第7話 「初めての異世界」
第7話を公開します。
20150603公開
【よしおおにいちゃん】の背中にしがみ付いていたから、美羽は“ゲート”もしくは“転移門”、公式名称“特異点”を過ぎる時の景色の変化に気付かなかった。
ただ、空気の匂いが変わった事にはすぐに気付いた。
【よしおおにいちゃん】が思わず呟いていた。
「凄い・・・ 本当にイセカイに来ちゃった・・・」
その言葉の意味を知りたくて、【よしおおにいちゃん】の肩に掛けた両手に力を込めて身体を引き上げつつ首を伸ばした。
穴の先には真っ暗な“夜”が広がっていた。
「美羽ちゃん、また下に降りるからしっかりと掴まっていてね」
「うん」
また降りる感覚が続いた後、地面に着いたのか、【よしおおにいちゃん】が一旦美羽の身体を上に直した。
「どうする、降りる?」
「うん」
その場で屈んだ【よしおおにいちゃん】の背中から降りた美羽は母親が降りて来るのを待った。
母親は素直に梯子を降りたが、美羽に気付いていないようだった。
「ほら、美羽ちゃん、お母さんの手を握って上げて」
隣でしゃがんで目線を美羽に合わせた【よしおおにいちゃん】の言葉に頷いて、美羽はそっと母親の手を握った。
初めて美羽の存在に気付いたかのように、母親が美羽を見た。
悲しい気持ちが心を染めようとするが、美羽は頑張って言葉を出した。
「おかあさん、こっちだよ。ちゃんとてをにぎっているからまいごにならないでね」
母親は顔を傾げたが、美羽が引っ張ると引っ張られた方向に歩いた。
【よしおおにいちゃん】と【つばさおにいちゃん】と一緒に、残りの【おねえちゃんとおにいちゃん】を待っている間、美羽は時々母親を見上げた。
全員が揃った後、【つばさおにいちゃん】を先頭に火が焚かれている広場の方に向かって歩いて行った。
後ろで【よしおおにいちゃん】の声が聞こえた。
「勿論、宮野さんも気付いたんでしょ?」
答えた【るみおねえちゃん】の声は力が無かった。
「ええ、ここは地球じゃない。 まあ、スウオクスウジュウオクネンタンイで考えると有り得るかもしれないけど・・・」
美羽は急に怖くなった。
自分達が居る場所が、急に怖くなった。
周りの暗闇も
ところどころに居る大きな人も
火の傍でうなだれている大人たちの姿も
美羽の手で握っている筈なのにどこか遠くに行ってしまったお母さんも
美羽は目に入る全てが急に怖くなった。
だけど、後ろから抱き締められながら囁かれた言葉で、それらは消え去った。
「美羽ちゃん、私たちが居るから、怖がらないで」
【るみおねえちゃん】の体温が温かかった・・・・・
美羽は空いていた左手で【るみおねえちゃん】の腕を抱き締めながら答えた。
「みうは・・・ もう・・・ なかないもん」
答えは限りなく優しい声で帰って来た。
「私ももう泣かないって約束するわ」
「うん。みうもやくそくする」
事件に巻き込まれてから泣き虫になっていた美羽は、この時に成長した。
それは、これから始まるサバイバルに向けての必要な儀式だったのかも知れなかった。
如何でしたでしょうか?
美羽ちゃんは勿論ですが、高校生グループも健気です(;;)