1章 王太子の悩み1
本日3話目です。
よろしくお願いします。
「今日の予定は以上か?」
私は、側近のセジルに尋ねる。
彼はワーナード伯爵家の次男。仕事が丁寧で良く働いてくれている。耳にかかるほどの長さの黒髪で、整った鼻筋に眼鏡をかけている。知的な雰囲気が一部の女性たちに人気であった。
「さきほどのもので終わりです。この後、何かおありなのですか?」
「いや、特に予定はないが…最近特に調子が悪くてね。悪いが1人になりたいんだ。」
暗に出ていってくれと言っているようなものだ。彼に何か落ち度があるわけではない。落ち度があるのは、私の方だ。自身の膨大な魔力を制御しきれず、感情や欲望が渦を巻くようにめちゃくちゃになっている。今の自分には平静を保つのが精一杯だった。
バンッ
「よう!調子のほうはどうだ?」
1人になりたいと言ったところにやってくるとはタイミングがいいのか悪いのか…
「ライル…ノックをしろといつも言っているだろう。…調子はあまり良いとは言えないな。」
勢いよく扉を開けて入ってきたのは、私の幼馴染でレノヴァティオ公爵家長男のライルだ。銀髪に菫色の瞳で相手に背徳感を味わわせるような鋭い目つきをしている。また顔立ちはとても整っており、どこを見ても目立っているこの男に対して女性たちはいつも黄色い声をあげていた。
立場は私の方が上だが、昔から仲が良いこともあり敬語を使わない。気を遣われないからこちらも気を遣わなくていい。無礼なやつだが、居心地が良い相手でもあった。
「そうだろうな。思ったより体調が悪そうだ。」
「…顔には出していないつもりだったが。」
「お前との付き合いは俺が1番長いからな。流石に分かるぞ。」
「そうか…早く番を見つけるか、もしくは諦めてしまった方がいいのかもしれないな。」
「今のお前は見てらんねぇ。何をしでかすかも分からないしな。さっさと諦めて、条件に合う適当な令嬢に首輪をしてしまえよ。」
んん…と考え込むフリをする。自分の魔力を制御するためには、伴侶を見つけて儀式を行う必要があった。
セレリィブルグ王国の王族は魔力量が多い。しかし、その中でも他の王族とは比べ物にならないほどの膨大な魔力を持って生まれてくる者がいる。彼らは先祖返りと言われ、膨大すぎる魔力を制御するため、他の王族よりも多くの制限や儀式が必要であった。そしてそのうちの1つに魔力を制御するための『首輪』という儀式があった。この『首輪』は伴侶に対して行う儀式で、伴侶の首に首輪のような模様が現れることからそう呼ばれている。
何故自分は先祖返りとして生まれてしまったのか。いくら考えても仕方がないが、魔力を制御するため、早急に『首輪』をする必要に迫られていた。
「すぐにでも魔力を制御したいさ。しかし、言い寄ってくる令嬢の中から選べと?王太子という地位があるから仕方ないのかもしれないが、王族というブランドに寄ってくる令嬢の中でどうしても伴侶にしてもいいと思える令嬢がいないんだ。」
「お前の気持ちも分からなくもない。ハイエナの中から選ぶのが嫌だというのは理解できる。でもそれはお前も同じだろ。寄ってくる令嬢の表面的なことしか分かってないだろう。レギイラ侯爵の娘やハイノール伯爵の娘は?悪くない条件じゃないか?」
「確かに条件は悪くないが、彼女たちを大切にしたいとどうしても思えない。」
「おいおい、それはお前のわがままだ。王族、貴族に生まれた者は、政略結婚なんてザラだろ?なぁセジル。」
今まで、蚊帳の外にされていたセジルに話が振られる。セジルからも王太子を説得しろと暗に言っているのだろう。
「政略結婚は覚悟しています。しかし、どれだけ条件に合致しようと、たとえ愛していなくても、お互いに尊重しあえる方でないと結婚は遠慮したいですね。生活に困窮している貴族ならまだしも、ワーナード家はまだ余裕がありますから。」
王太子側の意見に沿いつつも、ライルの意見も否定しないセジルらしい回答だ。だがその回答だと私が不利になってしまうなと苦笑する。
「アレクシル、お前余裕ないだろ。」
「余裕はないが…まだなんとか調子を保てている。本当にもうダメだと思ったら、適当に条件に合致する令嬢たちから選ぶさ。まだ…番を諦めたくはないんだ。」
「番ねぇ。俺らにはその感覚は分からないが、本当に存在するのか?とにかく、お前の様子だとそろそろ限界が近いだろ…出来ることは手伝ってやるから判断を見誤るなよ」
「ははっ。本当に…頼りにしているよ。」
じゃあな。と手を振ってライルが出ていき、セジルも後について出て行った。
扉が閉まった直後、自身の身体を傾けて床に倒れる。本当はもう身体は限界だった。
身体が重い。吐き気があるが飢餓感もあり、落ち着いたと思ったら頭が割れそうに痛み、女性を酷く犯したくなったり、人を殺したくなったり、お酒を大量に飲んだ後のように気分が上昇したり…本当にめちゃくちゃだ。世間では、品行方正な完全無欠の王太子と言われているのに現実はこれだ。それでもまだ番を諦めたくはなかった。
番は自分の全てをかけても足りないくらいに愛おしいらしい。セレリィブルグ王国の王族には番が存在し、番と一緒になれた王族は皆、素晴らしい人間であったとされている。また、その子は魔力やその他の能力など、他の王族と比べて優れて生まれてくる。番の存在は無視できないほど王族には良い影響を与えるそうだ。セレリィブルグ王国の国王である私の父は、番である母を伴侶にすることができた。
「私の番どこにいるんだ…」
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