新章魔王勇者編 第7話
かつての森の悪魔の再来。
これを倒すとは実に彼女との結婚を認めさせるには絶好の材料だ。
王子はこの事態をどこかで喜んでいた。
オスはメスの下位互換。これはヴェスパの世界の常識だ。なぜなら、個体数の差、性能の差が
事実としてそこにあるからだ。
しかし、その世界の在り方に良しとしないものもいる。
「雄を舐めるなぁぁぁぁぁぁっ!!」
そういったオスがいた。
その時からそのオスは、メスを、いやヴェスパの世界を敵に回した。あとで王女から聞いた話だと
アリス様のご配慮が無ければ消されていたらしい。その時はぶん殴ってくれやがった婆さんとしか思ってなかったのだが。
いや、アリス様の見た目は十分にお若いですけどね。
かれも、シーアイスヴェスパの中では珍しい姿をしていた。しかし、王女とは違い彼の場合は兄弟姉妹にも、『翅無し』が多かった。
先祖がえりが過ぎてシーアイスヴェスパにあるまじき泳げないという欠点はあったものの、その点は救われていたのであろう。
彼は王族でありながら、常に最前線で戦い続けた。彼はそのわずかばかりの権力を全て野で戦うために費やしたのだ。
そのせいか、いつの間にか一部のメスにも認められ、一見高飛車だけどどこかちょろい娘や、やたら軍人気質の娘などに
行為を、いや失礼。好意を向けられたりしたが、彼は結局、あの宣言後も変わらずに好意を向けてくれていた王女を選んだのだ。
そして、婆さん、いやアリス様が虫知れず隠ぺいしてくださっていた中、遂に密会がばれてしまい、今に至るわけだ。
そもそも、あの宣言が無ければ、王族同士で普通に結婚しても問題なかったのだが、俺はあの宣言を後悔も反省もしていない。
まぁ、俺の過去は今はどうだっていい。
今は目の前の敵を粉砕するだけだ。
互いに組み合う。力は同等。引き分けに持ち込む相手の筋力には驚愕の域だが、
「好きな女の子の前だ。カッコ悪いところは見せられないんでねっ。」
掴んだ相手をはるか上空へ放り投げる。巨体が宙を舞う。
しかし相手もさる者。投げ飛ばされた状態からの重力を利用しての
のしかかり
強烈な加速度を伴った質量が襲い掛かる。
宙に舞った狂戦士は向こうで友が散ったのを見た
(友よ、安らかに眠れ)
自分に出来るのは、奴の墓標に酒をかけてやることぐらいだ。無論『熊殺し』だ。
やられっぱなしは性に合わん。そのまま地面に叩きつけられたら凄く、凄く凄く痛いだろう。
あぁちょうどいいクッションがあるじゃねぇか。でもとどかねぇ。彼がそう思ったとき
背中に優しくしかし強い風が吹いた。空中で落下のベクトルが変わる。
あぁ、ありがとな
彼が誰に言ったのかは言うまでもないだろう。
「GUOOOOOOAAAAAA」
咆哮をあげ王子にぶち当たる。
あまりの衝撃に床の氷が砕け散り2体は海に落ちる。
海の底に保存してあった『黄金の蜂蜜酒』が貯蔵されている氷の蔵の天井を突き破り蔵の底に両者は激突した。海中に黄金が飛び散る。
しかし海の中でも戦い方は変わらない。互いに組み合うだけだ。
友が吹かせてくれた風がある。この戦いへの『勝利』を彼に自慢してやろうと、狂戦士は更に力を込める。
水中での息が苦しいがそんなこと知ったことか、空気吸うよりも酒吸った方が好きな俺様だ。酒に溺れて死ぬのは大歓迎よぉ。
水中に飛び散った蜂蜜酒を吸ってそう豪語する。―――まぁ、ちぃーーったぁばかり水で薄めすぎだがなぁ。
徐々に王子が競り負けていく。先祖返りしすぎた王子も水中は苦しいようだ。
遂に王子が完全に押し負けそうになったとき、いや押し負けた時、王子は海面に浮上した。
揚がって来るであろう狂戦士を待ち構えるが一向に浮かんでこない。
冷たい海の底で狂戦士は哂った。
「俺様の勝ちだぜぇ」
もう息が限界だった。
彼は戦いには破れた。
しかし、男と男の勝負には勝ったのだ
ははは、どうだランス、俺様のほうが強かっただろう。
まったく、お馬鹿さんには敵いませんね。




