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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
8章 地の精霊編 彷徨のマリオネット
203/217

201話 彼の地、桃源郷(ザナドゥ)にて──


 ───


「でゅお姉ちゃん?」


 テラの姿格好をした少女が発する、いつもとは明らかに違う幼い子供のような声。


 先程の彼女の“名前”を聞いてキョトンとしていた俺に対し、テラ(レイ)は不思議そうな面持ちでそう問い掛けてきた。


 ───


 ……おっと、少し考え事をしてしまってたか?


 それにしても……まさか“レイ”って名前だなんて……。


 それにさっき彼女がレイって言った時。何故だかボンヤリと灰色を思わせる銀髪の幼い女の子の顔が一瞬、見えたような気がして……。


 “レイ”──何故か“(れい)”の精霊を何となく想像してしまっていた。


 ……自我を得た精霊、(れい)。それがかたどった者の名前も確か、レイっていってなかったっけ? しかも幼い女の子だったんだよな……?


 これはただの偶然なのだろうか?


 ………。


 今度は逆に、“レイ”と名乗るテラが、不思議そうにチョコンと小首を傾げている。


 おっと……まずいまずい!


 ───


「ああ、ごめんごめん。だったら君の事は、レイちゃんって呼んだらいいのかな?」


「うん! これからよろしくね~っ」


 そしてテラ。今はレイっていう名の幼子おさなごが、無邪気に俺の胸の中に飛び込んできた。


 彼女はそのまま俺の背中に手を回し、ギューッと抱き付いてくる。


 そんな女の子の頭を、俺はやさしく撫でてあげた。


「そういえば、でゅお姉ちゃんは、こんな所で何をやってたの?」


 そう言いながらレイは俺の胸の中で、上目遣いとなって問い掛けてきた。


「え~っと、取りあえずはこの魔性の森……って君に言って分かるかな? それをどうにかしたくてさ。ここに来た訳なんだけど……」


「あ~っ、そうなんだ。だったら、どうやったらいいか。あたしはその事、知ってるよーーっ」


 !?──え、今この子何て言った?


 俺はもう一度腕の中にいる少女に目を向けた。


 そんな俺と彼女の目が合い、レイは再び、にぱーっと満面の笑みを浮かべる。


「このこわ~い森のやっつけ方だよね? だったら、そのやり方をあたしは知ってるって言ってるのー」


「え! それは本当なのか? だったらその方法を教えてくれ!!」


 俺は思わずしがみ付いていたレイの身体を引き剥がし、その両肩に手を乗せて大きく揺さぶってしまっていた。


「……や、やだ。今のでゅお姉ちゃん……なんか怖いよ~~」


 俺の目の前の女の子が小さくおびえる。


 しまった! 興奮して思わず強引になってしまってた。


「ご、ごめん。別に怖がらせるつもりはなかったんだよ~。ただあまりに意外だったんで、びっくりしてしまっただけなんだ。ホントごめんね~~」


「ほ、ほんとに! はぁ~~、良かったー。でゅお姉ちゃんが怖いひとになっちゃったのかと思ったよー」


 ……うう……や、やりにくい……つーか、このしゃべり方は俺の柄じゃねーっ!


 ホント正直メッチャ疲れるわ~……はあ、もういっその事ノエルと入れ替わって貰おうかな……?


『アル、大丈夫? そういうの苦手なら、交替して私が相手しようか?』


 ……って、ノエルには既にお見通しかよ。


 さすがに長い付き合いだけの事はある。まあ、常に一緒だもんな。


 だが、これから行う行為に、場合によっては危険をともなうかも知れない。


『ありがとう、ノエル。だけど、これからこの魔性の森をぶっ壊す事になるかも知れない。だから、何とかやってみるよ。気を使わせちゃってたみたいでありがとな?』


『うん、分かった。それに別にそんな事くらいでお礼なんて言わなくていいよ。ごめんね、アルにばかり負担を掛させちゃって……』


『ぷっ、あはははっ! ノエルの方こそ謝る必要なんてないっつーのっ! 大丈夫。何とかがんばるよ』


『あっ……はははっ! そうだね。分かったアル』


 そしてノエルとのやり取りを終えた俺は、再び目の前に立つテラの姿をしたレイに話し掛けた。


「それじゃレイちゃ~ん。改めてこのデュオ姉ちゃんに、このわっるうぅ~~い森のやっつけ方を教えてくれないっかなぁ~~?」


 そして彼女に向け、自分ではあり得ない程の愛想笑いを(つくろ)い、ついでにパチッと片目を閉じ、ウィンクなる行為も付け足してみせた。


 ──ぐふっ、俺自身に対する精神的ダメージがハンパねぇぜ……。


 しかし、ここは我慢我慢。今が踏ん張りどころっていうやつよっ!!


 そして、この俺の目一杯となる獅子奮迅ししふんじんが功を成し、レイからその報酬となる言葉が発せられる。


「うん、分かった。それじゃ教えてあげるねー。このこわ~い森のやっつけ方は、何処かにある“ままの石の欠片かけら”を壊したら、消えて無くなっちゃうんだよー」


 そしてレイは両肩に添えた俺の手から抜け出し、タタッーと駆け出した。


「あたしに付いて来て。今からそれがある所に連れてってあげるよー」


「うん、分かった。ありがとう、レイちゃん」


 俺はそう答えて、彼女の後を追って行くのだった。



 ─────



 俺が放った上位魔法である青い炎。


 それによって最早、何も見当たらない焦土しょうどと化した空間の中を、レイは両手を真横に突き出し、広げながら無邪気にひた走る。


 やがて、ある場所で立ち止まった。


「ほら、ここだよー」


 次にある場所を笑顔で指差す。


「え?……ここ……なのか……?」


 ───


 彼女が指し示した場所。そこには焼け野原となった地面で、既に焼けて跡形もなく全て消し炭となった筈の木々の中。

 そこにポツンと唯一残っている、大木の焼け跡となる黒く焦げた木の根元部分。


 そしてその周辺となる地面は、(ほの)かな黄金の光をたたえていた。


 ───


「え~っとね。そこにある黒焦げになった大きな木の燃え跡に、それがあるの」


「えっ、この根っこの部分にか。でもどうやったらいいんだろ? 掘り起こすとか?」


 するとレイはツインテールの頭をぶんぶんっと振ると、プゥ~っと少し頬を膨らませながら俺の方へと指差した。


「でゅお姉ちゃんの背中に剣があるでしょ? それでこの黒焦げの根っこを、ぶっしゃぁーっとぶっ刺したらいいんだよ~~!」


 ……ぶっしゃぁーっとぶっ刺すって……子供のくせに恐ろしい物言いだな。おいっ!


 ─って、ま、まあ要領は得た。つまりはこの魔剣を、そこに突き立てたら言い訳だな。


「分かった。レイちゃん、ありがとう。それじゃ、危ないから少し下がっててくれる?」


「うんっ!」


 彼女が俺の後ろへと下がって行くのを確認して、背中にある魔剣へと手を伸ばす。


 そして手中に納めた俺は、魔剣を両手で振りかぶりながら、大きく真上に跳躍ちょうやくした。


 そして──


「でっりゃああああぁぁーーっ!!」


 ──ドガッ!


 黒焦げとなった木の根元へと、地割れのような剣撃音をともなって、魔剣が突き立てられる。


 瞬間──何処かでパキンと何かが割れるような音が、静かな空間で確かに感じ取れた。


「どうだ!!」


「あれれ?……ぶっしゃぁーっじゃなくて、どがっ、だったねーー」


『「……だから女の子がそんな物騒な言葉を使うんじゃありませんっ!!」』


 俺達がそう声を上げていると、辺りを漂い、常に霧となって視界を不明確にしていた紫色の怪しい(もや)が徐々に薄まっていき、遂にそれは嘘のように完全に消え去っていった。


 やがて、俺達が今いるこの場所の光景も一変する。


 それは焼け(ただ)れ、無残な焦土しょうどとなったかつての“魔性の森” の姿が消失し、今の俺達の目に映るのはごく普通の樹海となる森林の風景だったのだ。


『「──!!」』


 ……い、いや、そうじゃない──


 ───


 ──チュンチュン


 何気に聞こえてくる鳴き声に目を向けると、二羽の小鳥が木の枝に止まり、(さえ)ずっている(さま)うかがえた。


 辺りは咲き乱れる無数の綺麗な花々。たわむれるように飛び回る複数の蝶々達。流れる清流となる山水の小さな小川。清々しいと感じる澄んだ空気。


 そして青い空から差し込んでくる、日の虹色となる後光──


 そこはまさに“桃源郷(ザナドゥ)”と呼ばれるに相応しい空間の景色となっていたのだった。


 ───


 ──こ、これは……!


「やったぜ!!」


『やったね!!』


「うっわああぁ~~! すっご~~いっ! やったね、でゅお姉ちゃん!」


 俺達三人からそれぞれ喜びの言葉が発せられる。


「それにしてもここが桃源郷(ザナドゥ)と呼ばれる場所か。なんて神秘的な光景なんだ……」


『ホント……すっごく綺麗で素敵な場所。ここが地の大精霊。テラ様がいた場所なんだね』


 そうだ。俺達はようやく辿り着いたんだ──


『やったな。ノエル!』


『うんっ。アル!』


 ───


「うふふふっ、おめでと。でゅお姉ちゃんがずっと行きたかった“ざなどぅ”に、やっと辿り着けて良かったね-。レイもすっごく嬉しいよ~。これでひとつ、でゅお姉ちゃんのお願い事が叶った事になるんだよね? どうかな? あたしはちゃんと、でゅお姉ちゃんの力になれたのかな?」


 不意にうしろから聞こえてくるレイの声。


「え? レイ。き、君は何を……」


『レイ……ちゃん??』


 その声に振り返ると、目に入ってくるのはテラの姿をした、今は“レイ”という名の幼い子供。


 そんな存在が、立ちながら顔をうつ向かせていた。


 そして頭を上げる。


 ──!!


「ホントにおめでとう──」


 再び俺達デュオに称賛の言葉を言う“レイ”という幼女。


 その顔はテラとは違い、心からの喜びとなる笑みの表情を浮かべていた。


 ──が、際立って違和感と感じる(さま)がひとつ。


 テラの黄緑色の純粋な光をたたえていた瞳が、不思議な無色とも感じる(うごめ)く虹色の光を宿していたのだ。


「レイ……君は……いや、“お前は一体何”なんだ!?」


『……ア、アル……!?』


 声を荒らげる俺の問いに、“レイ”は少し口角を歪めた。


「あらららぁ~~、またそんな怖い言い方しちゃうんだ? レイはまだちっちゃな子供なのに……でも、今まで一緒に遊んでくれてありがと。でゅお姉ちゃん──」


「??……それってどういう意味なんだよ……」


 更なる俺の問いに“レイ(彼女)”は答える。


「もう時間がなくなっちゃったみたいなの。今まで“もうひとつのあたし”を押さえ込んでいたんだけど、ごめんね-。もう無理みたい。だから、でゅお姉ちゃんとはもう遊べないや。また会えたなら、今度は思いっきり楽しい事して遊ぼうねーーっ!」


 不思議な光を瞳の中で揺るがせながら、レイという幼女が、おそらく“別れ”となる言葉を紡ぎ出す。


「……レイ?」


『……レイちゃん?』


 “レイ”──その名を持つ存在が、最早“正”となる者か、“負”となる者か。それも引っくるめて、俺にはもう、何がなんだか訳が分からなくなってしまっていた。


「今からこの身体の本来のひと。え~っと、あたしのもうひとりの“まま”なんだけどね。そのひとに替わるね~。それじゃ、ばいば~い!」


「レイ! ちょっと待っ──」


 その俺の声を(さえぎ)るように、レイが最後となる言葉を残す。


「これから“もうひとつのあたし”がここにやって来るよ──あたし、物語りの絵本が大好きなの。読んでていつもワクワクドキドキになっちゃうし、特にお話の結末にジーンとして泣いちゃったり、ポカポカと温かくなって、思わず笑顔になったりしちゃうんだ~。お話の終わりは、あたしにたくさんの“気持ち”をくれるの。だから、このお話はどんな結末を迎えるのかなー? 今からそれがすっごく楽しみ~~っ!! がんばってね。でゅお姉ちゃん──」


『「──レイ!!」』


「大丈夫、きっとまた会えるよ。だって、でゅお姉ちゃんとテラ(まま)はトモダチ。という事は、あたしとも“トモダチ”っていう事だから──」


 ───


 そして“レイ”を宿したテラの顔は、そっと目を閉じた。


 次にフッと意識が途切れるように崩れる彼女の身体を抱き支える。


 ───


 ………。


『アル……レイちゃんって一体何だったのかな? やっぱりテラ様が言ってた“レイ”っていう女の子と同じ子なのかしら……』


『……分からない』


『……アル』


『今の俺には何も分からないよ……』


『………』


 ───


 ほんの少しの静寂となる間ののち、不意に(ドラゴン)の幼体の鳴き声が聞こえてくる。


「キュイ?」


 それに反応するように、抱き支えていたテラの身体がかすかに動いた。


「“レイ”の意識存在。テラの身体から、一時的消去、現完全撤退を確認──ウィル、でゅお。ふたりに徒労を生じさせた事。ここで速やかに謝罪する」


 パチッと目を見開き、相変わらずの無表情でそう言う彼女の瞳は、いつもの黄緑色の澄んだ色に変わっていたのだった。


「テラ!!」


『テラちゃん!!』


「キュッキュイ~~ッ!」


 俺達の歓声を受け、テラは俺から身体を離し、即振り返る。


「でゅお。即刻戦闘準備を──侵入者を関知した」


 ──え? 何だって!!


「ウィルはテラの服の中で背中に張り付く」


「キュイ!」


 テラの指示を受け、小さな(ドラゴン)は、ススッっと彼女のワンピース。その背中に入り込んだ。


「ウィル、絶対にそこからは出ない事。テラは必ずウィルを護る」


 続けて彼女は指示を出す。


 侵入者って……レイが言ってた“もうひとつのあたし”ってやつなのか──!?



 ─────



 ──パキッと枝を踏み折る音。


「地の『守護する者』、テラマテルと、『守護竜』、ウィル・ダモスだな──」


 突然となるその声に、俺達は声がした方へと振り返る。


「ほう……魔性の森となるものが思いの外厄介で、なかば侵入を諦め、最早無理を押しての強行突破しか手段はあるまいと腹を(くく)ってはいたが、それを消滅させる存在がいた事実に驚き、まさかとは思っていたが、やはりお前の成すわざだったか。異端の剣士デュオ・エタニティ──」


 樹海となる木々の間をくぐり抜け、こちらへと歩み寄って来るひとりの偉丈夫(いじょうふ)


「お、お前は!!」


「テラ、戦闘体制に移行──標的とのウィル接触を断固拒絶。阻止行為を最優先事項に設定する」


 俺とテラは少しの距離を保つように、真横へとそれぞれ跳び、地へと足を着けた。


 同時に、即魔剣を右手に取り、身構える。


『アル! 気を付けてね?』


『ああ、任せろ!!』


 一方、テラ。彼女の方に目を向けると──


「右手擬態化──ソード


 テラがその言葉を口から放った瞬間。彼女の右腕が、目映い閃光と共に剣状の形を瞬時に(かたど)った


 ───


 ……すげぇ! 全自動(オート)機械人形(・マタ)ってのはさすがに伊達じゃないってか!


 ───


 パキッパキッ──


 こちらへと更に近付くその男。


 赤黒い髪の精悍せいかんな顔付き。身体にはお馴染みとなるミッドガ・ダル御用達となる黒い甲冑。

そして右手には得物となる長槍を手にしていた。


 ──黒い騎士、オルデガ。


 ───


「今の我が(あるじ)、黒の魔導士はゆえあって、従者となる俺がここに来た。『守護する者』、“異端の力を持つ者”──ふたつとなる強者相手に、俺が如何ほど足掻けるか。最早検討も付かぬが、俺は引く事を知らぬ性分でな。それに今(しばら)くすれば、我が(あるじ)も現れる事となるだろう。悪いが、その時間稼ぎとなる行為に付き合って貰うぞ」


 そう言葉を放ち、オルデガは右手に持つ長槍を風車の如く数回、回転させるとピタッと制止し、即座に鋭く尖った穂先をこちらへと向け、身構えた。


 ───


 瞬間、剣となった右手を突き出し、ツインテールの先端を尖った武器と変え、疾走するテラの姿が──


「テラ、これより標的となる者。その存在全ての要素を残らず殲滅する──」


 そんな様子を横目で見ながら、俺は自身となる魔剣(おれ)を振り上げ駆け出していた。


『さあ、がんばり時だよ。アル!』


「おう! アノニム。奴が来るまで方を付けてやる!!」


 やがて穂先を向けて待ち受けていた黒い戦士オルデガも、こちらへと尖った先端をそのままに突撃を開始する。


 ───


「オルデガ・トラエクス。己が信念を貫き通すが為。いざ、修羅しゅら推参すいさん(なり)!! さあ、見事成して見せよう!!」

















ご無沙汰しております。


自分の小説を読んで下さっている方に、まずはありがとうございます。


今回、活動報告なるものに、自分の近況報告を記してみました。


よろしければ、覗いてみて下さい。


それでは──m(_ _)m

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