小さな本家の案内人7
華の代わりに持ったお盆を畳の上に置いて、麦茶の入ったグラスをお稲荷さんに手渡す。お稲荷さんは早速麦茶を美味しそうに飲んでいた。
『ふぃー……辭姫、助かったの。ありがとうなの』
声が上から聞こえたと思ったら、ふよふよと蕗を片手に華が舞い降りてきているところだった。
歩く姿も可愛らしかったが、こうしてコロポックルらしく蕗を片手にしている姿は見ていて和む。
「いえ。華さんの小さな体で運ぶのは大変そうですから」
畳の上に着地した華は、蕗を背中に背負い直して辭を見上げた。急ぎでもない限り、ふよふよと空中を浮いていた方が早いのだろう。
辭は麦茶のグラスを手に取り、喉に通す。程よい冷たさが、火照った体の中を巡っていく。一息ついたところで、辭は華から鬼火について話を聞くことにした。
「華さん、鬼火について知ってることを話してくれませんか? もしかしたら、居場所を探す手掛かりになるかもしれません」
茶菓子を食べていた華は小首を傾げて考える。相棒との付き合いは長いとはいえ、いざ知ってることを話そうとすると、何から話せばいいのか分からないのだ。
好きな食べ物、好きな場所、お気に入りの道具など。浮かぶもののほとんどが華と共通するものばかり。
鬼火には、一刻も早く帰ってきてもらわなければならないし、案内人としてこれ以上迷子を続出させるわけにはいかない。些細なことでも手掛かりになるのなら、話さないよりはマシかもしれない。
とりあえず、華は自分が知っている鬼火のお気に入りの道具と休憩場所を話すことにした。
『鬼火は、いつも決まった場所で休憩することが多かったの。確か、中庭の石灯籠の中だったの。どの灯籠なのかは聞いても教えてくれなかったら、華にも分からないの』
「石灯籠、ですか……」
石灯籠なんて、あの中庭にあっただろうか。辭は思い出せる限りで中庭の光景を思い浮かべてみる。
中庭は廊下の途中にあり、出入りは自由だった。この休憩室からそう遠くはなかったはずだ。直に山から水路を引き、小さな小川が作ってあって石造りの橋が架かっていた。
その中に、石灯籠が幾つかあった気がする。あまり手入れが施されているわけではなかったが、雨風に晒されたにも関わらず、綺麗だったように思う。
「そういえば……ありましたね。石灯籠」
「忘れていたのかよ」
話から外れていたお稲荷さんが、茶菓子を食べながら言ってきた。呆れた言い方が癪に障ったが、今は捨て置いておく。
「忘れてても仕方ないのです。あの中庭に最後に入ったのは、私が七歳の頃でしたから。あれ以来中庭には入っていませんし、最後に入った後すぐに分家にやられましたから。朧げにしか覚えていませんが」
「そうか」
じゃあ、あの時のことも覚えていないか……と、小さく呟いた。辭は何のことか分からず首を傾げた。
「なぁ、他には何かないのか? 例えばお気に入りの物とか」
「んー、お気に入りの物? あ、一つだけあったの!」
ポンッと手を打ち、華は部屋のタンスの一番下を開けて、何かを取り出した。




