ピクニック話
リグルママという言葉が頭から離れない。
大人になった。
最近のリグル・ナイトバグを見て、ミスティア・ローレライが述べた感想だ。
もっと正確に言うなら、余裕が生まれた、か。
「行ってらっしゃ~い。遅くならないようにねぇ」
子供に向かって笑顔で手を振る姿からも、そんな雰囲気が感じられる。
「お母さんになると変わるのかなあ?」
「えっ、どしたのみすちー?」
突然発言したミスティアに、リグルは戸惑って聞き返した。
「ん~ん、なんでもない。ただちょっと寂しいだけ」
からかい甲斐がなくなった。
「そう……何かあったら相談してね」
「……うん」
本当にからかい甲斐がなくなった。まあ良いことなんだけど。
彼との子供が出来てから、リグルとミスティアは住まいを改めた。
自分一人なら構わないが、子供にはそれなりの環境で育ってほしいと思ったからだ。
とはいえ、人里以外でそういう場所を見つけるのは難しいし、人里で妖怪が生活するには多少の遠慮が必要だ(少なくとも体面上は)。
ならば作ってしまえばいいのでは? 相談を受けた上白沢慧音の解答である。
現在、人里から少し離れた土地に新たな妖怪の集落が出来ていた。
五軒ほどの長屋と、井戸や畑の小さな……村というのも差し支えがありそうな集落だ。
畑も、家庭菜園程度の本当に小さな畑で、収入源として期待出来る規模ではない。
そもそも、ミスティアの屋台の看板娘という立派な仕事があるリグルに、収入の心配をする必要はなかった。
「洗濯終わったら、ちょっとお茶でもしようか?」
「そうね、そうしましょ」
二人が仲良しなのは相変わらずだ。むしろ、前より仲良くなっているくらいか。
子供を寺子屋へ送り出して、洗濯や掃除を済ませ、畑の様子を見て、買い物へ行き、夕飯の準備をして、子供を迎えて夕食を終えると、屋台へ向かい、深夜に帰って就寝。
これをリグルは苦にも思っていない。何なら、夜子供と一緒に眠れないのを、少し寂しく思うくらいだ。
ちなみに、仕事中子供の面倒は他の住人や彼がしてくれる。他の住人とはルーミアやチルノのことだ。
結局は、仲良しグループが集まった村になっている。
「昼食何にしようか?」
「そうめんかなあ。たくさんあるよ」
「お店への御中元凄いものねぇ」
縁側に腰掛けると、眼前の畑から柔らかな土の匂いが香る。
ゆらゆらとはためく干した衣服、吊るした風鈴の音。
安らかな風が吹いている。働いて温まった身体には心地好い風だ。
団扇を扇いで涼しむミスティアの隣で、からりと音がなる。
リグルが、氷で満たしたグラスにお茶を注いだ音だ。お茶請けの水羊羹も、よく冷えている。
「ありがと」
ミスティアは礼を言ってグラスを手に取り、喉の奥へと傾けた。
口内に芳醇な麦の香りが広がる。堪らず喉を鳴らすと、キンッと脳に刺激が走る。
かき氷を食べてる時のアレだ。少々急いで飲んでしまったか。しかし、おかげで全身に冷気が走った。
「あぁ~……やっぱ麦茶よねぇ」
「うん、美味しいよね」
「水羊羹も……んん、甘くて美味しいぃ」
「買い物に行った時に、和菓子屋さんに貰ったの。ほら、常連の」
「ああ、あのおじさんね」
「うん」
「で、最近お兄さんとはどうなの?」
「んぅえ?」
ミスティアはいつだって唐突だ。
「ど、どうって……」
「最近あったことを話してほしいだけよ?」
主に夜の話を。リグルに聴こえないくらいの声音で呟く。
が、聴こえたのかもしれない。リグルの頬に赤みがさした。
「こ、この間、うちの子と一緒に……三人でピクニックに行ったんだけど……」
健全な話になりそうだ。ミスティアは少しがっかりした。
「幽香さんとこのお花畑に行ったんだ」
「今の時季、綺麗な向日葵が咲いてるものね」
幽香の手掛ける花畑は、この季節……いや冬以外なら、百花繚乱と呼ぶに相応しい光景が拝める。
しかし、夏は特に素敵だ。幽香自身、夏に思い入れがあるのかもしれない。
「うん。それに、うちの子、幽香さんに凄くなついてるから喜んでくれてね」
「ふぅん」
ミスティアの興味は薄れている。聞きたいのは艶っぽい話だからだ。
「家族でピクニックなのに、私とお兄さんそっちのけ。幽香さん幽香さんで……」
「へぇ~」
素っ気ない返事であるが、リグルは気にしてない。というより、気にする余裕がないのだ。
「だから、二人っきりになっちゃって……」
「はいはい……ほおぉ?」
ミスティアのテンションが上がった。なるほど、頬を赤らめたのは思い出したからか。
「その……」
「うんうん」
「……は、恥ずかしいなあぁ」
「大丈夫! 後で私の恥ずかしい話もしてあげるからっ!」
「うぅ……あの、ね」
ミスティアのことは良く知っている。これは、話さないと納得しない顔だ。
まあ自分から話し出したのだから仕方ない。リグルは観念して口を開いた。
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身体が火照っているのはどうしてだろう。リグルはマントをたたみながら考えた。
暑いから? 木陰の中にいるし、涼やかな風も吹いている。
熱がある? すこぶる快調。欠片のだるさもない。
花の香り? 辺りは花で囲まれており、中には濃厚な匂いを放つ花もあるが、普段のリグルが同じ香りを嗅いで昂るようなことはなかった。
隣に彼がいるから? もっとも現実的だが、“そういうの”は時と場所を考えているつもりだ。
いったいどうしてだろう。たたんだマントを傍らに置く。
これといって運動をした訳でもないし、アルコールを含んだ訳でも……さっき幽香から貰った飲み物に含まれていたかもしれない。
「大丈夫?」
「ふえっ!?」
彼の両手がリグルの頬を包んだ。少しひんやりしてる。冷たいグラスを握っていたからかな。
彼はそのままリグルの額に自身の額をくっつけた。赤い頬とやや荒い息遣いに、体調が悪いのではと心配になったのだ。
「だ、だいじょ……うぶ……」
リグルの目がトロンと蕩ける。彼の目が、彼の口が、彼の呼吸が、彼の匂いが、リグルの理性を狂わせた。
「じゃないです……ん」
「んん」
リグルは顔を傾けて彼へ口付けを交わした。くちゅくちゅと唾液の音を立て、少しずつ彼へ体重を預けていく。
「ん……んん、ちゅ……ん」
彼はやはりされるがまま。徐々に身体を倒していき、背中が敷いていた蓙に当たると、
「ん、ふはっ……フフ、おにぃさんっ」
リグルの舌が口内から引き抜かれた。艶やかな顔付きで舌なめずりをすると、その舌を彼の頬へと当てた。
しょっぱい。汗だ。暑いのだから、仕方ない。
不快感はなかった。汗の奥の肌の甘さ故か、それとも彼から分泌されるものだからか。
リグルは蜜を集める蜂のように、丁寧に丁寧に汗を舐め取った。
もちろん、主目的はそれではない。片手は彼の手を握り、もう片手はシャツの中へと侵入していた。
普段のリグルからは想像出来ない大胆な行動だが、まあおとなしい者ほど、こういうものかもしれない。
「あっ」
彼が声を漏らした。リグルの指が芋虫のように腹を這いずっているからだ。
「んちゅ」
微かに開いた口を塞ぐように、また口付けをする。今度はじっくりと、舌を絡め、唾液を混ぜ合わせ、彼の口内を自分で染めて、自分の口内を彼で染める。
彼のシャツへ潜っていた片手は、自分の短パンへ移動していた。
ボタンを外し、ジッパーを下げ、するりするりと、足を捩らせ脱いでいく。
足先まで脱ぐと、次は下着……片足に引っ掛かる短パンが揺れる。
先に、彼のズボンを脱がせよう。下着にかかった手が彼の下腹部へと、太ももを滑って移動する。
ボタンを外し、ジッパーを下げる。先程自分の短パンを脱ぐ時にしたのと同じ動作。
しかしなぜだろう。心の昂りが違う。全身が悦んでいる。ここから先のことを考えれば、身体が期待するのも当然か。
リグルがジーンズを下げようとすると、彼も腰を浮かせてそれを助けた。全く従順だ。
黒いスパッツが覗いた。ピッチリと肌に吸い付く生地は、場合によっては生身よりも淫靡で、真ん中の膨らみを見るともうリグルの欲情は止まらない。
「……しちゃいますね?」
口を離し、耳元で囁く。了承の言葉を待つつもりはないし、リグルの切ない声を拒絶する彼でもない。
「いいよ」
やはり彼は即答した。
思った以上に甘い音色に、リグルの背中がゾクリと震えた。
リグルの身体が動く。彼の下腹部へと顔を近付けていく。
手でしようか、口でしようか、足やお尻でする人もいるそうだけど……とにかく準備をしないと……起き上がってもらわないと出来ないから……。
「(そういえば、“これ”でも出来るって幽香さんが)」
リグルは自身の胸に手を当てた。ずっとコンプレックスを感じていたが、彼の為に使えるなら……。
彼のスパッツに手をかけたリグルに、迷いは欠片も存在しなかった。
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「んで……その……最後まで、致しました……」
話し終えたリグルの顔は真っ赤であった。
「やあ、リグルちゃんも過激になったわねぇ」
ミスティアは満足げな笑みを浮かべて言う。
「でもよくバレなかったわね」
「……幽香さんにはバレバレだったよ……っていうか、」
「幽香さんに貰った飲み物が原因?」
「……うん」
以前あなたと試したところ最高だったから、リグルにも試させてあげよう。その間、子供の面倒は見ていてあげるから安心してね。
と、事前に彼に言っていたらしい。
「ドSねぇ」
「ドSだよ」
からり、グラスの氷が溶ける。表面に結露した水滴が浮かび、握ると手が少し濡れた。
「……ねぇみすちーの話は?」
リグルが話をする条件に、ミスティアも恥ずかしい話をすると言っていた。
「この間リグルちゃんがご飯作ってる間に致しました」
ミスティアは簡潔に即答した。
「ぶふっ! いつ!?」
噴き出して驚くリグル。
「二日前」
対してミスティアは冷静だ。
「……お店の、新しい制服合わせてた時?」
「ごめん興奮しちゃって」
クールビズ仕様というのか、生地は濡れたら透けるような薄さで、肩が脇の辺りまで出ており、着物の裾は膝ほどまでのなんかもうそんなお店のデザインだ。
「気持ちはわかるけど、あの制服認めてないからね」
「屈んだらパンツ見えるから?」
「そうだよ! もう……全然気付かなかった」
リグルの頬が膨らむ。自分に隠れて致していたことより、気付かなかった自分にやるせなく思ったらしい。
「気付いてもらって三人で、っていうのを望んでいた」
対して欲望まみれのミスティアである。こんな発言をされれば、リグルの気も抜けていくというものだ。
「……そうめん食べる?」
ふと時計を見ると昼時だ。それに気付くと腹の虫も騒いできた。
「食べる。美味しいめんつゆのレシピ聞いたの」
「ホント? じゃそっちはお願いね」
「お任せあれ」
「んふふ」
「えへへ」
二人は立ち上がって台所へと歩いていった。
リグルママって甘えさせてくれる感凄いけど、某ライフ感も凄いと思った。




