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金色の 菜の花畑の 向こうから    作者:
第4部 第1章 私は願っている
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私は願っている 7

最終回です。


「い・・いやっ!!倫太郎君!!!」

倫子は叫んだ。

倫子の足下に老人が倒れ・・・血が沢山流れている。

倫子は崩れるように座り込んだ。

そっと老人に触り・・つぶやくように言い続ける・・・

「倫太郎君?倫太郎君?」


「ははははは。うっかりわしの体を殺してしまったわ。これでこの体は完全にわしのもの。」

狂ったように笑う倫太郎の体・・・


我に返った倫子はさっと立ち上がった。

「させないわっ」


「おまえに何が出来るというのだ?」

さらに哄笑は続く。

うるさい・・頭が痛い・・光・・・光,そうよ。私の

「光!ヒカリ!!どこなの?」


不意に光が差し込んできた。


ツカマエタ リンタロウクン


マニアッタ・・・


カラダニ カエスワ


テツダッテ


 倫子は怒りと悲しみにどうにかなりそうだった。

だが,倫太郎はまだここにいる。光がつかまえてくれている。

倫子の金の髪の毛がぶわっと広がる。全身が金色に光る・・・


おおっ


周りの者達のどよめきが聞こえる。敵も味方も一斉に武器を取り落とし跪く。


倫子は自分でも体が輝いているのが分かった。すっかり擬態が解け,少女の姿になっていることも・・・

「倫太郎君!!!」

声なき声で叫ぶ。


髪がしゅるしゅるとのびていく・・・そして,倫太郎の姿をした神官をとらえた。

金色に光る髪に巻かれた倫太郎の姿が,必死に髪を引きはがそうとしているのがみえる。

そのうちに,倒れ込んだ倫太郎の姿の神官は,頭を押さえ,のたうち回り始めた。

「倫太郎君を返せ!!!」

倫子の血を吐くような叫び声が響き渡った。


すると・・・鏡からどす黒い何かがあふれ出してきた。 倫太郎の体からも・・・

闇だ。闇があふれている。

 鏡からあふれ出してきた悪意さえ感じられるその闇は,倫太郎の体から出てきた物と一緒になって渦を巻き・・・やがてヒトの姿を取った。

倫子中から呼応するように光があふれ出し,・・・ヒカリもヒトの姿を取った。


部屋の天井はいつの間にか抜け,空が見える。どんより曇った嫌な色の空。


闇と光は凄い風とともに空中に駆け上がっていった。


・・・

空中で光と闇は対峙していた。

「ヤミヨ ヒサシブリネ」

「オマエモ ソクサイデ ナニヨリダ」

「モトノ アナタニ カエリナサイ」

「イヤ。ワシハ オマエト ヒトツニナリ マッタキモノトナル。」

「サセナイ」

「ドウカナ」

はははははははは・・・嫌な笑い声が宙に満ちる。空が真っ黒に染まってくる。

稲光が辺りを照らす。風が吹く。とどろくような雷の音・・・ごうごうと凄い風が吹き荒れる。立っていられないほどの風・・・いろいろな物が空中に舞い上がる・・・


・・・危ない。倫子は無意識に手を振り下ろす。それとともに舞い上がった物が下に静かに落ちてくる。さらに巻き上げようとするどす黒い風・・・


倫子の髪はさらに輝き,見ている者は目を開けていられないほどだった。



と・・・闇が光を飲み込もうとするかのように黒い渦を発生させた。あの渦だ。

対してヒカリもすべてを浄化するような強い光を発している。倫子から発する光も空中へ駆け上り,光と一緒になる。・・・光と黒い渦・・・お互いぐるぐる回る。融けて1つの渦になる・・・光か?・・・闇か?


どのくらいの時間が経ったのだろう。一瞬だったのかもしれない。


カッ・・・辺りが明るくなる。ヒカリも闇もほどけてもうどこにもない。

空はどこまでも青い。綺麗に晴れ渡った空だ。どこに行った?光?


応えはない。


倫太郎が倒れている・・・ぼんやりと倫子は彼を見つめていた

我に返ったのは影が早かった。影は,

「倫子ちゃん?」

と声を掛けた。

倫子の髪はまだ輝き続け・・・やがて光をなくした髪がほどけ,落ちていく。

光が消えた後,立っているのは金の髪の・・・6歳ほどの少女だった。少し成長したその姿でなく・・・光も闇も・・・消え,どこにもいない。


「倫太郎君。」

我に返った倫子は倫太郎の体に駆け寄った。

闇の神官か?倫太郎か?

・・・

倫太郎はうっすら目を開けて微笑んだ。

倫太郎だ。

倫太郎の中から闇の神官はいずこへと出ていっていたのか・・・


「あれを・・・壊すんだ。」

倫太郎が示した先には鏡。魔境だ。


「・・あれは異界からのもの。あれから嫌な気配が照射されている。あれがつぶやく言葉・・・このままにしておくと,また何かが起きる・・・」

よろけながらも倫太郎は立ち上がった。

いつの間にか井部も,影もそばにいて倫太郎を支えている。


「破壊したら,早くここを脱出するんだ。」

影が言う。

「この神殿は崩れる。

俺の仕込みで・・・」

影の仲間はとっくに神官達を連れ出し,周りの者達の避難も終わらせているという。



魔鏡・・・

倫子はそれをきっとにらんだ。倫太郎が手を添える。

二人は両手に力を込める。

悪意,人にあだなすもの!!消えて!!!


強い思いが辺りに満ちる。

全てが変わる。

全てが満ちる。




・・・爆発?・・・炎上?・・・


危ない・・キケン・キケン・・・


光と闇は?どこ?


ダイジョウブヨ

ワタシモ ヤミモ


モウ ヤミハ ワタシノトコロニ

カエッテキタノ

ヤミノ シンカンモ

ヤミノ イチゾクモ

モウ イナイ


アトハ・・・・



光?光?

もう彼女は応えない・・・・


帰りたい。菜の花畑に。二人で。いいえ。みんな一緒に。強く願う。


また光・・・


・・・・・・



「え?ここは?」

「・・・菜の花畑の真ん中だ。」

「一瞬でここか。」


枯れてしまっていたはずなのに,いつの間にかまた満開になっている菜の花畑。

城山の家の菜の花畑だ。向こうに家が見える。

影も,井部も目を白黒させて突っ立っていた。


倫太郎がよろめいた・・・

「危ない。」

影が支えようとするが間に合わなかった。

倫太郎は菜の花畑に倒れた。


倫子は倫太郎にすがりついた。

「倫太郎君・・・」

嗚咽で声が引っかかる。


倫太郎は倫子の手にそっと触れ,にっこり笑った。


「倫子ちゃんのおかげで,僕が望んだ,僕たちが望んだ世界が・・・やがてやってくる。

・・・僕はしばらく眠るけれど・・また・・いつか・・きっと・・会おう・・・」


倫太郎は菜の花の中でそう言ったあと・・・意識を失った。


「いやぁ!!」


 影の持っていた端末から連絡を受けた城山氏と城山教授,倫太郎の父と母が家から走ってきた。使用人の人たちも。

泣き叫ぶ倫子を倫太郎君から引き離したのは井部と影だった。

「倫太郎を診てもらわなければならないだろう?」

「さあ離れないと診てもらえないよ。」

「このままにしておけないだろう・」

・・・・・

 城山教授は素早く倫太郎を診た。


「家に。とにかく家に運びましょう。」


家に運ばれた倫太郎は昏々と眠っていた。

 どんなに呼んでも,誰が呼んでも,倫太郎は目を開けなかった。

 何人かの医師が呼ばれ,また去り・・・


・・・倫太郎は点滴や,いろいろな機械につながれた。

2~3日ほど過ぎ・・・

 城山氏は枕元に座っている倫子に言った。


「倫太郎は眠っているだけだ。

・・・後,そう10年もしたらきっとまた目覚める・・・

10年たてば,始原の光はこの世界に満ちる。

世界中の人たちに幸せな光が降り注ぐ日が・・・

君の世界だったあの世界にもきっと光はこぼれてあふれていくだろう。

倫太郎の望んだ世界だ。

そのときこそ倫太郎はきっと目覚めるだろう。」

 

 倫太郎は天の神殿に運ばれていった。

 病院よりも光に満ちあふれるここがいいのだという。


 天の神殿に置かれたガラスの箱の中でたくさんの装置につながれて倫太郎は眠っている。


「白雪姫みたい・・・」


「その話は?」

・・・

「異界の話だね。」

・・・

「倫太郎の話はきっとその話と一緒に広がるかもしれないね。」





・・・・蛇足・・・・





 10年後,大学園を卒園した倫子は小学園で総合理化学を教えながら神殿に通う日々を続けている。教えることは倫子の中では当たり前のことだ。

 神殿の周りにも菜の花畑は広がり,菜の花の研究もずいぶん進んだ。


 広川は念願の留学を果たし,今は遠いイミグランドの地にいる。最近,年がずいぶん離れた彼氏が出来たと言ってきた。

「会ったら驚くわよ。」

と言って笑っている声が,端末の向こうから聞こえてきたのは夕べのことだ。

いつか紹介してくれるというので楽しみができた。


 山名と冬彌は相変わらず仲よくつきあいを続けている。

 井部は,政府の仕事に就いた。今は,連合が本当に1つの国になるために奔走しているという。

 影・・・影はどうしているか倫子は知らない。


・・・・・


 倫子は神殿の祈りの間で今日も世界のために祈る。

 光は日々満ちていく。全ての上に平等に。

 もう光の声は聞こえないけれど,いつもそばにいることは感じられる。


 悪意のある闇はどこにも気配はない。闇は優しく倫子達を包むだけだ。



 毎日のように通っている,神殿の中の祈りの間。

 長い祈りから顔を上げた倫子は,いつものように倫太郎君の様子を見てから帰ろうと思った。・・・ちょうど10年前の今日,倫太郎は眠りについた。そんなことを思い出していると,ゆっくりとした足音が近づいてくる。

・・・開くドア・・・

「だれ?」

入ってくる人。車いすを押している?・・



「僕だ。倫太郎だ。」

車いすには倫太郎が乗っていた。

駆け寄っていく倫子。


16歳になった倫子と10年前とおんなじ姿・・・いや・・やせ細っている倫太郎。


二人とも言葉はいらない。倫子は車いすを押している人とかわった。

ゆっくり歩く。慌てることはない。また倫太郎が帰ってきたのだ。

 

二人で神殿の周りの菜の花畑に立つ。倫太郎はまだ車いすだけれど。目の前には金色に光る菜の花畑・・・金色に光る2匹の蝶々・・・ 金色に降り注ぐ光の中・・・


これからも安易な道ではないかもしれない二人なら乗り越えられる・・・二人はいつまでも広がる金色の菜の花畑の中に立っていた。



この回でこのお話は終わります。

ブックマークを付けてくださった方,本当にありがとうございました。

少なくとも誰かが読んでいてくださっているということはとても励みになりました。付けてくださらなくても,読んでくださった方。本当にありがとうございました。


菜の花畑で立ち続ける二人。この後,きっと,もっともっと沢山の困難にぶつかるはずです。それらを乗り越え,光の満ちあふれる世界の実現のためにやっていくに違いありません。若干想定したことと違うことや,矛盾も出てきてしまったのですが。


こちらのサイトではないのですが,αサイトで投稿しています「旅立ちの時」がこのお話に近いような気がします。このお話をもし,気に入ってくださったら,是非,「旅立ちの時」にも目を通してやってください。主人公のベシュテムは13才の少年です。


影や井部君についてはまた別の機会に書ければと思います。


また,感想なりとお聞かせ願えるとうれしいのですが・・・・。


明日から新しい連載を投稿し始めます。

もしよろしかったらそちらも読んでいただけるとうれしいです。


6月21日(日)新しく,「影と呼ばれた男」を始めました。

影のお話です。生い立ちから始まります。影はボディガードでしたが,基本はスパイです。うまく書けるかどうか分かりませんが,いろいろ試してみたいと思っています。よろしかったら読んでみてください。

また,感想などいただけるとうれしいのですが・・・。


影のお話も終わっています。こちらもよろしかったらのぞいてみてください。





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