太陽の帝国
爆発音と悲鳴が聞こえてきた。安田たちの陽動隊が動き出したようだ。
「始まりましたね、私たちも行くとしましょう」
「かしこまりました、陛下」
「おし、行くか!」
「うす」
私の声に反応して、多種多様な返答が聞こえてくる。
とてもお堅く丁寧な一条公爵、熱血漢でバトルジャンキーな二条公爵、そして、やる気のなさそうな四条公爵。この三人と、私兵300人が今回のお供だ。
今回の私たちの目的は、旧帝国中央テレビ局ビルを取り返すこと。名目上はあそこから日本全国に向けて帝国再興の檄を飛ばすためということになっているが、もちろんこれは主目的ではない。本当の目的は、ビルの地下にある大結界を起動させることだ。
大結界は日本列島全域を覆う超大規模な防衛結界で、生半可な魔導兵器では突破出来ない。あれを起動させてしまえば、外部からの増援はほぼ無くなる。結界内部の敵を掃討するだけで良くなるのだ。
「では、私が大きいのを一発打ち上げますから、皆さんはそれを合図に突入して下さい」
「分かったぜ!」「はーい」
今、私たちは、旧帝国中央テレビ局ビルの上空にいる。私の幻惑魔法で姿を隠しているので、雑兵にバレることはないだろう。まぁエセ魔女には遠く及ばないので、【賢者】レベルが来るとバレてしまうだろうが……。
計画としては、まず私が空に大きな魔法を打ち上げることで、魔力障害を引き起こして相手の魔導兵器を無効化する。それからビルに侵入して制圧するというシンプルなものだ。
魔力障害とは、魔力が導入された機械が魔力の乱れによって壊れることであり、巨大な魔法が使われた時に発生する魔力の乱れによってしばしば引き起こされる。
太陽フレアによる電波障害のようなイメージだ、原理は全く異なるが。
「で、一条公爵は何の用ですか?」
二条と四条が私兵を率いて居なくなってもとどまり、ずっとこちらに険しい表情を向けている。何か文句があるならさっさと言って欲しいものだが……。
「陛下。大変失礼に当たると分かっているのですが、一つだけお聞きしたいことがありまして……」
「何でしょう?」
「陛下は、本当に、陛下なのでしょうか?貴女様は本当に、【日輪の魔女】旭 陽花様でいらっしゃるのでしょうか?」
この爺、交戦準備に入っているのを隠そうともしないで、思いっきり殺気を向けて来る……これはもう、誤魔化しようがないか……?
「何を言っているのでしょう?私は私以外の何者でもないのですが……」
「いいや、貴女様は……やはり、やはり違う!貴様は何者だ!?伝承によると陛下は白髪でいらっしゃるはず。それに、あのお方は人情に厚かったそうだ。もしお前が本物の陛下なら、我々をそのような侮蔑の目で見ることはないっ!!」
そう言って一条は私を鋭く指差した。その顔は、謎を解決したという自信と、私を悪と断定し一方的に成敗してやろうというやる気で満ちあふれている。
あぁ、不快だ。羽虫如きが……全て見抜いた気になって、私を始末しようだなんて。
やっぱり私に陽花の真似事なんて無理だったんだ。もしかしたら……なんて思っていたけど、無理無理。人心掌握?できるわけないわ。
「そうですか、そこまでわかっているのなら良いでしょう。まさか、今日初めて手にかけることになるのが味方だとは思ってもみなかったのですが……」
「貴様、何を……」
「人生の落とし穴、それは堕落。一度落ちれば、寒い海で凍えて、消えていくのを待つしかない……『黒流氷』」
冷たい海を漂う流氷。それをただ美しいと思える人は幸せなのだろう。私には、逃げることもできずただ死を待つ囚人にしか見えない。
「この魔力量は…貴様、まさか新たに生まれた【魔女】なのか!?」
「【魔女】ですか……まぁ、お前にはそんなところまで教える義理はありません。さぁ、さっさと死んでください」
私の魔力により作られた幾千もの黒い氷のような塊が、一条に向けて放たれた。一条も防御魔法を展開してはいたが、如何せん込められている魔力量が違いすぎる。
黒い氷の大群は防御魔法を打ち砕き、一条に殺到してその身体を削り溶かしていく。一条は流氷の最期と同じように、逃げも隠れも出来ず、ゆっくりと自分の身体が消えていくのを見ることしか出来ずに死んでいくだろう。
「……はぁ。無駄な寄り道をしてしまいましたね。さっさと本題に移りましょう」
結構盛大に魔法を使ってしまったので、いくら陽動が効いているとしても邪魔が入るかもしれないし……まったく、私は何をやっているのだろうか。
ちょっと感情的になったくらいでこのざまとは……情けない。
「陽花がグアムの時に使っていたのは確かこれでしたよね……?人は美しき花を尊ばずにはいられない、例えそれが幾人もの同胞を焼き尽くしたとしても……『爆炎華』」
私が空に掲げた右手から、膨大な魔力が解き放たれる。それは上空でまるで花のような形を作り、そして……
「咲き誇れ」
次の瞬間、空に大輪の花が現れる。
それはこの世のものとは思えないほど美しく、そして危ない。
だが、地上の人々はそんなことも知らずに、呆然と花を見続けている。
二人の公爵と私兵たちがビルに入っていく。魔力障害によって街は機能不全に陥り、各地で陽動部隊による破壊と戦闘が繰り広げられている。
かつての東亜の中心、旧帝都東京は真っ赤に燃え上がっている。
これは多分、陽花が思っていたようなやり方ではないだろう。
……だが、仕方がない。
私は陽花にはなれない。私には、私のやり方しかできない。
「さぁ、始めましょう。太陽の帝国の、第二章を」




