1章 再会1
本日1話更新です。
「この後のご予定は?」
殿下から誘われてしまった。
今日は昼から子どもたちに計算を教えることしか確定している予定はないが、面倒事の匂いがする。できれば断りたい。でも、昼から予定がありますと言えば、じゃあ午前中なら大丈夫ですねってなるだけ。前世から思っていたことだけれど、誘うのなら先に用件や内容を教えてほしい。「〇〇したいから××空いてる?」と聞いてくれれば、自分の予定の優先順位を考えて答えることができるのに。用件を聞かないまま断るのもリスクが高い。貴族から質問されているのに、さらに質問で返すような失礼な真似もできないから、先に用件を聞くこともできない。
(物腰柔らかい言い方をしているけれど、こちらの返答を誘導しているのね。はぁ。なんて答えようかしら…)
「今日はねーお昼から先生と計算するんだよー」
「お金も貰えるし楽しいよねー!」
「ねー!!」
(もたもたしていたら、子どもたちが先に答えてしまったわ…)
「お昼から予定がおありなのですね。では午前中、今からお時間いただけますか?」
「………はい。大丈夫です。できれば用件を先に聞いてもいいですか?」
今さら遅いと思うが、とりあえず用件を聞いて、どういう対応をすればいいのか自分と相談したい。
「…用件というより、貴女のことをもっと知りたくなったのです。」
言われたことに一瞬固まる。
子どもたちも「おぉ…」といって固まっていた。
この綺麗な顔にそんなことを言われたらころっと落ちてしまう人は多いだろう。だが、私は彼の正体を知っているし、できれば王族なんて関わらず生きていきたい。それにしても返答がしづらい事ばかり言う方だ。
「この綺麗なにーちゃんは悪いやつじゃないと思うよ!多分!」
子どもたちの中で、一際元気な子が言う。彼はカイという名前で、ちょっと元気すぎる子だ。でもよく周りを見ていて、さりげなく気遣いもし…ようとしてよく失敗するもったいない性格をしている。ただ、今回は成功したようだ。
「ふふっカイが言うなら、きっと大丈夫ですね。歩きながら話しましょうか。」
「急に押しかけたのに申し訳ない。時間をくれてありがとう。」
殿下はカイに対してありがとうと口パクしている。いつの間に仲良くなったのだろう。
(それにしても、この方は…女たらしね。)
普段丁寧な言葉遣いなのに、お礼は話し言葉にして、距離を詰めてきた。相当女性にモテるのだろう。でも私はただの平民の娘だから話し言葉の方がありがたい。無駄に丁寧な言葉で話されると、私もつい丁寧すぎる言葉で返してしまう。平民の娘が流暢に貴族言葉を使っていたら流石に違和感がある。
子どもたちは、「またあとでー」と言ってどこかに行ってしまった。殿下と2人きりになるのは不味い(気がする)ので、広場の方へ並んで歩き始める。彼はアシルと名乗ったので、私もミアと名乗る。それにしてもアレクシルだから少し変えてアシルと名乗ったのかと色々考えてしまった。
「先生と呼ばれているんですね。」
「子どもたちに言葉や計算を教えていたらいつの間にか先生と呼ばれるようになりました。」
「そうですか。街の人に貴女のことを聞きました。とても慕われているようですね。」
「ふふっありがとうございます。」
たわいもない話をしながら、広場の方へ2人で歩く。なかなか本題に入ってこないが、入らないなら入らないで、このまま何もなく終えればいい。きっとそんなことは無理だろうけれど。
広場が近くなり、だんだんと人が増えてきた。
「ミアちゃん!またイケメンを連れてるのかい?」
「この前はありがとう!また頼むよ!」
「今日はうちの子のことよろしくお願いね」
私に話しかけてくる人に対して返事をする。おかげであまり殿下とは話せなくなってきた。でも、これで殿下の本題に触れずに済むのだから、ありがとうという気持ちを込めて返事をする。しかし、そんなに上手くいくはずがないことは私も分かっていた。
「ミアちゃん!またとっても綺麗な人を連れてるのね〜。彼氏が嫉妬しちゃうんじゃない?」
「彼氏がいるのですか?」
殿下が被せるように、果物売りのおばちゃんに問う。なぜそんなことが気になるのか…とりあえず殿下の魔力を外からだが確認する。確かに少し不快な思いをされているような動きをしている。この質問は私や果物売りのおばちゃんに対するパフォーマンスではなく、本心で聞いているようだ。
「ミアちゃんによく会いにくるイケメンがいてねぇ。ミアちゃん彼に会うと楽しそうにしてるから、…彼氏なんでしょ??」
おばちゃんは、殿下の質問の意図を嫉妬と捉えたようだ。ニヤニヤととても楽しそうに話してくれる。からかうのが好きな人だからね。
「イルのことでしょ?あの人は彼氏じゃないよ。私のこと気にしてくれてるだけ。その…楽しそうには…してるかもしれないけど…」
おばちゃんに対して一応訂正する。殿下とできれば関わりたくないので、あえて勘違いするような言い方をした。本当に彼氏ではないから嘘は言っていない。でも彼氏がいることを匂わせれば、基本的に男性は距離をおくものだ。基本的には…だが。
「…とても仲良くしている人がいるのですね」
殿下の様子を見て、おばちゃんが私の脇腹に肘をついてくる。その目は「すみにおけないわねぇ〜」と言っているようだ。間違いない。おばちゃんは「後はよろしく」と私にこそっと言い残して、仕事に戻ってしまった。この状態の殿下を置いて行ってしまわないで。
少し気まずいままだが、とりあえず歩こう…と思ったそばからまた話しかけられる。結局、話が終われば他の人に話しかけられ、果物売りのおばちゃんと似たようなやりとりを別の人と何回かするはめになってしまった。
(デジャヴュだわ…)
そして、その結果、殿下の機嫌の悪さが魔力を見なくても分かるようになった。本人は笑っているけど、雰囲気が重々しい。隣にいたくない。
(なぜ殿下はこんなことに…意味がわからないわ。そもそもなぜ殿下はここに来たのかしら?でも、薮蛇になりたくないから私からは聞けないわ。でもおそらく…)
「そういえば、まだ貴女に会いに来た理由を教えていませんでしたね。先日は助けていただいてありがとうございました。」
先日というのはちょうど1週間前に殿下を治療した日のことだろう。誤魔化すことも考えたが、これは誤魔化しても意味がない。殿下の魔力を見る限り、彼は確信を持って聞いている。確信を持てるということは、私のことを直接見ていたということだろう。そうでなければ黒髪なんて特徴で探したりはしない。
「…あの時、起きていたんですね。」
「一瞬だけでしたが、途中意識が戻ったのです。なぜ、治療したことを隠すような真似をされたのですか?」
「私が外に放置したことを言っているんですね。アシル様は、貴族ですから。貴族の方の問題に関わると色々面倒事に巻き込まれてしまうというのは子どもでも知っている常識です。特に腰から血を流しているなんて面倒事でしかないですよ。」
「確かにそれもそうですね。…その面倒事に関わらないようにした結果がああなったと。でも、ミアさんが治療してくださったから今の私がある。ありがとう。」
御礼を言うことが目的だったのだろうか。なら御礼は受け取ったので帰ってほしいのだが、彼はなかなか帰ろうとしない。これは良くない方向に進みそうな気がする。でも貴族である彼を蔑ろにするわけにはいかない。せめて、平民のフリをして来ればよかったのに。それなら断って、さようならで済む話なのに。
「その…貴女のことをもっと知りたいと思いました。この後、子どもたちに計算を教えるとか…見学させてもらってもいいでしょうか?」
「…いいですよ。」
平民の私が貴族の申し出を断れるわけがない。殿下はそれを分かって、貴族の格好をして来たのだろう。
まだまだ殿下は帰りそうにない。
私は気付かれないように心の中でため息をついた。
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