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東方逆接触  作者: サンア
32/66

ダンジョン話その最後

萃香「そんなに戦えませんでした」


天子「私は悪くねぇ……私は悪くねぇ!」


「ずんずん楽に進めるじゃない」


 皮肉たっぷりの口調で言いはなったのは霊夢だ。その言葉を受けた天子の額に青筋が浮くが、意外にも反論はない。


「で、でもさ、この間のドラゴン倒して、かなりレベルアップしたし……良い装備も揃えたから……それで、楽なんじゃないか?」


 フォローを入れたのは魔理沙だ。こいつは本当に優しいなあ。萃香はそう思いながら魔理沙の前を歩いた。


「……敵」


 先頭を歩く彼が呟いた。


 四角形に切り取られた石造りの通路である。床、天井、壁の至るところに幾何学的な模様と古代文字とかいう子供の落書きのようなものが描かれている。


 一応読み取ることが出来るらしい。罠や宝のヒントがあるとかないとか。


 萃香と天子が彼の前へ移動し、霊夢と魔理沙が銃と本を取り出した。霊夢の長銃は魔獣の骨を加工した銃身をもつ強力な銃で、冒険を始めたばかりの初心者が持てるような代物ではなかった。


 魔理沙の本も昨日までの物とは違う。有名な魔術書と同じ名前で、そして本物同様の人皮装丁本……ではないが、それでもどことなく冒涜的な雰囲気を醸し出している。まあそもそも本物は架空の書物なのだが。


 天子が右手に構えた剣は黒色の刀身に鋭い突起が多くついたロングソード。暴食の異名を冠するだけあって禍々しい姿をしている。左手の盾は、角ばらせたダイヤ形で金色の縁がある青い盾だ。いずれにも幻想的なレリーフがついている。


 萃香の装備に大きな変更はない。獣の被り物がハチマキに変わっただけだ。それでもステータスは大幅に増加している。取り分け攻撃力の上昇は凄まじい。


 そして、彼。装備に変更はないが見た目に変化はあった。


 おはらい棒を構える彼の周囲を“陰陽玉”が一定の間隔で回転していた。


 前方に現れたのはバッタの頭をした人形のモンスターで、天子が一人でダンジョンに挑んだ時に苦戦したモンスターの上位種にあたる。


 しかしいまの彼らなら苦戦しないだろう。


「またあいつらか」


「代わり映えないわね」


「もうちょっと種類があれば楽しいのにな」


 もう既に、同じモンスターを何体も倒していたのだから。



 一行は城門を出て広場への道を歩んでいた。各々の表情は多様だが、良い感情を表している者が多数だ。


 ドラゴン討伐報酬が思いの外良かったからだろう。報酬は資金だけでなく、アイテムや装備品も用意されている。


 むしろ後者がメインというべきか。特殊なイベントでしか入手出来ないレアアイテムも存在する。


 今回彼らが手にしたのもそういうアイテムだ。中でも、ドラゴンを直接討伐した幽香やそのサポートをした天子などは更に良いアイテム、装備品を入手していた。


「女王……紫そっくりだったな」


 なんともいえない表情で魔理沙が呟いた。


「そうね」


 霊夢がやや声を震わせて答えた。身内の恥ずかしいところを見られたような……とっても同情を誘う……端的にいうならかわいそうな状態だ。


 逆にいえば、霊夢は紫を身内……家族に近い関係だと思っているのだ。そうでなければ恥ずかしがる必要はない。


「そうだ、お前たちならもうラスボスを倒せるんじゃないか?」


 広場につくと雰囲気を変えようとレミリアが口を開いた。きっと霊夢に同情したのだろう。


「ラスボス?」


「倒したらゲームクリアするやつ」


 霊夢の疑問にざっくりと答えたのは萃香だ。


「私達まだ始めたばかりだけど……」


「冒険者カードで自分達のレベルを確認してみろ」


 広場のベンチに仰々しく座るレミリアにいわれて魔理沙が冒険者カードを取り出し、自身のステータスをチェックする。


「ふえ!? レベルが十倍になってる……」


 魔理沙の言葉を聞いて萃香と天子が、それに続いてのっそりと霊夢、彼は幽香の膝でぬいぐるみのように抱かれていた。


「本来あのドラゴンはゲームをクリアした冒険者向けのおまけみたいなものでな」


 レミリアが指を鳴らすと咲夜が白色の日傘を取り出して傍らに立った。


「ラスボスより遥かに強いし、取得経験値も桁違いだ。私達ですら数レベル上昇している」


「私は上がってないわよ」


 無駄に格好つけていたレミリアの横から幽香の言葉が飛んできた。霊夢達が初心者とすればレミリア達は上級者だったが、幽香は更に上の次元にいるらしい。


「ま、まあつまりだ。今の貴様達ならラスボスぐらいは容易く葬れるということだ」


「しまらないわね」


 霊夢の返答にレミリアはうなだれた。


「でも確かに、だいぶ強くなったわ。新しい装備も手に入れたし、準備整えて一泊したら行きましょうか」


「お、いいね」


 萃香は乗り気だ。ドラゴンに劣るとはいえ、ラスボスを名乗るのだから強さに期待はもてる。


「大丈夫かな?」


 対照的に魔理沙はやや不安といった面持ちだ。始めたばかりだし、先ほどのドラゴンとは違い今度はパーティだけでの戦いだ。自身が担う役割も大きい。


「い、いきなりラスボスってのはなんか違う。もっとこう紆余曲折あって成長したり挫折したりなストーリーがほしい」


「じゃ改めて解散」


 天子のワガママに霊夢は耳を貸さなかった。彼は幽香とフランに連れられ、もう広場からは姿を消していた。


 霊夢と魔理沙はレミリアを財布に観光を再開し、咲夜と美鈴は雑談しながら商店街の方へ向かっている。


「…………ちくせう」


「ほら、付き合ってやるから、飲みにでも行こうじゃないか」


 天子の肩を叩いたのは萃香だった。とても機嫌が良いのは強者との戦いという肴を持っているからだ。


「あんたが飲みたいだけでしょ……」


「バレたか」


 萃香はからから笑って肩を落とす天子の背中を押して酒場へと歩いていった。



 地下三十階、複雑な迷路の先に巨大な扉が彼らの前に姿を現した。


「いよいよね」


「そうだな」


「色んなことがあったよな」


「そうね、はじまりの平原でどろっどろのモンスターを倒したり、ドラゴンを倒したり……バッタみたいなやつ倒したり……なんかこう……あのスライムとか食べたり……」


「ドラゴンのお肉美味しかったね」


「ああアレは意外だったわ。臭みがなくて、柔らかくて脂が濃厚で、贅沢な気分になったわ」


「単純に焼いただけなのにな」


「良い肴にもなったよ」


「うんうんステータス補正も凄かったじゃねええええええええーんだよっ! くおら!」


 天子が巻き舌で怒鳴り散らした。


「仕方ないでしょ」


 冷たく言い放つ霊夢に反発して更に天子の感情が高まる。


「だからこう順を追ったストーリーとか、ラスボスを倒す理由とか、なんか欲しかったの!」


 天子は今にも泣き出しそうな顔をしている。


「でもさ」


 これを宥めていた魔理沙が、ふと思い出したかのように口を開いた。


「序盤、早く進めたいからって女王との謁見を飛ばしたのは誰だっけ?」


 天子の額から大量の汗が流れ出した。


 職業を決めたあと城に入れるのだ。その後、女王からダンジョンに眠る古代技術や凶悪なモンスター、と冒険の目的を語られるのだ。


「早く冒険に行きたいって私達に言わずに飛ばしたよな?」


 本来ならギルドや住民から得られる情報なのだが、天子が意図的に隠したのだ。それを魔理沙は観光中にたまたま住民と会話してたまたま知ったのだ。


 ちなみに女王の謁見が飛ばせるのはゲーム的な快適さを優先してだ。どれだけ速くゲームをクリア出来るか、などの挑戦への配慮でもある。


「さ」


「さ?」


「さあ! いよいよラスボスとの戦いよ!」


「ごり押しか」


 天子は巨大な扉を必死に押してラスボスの元へと急いだ。扉は見た目以上に軽く簡単に開いた。


「ま、そんな謁見面倒だから飛ばしてもらって良かったんだけど」


「知ってる」


 霊夢に即答した魔理沙の横を黒い球体が通り過ぎた。


「はっ?」


 何事かと天子が入って行った扉を見ると、閉じた扉の一部に風穴が空いていた。


「うおおおおおおおっ! 死ねラスボスウウウゥゥゥゥ!」


 天子はもう戦い始めていた。


「あっズルいぞ!」


 天子の反応を笑っていた萃香が走り出す。


「ストーリーも何もあったもんじゃないわね」


 銃を抜きながら霊夢。


「らしいっちゃ、らしいけどな」


 苦笑いで魔理沙。


「行こ」


 冷静に彼。


 萃香が扉を開くのと同時に、彼らは走り出した。



「霊夢ぅ……ひまあ……」


 暑さにとろけて寝転がる天子が退屈を口にした。


「一人でDゲームでもしてきたら?」


 バリボリと煎餅をかじりながら座卓乗せた情報誌を読む霊夢。巫女服を着ておらず、さらしにドロワといった開き直った姿になっている。


「あれ飽きたぁ」


「飽きっぽいんだから」


 天子が本棚へとカタツムリを彷彿とさせるスピードでのそのそ近付き、分厚い本を取り出した。


「ねぇ、TRPG」


「無理」


「まだ何も言ってないぃ」


「無理」


「もぅ」


 うつ伏せになってペラペラと本をめくり出した。


「お邪魔するぜぇ……霊夢……いややっぱいいや」


 暑さに負けずに元気よく挨拶しながら部屋に入れば、最初に目についたのはリボンとさらしとドロワだけを身に付けた霊夢だった。


「魔理沙ぁ……ひまあ……」


 ぽいっと本を投げて溶けた口調で魔理沙に言うが「はいはい」と流されてしまう。


 頬を膨らませて抗議するがそもそもこちらに目を向けていない。天子は投げた本に手を伸ばした。


「パチュリーのとこから面白い物借りてきたぜ」


 そういって魔理沙が机に銀色の金属のような質感のボールを数個転がした。拳ほどの大きさで異様に軽い。


「なにが面白いの?」


「まあ見てろって」


 魔理沙はボールを一つ手に目を閉じて念じ始めた。


 面白いという言葉に反応して天子が机へと近付くと、魔理沙の手のひらのボールからぼんやりと白い煙が上がり、その煙に頭を抱えてしゃがみ込む鎧姿のレミリアが映っていた。


「……あ、これ」


 ダンジョンの地下百階でレミリア達と共闘した時に、こうやって巨大な牛の化け物が振るった斧を避けたレミリアを天子は覚えていた。


「ああこれ……あのカードと同じ……」


 これが違和感の正体か、と霊夢は納得して情報誌へ目を落とした。


「パチュリーが管理だかを目的に紫に頼まれて作ったらしくて……興味ないか」


 霊夢の興味が引けないとわかるとボールを投げ出して寝転がる。


「ちょっと!?」


 霧散していった映像に天子が声を上げる。


「面白そうだし他のも見せてよ」


 どうも天子の興味は引けたらしい。持ってきた物に何の反応もないのは悲しいし、相手してやるか。


 魔理沙は天子が差し出したボールを手に、もう一度魔力を込めようと目を閉じて集中した。


 次に現れた映像は入浴中の彼であった。


 魔理沙の悲鳴を聞き付け、神社の裏で拾ったビニールプールで萃香と涼んでいた彼がやってきた。


「なんでもない! なんでもないか……ら……」


 彼は水着姿だった。いつぞや図書館のプールで霊夢が着ていたものだ。


「ああ! 私もプール入る!」


 そんな彼を見て天子が服を脱ぎながら神社の裏へと駆け出した。


「魔理沙?」


 只でさえピチッと肌に張り付いている水着が、水分を含み更に窮屈に彼の肢体を締め付けている。


「……隣で寝かせてくるわ」


 情報誌を閉じ、失神した魔理沙へと近付く霊夢。


「うん」


 彼もそれに慣れたのか、魔理沙を霊夢に任せ自分を呼ぶ萃香と天子の声に神社裏へと向かう。


「……私も入ろうかしら」


 水着はないので全裸になってしまうが、天子と萃香も同じようなものだろう。優しさから魔理沙を誘わないでいたのだが、自分で呼び寄せてしまっては世話がない。


「……そういえば、Dゲームにもプールがあったような……」


 ここよりは色々な水着が手に入る。もっと色んな水着を着た彼を拝めるかもしれない。


「そういう楽しみ方もあるのね」


 魔理沙を布団に寝かせると、Dゲームを起動するためのゴーグルを片手に霊夢は期待を胸に、縁側から降りて神社裏へと歩き出した。さらしにドロワ姿で。


 この霊夢の行動がDゲームの新たな一面を見いだし、ブームに更なる熱が入るのだが、それはまた別のお話。



フランちゃんの批評。


フラン「唐突に始めて唐突に終わった作者のエゴ、死ねばいいのに」


私「長編難しい」


というわけでダンジョン話は終わりとなります。最後に霊夢が言ったように、幻想郷では難しい環境、例えば海水浴なんかを楽しめたりするので、今後幻想郷じゃ難しいっていう環境を簡単に再現出来るようになったんじゃないかな。


一応、多数のブックマーク、閲覧数、ユニーク数に自分なりに答えようと長編に挑戦したのですが多分読者様が求めていたのは幻想郷っていう環境での長編だよなって今思いましたごめんなさい。


唐突過ぎたかとは思いましたし、本当はソロプレイヤーのアリスとか別パーティの冒険に修行回とかやりたかったのですが、マジで来年まで続けそうな気がしたので番外編とかでやろうと思います。


何よりリグルちゃん話を書きたいので、はい。リグルちゃんに応援され――


フラン「やめろ」


私「はい」


というわけで次回はバカルテットに応援される話です。


フラン「ころす」


私「はい」


それでは。

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