がしゃ髑髏7
がしゃ髑髏はキョロキョロと辺りをポッカリと空いた二つの黒い窪みで見渡している。
その窪みは本来あるべきものがあった場所。
それがないのだから、がしゃ髑髏は何も見えない。
気配で獲物を探すしかないのだ。
その証拠に私とお稲荷さんと疾風をまだ探し当てられていない。
こちらが体勢を整えるのなら、今がチャンスだ。
私は大きな骸骨の背後を通ると、素早く机の元に駆け寄る。
机の上に置いてあった数珠と札数枚を胸元に直した。
正装している時間などはない。
今は数珠と札があれば大丈夫だ。
しかし、ここで術を使うとなると分家に多大な被害が及ぶのは目に見えている。
出来るだけ広く、被害が小規模で済む所に移動しなければならない。
幸い分家の周りは森で囲まれている。
すぐ隣には山だってある。
これ以上にない、うってつけな場所だ。
その為にはがしゃ髑髏を外へと誘い出す必要がある。
私は大きく息を吸うと、力の限りに叫んだ。
「がしゃ髑髏!貴方の探し人である私はここにいます!」
ピクリとがしゃ髑髏は私の声に反応して、ぐるりと後ろを向いた。
二つの窪みが私を射抜くように見つめている。
『いた…楿の姫…!』
「貴方の狙いは私の力なのでしょう?
ならば、私を捕まえてみてください!」
私はお手伝いさんに申し訳なさを感じながらも、部屋の襖を蹴破って外へと出る。
そして一気に森の方角へと駆けていく。
背後で大きな破壊音が聞こえた。
ああ…明日は片付けとお手伝いさん達への謝罪で大変なことになりそうだ。
既に決まっている筋書きに苦笑いしつつ、私は立ち止まることはなく走り抜ける。
がしゃ髑髏が追ってきているのは振り向かずとも分かる。
一目散に駆ける私の隣に追いついた疾風とお稲荷さん。
お稲荷さんが私に問いかけた。
「おいっ…!辭!どこに行くんだ!」
「お稲荷さんなら、分かるでしょう。
がしゃ髑髏の大きさは普通ではありません!
あのまま分家で戦えば、被害は多大です。
それに、私の術を使うには最適な場所が必要です!」
息を切らしながら私は必死に森の中を駆ける。
そう離れてはいない距離からがしゃ髑髏の気配を感じた。
大丈夫…!
まだついてきている…!
後、もう少し!
しばらく走り抜けると視界が大きく開けた。
正直、暗い森の中を明かりもなく走り抜けられるかは不安だったわけだが…
途中で躓くこともなく無事に走り抜けることが出来ただけでも、不幸中の幸いだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
私が走り辿り着いた場所は、あの石碑の所だった。
やっと着いたことに安堵する。
ここまで休むことなく走り続けたお陰でかなり乱れた息を整える。
何度も深呼吸を繰り返し、数珠を身につけた。
額から、いや全身から汗が吹き出すようにして流れ出ては顎を伝い滴り落ちていく。
滴り落ちる汗を拭うこともせず、暗い森の中を静かに見つめた。
すると物凄い邪気を纏ったがしゃ髑髏が姿を現す。
分家の私の部屋で見た時もその大きさに圧倒されはしたが。
こうして月明かりにある開けた場所で再びその姿を見た時、私はまたもやその大きさに圧倒された。
邪気は狗神の倍を超える。
怖くないわけがない。恐れないわけがない。
狗神の時、私は初めて恐怖を感じた。
その時と同じ恐怖だ。
体中がビリビリと電気が奔ったかのように強張る。
目の前のがしゃ髑髏を見て確証する。
残念ながら、今の私の力では倒すことは出来ない。
けれど、一度だけでも退けられることくらいは出来るはずだ。
今の私には心強い仲間がいる。
「辭。お前の気持ちは痛い程分かる。
俺達がサポートしてやるから、お前は思い切り行け!」
そうだ…
この恐怖に囚われてばかりではいけない。
パンッと頬を叩いて、がしゃ髑髏を見上げた。
私には守りたい者がいて、側にいてくれる者がいる。
がしゃ髑髏は迷わず私に攻撃を仕掛けてきた。
それを華麗なステップで交わしながら、術を仕掛ける隙を窺う。




