差して教えてくれる。
「寝癖も治ったようだしそろそろ出口探そうか」
「早く脱出したい…色々ボロボロで…お腹も減ったし」
部屋から外に出ると戻ってきた道を進む。
途中に倒した魔物の骸を確認し俺は自分のナイフを回収するが刃は潰れ刃物としての使う事は難しそうだ。
エル兄さんにナイフの事を話すと自分の分を俺に渡そうとするが俺はそれを断わった。
「守りと足止めに徹するし俺が使うよりエル兄さんが使う方が役立つから」
何か言いたそうなエル兄さんはそれでも黙って俺の言う事を聞いてくれた。
手の中にあるボロボロのナイフが俺の実力の証なのだから。
その後、数回の戦闘があった。エル兄さんの戦い方を見て俺との違いに唖然とした、吸い込まれるように関節部を切り裂く軌道制御、適当に狙って飛ばしていた俺とは全く違った。
俺は障壁を使っての足止めと防御に徹しエル兄さんの援護した事であっさりと勝利したと言うより、エル兄さんだけで充分じゃないかな?
いかんいかん卑屈になるな俺…
洞窟を進むにつれ壁が幾分硬化し表面に苔が生え所々に光を放つキノコも群生していた。
お陰で魔法の明かりを使わなくてもそれなりの視界を確保できるようになって来た、うっすらと輝くキノコの明かりが洞窟内を照らし苔が灯りを反射しとても幻想的であった。
これが観光とかならゆっくり見て居たい所だがそうしている余裕も無く警戒しながら進んで行く。
「魔物居なくなったね」
「そうだな…」
それなりの距離を進んで来たのに全く魔物の姿を見なくなったのだ、洞窟内は不気味なほどに静かだった。
進むにつれ洞窟の幅が広くなってきた、これってもしかして中心部に向かってるんじゃ?
中心部なら魔物が居てもおかしくないしなぁ?だが聞こえるのは俺とエル兄さんの足音だけだった。
言い知れぬ不安が襲って来た、なんだろこの感覚…誰も居ない薄暗い森の小道を歩いているような、なのに誰かに見られているような感じ。
驚く位に心臓の鼓動が早くなる、
あぁ…誰かが見ている
エル兄さんに戻る様に言おうとした時、頬を撫でる風を感じた、この先が外に繋がっている?エル兄さんもそれに気づいたのだろう。
「この先が外に繋がっている様だ急ごう」
俺の手を掴むと急ぎ足で進み始めた。
二人の足音だけが洞窟内に木霊する。
小さな期待と言いしれない不安を携えエル兄さんの後について行くとそこは広さは直径数十メートルはあろうかと言う大空洞だった。
天井は見えないほど高く暗闇だったがそれよりも目につくモノが在った、余り光の届かぬ空洞の中心部の闇の中に上半身だけの女性の姿が見えたからだ。
肌は驚くほど白く薄暗い中でも輝くような青い髪、項垂れるように頭を下げているので顔は見え無かったが生きてはいる様だ、なぜなら下半身は埋まってしまっているのか腕だけが周囲を撫でる様に動いていたからだ。
俺達と同じように落ちたのかそれとも魔物に攫われたのか、魔物は何でも喰らうらしい襲われた町は何も残らない、全てを巣に持ち帰るらしいのだ。
「エル兄さん、あそこに人が居る助けないと」
「すまないファナ…アレは人じゃない……すまない俺が迂闊だった」
何を謝って居るのか分からなかった、だがエル兄さんは怒りに震えていた。
その時ソレがこっちを向いた…
その顔には無数の眼が在り口が在るべき場所には丸い空洞が在った、キョロキョロと周囲を窺う様に首を振り俺達を見つけたのか空洞から嫌な音を発した。
『ギギギギュガギガ・・・』
それが腕を伸ばし俺達を指差すと周囲の闇が蠢き出した、ただの暗闇だと思っていたのは数えきれない程の魔物の群れだったのだ。
「嘘、何これ…」
ぐっと拳を握り締め絞り出すような声でエル兄さんがアレの名前をつぶやいた
「女王……アレは『魔物の女王』だ…何でこんな所に…」
俺はそれが信じられなかった何故なら
「女王…って先の大戦で勇者を召喚してまで倒そうとした化物じゃない!」
フィル姉さんの歴史の勉強で教えて貰った、先の大戦での戦いの歴史に現れる"不死の女王"と呼ばれていた魔物。
倒しても倒して復活する『魔物の女王』歴史上何度か倒したという記録が在るものの必ず復活し人類に敵対する。
そう…勇者は魔物の女王を滅ぼす為に召喚されたのだが…
「エル兄さん逃げよう!」
魔物の女王を見据え動けなくなったエル兄さんの腕を引っ張り来た通路に逃げ込もうとしたが、通路どころか周囲を魔物に囲まれてしまっていた。




