羊質虎皮
明日も投稿しまーす
77話
ゴブリンは最弱級のモンスターだから、装備さえ
整えば誰でも倒せる。そう思っていたアタシは、馬鹿
以外の何でもなかった。
…………いや、そもそもアタシ…………達は、装備すら
マトモに整えられてなかったんだ。
『ギガギギャア!』
『ギィギ、ガギギャガ』
巨大な個体がレッドキャップに何かを確認し、奴が
それを了承した。
『ギャガァ!!!』
「ガハァッッ!?」
その直後、ロニーの腹に拳が直撃した。腹は強度
に優れると説明された鎧で覆われていた筈なのに、
嘘だったかのように砕け、吹き飛ぶ彼女のお腹には
赤黒い痣が出来ていた。
「ロニーーー!!」
シロンが思わず、ロニーの落下地点へと駆け出す。
『ゴギャガァ』
『ギィギ』
『グギェギグゥ!!』
それを見計らった杖持ちの個体が、奴の了承を得るや
否や、小規模な炎魔法を放った。
「熱いぃいぃぃぃぃ!!!」
アタシ達の逃げ足で、魔法の攻撃速度を撒ける筈も
なく、肌が自慢のシロンは、身体の後ろから右半分に
かけて大火傷を負った。
「もう、十分いたぶったでしょ!? だから見逃して!!」
たった2人の親友をいたぶられたアタシに、理性が
残っている筈もなく、ゴブリン相手に惨めな命乞いを
してしまった。これを見られたら全冒険者の笑い者
であるとすら、考える余裕はなかった。
『いやいや、イタチの打撃を鎧で防ぐ騎士とは違い、
お主らは傷を付けやすい。ならばとことんいたぶら
なくてはなぁぁ…………』
奴は下劣な笑みを浮かべ、無傷のアタシに斧を
振りかぶる。
「うわああああっっ!!」
アタシは恐怖に身体を突き動かされることで、自慢
の純金製ロングソードを縦に一閃させた。
意識こそしなかったが、アタシが持つ唯一の戦闘的
優位。長い手足とロングソードによる、"攻撃範囲"を
最大限に活かした、その瞬間における最高の一撃
だった。
『若くて尚良しぃ…………』
『バギャ……!!』
「……………………え?」
目の前の光景に、我が目を疑った。奴が素早く半歩
下がり、アタシに当たる筈のない斧を振り上げたと
思いきや、自慢のロングソードが…………、粘土でできた
棒が折れ砕けるように破損したからだ。
"君達が着けているキレイな装備。もしかすると、
とてもじゃないけど、モンスターとの戦闘に用い
られない代物かもしれないよ"
彼が残した言葉が脳裏を過る。いくら見映えが
良くても、雑魚の一撃で砕かれる鎧は意味がない。
いくら相乗効果で肌を美しく魅せるビキニも、肌を
炎から庇えなくては意味がない。
そして、いくら高級で純金の重みを堪能できても、
簡単に見切られるほど取り回しに手こずり、何かに
勢い良く当たっただけで破損するようでは、剣である
意味がない。
『ヒトとはつくづく理解が及ばないのぉ~~』
「ギャアアアアアアアッッ!!」
アタシも、露出した大腿部に斬撃を加えられ、
まるで溶岩風呂に下半身を入れられたかのような
灼熱の痛みに襲われたわ。そのまま尻餅をつき、
惨めにのたうち回ったアタシは、ミュールの言葉
を思い出していた。
"私達が立っているのは生き死にをかけた冒険者
ギルドよ!"
そうよ、あの娘の言う通り、アタシが今いる場所は、
いつ死んでもおかしくない環境…………!!
"俺が本気でキレたら、雑魚なテメェらの命なんて
1秒も持たねえって事だ"
なのにアタシの実力は、ディー君目線だと赤子同然。
その癖、実戦に耐えられない装備しか纏っていない。
『おやぁ? ちょっと斬っただけなのだがのぉ~~』
(そりゃ…………ゴブリン共に負けて、いいようにされる
よね…………)
奴が追撃の斧を振りかぶった瞬間、アタシの希望は
全て潰えた。冒険者に必要な力を持たないアタシ達は、
ゴブリンのオモチャと化し、真面目に鍛えたミュール
達は、いつしかアースヒーローズすら超える英雄と
なるのだろう。
そう思いながら、傲慢不遜な男を懐柔する時の
ような、仰向けで全身を開くポーズを無意識に取り、
両目を閉じようとした。
「オラァァァアアアアアッッ!!!」
訓練所の実戦訓練の時、どこからでも聞こえてきた
気合い。いや、声量はその時の10倍はありそうだ。
「…………え?」
目を見開いたアタシは、上半身が下半身からズレ
落ちる奴を見て、固まった。
「ハアッ!! ッグ、ハアッ!! ッグ、ハアッ!!」
次の瞬間には、声質こそ馴染みがあるが、今までに
聞いたことのない発声を耳にし、思わず振り返った。
「ヒッ!? ディー…………君…………!?」
そこには、ロニーの痣が鮮やかに見えるレベルで
全身が赤黒くなったディー君が、焦点の合わない目で
過呼吸を起こしながら、腰を落として立っていた。
「ちょっ! その身体、大jo…」
「ゴブァアッッッ!!!」
「キャアアアッッ!?」
彼と比べて無傷同然のロニーが、腹を押さえながら
駆け寄っていったが、彼は命に関わるレベルで吐血を
した。
「だ、誰か! 回復ポーション!?」
当然、ロニーはパニックになり、動作が挙動不審に
なった。…………そして、
「ロニー! 支えて!!」
「え? キャアアアアッ!!」
ディー君は…………大量出血で倒れてしまったわ。
「ん、動…………ける…………??」
対して、人生で1番の痛みとは裏腹に、アタシの
脚の傷は大したことがなく、遅い動きなら可能だ。
シロンもそこまで火傷が深いわけではなく、アタシ
達に合わせて動き出した。
「回復ポーションだけじゃなくて…………、栄養
ポーションも飲ませな…………さい」
「む、無理しないで!」
女騎士が、痺れる身体に鞭打って自身のポーション
を手渡してきた。いくらアタシでも手伝わずには
いられなかった。
「姉ちゃん、俺のも使え…………」
「あなたこそ、傷が…………」
「こんなもん、後で医療班に任せれば問題ない。
それよりもあの青年に…………応急処置をしてくれ」
上半身に大規模な裂傷を負った剣闘士も、自身を
差し置いてシロンにポーション類を渡す。
「心臓は動いてるよ! 寧ろ活発すぎて怖いくらいに!」
ロニーがディー君の心臓の鼓動を確認した。
「よし! ポーション飲ませるから口開けさせて!」
「うn…って、血で喉が詰まってる!?」
「まずは背中を叩いて、それがダメなら…………アタシが
吸い出すわ。そしたら直ぐに栄養と回復を流し込んで!」
「わ、分かった!」
「ワタシ、身体支える!」
案の定、背中の殴打で血の詰まりは取れなかった。
なので、直ぐ様処置を施すことにした。ハッキリ
言って、訓練所のジジー共と比べればディー君は
イケメンで清潔だし、何より命がけで助けてくれた
彼を救う為と思えば、何1つ苦を感じなかった。
~ワイルド視点~
バルディ達の快挙を見届けた俺は、各所の魔王軍
斥候を適度に駆除しながら、死角から冒険者を転送
させていた。
「今回、こんな回りくどい作業を行っているのは、
この防戦が、人類防衛を目的としている他に、"人類
そのものの強さ"を奴等に知らしめる目的があるからだ。
努々忘れずに動かないとな」
後は、俺自身の手の内を見せすぎないようにする
という目的もあるが、あくまでメインは前者だ。
そして、その為にはバルディ達のように、"正統派"な
冒険者達による"厄災"討伐を行うことが、最も明快な
戦力誇示方法だと思う。
「クレインさん達は…………これ朱雀さんが強すぎるだけ
じゃねーか。本当に軽度の妨害だけで事足りそうだ」
~大和王国・クレイン視点~
「乾坤一擲。我が一撃を、貴様の"皮膚"は防げるか?」
脇差しではなく、大太刀を構えた朱雀様が、グレー
ドラゴンと向き合っている。
「ぬりゃああああああっっ!!」
『ズガァン!!』
『カアアアアッッ!?』
宣言通りの全力の一撃をもって、グレードラゴンの
鱗の間に無数の切り傷を作り出してみせた。奴の周囲
の空気が冷えているからか、彼が発した衝撃波が長く
聞こえた。
「攻撃に気をつけて畳み掛けるぞ! 乱れ斬り・群隼
音乗!!」
こうなれば、後続の拙者達が行うべき動きは自ずと
決まる。"開いた傷口を広げる"だけだ。後は生き残り
さえすれば、侍の…………いや、人類の力は自ずと示せる
のではないだろうか。
『カァァァァ…………』
1分もしない内に、グレードラゴンの全身が傷に
まみれ、大量出血で動かなくなった。
~ウァームタウン・ワイルド視点~
こんな風に、強者が輝いた地域もあれば、逆に強者
と呼ばれている者が不甲斐なかった地域も存在するんだ。
『グワオオオオオオオオッッッ!!』
「あはは…………!! 私の魔法が効かないならぁ、コイツは
絶対倒せないのよぉ!!」
アースヒーローズ所属のローズは、名実共にこの場
における、最強の魔法使い。にもかかわらず、適当
に大規模な炎魔法を撃ち、全く通じなかっただけで
逃げ出そうとしている。
「ローズさん! 希望は捨てちゃダメッス!」
対して、縁があって俺のところで筋トレしている
C級冒険者のサタヤナは、応援到着と同時に厄災へと
杖を突き付け、
「鉄砲水!!」
『ドパァァァァァァァアン!!!!』
まずは空気を引き裂く速度の鉄砲水を放つ。
『グワオオオオオオオオオ!!』
それも通じないグリーンドラゴンだが、次に
「超冷却!!」
『グワオオオオオッッ!?』
かなり絶対零度に近い冷気を発生させ、周囲の水分
を凝縮させることで、攻撃と束縛を同時に行った。
『グワオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!』
だが、厄災はそれでもほぼ堪えていない様子だった。
「ほら見ろ! 私が出来ないことを、お前ごときが
出来るわけないのよ!! せいぜい選ばれしこの
私がni…」
「だったら!!」
「っ!!」
その様子を見て、サタヤナ達を逃げる時間稼ぎの囮
にしようとしたローズだったが、突然叫んだサタヤナ
に遮られた。
「アッシとローズさんが協力し合えば、もしかしたら
勝機があるッス! つーかそれしかねぇッス!! 構える
ッス!!!」
「!!!!!…………」
先程の自身以上に早口で捲し立てられたローズは、
頭に血が登りながらも周囲の声を聞いた。
「それしかねぇ!」
「魔法砲台2人なら可能性はある!」
「ローズさんオナシャス!!」
「サーちゃんファイトォーーー!!」
「やっ、やってやるわよ! 後で頭下げなよ!!」
態度に問題しか無いものの、サタヤナの説得と群衆
の圧によって、何とか協力を掴めた。だが、色々な
意味で心配なので、俺も斥候に見つからない角度から
の援護射撃を行うつもりだ。
誰も死なない完全勝利で、尚且つ人類の強さを示す。
その為に集中すべく、既に厄災を含む竜種の討伐が
終わった地域の門を激減させ、残り地域に集中力を
割くことにした。
それから2分位が過ぎた頃だろうか。俺は"視点"を
減らした決断を、後悔することになる。
最後までご覧下さりありがとうございます。




