Ⅳ・無辜の灰9
◇ ◆ ◇
この森に入り、何日経ったのだろう…?
しらみ潰しに探索を続けているが、目的の断片にもたどり着けていない。幸いな事に、森の中は豊かで飢える心配こそなかったが…、贅沢慣れした身での過酷な日々は、身心を削らせるには充分過ぎる。
固めた覚悟が――…くじけそうになる。
「…っ」
非常に気に入らない事だが…、あの二対の翼を持つ魔族が指摘したとおり、自分は甘やかされて育てられた。しかも俗に言う世間知らずでもある、と自覚している。
嫌いな食べ物は目に触れる事さえなかったし、欲しい物は待たされたとしても半時で目の前に届けられた。身の回りは全て召し使いがやるのが当然で、自分で靴紐を結んだ事も、服のボタンを留めた事もない。魚は切り身の姿で泳いでいるものだと信じていたし、肉も料理に出される形で存在しているとばかりに思っていた。
そんな自分が嫌で、変えたくて――。この忌まわしい世界に向かうと決意した時、供を連れず誰にも言わずに旅立つと決めた。この程度の試練で泣き言をほざくなど、いずれ民の上に立つ者には許されない――否、許せない。
そう、これは――…自分が女王になるために必要不可欠な試練でもあるのだ。何が何でも支配者に会い、全てを解決させるチカラを得なければ。
――…でも…。
「…とと様…」
支配者からチカラを得る使命感と、父王の存命を信じる心で、ここまで何とか耐えてきた。だが…、それでも想像していた以上に試練は過酷で、日数が経過する毎に、固めたはずの決意が揺れる。
だが、それも想定内だったはず。だからこそ《道》が閉じる前に故郷へ帰らなかったのだ。帰るに帰れない状況であれば、何が何でも突き進まなければならない。
そう――。計算の上で、自らをわざと追い込んだはず…だった。
「さっさと出て来なさい、支配者ッ! このアタシをこんなにも追い詰めた罪は重いんだから…ッ!」
苛立ち紛れに叫ぶも…、森は放たれた叫びを吸収し、消していく。
心細さと敗北感と屈辱感とが混ざり、ギュッ…、と唇を強く噛み締めた。
――…所詮は都合良くねじ曲げた幼子の意地。時間の経過に伴い、砂城のように崩れ始める。
どれほどに泣き喚きもがこうが、この娘があの場にたどり着くなど不可能な事。万が一にたどり着いたとしても――、この娘は持論の「支配者からチカラを得る」という行為を理解しているのだろうか?
憐れみを含んだ吐息を漏らし、空を仰ぐ。淡い輝きを穏やかに放つ二対の月。
あの次代の子達は、無事にたどり着けただろうか?
そして。
何よりも――、余計な事で迷ってなどいないだろうか…?




