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校則戦争再び

 薄暗い下水道をライトは走る。

 あの後、ライトは一気に地下まで落下した。地面に急降下する危機感を利用し、地面にライトニングカウンターを叩き込んで骨折せずに地下道に着地した。ドクターキョーノに刺された左手の出血をハンカチで止血し、地上の出口を目指す。すると、下水道全体に鈴の音が鳴り響いた。

「!? やれやれ、ドクターキョーノの仕業だな。地上に出ても学園の至るところに刺客がいそうだな。モコータが番人なら、人間の門番なんて必要ないっていうか規則にうるさいからすぐ他人とぶつかって配置も出来ない。……くっ、毒が全身に回り出してる。これじゃ、今後に支障をきたすな……」

 この毒を解毒するアイテムは所持していない故に、回復のスキルがあるユキの不在は痛かった。

 五月蝿く鳴り続ける侵入者用の鈴の音と共に、クロスグレイブの兵であろう男達の足音が聞こえる。

「あれだけ足音を立てたらどっちの方向から来ているか丸わかりだぜ。あのじいさんはユキに手を出さないのはもうわかってる。俺は俺の役割を成すだけだ」

 T字路の右側から迫る足音の群れに、ライトは一瞬にして突っ込み五人の内の三人を仕留めた。ライトに気が付いた兵達は、銃を乱射し始めた。

「闇夜に鉄砲」

 言いつつ、ライトは最後の炸裂弾を下水に向かって投げた。ズドンッ! という音と共に天井に向かって上がった水しぶきが辺りの空間を満たし、両者の視界を塞いだ。

「どこだ、賊は!?」

「こんな場所で爆弾を使うとは!」

 慌てふためく兵達を尻目に、ライトは下水道を駆け抜ける。

 しかし、新たな兵が通路に現れた。

「チィ! キリが無い。巻くか――」

 素早く胸ポケットからドクターキョーノから奪ったアイテムのバクチクを取り出ししゃがみこむ。パンッ! パンッ! と発砲を続けながらクロスグレイブの兵達は迫ってくる。

パンッ! パンッ! パンッ! と下水道に渇いた発砲音が響く。

「――うっ! 大丈夫か?」

「あぁ、弾は当たってない。あの金髪も焦ってるんだろう。追うぞ」

 そう言い、兵達はライトの追撃を続ける。足音が遠ざかっていくと、兵達が立ち止まっていた地面に、ストッとライトが降り立った。

「真上に居て、尚且つ発砲音のするバクチクで騙されるか。奴らはランク外の一般人だな。インブレのエネルギー源となっていたクロスグレイブといえども訓練された兵は居ないようだ。さーて、行くか」

 足音を立てず、ライトは走り出した。

 次の曲がり角を曲がろうとすると、何かが発光した。

「――くっ!」

 突然の銃の一斉射撃に驚きつつ、バックステップで後方に回避する。すると、斜め前の壁に弾丸が炸裂した。

「散弾銃か。やっかいだな」

 ライトは消えている灯りの装飾台を壁から引き剥がし、敵がいる方の下水道へ投げた。ポシャ! という音と共に下水道は静まりかえった。数秒経ち、敵の兵達は散弾銃を構えながらその音がした場所へ駆け付ける。下水の中に向けて散弾銃を構える二人を残し、他のメンバーはライトがいた曲がり角へ殺到した。

「――!? 居ないぞ?」

「何かが落ちた下水の中にも居ない。来た道を戻ったか?」

「追うぞ!」

 兵達はそんなやり取りをしながら、下水道を駆け抜けて行った。

「……ぶはっ。やり過ごしたか」

 灯りの装飾台を投げたと同時に自身も下水道の中へ飛び込んだライトは、兵達が散弾銃の一斉射撃を行った場所近くの下水の中から顔を出した。

「上手く行き違いになった。さて、出口はもうすぐだ。先を急ぐか」

 下水道の中から這い上がったライトは、走り出した。

 路地を曲がると、不意に背後から現れた兵の鉄棒を左腕に受けながらも、ライトは全力の右足を男の脇腹に叩き込んだ。

「ぐおっ……!」

 呻き声を上げながら兵は倒れ、下水道に落ちた。

 左腕の打撲を気にするやよいの目に、下水から這い上がる看守の姿が見えた。

 瞬時にその男の左肩口に蹴りを叩き込んだ。

「ぐおおっ!」

 のたうち回る兵の折れた肩を踏みつけるライトは、その男の額に拳をかざしながら、

「死にたくなければ、安全な無限学園までの脱出ルートを教えてもらおうか?」

「だ、誰が教えるか……貴様は生贄になって……うぐぅ!」

 躊躇いなくライトは男の折れた肩をもう一度おもいっきり踏む。

 呻き声を上げる男の顔を蹴り上げ、

「断れば、俺がお前の家族を探し出し皆殺しにする。訓練されてない兵士が無理するなよ」

「……家族はやめろ! ……くそっ」

 冷たく底光りするライトの瞳に敗北した男は、

「そこの路地を真っ直ぐ行き、三個目の十字路の上が安全な出口だ。そこは俺達専用だから誰に見られても問題無い……」

「ありがとう。ポーションを渡しておくぜ。しばらくすれば立ち上がれるだろう。じゃーな」

 走り出そうとすると、ピーッ! という笛の音が鳴った。

「何だ? 今の音は?」

「引き上げの合図だ。お前も早く脱出しろ。またこの下水道にノラドックでも放つんだろうよ」

「そうか。それはめんどくせーな」

 ライトは地下下水道を脱出口に向け疾走した。

 先の方向にも警備兵の現れる様子も無く、多少の足音を立てる事も気にせず、出口に向けて急いだ。

(もうすぐだ……!)

 すると、ザハァ! と突如下水道の水底から現れた謎の腕にライトの足は捕まれた。

「――!? またモコータか! そんなに俺に恨みでもあんのかよ!?」

「中ボスを倒した証は三種の神器を手に入れる事。三種の神器を手に入れなければ俺はいつまでもお前を付け狙う」

 下水から這い出てきたモコータは、右手に持った刀をライトの左足めがけて振った。

「――のぉ!」

 刀を持つ腕に蹴りを入れモコータは刀を落とした。ガガガガガッ! と顔面に拳を乱打した。その攻撃が通じてない事がわかると、間合いを取り呼吸を整えた。ゆっくりと刀を拾い、下水から這い上がったモコータは歪んだ口元から紫の煙を上げつつ静止した。意識を失っているのかコォォォォォ……と不気味な紫の煙を吐くだけでたいしてダメージを受けていないようだった。

「とっとと終わらせるぜ」

 左手に腰のポケットから出したドクターキョーノから奪った最後のアイテムである小瓶を持つ。目が覚めるように迫るモコータに向けて小瓶を投げた。すると、ブオオオオッ! とモコータは一気に炎に包まれた。上半身に灯る炎を消そうと、紫の煙を更に口から吐きつつもがいた。

「ここに三種の神器が無いんじゃ戦ってもムダだろ。お前を倒すのは後だ」

 言いつつ、ライトは駆け出した。

 しかし、身体はライトの意志とは別に地面に倒れ込んでしまった。

(なっ、何だ……? 急に喉が痛く手足が痺れてきたぞ……?)

 その痛みの原因を突き止めようとする瞳に、妖しい煙が映った。

 目にも沁みる煙が、ライトの脳に何かを訴えた。

(モコータが吐いていた煙……。まさか、毒……か? なるほど、なるほど。兵達が下水道から消えた理由がわかったよ。始めに受けた毒も効いてきた……)

 そう考えるライトの背後に、

「コォォォォォ……」

 という不気味な声が響いた。その殺気にライトは反応するが、毒によって反応が遅れ、腹部を切られた。

「くっ!」

 下水の中で消滅したはずのモコータは、水しぶきを飛ばしながらライトに刀を振るう。

 それを回避した脳裏にふと、ノイズが走る。

 何かと考えていると、ピチャッと足元で音がした。

「ピチャッ……? ――水かさが増している!?」

 横に流れる下水を見ると、溢れ出る水が通路に流れ出ていた。

 すると、遠くの方から笛の音が微かに聞こえた。

「……遠くから心地の良い音がする。懐かしい……音だ……」

 下水道内に微かに響き渡る謎の音色に、ライトは聞き入った。

 ふと、前を見ると微かに外の光がもれだす出口の扉があった。

 誘われるように、その扉に手をかける。

 すると、ググッと少しずつ扉が開くと同時にライトの口に水が溜まり息が続かなくなった。

「ぐっ……ぼはぁ!?」

 気が付くと、膝下まで溢れていた下水道の水に顔を突っ込んでいた。何が起こったのかを理解したライトは、背後の気配に今までの不可思議な謎が解けた。

「けほっ、けほっ……。今まで感じていた懐かしい感じ、モコータ消えてからお前が摩り替わってたのか。そして、あの藻湖田の煙は毒じゃなく幻影。お前のスキルの幻影だったかサクヤ」

 天井に真っ逆さまに立つ、紫色の毛先がピョンと跳ねたツインテールのゴスロリ少女は、紫のレースのパンティを丸出しのまま答える。

「あら、バレたら仕方ないわね。このイベントは貴方に先制して来られたら一般プレーヤーが盛り上がらなくなるから足止めを依頼されたの。モコータは本物の中ボスだから安心してね」

「どう安心すればいーんだよ? 主人公が一般人に先に譲るなんてゲームとしちゃ王道かもしれんが、現実じゃキツイな」

「と言ってる間にも、水かさは増すわよ」

「ボスじゃないなら出てこないで欲しいもんだぜ」

 すでに膝あたりまで水かさは増しており、数分もかからずに地下下水道は水で埋め尽くされるだろう。ライトはサクヤに飛びかかり打撃をかましサクヤは下水に落下した。

 しかし、その水面に浮いてきたチヅルの身体は四散し、人間の肉を喰らうピラニアへと姿を変えた。

「――デスイリュージョンか!」

 そのピラニアの群れは、一斉にライトに襲いかかる。

 しかし、ライトは一切抵抗せずに出口に向かい必死に泳ぐ。

 その間もピラニア達は全身にまとわりつき、噛みついた肉を喰らっていく。

「……」

 ただ前だけを見据え、ライトは進んで行く。ブオオオッ! と水かさは先程よりもだいぶ増して、地下下水道を満たしつつあった。人の頭一つ分しか隙間の無い下水道を泳ぐライトの耳に、サクヤの声が響いた。

『どうしたのライト? まさかピラニアに喰われてそのまま死ぬ気? つまらない終わりね』

「つまらないのはお前の方さ。これは、デスイリュージョンの幻覚だろ? 下水の方は本物らしいけどな」

『バレてた? 流石はライト。貴方の言う通り、ピラニアは幻覚だけど下水の水は本物よ。出口に着くまで息がもつかしら? フフッ』

 サクヤの言葉と共に幻覚のピラニア達は消えた。

 そして、スアアアッ……と下水道内は全て下水で満たされた。

 必死の形相で息を止めるライトは、必死に出口を目指して泳ぐ――刹那。

 下からゆっくり上昇してきたはずの下水が、出口の方向から勢いよく流れてきた。

(! この流れだと戻される……! おおおおおっ!)

 ガッ! と横の壁に爪を立て必死に流れに耐えた。

 しかし、その流れは一向に止む気配は無かった。

(くっ、息ももう限界だ。このままでは死ぬ……。スペシャルのアレを使うか。まさか来托戦の切り札だったが仕方ねー)

 両手を離し、下水の流れに身を任せたライトは心の中で叫ぶ。

(俺の脳が光って走る……閃速の身体が弾けて動く! くらえ!)

 カッ! とライトの瞳が開き、全身がイエローの発光を見せる。

 キュウイーン! とスキルゲージが30減り、残りはゼロになる。

 放たれるそのライトの最強スキルに目の前で浮遊するサクヤは瞠目した。

(――ライトニングセレブレーション!)

 シュプアァァァ――と全身を閃光としての突貫が地下道を飲み込むのように突き抜けて行き、下水の全てを押し返し逆流させた。

 大量に流れて来た下水の全ては流れ出すポイントに戻って行く。

 ライトニングセレブレーションが解けるライトは下水の消えた下水道で呟く。

「このスキルで跳ね返せないもんは無ぇぜ」

 べっ! と口に溜まる血を吐き、ライトは水の無くなった下水道を駆け抜ける。

 ついに、出口の鉄扉までたどり着き、勢いよくハシゴを登る。

 すると、ゴオオオオオッ! という轟音が下水道を支配し、ライトニングセレブレーションで巻き戻された水が戻ってきた。

「……早いな。サクヤの奴、嫌な場所で合ったものだ。くっ!」

 片足が水の流れに持っていかれそうになるが、ライトは勢いよくハシゴを登った――瞬間。ガスッ! と誰かの手に足を捕まれた。

 下を向くと、モコータがニイィ……笑いながらライトを見上げていた。

「しつこいぞ! 今日の俺は誰よりもしつこいぞぉ!」

「ゲーム内まで校則戦争を持ち出すな! ――うおっ、うおおおおおっ……!」

 パニックに陥るライトは下水道の本流にのまれた。





 無限学園保健室――。

 ふと、目覚めるライトは白い天井を見つめて自分の右手を確認した。未だヒューマンログインをしているらしく、その姿はライトニングのままである。

 右手を動かしメニュー画面を出して各種パラメーターを見る。どのステータスも維持は見られず、無論HPゲージやスキルゲージも回復している。そしておもむろに起き上がると電子レンジがチン!と鳴った。

「何だ? レンジに誰かが何かをしかけといたのか?」

 ここに運んだのも誰かわからない為、何の罠が仕掛けてあるか不安なライトはゆっくり保健室のベッドから降りようとすると、ガラガラガラッとおもむろに出入り口の扉が開いた。

「もう平気なの? 回復アイテムはポーションよりピザの方がいいでしょ?」

 突如当たり前のように現れたマジシャンズバトラーのアバターであるユキがとんがり帽子を扉の上に引っ掛けながら入って来た。安堵の顔をするライトは、ユキといる時が一番落ち着く瞬間だなと心で感じながら回復アイテムである冷凍ピザを食べた。HPは完全ではあるが、好物を食べる事で精神的な回復が見込める。

「最後の晩餐じゃなかったわね」

 そのユキの言葉にライトは苦笑し頭をかく。

 そしてドクターキョーノのクロスグレイブから脱出したユメの話を聞いた。

 あの老人はあそこで孫の様子を見て悲観するしか何も出来ないらしく、追撃をする事はなかったらしい。それを聞いたライトは、

「モコータ……いや、藻湖田の野郎がいなかったか?」

「いたけど消えたわよ。私の手錠を解いてね」

「どういうつもりだあの野郎」

「どうしてもこのイベントで貴方と決着をつけたいみたいね」

「野郎……そんなに俺が好きなのか?」

「それもあるかもしれないけど、この世界を維持したいのよ。誰だって自分に都合のいい世界にいたいのは当然よ」

「維持は出来ねーぜ。守りながら攻められない時点でもう崩壊は始まるんだよ。で、この保健室から三種の神器のあるボスエリアまでは近いのか?」

「無限城はズル出来ないのよ。ここはほとんど入口と同じ。つまり、数多のプレイヤーが外でフリーバトルを繰り広げてるわ。こっからが勝負」

「マチかよ……もう結構戦ったし疲れてんだけどな」

「なら辞める?」

 そのユキの何気ない一言にライトは顔を叩き、自分をここまで導いてきた相棒の瞳を見据え答える。

「来托のおっさんは俺が倒す。何せ俺は主人公だからな」

 それを聞いたユキは踵を返し保健室の扉に手をかける。

 バトルステージに出向こうとするユキに異様な距離感を感じるライトは心の内を吐き出そうとする。

「……ユキ。お前は……」

 扉に手をかけたまま振り返らないユキは答える。

「知りたいなら今答えるわよ? 私が京乃来托の娘なのも事実だし……」

「いや、細かい話は来托を倒してからだ。奴を倒せば全ての謎は解ける」

 ガラッ……と保健室の扉を開け放つユキにライトは最後の問いを出す。

「ユキは……ユキでいるよな?」

「当然でしょ。私はずっとユキよ」

 その言葉で、ライトの迷いは一気に晴れた。

「後ろは任せたぜ相棒!」

 そして、二人は無限螺旋城を本格的に攻略し始める。

 この先に待つ別れが永遠という事も知らぬままライトニングとマジシャンズバトラーは進んで行く。



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