戦準備(中編・訓練時代の悪夢)
本日10時~14時に、確実にもう一話投稿します。
今話で、一部気分を害する可能性のあるシーンが
ありますが、筆者に該当シーンのような思想は
ございません。
58話
~半年前・戦士訓練所~
「オラァ! どんどんかかってこいやぁ!!」
「今日がテメェの命日だ!」
「ぶっ殺してやらぁ!!」
「昨日の恨みだぁ!」
座学前の休み時間、バルディと男子3名が、
さも当然のようにケンカに明け暮れていた。
「…………全く」
予習していた私は呆れつつ、座学のコーチが
来る前に止めようと思い、イスを立とうとした。
「オイ、芋女。ノート写させろ」
直ぐ隣に立っていた金髪ロングの女に、
あからさまに下に見られながら要求をされた。
「フン」
だけど、聞く価値すら無かったので、無視して
バルディ達の方へ歩きだしたわ。
「あっ、芋女がレオのお願いを無下にしたわ!」
「ヒッド! 許されざる行為だねー、そうだよねー!」
銀髪の女がさも重大な事件かのように叫び、
銅髪の女がだらしなさそうな男に話を振った。
「うわー、芋女の癖にそりゃねーなぁー」
「ねぇ、ノエルゥ…………、アタシ、あの子に無視
されてスッゴく悲しいのぉ…………。あの子のノート
取ってきてくれたらぁ、ちょっとは気分が良くなる
かも…………ね?」
レオは、ノエルを悩殺するような上目遣いで、
彼に要求をした。
「レオちゃんの頼みを断れる訳が無いんだよなぁ」
ノエルはそう言って、立ち上がったと同時に
私との距離を詰め始めた。
「寄越せ!」
「はぁ?」
単調な掴み動作だったので、正当防衛として
軽々と投げ飛ばしてやったわ。3人を倒した
バルディの眼前にね。
「おわあっ!!」
「おっ、確かルエルだかノールだったよな?
テメーも俺にケンカを挑むんだな?」
「へ? いや、その…………」
一瞬にして、ノエルの表情が青ざめた。訓練成績
トップのバルディに、訓練成績下位のノエルが挑む
とか、無謀も良いところだからね。
「違いますーーー!!」
「うっせぇ! だったら前にシャシャリ出んなよ!」
「ヒイィ!!」
「バルディ、座学が始まるから、この辺でやめなさい」
「ッチ、もうそんな時間かよ。しゃーねーなぁ!」
コーチ達の説教を嫌った彼が、席に戻ると同時に
座学のコーチが入室した。
…………これはまだマシな事件。これよりヒドい事件
なんて、幾らでもあった。
~一期中盤・頭髪検査~
例えば、頭髪検査で私がチェック係りになった時、
「レオ、流石に前髪が長すぎるわよ。来週までに目に
かからないように切ってきて」
明らかに前髪が目に掛かっているレオに、注意を
したことがあった。この訓練所では、長さの制限こそ
あれど、別にお洒落を禁止している訳じゃないから、
制限内で最高のお洒落をすれば良いだけだと思うの。
だけど
「はぁ? 芋女ごときがアタシの前髪に気安く文句
付ける気!」
「視界が悪くて危険なの。命にも関わる事だから、
左右に分けて兜で抑えるか、切るかして」
「ふざけんなよ! アタシがどれだけ前髪命か
知らないの!? ダサい自己流オカッパ芋女の
アンタには分からないでしょうねぇ!」
私自身への侮辱もそうだけど、初耳のマイルール
を押し付けられたことに腹が立ち、遂言い返して
しまった。
「ダサいオカッパで悪かったわね!! そんなに
お洒落したいなら、ここに居なくたって良いじゃない!!」
この時、髪型がダサかったのは事実で、売り言葉
に買い言葉な私にも非があったけど、向こうに大きな
非があったのも事実。…………なのに、
「ミュール・M・ジョルニア。貴様、レオ・ゴールデン
ちゃんに暴言を吐いたねぇ。いけないじゃないかぁ」
「コーチ、それはレオさんが視界が悪い事による
危険を全く理解しt…」
「田舎者風情がでしゃばるなぁ!! レオちゃん、
君は何も悪くない、私が問題なかったと生活指導
のコーチに伝えておこう」
信じられない事に、この人は、出身地で人を差別
してきた。あまりにも荒唐無稽な言い分に、私は
思わず言葉が出なくなったわ。
「あ~ん、コーチは正義感の塊のような人物ですぅ~~」
そして、レオは甘い声色でコーチに抱きついた。
そう、この頃から既に、レオは腐敗したコーチ数名と
肉体関係を持っており、小大様々な不正が罷り通って
いたのよ。
「皆も、ジョルニアのような横柄な者とは、あまり
関わらぬようにのぉ~~!」
「「「はい!」」」
「くぅぅ…………!!」
それから夏季まで、戦闘力主義のバルディ以外の
全員に無視されたわ。春期の女子同期はレオと銀髪
取り巻きのシロンだけだったから、見事に友達0よ。
でも、それ以上に正しきが否定され、不平が
罷り通る現実が憎くて仕方なかったわ。
~二期・廊下~
二期になり、私にはようやくヒーニャという
友人が出来たわ。心にゆとりが生まれたある日、
「な~に芋女と仲良くしてるのー?」
「芋女とブスだからお似合いだけどね~」
「あっ……うっ…………やめて…………!!」
次の訓練所への移動中、シロンと銅髪取り巻きこと
ロニーが、地面に踞るヒーニャを踏みつけている
現場に遭遇してしまったわ。
「何してるのよっ!!」
「ゲハァ!?」
「がはっ!!」
頭に血が昇った私は、思わず2人にパワーボムと
1本背負い投げを決めてしまったわ。
「大丈夫!?」
「ミュール…………私を助けに…………?」
「当たり前よ。医療室に行くわよ!」
その後が問題だった。2人はヒーニャの傷と証言
によって罪を認めたものの、例のごとく汚職コーチ
によって、反省文を1枚(しかも半ページ)だけで
赦された。かくいう私は、倫理観の欠如という名目
で、反省文を20枚も書かせれたわ。
その最中、ケンカで20人を殴り倒したバルディ
が、反省文7枚で済まされたのを見たときは、一周
回って笑いが出てきたわね…………。
それから三期の終わりまで、私達少数派は卑怯女子
と汚職コーチ、野蛮な男子達に対抗すべく、戦士
らしく力と技を磨いていったわ。…………だけど
~対人戦闘訓練~
「レディ、ファイト!」
「はあっ!」
「ぎゃああっーー、うがー、痛いーー」
レオ、シロン、ロニーの3人は、信念の無い男共
を身体で買収することで、不正に成績を上げ、
「降参しまーす!」
「あぁ? じゃあ壇上に上がんなよ…………」
買収の効かないバルディ他数名の男子や私達少数
の実力上位女子と遭遇するや否や、即行で降参する
始末だった。
そのせいで、
「また、女子で下位グループだ…………」
「ヒーニャ、落ち込まないで、この3人は偽の順位
だから、除外すればヒーニャも上位層だよ」
「でも、殆どの男子に勝てない…………」
「それでも、前より断然太刀打ち出来てるよ!」
ヒーニャの戦績が伸びきらない理由は、単なる
実力の問題よりも、あの3人の派閥の男共に、
訓練中に意図的に怪我を追わせられる事が大きな
要因となっている。
(私なら逆にボコボコに出来るのに…………、ヒーニャ
だって、後、ちょっとだけでも強ければ…………!!)
「ゴメンね」
「…………え?」
「私、もう続けていく自信が無くなっちゃった。
ミュール、今までありがとう…………」
三期が終わり、終期の始業式、ヒーニャの姿は、
無かった。そして、私はあの3人に、"一撃も当て
られなかった"。
~回想終了~
「あっれぇ~、この子確か、私達の訓練所に
居たよねぇ~~!」
シロンの耳障りな声がギルド中に響き渡る。
「あーー、全身に"ダサい"って文字を書きなぐって
いた子ねー!」
そこに、ロニーの気分が滅入るような嫌みたらしい
声も響く。
「でもでも、本人なりに可愛くなろうと頑張っていた
みたいだよー」
そして、リーダー格の憎きレオが、心底嘲った
表情と声で、私を侮蔑してきた。それを皮切りに、
シロン、ロニーの気持ちの込もらない賛美が始まった。
「確かにー、分厚かった毛髪を透かしてサッパリ
したかもー」
「一丁前に初歩的な化粧もしてるしー、彼氏出来た
のかなー?」
この2項目は、訓練所時代から気を配りはじめて
いたので、事実上一欠片も褒めていないと嫌でも
分かった。
「とはいえさー、やっぱ芋女には、これくらいが
限界なのよー」
その事実は伝えたよとばかりに、今度は紛う事なき
侮蔑が始まった。
「いかにもテンプレって感じの防具を着けてぇ」
「前から気持ち悪かった筋肉は、更にムキムキに
なっていてぇ」
「いかにも、真面目に努力して貯めたお金で買い
ました~。って感じのハンマーを背負ってぇ」
「そして底辺代表の属性な土に適正があります~
ってねぇ!」
侮蔑は、私が積み上げてきたもの全てを否定する
内容だった。だから、反論せずにはいられなかったの。
「だったら何よ! 私達が立っているのは生き死にを
かけた冒険者ギルドよ! 見た目や得意属性の世論が
どうであれ、それを活かして活躍することの何が悪い
のよ!?」
だって…………幾ら自分の見栄えが良くても、
モンスターの爪や牙にとっては、何の意味も
成さない。攻撃力や防御力、敏捷性といった
ステータスや、装備の機能性が自らの命を守る
のよ。なのに、
「「「キャハハハハハッッwwwww」」」
この3人は、"死線を生き抜く力"そのものを
笑い飛ばし、侮辱してきたわ。
「アンタ、まさかとは思うけどぉ、パーティーの
第一線で戦っているのぉ??」
ロニーが、心底見下した表情で、前に出て戦う事
を侮辱してきた。
「そんなの態々女がやることではないじゃない~、
男のシゴトよ!」
私は、シロンの発言を理解出来なかった。
…………性別以前に、私達は冒険者の1人。誰かと
組むなら長所を活かして戦うもの…………でしょ??
「な~に鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる
の~~? 女はぁ~~、自分の美貌と男に
貢がせた"高級ブランド装備"で勝負するもの
でしょ~~?」
重ねてきたレオの発言も、理解が出来なかった。
そんな私を追い詰めようと、
「例えば私、作りたての銅貨に勝る髪色を活かす
ために、全部の装備を高級銅で固めたわ。特に力
を込めた装備は、最高純度の銅の槌と、男を
イチコロにする膨らみを強調するビキニアーマー
ねぇ。ブランドは最高と名高い"castle"製よ!」
ロニーが自分の装備を自慢し出す。続いて、
「次はワタシ、ワタシったら、透き通るような
銀髪に、傷1つない純白の素肌を持っているから、
肌に身につける装備もラメやスパンコールを
散りばめたシルバーカラーじゃないと、美しさの
増強効果を期待できないのよ~~。武器は敢えて
銀の斧にすることで、謙虚さアピールにもなるしぃ、
ブランドは当然、"castle"製よ」
シロンが眼に悪い位銀色一色な装備を自慢した。
最後に、
「そ・し・て、アタシは王道で最強の金色よ。
そこらの男より高い身長に、長~い手足、それに
裏打ちされるプロポーションを更に輝かせるには、
金色以外に考えられないわ。メインのビキニアーマー
以外にも、各種装飾品も抜かりなく金色で存在感が
高まる上、なんと、ロングソードも純金製なのよ
~~。勿論、ブランドは"castle"製ね~~」
レオが、目玉に突き刺す勢いで自身を見せつけ
ながら、耳を抉るようにブランド装備を自慢して
きた。
「あっ、3人とも全ての装備を男に貢がせたのよ~。
私達に言い寄られて、購入を断れた男は居なかったわ」
「それに対して、芋女ちゃんの装備は男臭くて泥臭い
色をしているし、ビキニじゃなくて胸当てとスパッツ
とか、時代に乗れて無さすぎだよね~~!」
「この様子だと、ディー君に貢いで貰っているわけ
じゃ無さそうだしー、まー、芋女相応なままだねー
って感じだよ~~。ディー君、ミュールに貢いだり
していないよねー?」
レオがバルディに、私の装備品を買ったか聞いた。
「俺がコイツの装備を買う理由がねぇだろ。さっき
から、何ワケわからん会話してやがんだよ??」
バルディの返答は、全面的に正論だと思った。
彼が私に貢ぐ理由は皆無だし、3人の発言が理解
できないことも完全同意だからだ。…………でも、
今そんな返事をしてしまったら、
「アッハハハハwwwww!!」
「やっぱり芋女には男から見た価値が、ありません
でしたーーーwwwww!!」
私がコイツらが言うような存在だって、誤解
されるのよっ!!
「ディー君サイコーーwww これで分かった
でしょ~? ミュール、アンタは所詮コキ使われて
捨てられるゴミなのよ。アンタみたいなのが同じ
女戦士だと、アタシ達の品格にも泥がつくのよ。
…………要するに」
「「戦士を辞めて、地元で芋でも掘っていな!!」」
「ってことなのwwww」
女戦士の品格を下げてるのも…………
「あ、あんた達の方が! ッ女戦士のイメージを
悪くしてi…」
『カツ、カツ!』
涙がこぼれることを、怒りで抑えながら、怒鳴る
ように反論しようとすると、レオが足音を立てて
私との距離を詰めてきた。そして、
「周りの声、聞いてみろよ」
「…………え?」
圧をかけながら、群衆の声を聞くことをすすめて
きた。私は…………その意味を考える暇もなく、耳に
入ってきた声を認識してしまった。
「まぁ、女は結局、見た目だもんな~~」
「えぇ…………、俺、結構ミュールのことセクシーだと
思ってたけど、そんなでもなかったのか~~」
「まぁ、あの3人には、完敗だよなぁ~~」
「所詮は田舎上がり。どこまでいっても尽くす側
だよなぁ~~」
男共の、獣同然で下衆な品定めの声。
「女はやっぱり、貢がれてこそね~~!」
「あの子は身長も、綺麗な肌も、豊満な胸も無いの
よね」
「遠目のスタイルは良いけど、筋肉質だから"苦労
したんだね"って感じが伝わるのよ~~」
「てか、筋肉質すぎてキモくね?」
「分かる~~! 冒険者だからって、女捨てるのは
無いわ~~!」
女共の、長いものに巻かれて、溢れた存在を集団
で攻め立てる、醜劣な思いが溢れた声。
改めて、私が1年数ヶ月かけて積み上げてきた
努力は、下劣な悪女3人と群衆によって、全否定
されてしまった。
(…………もう…………無理……………………!!)
涙を堪えることも、ここで良いクエストペーパー
を探すことも、耐えられそうにない。その上、
「おい、さっさと初B級クエスト選ぼうぜ!
つーか、全然話が理解できなかったけど、
何で泣きそうになっていやがんだ?」
バルディが…………あり得ない位無神経な発言を
してきたのよ!
最後までご覧下さりありがとうございました。




