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東方逆接触  作者: サンア
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ダンジョン話その五

お出かけは次回になりました。


 彼の朝は早い。空が白みを帯びてる頃にはもう起きて、身支度も整えている。夜明け前には目覚めてしまうそうだ。


 普段表情の変化に乏しい彼だが、その日ばかりは少し驚いた。博麗神社以外で目覚める事はよくあるが、ベッドで起き上がるのは久しぶりだ。


 一瞬、紅魔館に泊まったのだったかと考えがよぎったのは、隣で安らかに寝息を立てるフランの存在があったからだ。


 しかし周りを見渡して思い出した。そうだ、自分達は理屈や仕組みはわからないが、通常とは時間の流れが違う世界にいるのだった。


 その世界で一日過ごした訳だが、現実では数秒も経過していないようだ。


 そんな遊び――Dゲームが今、幻想郷に普及しつつある。


 起き上がった彼はまず窓の外を眺めた。人通りはまずまずで宿に入ってくる客も多数いた。


 朝と夜では出現するモンスターや入手出来るアイテムが違う。Dゲームを楽しむには夜の探索もおろそかには出来ない。


 身体の具合や寝起き特有の気だるさは現実と変わる所はない。着替えは冒険者カードで簡単に行えるが、その他の支度は現実と同じようにしなければならない。


 彼は冒険者カードを操作して歯ブラシやタオルを取り出すと、部屋の角にある洗面台へ歩いた。水道は通っている。


 歯みがきや洗顔を済ませると手持ちぶさたになったことに気付く。朝食付きだから料理をする必要はない。


 どうしたものか。普段なら読書なり何なりとするが、流石に私物まではこの世界でも再現されない。


 そういえば喫茶店があった。宿屋と同じく二十四時間営業で、ミルクシチューと焼きたてのパンが名物だとレミリアが教えてくれた。


 パンとシチューは朝食で出るそうだから我慢して、お茶だけでも味わってみよう。


 彼は霊夢達が眠っているのを気遣い、極力音を立てないよう静かに部屋を出た。


 左前方に下りの階段がある。降りていくと左手に大浴場へ通じる道があったが、今は用無しだ。


 右手に進むと宿屋のカウンターがある部屋に出た。カウンターの他に、二つのテーブルが窓際にあり、窓の端々には外側に設置された花壇の花が顔を覗かせている。


 後は温暖な気候の今では使われていない暖炉と、出入口の扉、そして喫茶店へ通じる通路があった。


 カウンターからの女将の挨拶に手を振って応えながら喫茶店へ。数人の客の中に一人、見知った顔がいた。


 むこうもこちらに気付いたか、笑みを浮かべ手を振っている。彼はそこまで歩くと同席していいか尋ねた。


「もちろん、構いませんわ」


 十六夜咲夜に断る理由はなかった。むしろお願いしたいくらいだ。


 テーブルは白いテーブルクロスで覆われ、中心の花瓶は造花で彩られている。飲食店で強い香りのする花は使えないから造花にしたのだろう。花瓶の隣にはメニューが横たわっていた。


 他には白磁のティーカップとティーポット、サブレを盛り付けた白磁の皿がある。咲夜が注文したものだろう。


 花のように広がった縁の内側に褐色の道があった。道の先にはうっすらと咲夜の上唇の痕が残されている。


「おはようございます」


「おはよう」


 挨拶を交わすと彼はメニューを手に取った。紅茶、コーヒー、ミルク、フルーツジュースと在り来たりな飲み物ばかりだが、紅茶やコーヒーは茶葉や豆の段階から選べるし、ミルクは品種から、フルーツジュースに至っては果物の種類やフルーツの組み合わせまで自由に選べるとのこと。


 食べ物のメニューも豊富だ。シチューやグラタンなどの食事系からケーキやクッキーなどのお菓子も多い。中にはモンスターが材料の物もあるらしい。


 彼はミルクティーとスコーンを注文した。注文を受けた店員はピンク色の髪を頭の左右で二つに丸め、それを白いカバーで覆っていた。シニョンだかシニヨンだかお団子頭だとか呼ばれている髪型で、白いカバーはシニヨンカバーというそうだ。


 ちなみに、丸めた髪といったが中身が髪なのかどうかはわかっていない。アクセサリーかもしれないし、別の何かが入ってるのかもしれない。


 ほどなくしてミルクティーとスコーンが届いた。食器はどちらも白磁。この店は白磁にこだわっているようだ。


 三角形のスコーンからは淡いバターの香りが漂っている。傍らにはクロテッドクリームとベリー系のジャムが添えられていた。


「いただきます」


 彼は両手を合わせ、軽いお辞儀と一緒に言葉を発した。一つ一つの丁寧な仕草に咲夜は感心した。食べ物に対しての真剣が伝わってくる。


 彼はちぎったスコーンにクロテッドクリームを少し塗って口へ運んだ。クロテッドクリームの濃厚なミルクの風味があっさりとしたスコーンと調和している。


 スコーンとは白いパンという意味だそうだが、食感は柔らかなビスケットのようでホロホロと崩れていく。ややパサつくが、ミルクティーを口に含むとちょうどよいしっとり感が生まれた。


「お味は?」


「美味しい」


「それはようございました」


 咲夜は笑ってティーカップを傾けた。


「にしても、早起きなさいましたね?」


 まさか彼が来るとは思ってなかった。これでも咲夜は少し驚いていたのだ。


「咲夜も」


 確かに早起きなのは咲夜も同じだ。


「私は毎日のことでござい……ますわよね」


「うん」


 ああそうか。彼も主な仕事は家事なのだから、早起きしていても何一つおかしなことはなかった。


「料理をすることはありますが、掃除や洗濯は基本的にしませんから……手持ちぶさたといいますか……」


「うん……だから来たの」


「私もですわ。宿に泊まる時は日課のようになってしまいまして――」


 二人が談笑を続けている間に時計の針は進んでいき、日が上り始める頃にはお互いのパーティが下りてきた。


 魔理沙や美鈴なんかはまだ寝ぼけ眼だが、霊夢はしっかりと目が冴えているようだった。彼や咲夜に比べたら遅いが、霊夢も充分に早起きを心掛けている。


「これからご飯だってのに食べてたの?」


 霊夢が彼の隣に座りながら、彼のスコーンを手に取って口に運んだ。


「ずいぶんあっさり味ね、美味しいけど」


 続いて彼のティーカップを手に取り、口元で傾けた。まったくもって遠慮を知らない巫女ガンナーだ。


「ジャムかクリームつけるともっと美味しいよ」


 彼は当然怒っちゃいない。むしろ霊夢の為に残しておいたのでは、という気がしてきた。


「そうなの? また今度試してみるわ」


 彼はその言葉に頷いて店員を呼んだ。空になった皿を下げてもらい、同時に朝食の注文をする。


 他にも続々と冒険者らしき者達が喫茶店へと入ってきた。魔理沙や美鈴のように眠気を携えている者もいれば、霊夢のように冴えた目付きで席につく者もいた。


 そんな中、一人酷く濃い隈を目の下につけた男がいた。疲れが残る身体で夜更かししたのか、足取りも悪くふらつきながら歩いている。


 それを意識が覚醒しだした魔理沙が怪訝な顔付きで見ていた。非常にリアルに近い世界観なのだから、不眠に近い症状もあるのかもしれないが……何故かそれに凄い違和感を抱いた。


 男が数歩進んで一つテーブルを横切ると、そのテーブルで注文を受け付けていた店員が男に気付かずに振り返った。それだけなら問題なかったが、店員は振り返りながら歩き始めていた。完全に前を向く前に歩き出したので男に気付かず、ぶつかってしまった。


 店員に勢いがあり、男は力が弱っていた。その為店員は男を押し倒す形になってしまっていた。しかも、自身の胸を男の顔に押し当てている。


 そのあとは店員と男の謝罪やら何やらのやりとりが数分あって、事態は済んだのか頭を下げる店員を背後に男は“しっかりとした足取り”で席へ歩いていった。


「イベントよ」


 男を凝視していた魔理沙へ、咲夜が口を開いた。


「イベント?」


 咲夜へ目線を向けながら反復する。


「そう、条件を達成するとああいうイベントが発生するの」


 ストーリーを際立たせる為のおまけだそうで、特定のNPCや施設に設定されているのだとか。


 そしてこういうイベントを進めることで、NPCと親密になったり特殊なアイテムを入手したりと特典がある訳だ。


「イベントの時はね、身体が勝手に動いたり、普段と違う状態になったりするの」


 違和感の正体はそれか。魔理沙は納得して頷いた。それを見て咲夜は微笑みながら席を立った。同時に彼も立つ。


 何事かと一瞬考えたが、すぐにこの場にいない者達を起こしにいくのだとわかった。


 階段を上る途中、咲夜は彼に耳打ちをした。喫茶店で彼を見た時から思い付いていたことがあったのだ。



 レミリアを深い眠りから覚ましたのは窓から差し込む太陽の光と、身体を揺さぶる白い手だった。


「ん……んん」


 目を閉じたままなのは眩しさで目が痛むからで、寝起きがやや不機嫌なのはいつものことだ。


「咲夜……カーテンを……」


 シャッと滑る音がして光が弱まった。この世界では現実のように太陽を浴びて灰になるだなんてことはない。陽を浴びて痛みがないのには感動したが、寝起きばかりは話が別だ。


「ありがと……」


 まだ目は開けない。痛みが収まるまで開けるつもりがないのだ。


 白い手はレミリアのワイシャツのボタンへと手をかけた。レミリアの寝巻きはぶかぶかで膝まで丈のあるワイシャツとドロワーズだ。


 ボタンが全て外されると、レミリアの薄い胸板が晒された。肌着の類いはないが、非常に肌触りの良いシャツなので肌を傷めたりはしない。


 腕を伸ばしシャツが脱がされると、レミリアは寝転がって軽く腰を上げた。すると白い手は手際よくドロワーズを脱がしていった。


 レミリア・スカーレットは今、生まれたままの姿となった。まあ毎日のことだ。


 寝起きに着替えるのは当たり前かもしれないが、着替えさせてもらうのは少なくとも大人には当たり前ではない。


 見た目だけなら着替えさせてもらっても違和感はないが、レミリアは子供扱いされるのを嫌うし、そもそも数百年生きてる人外だ。


 人の常識が当てはまらないとか、子供の時に吸血鬼と化したので精神的には幼いままとか、そういう難しい理由ではない。


 洗濯の手間だ。寝起きにボーッとするのは一向に構わないが、着替えだけは早くしてもらわないと洗濯を始められない。


 だから毎日咲夜に服を脱がされるのだ。そしてそれにもすっかり慣れた。


 Dゲームの世界では洗濯など必要ないが、服を脱ぐという行為をしないと気持ちが収まらなかった。服を着たままカードを操作して着替えると、なんだか気分が落ち着かない。


 レミリアは目を閉じたまま枕元の冒険者カードへ手を伸ばした。枕の下……ない……横か……ないな……机に置いたままだったか?


 レミリアは目を開け、部屋のテーブルへとのっそりと首を回した。


「はい」


 彼が冒険者カードを差し出してきた。


「ありがと……ううううううううううううぅーっ!?」


 冒険者カードを受け取ったと同時に布団を勢いよく引っ張って被った。


「しゃ!? ……咲夜は?」


 心臓が爆音を発して鼓動しているが、レミリアは冷静さを装って質問した。滝のように汗が流れてシーツや布団を濡らしている。別の何かと勘違いされそうだ。


「フラン達を起こしに行ったよ」


「(あのド天然メイド長がっ!)」


 汚い言葉を心に留めれたのはレミリアが淑女で、更に彼の存在を意識したからだ。


 そして咲夜はレミリアが喜ぶと思って彼にレミリアを起こすように頼んだのだ。起こす時の着替えを含めて。


 レミリアは急いで冒険者カードを操作した。流石彼らより長い時間Dゲームを体験してるだけあって、焦っていても操作は確実だ。


 昨日の鎧ではなく、普段のドレスに近い服装になると布団を翻してベッドを降りた。


「ごめんなさい……はしたない姿を見せたわね」


 レミリアは赤面していた。彼に肌を晒したのは嫌ではないが恥ずかしかった。でも一番恥ずかしいのは、彼を咲夜と勘違いしたことだ。


 レミリアが軽く頭を下げると、その頭に柔らかな感触が訪れた。彼の白い手だ。指をくしにしてレミリアの髪を透き通していく。


 そういえば寝起きで髪もボサボサだった。また一つ恥じらいが増えたが、今のレミリアには多幸感以外何もなかった。


「綺麗な髪」


 彼の言葉に力が完全に抜け、彼へ寄り掛かる。彼に受け止められ背中に手が回され多幸感が膨れ上がる。


「(あられもない顔付きになっちゃってるんだろうなー)」


 と頭の中は驚くほど冷静であったが感情という高い壁がそれを表に出すのを阻んでいた。


 こうなったら流れに任せるとレミリアは決めている。抗いようがないのだからそれも仕方ない。


 感情に任せて彼を押し倒してみるのもいいかもしれない。いや力が抜けてるから不可能か……。


 寄り掛かる時に彼はベッドに座っている。体重を掛けられていてはバランスを保てないからだろう。


 レミリアは彼の膝に乗っている状態だから、力さえ入れば彼は非力だ、押し倒すのは難しくない。


 まて押し倒すとか何を考えているのだ。ダメだ、彼と触れ合うと頭が煩悩で支配されておかしなことが当たり前のように感じてしまう。


 彼を傷付けた時に後悔したはずだ。もう彼をそんな目にあわせたくない。もう感情のままに愚かなことはしない。


 身体は力が抜け府抜けた様を見せているが、レミリアの精神は鋼鉄の鎧の如く頑強さを誇っていた。


 とはいえ現状は楽しもう。レミリアは彼との触れ合いに対する多幸感だけは律せずそのままにした。


 すると彼の手がレミリアの頭から離れた。もう至福は終わりか、とレミリアが顔を上げると彼の人差し指が口の前に差し出された。


 じわりと指先から血が滲み出る。鋭利な切り口から刃物を使ったのだとわかった。


 レミリアはそれを見て驚愕した。切られたにしては突飛で限定的だし、そんな気配はなかった。


 自分で傷付けたのだろう。指の位置からするに、レミリアに飲ませるつもりでやったらしい。


 なぜそんなことを? レミリアに考える余裕はなかった。彼の血の匂いに酔っていたからだ。


 ポタポタとレミリアの口元へ落ちる雫が、レミリアの理性と思考を奪いつつあった。


 我慢出来ずに舌なめずりをした。この時レミリアは完全に理性を失った。


 両手で彼の腕を掴み、人差し指へむしゃぶりついた。ひたすらに舌を動かし吸い続けた。唾液を弾く水音が下品に響くが気にしない。


 彼の血を喉に送ると同時に彼の記憶が流れ込んできた。こんなことは初めてだ。Dゲームという世界観がレミリアの能力や特性に影響した結果かもしれない。


 Dゲームを始めるいきさつから、世界観への感動、初めての戦闘、モンスターの味――記憶の最後に登場するのは咲夜だ。


「もしよろしければ、お嬢様に血を飲ませてあげて下さい」


 そういって彼に細身のナイフを手渡した。とてもとても、輝いてるかと思えるくらいに満面の笑みを浮かべて……。


「(あのド天然メイド長がああああああああああああああああっ!)」


 最後の理性で浮かんだ言葉がそれで、以降レミリアの記憶はない。



このあとめちゃくちゃ退治された。


ラッキースケベに出会った冒険者ですが、シニヨンの店員さんとは別の店員さんによるラッキースケベでした。


好感度が上がると結婚出来たりもします。もうゲーム化しろよって感じですね。


フラン「おい」


私「次回ちゃんとやるから本当にちゃんとやりますからっ」


フラン「……最初から信用しなければいいんだ」



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