【南北朝の終焉とその後の火種編】第一段 冥府、死者に溢れること
『徒然草』を書いた吉田兼好は、死後、冥府の小野篁のもとで、下界(人間界)の様子を報告する務めを仰せつかりました。
生前は「つれづれなるままに」気の向くまま筆を執っていた男が、今度は義務として、南北朝の動乱から数百年先の未来まで、下界の歴史を見届け、書き続けることになります。
本作はそのシリーズの第一部。南北朝合一という慶事の裏で、兼好が抱いたある小さな不安から、物語は始まります。
よろしくお願いいたします。
【南北朝の終焉とその後の火種編】第一段 冥府、死者に溢れること
-------------------
これは我がまだこの話に加わる前、篁様から後になって聞いた話なんだが。
なんでも、あの閻魔様がすっかりお怒りだったらしい。理由は「仕事が回らない」。
いや、閻魔様といえば冥府の頂点に立つお方だろう、それが人手不足で愚痴をこぼすというのだから、下界の役所と大して変わらないじゃないかと、我は聞いた時つい笑ってしまった。
事の発端はこうだ。近頃、下界では南朝だ北朝だと争いが絶えず、もう二十年以上も刃を交え続けている。
当然、死人の数もうなぎのぼりで、冥府に運ばれてくる魂は日に日に増える一方。
裁きを待つ者たちの行列が、いつまで経っても途切れないという有様だったらしい。
閻魔様は帳面をめくりながら、篁様にこう尋ねたそうだ。
「近頃、裁きが一向に進まぬではないか。何が起きておる」
篁様は正直に答えたという。
「恐れながら、下界を見張る者があまりに少のうございます。少人数でとても見きれる数ではございません。人手が足りぬゆえ、裁きにも遅れが出ておるのです」
閻魔様はしばらく考え込んで、こう言ったそうだ。
「なるほどな。ならば人を増やせ。良い人材がおれば、遠慮なく連れて参れ」
篁様は少し考え込んだ後、ふと何かを思いついた顔になったという。
「一人、心当たりがございます」
……というわけで、我の名前がここで挙がったらしいんだが、この時の我はまだ、まさか自分のことだとは夢にも思っていなかった
新しいシリーズ【兼好法師の黄泉報告書】になります
南北朝が始まって約10年後に亡くなった兼好法師
その後40年以上続く南北朝の争いを見たらどう思うのか?
また、後の応仁の乱を見てたらなんとつぶやくのかが、気になって書き進めた作品です
シリーズとしては
【南北朝の終焉とその後の火種編】
【応仁の乱編】
【下剋上編】
【下剋上の結末編】
【武力とは何か編】
の5編からなります
始めは5話分アップさせていただきます
その後は1日3話ペースでアップ予定です
気長にお楽しみいただければ幸いです
竹の春と猫




