表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/114

103話 引きずっている件

150話までに30000pvと300ptを目指します!

 サーシャのエリカ達に対する説教は1時間以上続いている。


 俺らは、部屋の中で夕食を食べながらそれを聞いている。


 3階まで声が聞こえてくるのだ。


 この宿の壁の問題かもしれないが、その声の大きさはサーシャの怒り、転じて愛情の大きさを示しているのだと思う。


 夕食はフィッシュ&チップス。


 簡単に作れて高カロリーな、労働者の味方である。


 急に説教が始まって、退散する機会を失った俺たちに気付いたのか、


 「エルンさん達は、部屋に戻ってください。エルンさん達の部屋に、夕食が置いてあると思います。私がレストランの店員に頼み込んで、料理の持ち帰りをさせてもらいました。ゆっくり休んでくださいね。明日の朝、9時の時報がなるまでに集合してください」


と、ニッコニコで言った。


 本当に、恐ろしい。


 俺たちはペコッと頭を下げて、逃げるように部屋に戻り、今に至る。


 空気は最悪。


 なんでかって?


 言い争いの件を引きずっているからである。


 言い争いに参加していなかったヴァントは、フォークで刺したチップスを口元に運ぶも、食べられない様子だ。


 時々、腹をさすっているところから考えると、胃が痛いのだろう。


 そんな胃に、油まみれのジャンキーな食事など、入るはずがない。


 胃に入らなかった夕食を全て俺の皿に移すと、薬袋を覗き込んで、ため息をついた。


 胃薬を持ってきていなかったようだ。


 そして、ヴァントは胃の痛みに抗う事を諦め、腕時計を弄って横になった。


 「ねぇ、お兄さん。ボクが間違ってたのかな。お兄さんみたいに簡単に諦められたら、こんな空気にならなかったのかな」


 床で体育座りをしている人型のアカリは、部屋の壁を見つめながら言った。

 

 「諦めたくない、って気持ちは罪なのかな」


 「時と場合によるんじゃない?」


 俺のこの言葉は、魔法の使えない俺が使える魔法の言葉である。


 ほとんどの事象に、絶対はない。


 時と場合によるのである。


 「ボクは、お兄さんを凄く優しい人だと思ってる。初めて会った時、ボクを気色悪がらずに、すぐに受け入れてくれたよね。『メモメモ』の話を沢山したよね。『切り裂きジョージ』の時だって、1人で戦いに行ったのは、ボクやソフィアを守るためだと思う。ヴァントに『死』について考えさせたのも、ヴァントを守るためだよね。いっつも誰かの事を考えて動いてた。なのに、何で?何で諦めようとしたの?」


 違う。


 違う!


 俺は、誰かのことをいつも考えてるわけじゃない。


 全部、自分のためなんだ。


 自分が後で後悔しないためなんだ。


 後悔しないために動いた結果、誰かを助けたり怒ったりしただけなんだ。


 ……なら、何で諦めようとしたんだ?


 後悔の素になるかもしれないじゃないか。


 なんだ?


 諦めることが、後悔になるのを防ぐとでもいうのか?


 おい、俺。


 説明してくれ!


 フッ


 暗いはずの部屋が、一瞬、真っ白な光に包まれた気がした。


 まさか、お前の仕業だと言うのか?


 前世の俺よ。


 「わからない」


 「だったら、お兄さんは無意識のうちに諦めようとしてたってこと?」


 「多分」


 口ではそう言ったものの、あの時の俺は無意識ではなかった。


 アイツらが無事ではないと悟り、諦めようとしていたのだ。


 アイツらが帰ってこなかったら、それこそ後悔しか残らないはずなのに。


 「……もう、やだよ!そんなお兄さんを見たくないよ!戻ってよ!優しいお兄さんに戻ってよ!毒のせい!?私のせいで、お兄さんに毒が回ったせいなの!?」


 アカリの声は、少し鼻声だ。


 泣いているのか?


 本当に、優しいよな。


 お前は。


 胸糞悪い。


 俺は、誰かに操られるのが嫌いだ。


 例え、前世の自分にであっても。


 アカリは、数時間の捜査、言い争い、そして、泣き疲れによって寝てしまった。


 月明かり………失礼、ヴィルヘルムに月はないよな。


 衛星明かりによって、シーザーは明るく照らされている。


 それを、窓から眺める俺。


 「はぁ」


 なんて、ダサいんだ。


 いくつかの建物は焼け落ちてしまっている。


 恐らく、俺らが至る所の地下室で放火したせいだろう。


 サーシャの説教は終わったようで、外は静か。


 恐らく、俺の部屋がこの街で1番うるさかったに違いない。


 「はぁ」


 もう一度ため息をつくと、急に目から涙が出てきた。


 サラサラしていて、少しだけ甘みのある涙だ。


 なぜだろう。


 俺は、悲しい、若しくは嬉しいらしい。


 この気持ちが、寝て無くなればいいが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ