がしゃ髑髏2
後ろを振り向くと、式神達が揃っていた。
手にした様々な掃除道具を見る所、もうそちらの作業は終えたようだ。
「ありがとうございます。」
そう言うと式神達はお互いに顔を見合わせ、何故かトテトテと私の側に来た。
手にした掃除道具を使ってゴシゴシと擦っている。
「手伝ってくれるのですか?」
式神達はビシッと伸びをする。
これは私が教えたものではなく、彼等独自のサインだ。
小さな式神達を見てクスリと笑う。
それから黙々と作業をして、全ての作業を終えた時には日が傾き始めていた。
「ふぅ…」
小さく溜息をつく。
いつの間にか滴り落ちてきた汗に気づいて、手拭いで拭く。
やれやれ、これで全ての作業が終わった。
一人でしていたら終わらなかっただろう。
「式神の皆さん、手伝ってくれてありがとうございました。
後はゆっくり休んでください。」
ビシッと伸びをした式神達を紙へと戻す。
目の前をヒラヒラと舞った数枚の紙を手中に収めた。
そして、私は掃除道具を手にすっかり綺麗になった石碑を後にしようとした。
その瞬間、ゾワリ…と鳥肌が立つ。
何だろう…この悪寒。
日はまだ完全には傾いていない。
妖達が活動を始める逢魔が時にはまだ早い時間だ。
ざわざわと周りの木々が風で揺れる。
生温い風が妙に肌に纏わり付いて…
背後でカチカチッと音がした。
例えるならそう、歯をカチカチッと鳴らした時の音とよく似ている。
『見つけた…』
ふいに聞こえた声と背後から感じる妖の気配に、私は勢いよく振り返った。
振り返った先には何もいない。
先程まで感じていた妖の気配は微塵なく、石碑だけがポツンと佇んでいるだけだ。
おかしい…
確かにあれは妖の気配だった…
気のせい?
結局訳が分からず小首を傾げたまま、私は分家へと帰った。
「ただいま戻りました。」
部屋へと戻ると、お稲荷さんと疾風が戯れていた。
いや、戯れてるレベルなのか、これは…
お稲荷さんと疾風はお互いがボロボロだった。
「辭、帰ったのか。」
「はい。今ですが…
どうして二人ともそんなにボロボロなのですか?」
「ちょっとな…」
「まぁ喧嘩する程、仲がいいというものですし…」
私の視界に白の毛並みが映る。
ふわり、ふわりと揺れる尻尾は艶やかだ。
「辭。」
「何ですか?お稲荷さん。」
気がつけば膝の上にお稲荷さんがいた。
見た目は白の子狐だが、かなり上位の妖。
名は白狐。
西方を治める四神のお一人、白虎様に仕えているのが今私の膝の上にいる子狐なのだ。
「お前、妖と会ったか?」
「え?今日は妖になんて会っていませんよ?」
「そうか。いや、でもな。」
ブツブツ言いながら、クンカクンカと私の匂いを嗅ぐお稲荷さん。
何かあるのだろうか…
「何なのですか、お稲荷さん。」
「ん?…辭。お前から死臭がするから変だなと思ってな。」
死臭とは死期が近い人間から匂うらしく、腐敗しかけのゆで卵の様な匂いなんだとか。
「それが私から匂ってきた、ということですか?」
「ああ。でもこれはお前の死臭じゃない。」
私のではない。
だとすると誰のだろうか…
「それにしても、お稲荷さんってDNだったのですね。」
「DN?」
「デリカシーがない、略してDNです。
それに年頃の女の子に死臭だなんて、あんまりです。」
「そのまんまじゃねぇか!
ぼそ…年頃ねぇ…辭も気にするのか。」
「何か言いましたか?」
「いや、別に。」