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Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第二章 機械バカと愚者と
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依頼の確認

違和感を抱いたリテラエの反応を見た依頼主の青年は驚いたような表情を取る。


「……気づかれましたか?」

「あ、いえ。少し、違和があったものですから」

「すごいですね。私の腕は我がギルドでも最高傑作と名高いものです。それを一瞬で気づけるとは……流石ですね」

「最高傑作? それに、ギルド……ですか?」

「はい。さっきも言いましたが、今回の依頼はローグ・ルーク個人としての依頼ではなく、私の所属するギルドからの依頼となります」


ギルドからギルドへの依頼。

これは別段珍しいものでもない。

他ギルドへの要請や救援の依頼なども広義ではギルド間の依頼と言うことになる。

だが、それはある程度交流のあるギルドへ向かう場合が多い。

現在、《セレーノ》が協力関係のあるギルドは四つ。

どのギルドも情報は一通り調べて持っているが、その情報の中にローグ・ルークなどという名はない。

新しく入ってと言う可能性もあるが、どのギルドも加入の条件が厳しい。

仮に新しく入ったのだとしても、新人に依頼を受けに行ってこいなどと言うギルドはないだろう。

と言うことは、答えは一つ。

今回依頼をしてきたギルドは、今まで交流の無かったギルド。

前述したが、基本的にギルド間の依頼は交流のあるところに持っていくのが通例。

それができないときは、誰かギルドのメンバーが個人として依頼を行うことが多い。

だが、今回は最初に個人ではなくギルドからの依頼だと明言している。

この場合の目的は一つ。

その依頼相手のギルドと軽くでもいいから、コネクションを作りたいと言う場合だ。

こうなると、利害だけを考えて依頼を受けるわけにはいかなくなった。

金庫がほぼほぼ空な現状なので、依頼を選り好みしている場合ではないかとも思うが、ここで判断を間違うと後々もっと大きな損害に繋がりかねない。

そう判断したリテラエは仮面の下の笑顔の更に下。本当の心のうちで相手に対して警戒を始めた。


「失礼ですが、あなた方のギルドネームをお聞きしても? ギルドネームをお聞きしないことには信用できかねますので」

「あ、そうでしたね。ギルドからの依頼と言っているのに、ボクの名前なんて聞いても意味はありませんね。……ですが、ここで私は少しだけ意地悪をさせてもらいます」

「意地悪?」


リテラエは、表面上は軽く首をひねるだけに済ませる。

心のうちでは全力で思考を回転させる。

もうはっきりと断じてしまうと、リテラエには今から言われる意地悪とやらの内容も、その意地悪に帰すべき答えも知っている。

だから、この表情の動きはあくまでもブラフ。相手の油断を誘うためだけの行為だ。

一応、予想外のことが起こった時のために思考だけは冷やしておく。


「はい。さっきもそちらの方に行ったことではありますが……」


ウルヴァーンのことを指さしつつ言う。

もう興味の対象が移ったウルヴァーンは読書を再開している。

実に自由な男である。


「私たちは、できればあなたセレーノにお願いしたいわけではありますが、他にも当てはないわけではありません。ですから、あなた方がどの程度実力を持っているかの証明を私に示してください。と言うことで、私たちのギルドネームを当ててください」

「あなた方のギルドの名……ですか」


顎に手を当て、記憶を探るような仕草を取る。

だが、リテラエは内心ではガッツポーズをしたい気持ちでいっぱいだった。

この質問はさっきの話の流れから読めていた。

ヒントはたった一つしかない。それでも、リテラエにはこの依頼主のギルドのギルドネームを予測するのには十分すぎる情報だ。

《機甲の花園マキナ・ガーデン

これが、今回の依頼主のギルドであることは確定的だろう。

機械や機甲の制作を主とするギルドで、ジャンルとしては製作系に含まれるギルドだ。

機械関係の製品の腕に関して言えば、疑いようがないほどに確かである。

中規模ではあるが、リピーターも依頼を持ってくる一般人も多い。

最近はこのローグ・ルークとやらの腕の代わりとなっている機械製の義肢の製作にも取り組んでおり、リテラエですら微妙な違和感しか抱かないような完成度の義肢をつくる。

団長(《機械の花園》的な呼び方では工場長だったか?)の趣味からか、同盟などには関心がないという話だった。

それが《セレーノ》に来てくれたというのは、ありがたいことこの上なかった。


「……出てきませんか?」


リテラエが記憶領域から《機甲の花園》に関する情報を引っ張り出して精査しているのを解らないからだととったらしいローグ・ルークは残念そうな表情になる。

ここで話を切られてはたまらないと、リテラエは慌てて声を出す。


「だ、大丈夫です。本当に自分の考えで正しいのかどうかを考えていただけですから」

「そうですか。それでは、答えは出ましたか?」

「はい。あなた方のギルドネームは《機甲の花園》であるはずです。……違いますか?」

「…………」


リテラエの答えを聞いて、ローグ・ルークは腕を組んで考え始めてしまう。

動きも自然で駆動音は欠片もしない。

そのことを少しだけすごいなと思いながらも、リテラエの内心は複雑である。

それはそうだろう。

確実に間違えるはずがないと思っていた問題で、確実だと確信を持ったうえで答えを出したら、相手は悩み始めてしまったのだ。

これで不安を覚えない人間は相当に豪胆な性格だろう。

不安に胸を焦がしていると、ローグ・ルークはパッと表情を輝かせる。


「すごいですね……。正解です。では、今回の依頼はあなたセレーノにさせてもらいたいと思います」

「それは……ありがとうございます。ですが、そのご依頼を受けるかどうかは内容を聞いてから判断したく思います」

「あぁ。それはそうです。寧ろ、内容も聞かずに安請け合いするようなギルドは信用に足りませんからね。そんなギルドでしたら、こちらからお断りですよ」


ここからは本格的な腹の探り合い。化かし合いか。

リテラエは静かに、無意識に仮面の左側を撫でる。これは、リテラエが心を落ち着けようとするときに無意識に出てしまう癖であった。

相手は雰囲気こそ、一般人と何ら変わらないが、その雰囲気通りの実力と言うことはまずないだろうとリテラエは確信していた。

依頼をするためとはいえ、ここまで一人で来るのは命がけだっただろう。

一人であるとは限らないが、そこまで大勢と言うことはないはずだ。そんな大勢を見落とすほどリテラエの目は節穴ではないし、耳も衰えてはいない。

と言うことは必然的に目に留まらないほどの少数と言うことになる。

街から一歩外に出れば、魔獣が我が物顔で闊歩している世の中だ。

他大陸の場合は、そこまで危険がないのかもしれない。だが、この西大陸に街道を整備するような権力者もいないし、そんな慈善慈業をするような善人もいない。

結果、街の外は魔獣などの自然の驚異であふれているのだ。

その脅威を乗り越えてここまで来られたと言うだけで、警戒には値する。


「それでは、こちらの依頼の内容を説明させていただきます」


一言一句聞き逃すわけにはいかないので、リテラエは聴覚に意識を集中する。

手元には依頼の内容を書き記すための紙とペン。

依頼用紙を作ってくるのが基本ではあるが、作ってこない場合もある。

西大陸にはギルドやそう言った依頼を管理するような組織が存在しないせいか、そういうものが曖昧なのだ。


「今回、我々《機甲の花園》があなたたち《セレーノ》にお願いしたいのは、鉱物種の中でも随一の品質を誇る鉄狼の討伐。並びに、ある鉄狼からとれるパーツの採取となります」


鉱物種。

魔獣の中でも、少し変わった種類と言うことで有名だ。

全身が全て鉱物で出来ている魔獣だ。

石や岩石だったり、鉄などの何かの部品となるようなもの。更には、噂程度の話ではあるが宝石で出来ているものもいると言う話だ。

その体を成している鉱物は得てして、自然からとれるものよりも質が良いことも有名だ。

そんな理由もあって、鉄などを使う製作系のギルドは常時鉱物種のパーツを回収する依頼を広範に出している。

それでも、その依頼を受けるギルドや個人は驚くほど少ない。

理由は簡単。

質が良いと言うことはイコールで硬く密度が濃いと言うことだ。

生半可な武器では鉱物種の硬い皮膚を破れないし、鉱物種は生死の基準がわかりづらい。

殺したと思って運んでいたら、実際には寝ていただけで運んでいた人間が殺されたなどと言う話はよく聞く内容ではあったからだ。

それでも、リテラエはその程度なら受けてももんだはないかという思考があった。

《セレーノ》にはウルヴァーンがいる。ならば、問題はないだろう。

ウルヴァーンだけではとっさのことに対処できない可能性がある。ウルヴァーンにグローリアと月夜でもつければ楽な依頼だ。


「それで、採取するパーツと言うのは?」

「あぁ、それは最近うちのホームタウンの近くに出るようになった鉄狼の群れのボスの心臓になります。あれがないと、今作っている機甲兵のパーツがそろわないので」


魔獣と言うのは、その年齢や体格によって性能が向上する。

この前襲ってきた犬型の魔獣の例で言うと、サイズが大きい方が強い。

鉄狼の場合は、解りやすくその体の硬さが変わってくる。

その硬さの要因となるのは、年齢とサイズ。より年齢が高く、より小さいほどに硬くなる。

年齢はともかく、何故小さい方が硬いのか? 単純に密度の問題だ。

鉄狼は年齢ごとに体を構成する鉄の硬さが上がっていき、体を構成するパーツが増えていく。小さければ小さいほどにその体の密度が上がるから硬いと言う寸法だ。


「その程度の依頼であれば、受けましょう。と言っても、団長であるグローリアが良いと言わなければ受けることはできませんが……」

「ああ、はい。そのあたりも理解しております。……『奴隷商』、ですか」

「…………今の呼び名は聞かなかったことにします」

「……これは失敬を。それで、件のグローリアさんは何処におられるので?」

「すいません。最近、団長もフラフラとしていて……」


ギィィィ……。

ホラーでよくあるようなドアの軋む音が入口からする。

二人も依頼主が来たのか? だとしたら、今日はいい日だな。

そんなことをリテラエが思いながら入口の方に視線をおくってみると、そこにいたのはどんよりとしたオーラを纏ったグローリアだった。

今日来ているのは黒のパンツと、これまた真っ黒のノースリーブのシャツ。心なし、服もズボンも湿っているように見える。

変なオーラを纏っているが、タイミング的にはばっちりだ。


「ロア。ちょっと話が……」


ズドン!

リテラエが言い終わる前に、グローリアは手元にジャベリンを生み出し、それを全力でリテラエのいる方向に投擲してきた。

その結果として生まれたのが、さっきの音である。

ジャベリンはリテラエの髪を幾本か持っていきつつ、壁に突き刺さった。

リテラエの頬が切れて、血が滲んでいる。


「……ロア? 何故に今日は不機嫌なの?」

「…………」


リテラエの問いかけにもグローリアは反応を示さずに、ギルドホールの奥に引っ込んでいった。

こんなにグローリアが不機嫌なのはいつ以来だろうか?

そんなことを考えてながら首をひねっていると、グローリアから少し遅れて月夜とユニコが入ってきた。

二人とも、その手には傘がある。

月夜は少し大きな赤を基調とした和傘。

ユニコは大きめの黒色の落ち着いた雰囲気の洋傘だ。

どちらの傘も、ほんの少しだが水滴がついている。それを見た瞬間にリテラエにはグローリアが不機嫌だった理由が理解できた。それに、さっき服がぬれているように見えた原因が分かった。

聴覚に少しだけ気を払ってみると、サーッと言う雨音が聞こえてくる。


「わかっているかもしれませんが、雨が降り出しました」


それ以上説明する気がないのか、月夜は傘を持ってグローリアの後を追う。

ユニコもそれに追従して中に入っていった。


「雨なら……しゃあないか」


軽く苦笑する。仮面の下が少し痛みを発するが、我慢できないほどではない。

さっきのジャベリンをグローリアがぶん投げたあたりからフリーズしていたローグ・ルークが口を開く。


「い、今のは……」

「え? ……ああ。こんなのは《セレーノ》では日常茶飯事ですのであしからず」

「そ、そうなのですか……? ま、まあいいでしょう。他のギルドの内情に口を出してもあまりいいことはありませんしね」


納得はできていないようだが、無理矢理に自分を納得させたようでローグ・ルークは幾度もうなずいている。

他ギルドの内情に関わろうとろくな目に遭わないと言うのも事実なので、正しい判断だ。


「それで、依頼はどうされるのですか? 受けていただけるのでしょうか?」

「うーん……少し待ってください、としか言えませんね。……もう堅っ苦しいのは止めませんか? 依頼についての話もひと段落つきましたし」

「そちらがそれでいいと言うのなら。……実は僕はあまりこういう硬い口調は慣れていないのでね。崩させてもらうよ」

「はい、結構です。それで、雨が止むまではロアのやつもまともに話を聞かないでしょうし、お茶でも飲みながら待ちませんか? お出ししますよ?」

「それなら、お言葉に甘えていただくよ。少し緊張していて喉が渇いてしまってね」

「コーヒーと紅茶、あとは南原産の緑茶もありますけど、どれが良いですか?」

「ふむ……。それなら、紅茶をお願いするよ」

「……ン!」

「あ? ウルヴァーン。声に出さなきゃわからんぞ」


ウルヴァーンは自分の口元を必死に指さしている。

……あぁ。そう言えば、まだ鍵かけたままだったな。忘れていた。

リテラエは鍵束を呼び出し、その鍵を空中に差し込むような動作をした後に左に九十度回す。


「……テメェ、今忘れてただろ」

「そんなことないぞ?」

「コロス!」


鱗を生やした右手でウルヴァーンが殴りかかってくる。

それをてきとうにいなしながら、リテラエは器用に三人分の飲み物を入れていく。

その姿に、また驚いていたローグ・ルークだったが、もう驚き疲れたので目をつぶって頭を軽く振ることで何も見なかったことにした。


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