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東方逆接触  作者: サンア
46/66

☆ちゅっちゅ話

台詞だけだよ。



 午前七時。



「…………早すぎたかな……


うん……三時間くらい早く来ちゃったな……寒い……ミニスカートはやめておけばよかったかな……


いや女は我慢で可愛さを勝ち取るものだと外の世界の雑誌にもあったのだから……


にしても早すぎたかな……


でも彼を待たせたくないし……彼のことだから五分前には絶対来るだろうし……じゃあ十分くらい前でよかったのか……


楽しみだったからな……仕方ないよなあ……仕方ない……そうだあの喫茶店で時間を潰そう。それがいい。あそこの窓際の席ならここもよく見えるはずだ。


ちょっと待て……時間を潰すのに喫茶店に入るのは理解出来る……パラパラと雪が降る、しかし穢れのない白い雲とほんの少し顔を覗かせた太陽の光が射すこの広場で、ただ寒さに震えるしかない私にとって、あの喫茶店……屋根の煙突から察するに暖炉でしっかり暖まっているであろうあの喫茶店はとてもとても魅力的だ。


だが、今日、外の世界では恋人達が聖夜と持て囃す今日この日に、彼との予定を取り付けた私が……彼を待たずして先に喫茶店に入るのか?


その時間すらも彼と共に過ごしたいと思うのが普通なんじゃないのか?


待て、待ち合わせ場所についた私が青い顔で震えていたらどうする? 彼はきっと心配する。


心配から始まった予定が楽しく進むか? それに途中で体調を崩してしまうかも……やはり暖かい場所で素直に待つべき……


これは私の心が訴えているだけではないのか? ただ暖まりたいと願う心が私に都合の良い理由を作っているだけでは?


気持ちはわかる。自分のことだからな。この寒さは妖怪の身でも堪えるのは確かだ。


しかし私の心よ思い出せ……女は可愛さを我慢で勝ち取るのだ。


その為のミニスカートとニーソックスだ……あ、ニーソックスの時点で負けていたのでは」


「おはよう」


「やあおはよう早かったね! 驚いたよ、ハハハ」


「ナズーリンも」


「私っ? 私が早いのは……あれだ。朝食をそこの喫茶店でと思ってね」


「朝御飯、食べてない」


「君も? ならちょうどいい一緒に食べよう。そのまま予定通りに……で、で、」


「?」


「で……でぇ……デー…………出掛けようじゃないか!」


「うん……?」





 午前十時。



「君にも知らないことがあるんだね」


「たくさんあるよ」


「そうだな……当たり前のことだ」


「うん」


「まあ君に限らず、勘違いしてる者は多いよ」


「そう?」


「ああ、ご主人も知らずに出産祝いとかで持ってきたよ」


「食べた?」


「その日の命蓮寺のおやつになったよ……ふふふ」


「どしたの?」


「いや……こんな他愛ない会話なのに、楽しくて楽しくて……罰が当たりそうだ」


「大丈夫」


「君が言うならそうなんだろうね。さあ、そろそろ映画館も開いてるんじゃないかな?」


「ん……行こ」


「ああ……ふふふ」





 午後一時。



「……あ、すまない……ちょっと……涙がね……ふふ、私もあんな恋愛……いやなんでもない、なんでもないぞ」


「素敵な話だよね」


「……ああ……素敵だ……とても素敵だ。ああいう幸せを、誰だって求めている」


「そうだね」


「そうとも。だから……その……なんだ……ええと……わ、私も……君に……そういう幸せを……与えられたら…………お腹がすいた、お腹がすいたな!」


「ん?」


「朝は軽い物だったし、昼はガッツリいこう!」


「お肉?」


「肉か、いいなあ……鍋とかどうだろう?」


「近くに美味しいお店あるよ」


「じゃあそこに行こうか」





 午後三時。



「うぷ……た、食べ過ぎた……」


「食べ放題だったからね」


「調子に乗ってしまった……」


「ちょっと休憩しようか」


「ああ……そこの公園のベンチで……」


「ん……」


「す、座れるだけで良かったのだが……」


「ん?」


「い、いやなんでもない……あ……頭の耳の……裏側を撫でてくれないか……あっあっ、そ、そこだ……んあっ……くすぐったいが……んん……落ち着くんだ……ひうっ……」


「大丈夫?」


「だ、大丈夫……んにゅっ……大丈夫だから……つ、続けふぎゅっ……続けててくれ」


「はい」





 午後七時。



「だいたいなあ……君は、優柔不断というか……相手に期待させるというか……ヒック……」


「そうかな?」


「そうだ! 私がどれだけ苦労したか……ヒク、今回だって……きっとライバルが多いだろうと半ば諦めて誘ったら……ヒック……」


「暇だったよ」


「そうさ……みんな私と同じで絶対相手がいるからと諦めているのさ……ウクッ……」


「そうなの?」


「君は本当に知らないんだなあ……この世で君以上に愛されてる人なんていないんだ……もっと誰かの想いに敏感に……ンクッ」


「努力する」


「……じゃあ、今の私の気持ちを察してごらん?」


「……ん~?」


「ハハハ、これは難し過ぎたかな……私がしたいことはね……」


「?」


「これだよ……んん」


「ん」





 午前七時。



「こちら寅ちゃん、見えてますか? 聞こえてますか? オーバー」


「こちらマミちゃん、見えとるし聞こえとるぞ、河童の技術は素晴らしいもんじゃのう。オーバー」


「ナズーリンはぶつぶつと何か唱えてます。早すぎたとか勝ち取るとか。オーバー」


「まあ待ち合わせの時間より、かなり早いからのう。勝ち取るとかはこの雑誌の煽りじゃろう。しかし……寒そうな格好じゃのう……オーバー」


「あ、自問自答に入りましたよ! 喫茶店に入るかどうかで迷ってるみたいですね。オーバー」


「入りゃよかろうに。オーバー」


「どうやら彼と一緒に入りたいとか思ってるようです。オーバー」


「いやいやいや……好きな者のこと考えると冷静な判断が出来なくなるというが……寅丸ならどうする? オーバー」


「私なら喫茶店に入ります! あそこはベーコンエッグサンドが美味しいんですよ! オーバー」


「そういうことでは……しかし流石に三時間もナズーリンを眺めるのは退屈じゃのう。オーバー」


「大丈夫です! こんなこともあろうかと彼を呼んでおきました! オーバー」


「……そこにおるのか? オーバー」


「いるよ。オーバー」


「……ああ……わしらのことは内緒で、とりあえずナズーリンに会いに行ってやってくれ。オーバー」


「ん。オーバー」


「寅丸。オーバー」


「なんですか? オーバー」


「お前がアホなのか優秀なのかわからんくなってきた。オーバー」


「?」





 午前十時。



「マミさん。オーバー」


「なんじゃ? オーバー」


「ネズミってチーズ食べないんですか? オーバー」


「雑食じゃし、よほどの空腹なら食うかもしれんが、基本的には苦手らしいの。普通は穀物や果物、チョコレートなんかの糖分の多いお菓子を好むそうじゃよ。オーバー」


「それで私が贈ったナズーリンの部下へのチーズがおやつに出たんですね。オーバー」


「まあナズーリンの好物がチーズなのは間違いないし、勘違いも仕方なかろうて。オーバー」


「ですかね。オーバー」


「ですじゃよ。オーバー」


「んー……ところで、このチーズたっぷりグラタンとか食べちゃっていいんですかね? オーバー」


「……自費なら文句は言わんよ。オーバー」





 午後一時。



「うう……ひぐっ……えぐっ……お、おーびゃー……」


「そんなに泣ける映画じゃったか? オーバー」


「う……ううっ……観て……なかった……うぐっ……でしゅかあ? お……おーびゃー」


「……まあマナー違反じゃし、カメラの電源は切っておったんじゃが……ナズーリンも涙ぐんでおるし、相当泣ける映画らしいのう。オーバー」


「うっ……ひぐううっ……よ、よしろーが……よじろーがあああ……オーぶあああぁー……」


「よしろうかよじろうになんかあったのか? オーバー」


「……えぐっ……大食いで……間接技の……ひっぐっ……三十人抜きを……うわああああっ……オオオオォーバアアアアアアァーああああっ」


「その情報からはどうやっても涙は浮かばんぞ。オーバー」





 午後三時。



「はむっ! はふっ! はふっ! はふぅっ! オーバー」


「自費じゃからな。オーバー」





 午後七時。



「な、ナズーリンが大胆に……き、キスしてますよおーっ! オーバーッ」


「ふむ、色々恥ずかしがってたが、誰でも酔っ払えば話が早くて面白いのう。オーバー」


「賢将かわいいな賢将。でも彼もかわいくて仕方ないですねぇ……ヒック……オーバー……ヒクッ」


「……まあ確かにかわいいのう。オーバー」


「これはもう肉食寅ちゃんいくしかないですね。オーバー……ヒック……」


「寅丸? 寅丸星? あ……ああ……あんな吸い付いて……わしも行けばよかった」



ぬえ「本当に本当だって! マミゾウの部屋からオーバーオーバー変な言葉があ!」


村沙「はいはい」


ぬえ「本当なんだってばあああああぁっ!」



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