猫の話
今回はいつかの猫の話です。
むかしむかし、あるところに白猫と黒猫がいました。白猫は街で人と暮らし、黒猫は森で動物と暮らしていました。
ある日、黒猫は森で捨てられた赤ん坊を見つけました。さすがに見殺しにする気にはなれなかった黒猫は、森の動物たちに頼んで赤ん坊を森の入口まで運んでもらいます。そして黒猫は白猫を呼びに街へ行きました。
黒猫は不幸の象徴です。反対に白猫は幸福の象徴です。だから街の人間は黒猫を忌み嫌いました。黒猫に石を投げる人もいました。ですが黒猫はそれを気にせずに街の中を歩きます。
街の人間は黒猫を見ると家に閉じこもるので、黒猫からすると人間を見ないで済むので好都合でした。街の異変に気付いた白猫が黒猫のもとへやってきます。
「なんのようかしら」
「森に人間の赤子が捨てられた。取りに来てくれ」
「まあ!そういうことなら行きます。少し待っていてください。人間の大人を連れてきます」
数分後、白猫は男を一人連れてきました。男は黒猫を見て嫌な顔をしながら白猫に話しかけます。
「どうしたんだ白猫?お前がそんなに鳴くなんて珍しいじゃないか。それに黒猫までいる」
「にゃうん」
黒猫は男と白猫を確認すると森に向かって歩き出しました。その後ろを白猫と渋々といった様子の男が文句を言いながらついて行きます。
しばらく歩くと、一行は森の入口に着きました。赤ん坊の周りを動物たちが囲んでいます。このままでは男に赤ん坊を渡せません。見かねた黒猫がひと鳴きすると、動物たちは急いで森に帰っていきました。
「にゃ!」
「なんでこんな場所に赤子がいるんだ!?このために黒猫は街に来たのか」
「にゃうん」
「連れて帰れって言ってるのか?白猫。まあ、お前がそういうんだったら・・・・・・」
男は赤ん坊を街へ連れ帰りました。その場には白猫と黒猫だけが残りました。
「助かった、白猫。森では人間を育てられないからな」
「私は人間が好きよ、見捨てるわけないじゃない。もし彼が連れ帰るのを拒否しても別の人間を連れてくるつもりだったもの」
「そうか、じゃあ世話は任せた。もう森に近づけるなよ」
「当たり前よ。人間は必要な時しか森に入らないわ。それが決まりだもの」
白猫はそう言うと、男の後を追って街へ帰っていきました。
それから月日が流れ、赤ん坊はすくすくと成長し十六歳になりました。黒猫と白猫はもうそろそろ寿命を迎えます。
黒猫は自分の寿命を悟り、最期にかつて森で見つけた赤ん坊に会いたいと思い、街へ行くことにしました。
街の人間は相変わらず黒猫を忌み嫌っています。ですが、この日は珍しく一人の少女が黒猫に自分から近づいて来ました。
「黒猫さん、あなたはどこから来たの?」
「にゃ!?」
「ふふ、可愛い。私、あなたにずっと前に会ったことがある気がするの」
「にゃうん・・・・・・」
黒猫は困ったように返事をします。そこへ白猫がやってきました。少女が黒猫に話しかけているのを見ると、黒猫に威嚇しました。
「シャー!」
「ねえ白猫さん、この黒猫さんを知ってる?」
そんな白猫を少女はニコニコと微笑みながらなだめ、黒猫のことを聞きます。少女は猫の言葉は分かりませんが、なぜか白猫と黒猫が知り合いな気がしました。
「なんでここに来たの黒猫!」
「昔森で見つけた赤子をひと目見てから死のうと思ったんだ。あの赤子は元気か?」
「その赤子は、あなたの目の前にいる少女よ。今年で十六歳になったわ。街の人間からも愛されてる、良い子よ」
黒猫は、目の前にいる少女がかつて森で見つけた赤子だと知り驚きました。もしかしたら少女は頭の片すみで黒猫と森で出会ったことを覚えているのかもしれません。黒猫は少女が街の人間にひどい扱いを受けていないことを確認してほっとしました。
「この子がそうなのか!?」
「もうひと目見たでしょう。森へ帰りなさい。この子があなたに興味を持つ前に」
「ああ、満足だ。帰るとしよう」
白猫は少女に看取ってもらうと決めていました。ですが、黒猫が少女を見つけたからでしょうか、白猫には黒猫と少女が出会ったら少女は黒猫のことを看取るだろうという謎の確信がありました。
白猫は少女を取られたくありません。なので黒猫が早く帰るよう急かします。黒猫は白猫に言われるがままに森へ向かって歩き出しました。ですが、そんな黒猫を少女が引き止めます。白猫が恐れていたことが現実になってしまいました。
「黒猫さん、待って!もしよかったら私の家に来ない?」
「にゃあ!?」
「シャー!」
「白猫さん、怒ることないでしょう?この子はきっともうすぐ寿命だわ。それまで私の家にいてもらうだけよ」
少女は逃げようとする黒猫を捕まえ抱きかかえました。黒猫はどうするのが正解なのか分からず、少女の腕の中で大人しくしています。白猫はそんな黒猫をずっと睨んでいました。
黒猫を連れて帰ると決めた少女は、帰りに猫用のエサとクッションを買いました。店の人間に黒猫を飼わないほうがいいと少女は言われましたが、その意思が揺らぐことはありませんでした。そうこうしているうちに少女が暮らす家に着きました。少女の家は街で一番森に近い場所にありました。
「黒猫さん、ここが私の家よ。一人で暮らしてるの。ちょっと待っててね、今ご飯を用意するから」
「なーう」
黒猫はここで余生を過ごすのも悪くないと思いました。
「ふふ、私ねあなたに会うために今まで生きてきた気がするの。だから私にお世話させてね」
少女は不思議なことを言いました。黒猫はそんな訳はない、と思いましたが少女が言うならそれが正しい気がしてきました。
黒猫と少女の生活は短いですが、とても充実したものでした。ゆったりとした平穏が過ぎていきました。
少女が黒猫を拾って一年ほど経ったある日の朝、黒猫は起きませんでした。少女は黒猫がもう二度と起きないことをさとると、森の入口へ行き丁寧に埋葬しました。
「じゃあね、黒猫さん。あなたとの日々は楽しかったよ。また会おうね」
少女が街へ戻ると、街の住人が白猫の葬儀をしていました。白猫は、黒猫と同じ日に死んだのです。それを知った少女は白猫に花を添えました。
「白猫さんも、さようなら」
少女はその日のうちに街からいなくなりました。その後の行方は誰も知りません。
黒猫は目が覚めると草原にいました。そこには白猫もいました。白猫は黒猫を睨んでいました。
「やっぱりあの子はあなたを選んだ」
「なんだ、お前も死んだのか」
「そうよ、次こそはあの子の隣は私のものよ!」
「知るか。それくらいあの子の好きにさせてやれ」
さて、最後に一つだけ語り部の神さまが教えてあげましょう。『黒猫と少女は何度も出会っています』。ふふ、次はどんな形で出会うのか楽しみです。不思議ですねぇ、そういう運命でもなんでもないのに。まあでも、これだけは言えるでしょう。
少女と黒猫は、いつまでもいつまでも共にいましたとさ




