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新章魔王勇者編 最終話前編 The last waltz

<久しぶり だな人魚の娘よ>

その言葉で聡明な少女は理解した。

今私に話しかけている存在が私の体を使って、母を、姉を殺―――

「嫌ぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

オンディーヌはその場に蹲る。

再びフラッシュバックした己の罪に耐えきれずに。



オンディーヌが泣いている。なのに、なのにこの身体は竦んで動けない。

それでもだ。勇気あるものを人は勇者と呼ぶ。

涙を流す乙女を助けずして何が勇者だ。

精神を肉体に凌駕させ、その口を動かす。


「あなたが、ヴェスパの王ですか?」

<私以上のヴェスパが生きていたらぜひ会ってみたいものだな。>

先程の魔王よりは話が分かりそうだ。そんな望みが生まれた。


「どうしても、私たち人と分かち合うことはできないのですか?人々を傷つけずにはいられないのですか?」

<人にとっての恐怖の象徴。それが魔王というものだ。魔王が脅かし、勇者がそれを打ち払う。

それが世の習いではないか。――――それに>


やはりだめなのか?勇者の中の不安が大きくなる

「それに、なんですか?」

<『お前が今迄に食ったパンの枚数を覚えているのか?』>


何を言ってるんだ?

<言ってることがわからないか。我らヴェスパにとって何を何匹殺そうと、いちいち憶えている必要があるのか? そういっているんだ。>


「このぉぉぉっ!!」

勇者の背の炎が再び舞い上がり、古の竜の力が顕現する。

<まぁまて、私が踊るのには少々このステージは狭すぎる。――――出でよネオ・ルルイエ>

大魔王の宣言とともに両者を中心に巨大な氷の塔が顕現する。それは魔王の居城。雲には届かぬものの遥か高層へ、下は海の底まで。

その幾多に分かれた階層の全てがダンスホール。いくつあるかなんて考えるのもばかばかしい。


<さぁ、始めようか。曲目は何がいい?―――――嘆きと絶望 なんてどうだろう。>


両者は音を置き去りにしてぶつかり合う。観客には音が遅れて聞こえてくる。

氷の翅と炎の翼が空でぶつかり、淡く光るペンダントの力で周囲の水を味方につけ海中でも両者はぶつかり合う。

何度激突したことだろう、塔を何往復したことだろう、ちょうど歌劇一つが終わるほどの時間が過ぎた時、両者は最初の最上階にいた。

観客たちを背に。幾度目かの激突で勇者の体はボロボロになり姉からもらった、胸の宝玉も強すぎる大魔王の『海』の力に逆に割れる。

大魔王が唐突にいう


<もう飽きたぞ、『勇者モドキ』>

「な、なんて はぁ やつ はぁはぁ なんだ。」


そのときだった。 背後から風切音がした。勇者は疲れた体を翻し咄嗟に剣を突き出した。確かな手ごたえ。しかし貫かれたのは――――


「オ、オンディーヌ」

「あ、王子様。よかった、間に合った。 王子様まで殺してしまうところだった…」

「すっ、すまない。」

「良いんです王子様。私のお願いを聞いて、頂け、ないでしょう、か」

「聞くさ。なんだってかなえてみせるさ。」

「でしたら、ずっと、優しい、王子、様でいて、くださ、い。怒りや悲、しみでその、優しさを、曇らせない、で。」

「ああ約束する約束するさ。だから、だから。」

「いってるそば、からないて、るじゃない、ですか。ちゃんと、やくそく、してください。」

「約束するから。だから死なないでくれオンディーヌ」

「よかった。わたし、やさしい、おうじさまが、すきだから」

「オンディーヌ」

「さようなら。あいしています。アーサー」

「オンディーヌーーーッ!!!!」


愛した少女の誓いを護るため。愛した少女の愛する世界を護るため。

正しき怒りを胸に、勇者は魔を断つ剣を執る。

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