Ars Nova
「なんか現実を疑いたくなる1日だったなぁ…」
カーミラと言う町をレミさんと一緒に歩いて…アルバートさんの家に戻ってきたところだ。
足が棒のように硬いし重い。
車がないってすごい不便なんだな…と言うか車の偉大さを実感した。
「異世界の職人たち…か」
今日一日を振り返った僕は、何よりも印象深測った【魔石】を思い出す。
ぼんやり赤く輝いていた宝石のような魔石。
あれが魔法の輝き。魔法の温かさ。
あの魔石で高音が長時間保たれるのならば凄いよな。
魔石自体が消耗品なのか、魔力?とか何かが供給されるのか…。
どちらにせよ火炎を使わないのなら、やり方によっては材料の表面の酸化が最低限で抑えられる。
真空焼入れのような事も不可能では無いかもしれない
「魔法…興味あるなぁ」
そのまま僕はベットに倒れ込む。外はもう暗い。異世界の夜は随分と早いな…季節のせいかな
そのまま瞼が重くなったように目を閉じると…気づいたら僕は眠ってしまった。
つんつん…
つんつんつん…
(熟睡ですね)
夕食の支度が出来て、ちょうどお父さんも帰ってきたのでご飯にしようとマワルさんを呼びに来たんですが…起こすのを躊躇うほどのいい寝顔です
「…」
そう言えば…家族以外の寝顔をこんなに近くで見たのって…初めてかもしれません。少しドキドキしてきました。
「ふぅ…」
それにしても…マワルさん。北の森とカーミラの町の真ん中に倒れていたようですが…なんでそんなところに居たんでしょうかね…?
道に迷って…行き着くところでは無いですし…
なにか目的を持って向かったが、何かかが起きて記憶を失ってしまった…
もしくはどこか遠いところから転移させられてきた…?
にしては…普通の人ですよね…?
なにか武闘が優れているとか、特殊な魔法を使える訳でもないようです。むしろ武器を初めて見たような反応でしたよね
「不思議です」
つんつん…
「んぁ?」
「あ、おはようございます。夕食の準備ができてるんですけど…どうしますか?」
「あぁ…ごめん。今行くよ…すっかり寝てたな…」
「いい寝顔でしたよ」
「やめてくれ…」
でもマワルさんは面白い人です。
グレムさんにあそこまで気に入られるのもそうですけど、全然話していて嫌な感じがしないというか…なんと言うか…
きっとこれが裏表がない人…なんでしょうか?
だからなのか…私も少しつい話し込んでしまうんですよね
「おぉマワル、カーミラの雰囲気はどうだったよ」
「いや凄いですね! 見たことないものばかりでしたよ! それに職人街…と言うですかね! 皆さんとても親切ですし、何より技術に驚かされました」
「そうなんですよ! お父さん! マワルさんったらグレムさんにすっごい気に入られて!」
「ほぉあの爺さんが…あの周辺の奴らはいいもん作るが…ちと気難しくてなぁ」
仕事から帰ったばかりのアルバートさんがジャケットを脱ぎながら席につく。
いつものパターンなのかレミさんがアルバートさんからジャケットを受け取り、代わりにミルクを渡す。
「んじゃ、マワル。うちの商会での初仕事。お願いできるか」
「今からですか?」
「いや、食後だよ。なに、隣の倉庫で馬車に荷積みするだけだけどよ」
「わかりました」
そうだ。意識薄れてたけど俺ここの社員になったんだもんな。
この訳の分からない世界で職を得られて、生活の基礎をアルバートさんはくれたんだ。
頑張らなきゃな
「マワル、今からやってもらう作業は毎日の日課と思っていい。まずは…」
僕は言われた通りに30箱程の木箱を馬車に積み込み、その他に伝票のようなものを整理した。
「…やっぱり字が読める」
「どうしたマワル」
「あ、いえ!」
伝票には当然異世界の文字で色々書いてあって、何故か視界に入れると勝手に意味が分かるというか…普通に日本語を見ている感じになって、不思議な気分になる。
世の中…?には言葉や文字を覚えることから始まる異世界ものだってあるらしい。
それに比べたら…随分と優しい設定なのかもしれない?
「ふぅ」
最後の1箱を馬車に載せた僕は、結構な食後の運動になって少しばかり汗をかいていた。
しかし積み込み自体は何ら難しいことはなく、木箱だからその分重くはなるが形が保たれて指が引っ掛けやすくてダンボールよりかは持ちやすいとは感じた。
他にも麻袋みたいな感じのやつと、網に入った動物の毛皮っぽいやつとか
結構匂いがキツイのもあったが、難なく運べる物が大半を占めてた。
「これが夜の積み込み作業な。んで毎日夕方にここに荷物が集まってくる。今までは運んできてくれた人に荷降ろしまでやらしちまってたが…」
「なるほど。わかりました、夕方に集荷してきたやつをここに並べて置けばいいんですね」
「そういう事だ。一応お前のことは他の奴らにも伝えてはあるから、荷卸に関してのこまけぇことはレミにでも聞けば問題ない」
「わかりました」
「…そんなところだな。もちろんしばらくは俺やレミが付くけど、そのうち1人でやる事になるからな。そうなったら別の作業もしてもらうかもしれないな。まぁここにいる間はこんな感じだ」
懐かしいな…この感じ。
会社に入社して1週間はこんな感じにずっと教えられてたよな
1つ覚えたら、2つ覚えることが増える。
それの積み重ねで…
「加工屋から商人になるとは…」
「ほいこれ。これで体吹いとけ」
「これは…あぁそういう事ですね。わかりました」
水の入ったバケツのような容器とタオルを渡されて、そのまま僕は使っていいと言われた自室に戻った。
言わずもがな、ここに来て初めて目を覚ました部屋だ。
「風呂は無いんだ…そっか」
少し寂しいな
もしかしたら一般家庭にないだけで、公衆浴場的なものはあるのかもしれないけど、当分は体拭くくらいしか出来ないのかな
とりあえず上着を脱いでタオルを水に浸けた。
(ん…あったけぇ…?)
暖かいと言うより生温いって感じ?
わざわざお湯沸かしてくれたのかな…
と思ったらバケツの底に見覚えのある赤い石が転がっていて、地味に赤く光っているようにも見えた。
「魔石ってやつか」
…。
ちょっと興味が湧いて、気づけば僕の腕がバケツの中に入っていた。そのまま魔石を恐る恐る指先で突いて、大丈夫そうだと思ってそっと取り出してみた。
取り出すとほんのり暖かい…と言うか普通に熱いって感じる
「これが魔せk…っ!?」
マジマジと見つめた瞬間、少しだけ輝きが増したと思った直後だった。
付いていた水滴がジュワッと蒸発した。
「えっあっ!? あぁっつぅ!!!!! あ、やべっ! 熱っつ!!!!」
突然温度が跳ね上がって手に持ってられないレベルに発熱しだした魔石に思わず悲鳴を上げてしまった。
落とした魔石は運良くバケツの中に戻って、ジュワァァァっと湯気を昇らせる。
「マワルさん!? どうしましたか!?」
「うぅっ…」
「えっぇ…何がどうなって…まさかっ!」
駆けつけてきたレミさんの視線が右手を抑えてうずくまる僕と、足元で尋常じゃない湯気を放つバケツを往復して慌てた様子で冷たい水を持ってきた
「何やってるんですか! 魔石を直で触ったんですか!?」
「…ごめんなさい」
「あぁもう…手、大丈夫ですか?」
「指先…少し皮持ってかれた…手が濡れてたのが不幸中の幸いかな」
「痛そう…冷して待っててくださいね」
持ってきてくれた冷水に指を突っ込んで、絶賛後悔の真っ只中だった。
突然温度が上がるなんて想定外…
どうやら薬と包帯を持ってきてくれたみたいで、レミさんは恐る恐る僕の火傷で皮膚が少し破けたり水膨れになってる指先に薬を塗り広げてくれた。
「きっと痛いですよ」
「ぐぅっ!!」
久しぶりに感じるガチの激痛に食いしばる顎が震える。
やべぇ…涙出る
親指、人差し指、中指が揃って結構な火傷をしてしまって早速明日の仕事ヤベぇんじゃないかと内心焦る。
痛みに耐えるので必死で気づかないうちに火傷した指に包帯を巻いてくれていた。
「…これで多分大丈夫だと思います。明日悪化してるみたいでしたらお医者様に見てもらいに町まで行きましょう」
「…迷惑かけたね。すみませんでした」
「良いんですよ! 一緒に暮らすんですから家族みたいなものです! この程度の火傷で済んでよかったですよ…。でもどうして魔石を掴んだりしたんですか?」
「純粋に興味があって…」
「魔石…もしかして知らなかったんですか?」
え!? そんなことも知らないの!? って顔をされたから、なんだか恥ずかしくて小さく首を縦に振った。
「魔石は読んだとおり魔力を秘めた鉱石です。秘める魔力によって呼び方が色々ありますがこれは赤魔石って言って、魔力を熱に変える力を持ってます」
「通りでこんなに熱いのか…もしかしてグレムさんのとこの窯の魔石と同じ?」
「基本的にはそうですね。もっとも炉に必要な高温を生み出せる魔石はもっと純度の高い高品質な魔石ですけどね。これはグレムさんのとこから使用済みのものをたまに貰うんですけど、それの余りです」
「あぁ…メンテナンスとかしてたね。にしても使用済みって言っても凄い熱なんだな」
「そりゃ腐っても魔石の原石ですし、空気中の魔素を取り込んで火傷するくらいには熱くはなりますよ。なので魔素密度の低い水中で保管するんです。ですけど完全に魔素とは隔離できないので水が暖かくなる程度に発熱します。便利なので私たちはぬるま湯として使ってるんです」
「まって、だいたい理解出来たけど…その魔素ってなに?」
「もう驚きませんよ…魔素は言ってしまえば魔力の元になるものです。魔法使いさん達や1部の種族は、魔素を取り込んで魔力という形に変換して魔法を使うんです。私達は魔素を変換できる力がないので魔法は使えませんが、魔道具って言ういわば変換器を使ってちょっとした魔法なら使えます」
…整理するか。
まずこの世界には魔法という力が存在するらしい。
そしてその魔法というのは魔素をというものを源にして、魔法に適性がある体なら魔素を魔力に変換して、魔法…と言うのを使えるらしい。
つまり魔法を使えるか使えないかは、魔素を使える形に変換できるか否かという事だな。
しかし魔法に対して適性がなくとも、魔道具という人工的に魔素を魔力に変換する道具を使うことで、適性がなくとも魔法が使える…と。
まぁレミさんのニュアンス的に結構限定的な魔法みたいだな。
んで魔石。魔石はこの世界に存在する鉱石の一種で、魔素を取り込んで色んな事を引き起こせるらしい。
「つまり魔石も一種の魔道具?」
「広く言えば…そういうことですね。ただし、魔石そのものは無尽蔵に魔素を取り込んでしまって制御出来なくてさっきみたいなことになってしまうので、魔道具として使うならそれなりの魔法的処理が必要ですけどね」
「リミッターをはるってことかな…。しかし驚いたなぁ…いい勉強になったよ。こんな夜に色々聞いてごめんね」
「いえいえ、これくらい常識ですから。それより…寒くありませんか?」
「あ…すっかり忘れてた」
そうだ
火傷のことで頭いっぱいになって、それから魔法のことに頭いっぱいになってすっかり忘れてたけど…体吹いてる最中だった
それも年端も行かない女の子の前で半裸
「あ…その…なんかごめん」
「えっ? あっ…そういう訳じゃなくて! その…指先使えなくて体拭けるのかなって…タオルも絞れないでしょうし」
「な、何とかするよ…手当ありがとね」
僕は動かせる薬指と小指を使ってなんとかタオルを絞ろうと試してみる。
キツイな…うまく力が入らないし…力を入れると小指いてぇ…
「あっ」
よく使う親指、人差し指に中指が全滅してしまって、想像以上に不自由になってた事に気づかなかった僕は、ふとした瞬間にベチャッっと床にタオルを落としてしまった。
「お手伝いしますか?」
「さすがにそこまでは…」
「昔父の背中を吹いていたので自信ならありますよ!」
「そういう事じゃ…なくてですね」
ゴシゴシ
誰かに背中をさすられるなんてしばらくなかったから、少しくすぐったい。
「…痛くないですか?」
「痛くは…ないかな…どちらかと言うとくすぐったい?」
「なっ…全然足りないって言うことでしょうか?」
「いや…そうじゃなくてっ…ちょ…まっ」
そうじゃないっ…そうじゃないんだぁ!!!
「背中が…ヒリヒリする」
なんやかんやあってやっと体拭きが終わって、擦りに擦られて真っ赤になった背中を上にしてうつ伏せでベットに横になった。
1人になった部屋は恐ろしく静か。どこの部屋にもテレビなんかないし、外を走る車も無い。
耳鳴りがしそうなほど静かな夜だ。
腕を大の字に広げて、今日一日の疲労を抜き出すようにベットに脱力する。
「はぁ…」
疲れたけど…さっき寝たせいで眠たくはない。
かと言って時間を潰せるテレビもスマホもありはしないときた。
「そう言えば」
色々あってすっかり忘れてたことを思い出した。
「これだよな…こんなパソコン知らんぞ」
ここに来た時に不思議と手に持っていたバックに入ったノートパソコン。
バックもパソコンもどっちも心当たりはなくて、とりあえず部屋の片隅に放置されていた。
さてさて…これはなんなのか。
チャックを開けてパソコンを取り出す。まぁ至って普通のノートパソコンだ。大きくもなく小さくもない。
白一色の味気ない見た目。
ベットの上で画面を開いて、電源ボタンを入れてみた。
ファンの回る音がして、電源ボタンも光った。
充電はあるみたいだ。
10秒ほどして画面が明るくなった。
【ようこそ、泉海廻さん】
真っ青な画面にぽつんと現れた1文。驚いたことに僕の名前が表示されていた。何度も言うけどこのパソコンを見たのは初めてだし電源を入れたのも今回が初めて。さらに言えば1度も開いて無いんだ。
セットアップもしてないのになんで僕の名前が…?
5秒ほどしてまた更に表示が変わる。
【Ars Nova is starting…】
WindOwsじゃない…? なんだこれ
ars nova? アルス…ノバ…って読むのかな
このパソコンの名前かな
数秒後、パソコンは普通に立ち上がってデスクトップが表示された。
数個のソフトが既にインストールされてるようだけど、どれも余りみないアイコンでどんなものか検討もつかない。
「ふむ」
とりあえず目に付いた【index】と言うのを開いてみる。
「?」
すると直ぐに画面は切り替わり、ダーーーっと文字の羅列が広がった。
【炭素鋼 金属の中で代表的な素材。炭素含有量により様々な特徴が現れる】
「…なんだこれ。素材の説明?」
【アルミニウム 鉄素材に比べて軽量。合金にすることで比強度も大きく変化する。】
他にもステンレス類から銅合金、樹脂まで加工したことあるものの特徴がズラっと並んでいる。
どんどんと下に視線を落としていくが、あるところで空欄が現れた。
【????】
【????】
【????】
・
・
・
なんだかんだ…ほとんどがハテナで隠されてる。
クリックしても何も起きない。
「…今は見れない…って感じなのか」
これ以上はどうにも出来ないようなので、そのまま閉じる。
他には…何かあるのかな
【order】
「order…注文?」
クリック。
「これは…」
「マワルさーん! こっちですよー!」
「ほいほい」
翌日。僕はレミさんに連れられてまたカーミラの街にやってきた。アルバートさんは今日も変わらず朝早くから馬車でどっかへ行ってしまった。
これが普通らしい。
それに僕の仕事は本当に夕方に入ってくる荷物の搬入作業と、夜の積込みだけだと言う。なんと言うか…午前中は何もすることがなく、こうして雑用としてレミさんに付き合ってる。
ちなみに今は食料の買い出しに付き合ってるところ。
「本当に助かりましたよ! まだ私馬車は動かせないので、買い出しはどうしても大変だったんです」
「まぁこれくらいなら何ともないよ。それにこうして歩くのも結構楽しいし」
「ふぇ!?」
実際見るのさもの全てがまだまだ目新しい僕にとっては全てが面白いものだ。
ここではどういう生活を営んでるのか、どういう道具があって、どういう遊びがあるのか
(へへぇん! こっちだよ〜)
(あっ居たぞ! かーえーせー! 俺のコマだぞーっ!)
(取れるもんなら取ってみろー! ってわぁっ!?)
「ぬおっ!? っとっとっと…あっぶねぇ」
突然よここら飛び出してきた何かにぶつかって、思わず転けそうになる。
こっちは卵とかあるんだ。
「…って、君、大丈夫かい?」
ぶつかってきたのは女の子みたいだ。それもかなりちっちゃい。
「え…わっ…ご、ごめんなさい!」
(エリカのやつ大人とぶつかったぞ! だっせぇ!)
「いや良いよこっちは。怪我とかなかったかな」
「…うん」
「んじゃ、気を付けてな。前見て歩けよ」
「う、うん…」
なんかめちゃくちゃ泣きそうな顔になってたから、なんかやばそうな感じだったから手早く済ませてバイバイした。
子供泣かせると色々と大変なことになるからね
女の子は逃げるように人混みに消えていってしまった。
「大丈夫かな…あの女の子…レミさん…って、あれ」
やっば…はぐれたっ…
レミさんは俺がこうなった事に気づかないまま先に行ってしまっていた…。
あるのは休日の昼間ゆえの人混みだらけ。
「はぁ…」
まぁ…帰り道くらいは分かる。最悪なんとかなるか…
深いため息を付きながら、視線を落とすと地面に何が落ちていた。
「なんだこれ…コマか?」
それは昔よく見たヒモで回すコマだった。なんの装飾もなくて…と言うか
「見ただけで歪なコマだな…ホントに回るのかこれ」
軸の部分を指でくるっと回しただけで偏芯してるどころか、真円もだいぶ出てない。
彫刻刀か何かで削り出した感じかな
これはコマとしてどうなんだ…?
「まだ正確な円を加工する技術が無いのか、いやいや、あの子の手作りって可能性もあるか。そりゃ悪いこと言ったな」
周りを見渡すが、これを落としたと思われる女の子は見当たらない。とりあえずこれは…持っとこうかな。ここに来ることは結構あるだろうし、また会えるかもしれない。
「コマか…」
「あっ!!!! マワルさんっ! もぉ何してるんですかぁ!」
「お、あんたがアルバートさんのとこの新入りかい? えぇっとなんて言ったか」
「廻です! マワルって呼んでください!」
「お、そうだそうだ。マワルな、俺はジェリコフって言うんよ。これからよろしくよ。とりあえずコレが今日の分だ」
「分かりました!」
日が暮れた頃に1台の馬車がやってきて、これが多分ここに運び込まれる荷物なんだろう。
「ジェリコフさん、今日もお疲れ様です」
「嬢ちゃんか、これ納品書な。ローマのババアがなんでか張り切って陶器類が少しばかし多い。扱いには気いつけてくれな」
「ですってマワルさん! えぇっと…早速ここからここまでの箱を順に下ろしてください」
「りょーかい」
割れ物だと言う積荷をそっと下ろす。プチプチとかまともな梱包材なんて無いだろうから、扱いは慎重に。
売る前に割ってしまっては商人として顔向けできない…。
「よく働くな。あんなのどこで拾ってきた?」
「もぉ…拾ってきたとか言い方酷いですよ? 1週間前くらいですかね、父がカーミラと北の森の間で倒れてたのを連れてきたんです」
「なんだ、やっぱり拾ってきたんじゃねえか」
「もぉ!」
(なんかレミさん楽しそうに話してんな…何話してるんだろ。ジェリコフさんって言ったけ、あの様子だと結構顔見知りって言うか…いやこのフルトレン商会の社員さんか? 僕達だけとは誰も言ってないしな)
「あ、それはさっきのとは分けておいてください。それは出荷まだ先なので」
「うい」
にしても仕事してるレミさんはなんだかんだ初めて見るな…グレムさんのところに見学行った時も、一応業務だと思うけど商人としての本業ではないし。
ほんとえらいな
あの年の女の子なんて、あっちじゃ学校行って友達とだべってて当然なのに、レミさんは立派に働いてる。
文化の違いと割り切ればそれで終わりなんだけどね
「お、終わったか。あんちゃんおつかさん、じゃ明日もよろしく頼むぜぇ~」
「お気を付けてぇ~」
「おつかれさまでした!」
ジェリコフさんは片手を振り、日の沈むカーミラに町に帰っていった。
「結構集まるんですね」
「そりゃ商人ですから! 売り物がなくちゃ始まりません」
「それもそっか。それでこの後は?」
「あとガーゴさんとミヨンさんの荷物が来るので、それを今の感じで捌いてくれればほとんど終わりです。あとは簡単な整理と夜の積み込みですね」
「なるほど」
その後、レミさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら休憩していると、さっき言ってたガーゴさんとミヨンさんがやってきて、簡単な挨拶と荷下ろしが終わったところ
「マワルさん、お疲れさまでした! あとは父が帰ってくるまで特に何もないのでゆっくりしていてください」
「ふぅ…意外と疲れるもんだな」
「おかげさまでいつもよりスムーズに進みましたね!」
木箱を降ろす作業と高を括っていたげど、意外と腰に来るんだ。まだまだ若いと思ってるけど…鍛えなきゃ
僕は今さっきまで積み上げるように並べてた荷物の山を改めて眺めてみた。…我ながら大分運んだ…
「…ん? これは?」
「あぁ、それは…ですね」
倉庫の片隅に木彫りの…馬みたいなものが置いてあった。
結構放置されてるのか日に焼けてホコリがかぶってるし、作りかけか、いろいろ未完成に見える。
「随分と前に父が仕事に行ってる間が暇だったので、気まぐれで彫刻してたんです。でも今は父の仕事とか家事で忙しくてそれっきりですけど」
レミさんもどこか懐かしいのか、作りかけの木彫りの頭をそっと撫でた。
「そのときは今みたいに働いてたりとかしてなかったんだ」
「今よりももっと子供でしたし、それにお母さんがその時はいましたから」
“その時は…”
「なんか…ごめん」
「え? あぁ良いんです。昔の事ですしもう大丈夫です。それよりこの木彫りがどうかしましたか? あ、興味があるんでしたらどうぞ使ってください!」
「え、いいの?」
「今から始める気はないので、マワルさんが興味あるのでしたらどうぞです! 木はここら辺の端材を自由に使っていいですよ」
「…そういう事なら大切に使わせてもらおうかな」
そっか。レミさんのお母さんが見当たらないなと、あえて聞かなかったけどやっぱりもう…
いやいや、これ以上深入りする事じゃないだろ。
今はこれを使って確かめなきゃいけないことがあるんだ。
今日はもう少しかかると思ってたんですけど、思ったより早く終わりましたね
やっぱり男の人ってすごいですね…あんなにあった荷物をあっという間に運んじゃうんですから。
私なら倍とまでは言いませんがもっとかかってしまいます。
「マワルさんが来てくれてよかったです」
さて今日は何を作りましょうかね…
う~ん。
今日マワルさんのおかげで沢山食材買って来れましたし、少し豪勢にしましょうかね
マワルさんの初お仕事記念です。
「あ、マワルさん! 今日何か食べたいものとかありますか? 好きな料理とかでも」
「ん~ 基本レミさんの料理は美味しいし…そんなに料理の名前とかも分かんないからなぁ」
「うぅ…じゃ、じゃぁメインはお肉が良いですか? 魚がいいですか?」
「肉かな」
そ、そこは即答なんですね…
結構お肉料理がお好きなんですかね
「わかりました! 夕食は楽しみにしててくださいね。それよりお出かけですか?」
「あぁ…さすがに部屋の中で木くず出すわけにいかないし、この時間少しやってみようと思って。うまくいけば面白いことできそうなんだよ」
おもしろい?
いったい何をする気なのでしょうか…? 普通に彫刻するわけじゃないんですかね
「そ、そうですか。怪我には気を付けてくださいね。木くずなら隣にある巻き割り場に適当に捨ててくれればいいですから」
「巻き割り…あぁそうか。わかった、ありがと。暗くなる前には帰るよ」
「い、いえいえ」
なんだかこれじゃまるで夫婦の会話みたいじゃないですかぁっ…
もぅ…なんでこんなに顔が熱くなるんですか。
普通に話せばいいんです。こんなにてんぱる必要も理由も皆無のはずです。
「料理料理、そうです! 今は夜ご飯のことを考えなきゃ!」
「さてさて。パソコンさん、いやアルス・ノヴァさんや」
レミさんが料理しているから、すぐそばの煙突から薄い煙が上がる。風もない静かな夕暮れの中、アルス・ノヴァというパソコンを持ち出して起動を待っていた。
20秒ほどで起動すると迷わず僕は【order】をクリック。
そしていくつか項目を選択してコスト0と書かれたものにたどり着いた。
「お願いしますっ…」
それをクリックした。
…
……
………
「わっ!?」
何も起きない…
そう思た矢先、ふと足元みるとさっきまではなかったはずの“それ”が平然と置いてあった。
「よっしゃ!!」
そっか。このパソコン、ただのパソコンじゃねぇな!
俺が異世界っていう非現実的な場所にきてしまったこと。
それを思えばいつの間にか持たされていたこのパソコンだってなにか秘密があるのではと思ったけど
アルス・ノヴァ…どういう意味かは知らんが、これは俺と同じようにあっちの世界に存在したものをここに呼び出すものだ
いよいよ異世界あるある設定になって来たな。
もっとも出せる一覧をざっくり見た感じ、工作機械メインでそれに加えてホムセンで買えるようなもの。いわゆるDIY用品だけで、鉄砲とかのいかにも使えそうな武器はなかった。
剣とかであふれてる世界だから、てっきり強い武器もてるのかなぁって期待してたけど、何のことはなく【工作機械】と【DIY用品】のみだ。
面白くなってきたぞぉ!




