戦準備(前編)
後、2、3話程土日に投稿し、両軍激突まで進めます。
57話
「はーーーーーーーぁ……………………」
昇級試験の帰路、バルディは珍しすぎる程に
落ち込んでいた。
「ま、まぁまぁバルディ君。キリングアックス
の破損は残念だったけど、凄い技を放てるって
分かったから、悪いことばかりじゃないよ!」
今、リョウが言ったように、戦闘時の得物で
あった両手斧が破損したことが原因だ。
「アレ、切れ味抜群で使いやすかったんだぞぉーー
ぉぃぉぃ…………」
背骨を橋のように丸め、チンパンジーのような
項垂れた姿勢で落ち込み続けている。
「リョウ、こういう時は下手に擁護しても上手く
いかないわ」
「え? それって…………」
「こうするのよ。ほーら見た! いっつも乱雑で
品性のない戦い方をしているから、2週間で武器
が壊れるのよ! 全財産はたいて買ったのに、勿体
なかったわねぇ~~~! プププーーwwwww」
「…………ミュールさん!?」
常に真面目なミュールが、ここまで純粋に他人
をバカにする姿を見て、リョウは動揺を隠しきれ
なかった。
「…………ぁあそうだなぁ、確かに勿体なかったよ
なぁぁ…………!!」
「悔しいのぉ? そんなに悔しいなら、次の武器
は一月使い続けてみなさいよー」
「やってやるわぁ! 前の数倍は貯まった全財産
はたいて、鍛冶屋のオッサンにとんでもねぇ斧
作らせてやらぁ!!」
(…………それでも1ヶ月しかもたないのね)
「ね。こうした方が持ち直しやすいのよ。それに、
昇級試験は報告まで終わりじゃないわ。帰り道こそ、
危ないモンスターに会うかもしれないのよ」
「そうだね。さっきの豪風竜より強い竜に遭遇
しないとは限らないし」
「んな時でも、しっかり爪先重心で踏み込みゃ、
ステゴロでも負けやしねーもんなぁ!」
「そうよ。早速群れが来たわ」
目の前に、それなりに強そうな種族混合の
モンスターの群れが現れた。
「オラァ! どっちが捕食者か決めようぜぇ!!」
素手であるにも関わらず、バルディは躊躇なく
突撃を開始した。
「全く…………」
「僕たちも続こう。怨霊招来!」
3分程で片がつき…………
「拳から伝わる衝撃はぁ、いつ受けても心地良い
ぜぇ!」
「最後のパンチ避けれたでしょ、避けなさい」
「避けるより受けて上乗せしたカウンターの方が、
早く片付くだろ」
「その必要性が、あの時なかったでしょ?」
いつものように口喧嘩に移行しようとしていた
のだが、
「ちょ…………ヴィヴィアン様!? 離れてっ!」
『リョウ~~! たまには魔力限界まで、私達を
現世に干渉させなさいよぉ~~~~!』
ヴィヴィアンがリョウに抱きつきながら、謎の
わがままを言っていた。
「ヴィヴィアン様…………リョウが困っていますよ…………」
あまりの波乱ぶりに、ミュールもやや引きながら
注意する。
『だってぇ~~、私達リョウが力を行使しなけりゃ、
誰にも話すことすら出来ないのよぉ~~!』
それに対しても、"大昔の大魔導士"とは思えない
駄々のこね方で反論する。
「み、未成年の私達には推し量れない気苦労が
あることは、お察ししますが…………」
「と、兎に角離れてっ…………僕の理性じゃ鼻が
持ちませんっ!」
悪女以外に滅法弱いリョウの鼻は、ナイスバディ
美女に抱きつかれた事で、鼻血が出そうになっている。
「オイオイ、ケンカ下手くそかよ、ヴィヴィアン」
この様子に、バルディまで呆れている。
『あ"? 様を付けろって何度言ったら分かるん
じゃい、小僧!』
そう言って、容赦のない岩石射出魔法を唱える
「まーあ、遠距離攻撃ばっか放ってぇ、その上拳が
すり抜けて殴られることがなけりゃあ、しょーが
ねーのか? ヴィヴィアン…………サマ」
全方位から襲い来る岩を殴り砕きながら、
バルディなりに分析した。
『ケンカなんて不毛じゃないの?』
「そーでもねぇぜ。どんな奴でも、殴り合えば
それなりに理解し合えるぜ。例えモンスターで
あってもな」
その表情には、絶対的な自信が見て取れた。
「…………まぁ、彼限定なら、一理ある部分は存在
します」
『ミューちゃんまで…………』
ミュールまで肯定を示した事で、ヴィヴィアンも
聞き耳を立て始めた。
「あれは私達が訓練所を卒業する2ヶ月前。その日
の訓練が終わった夕方に、バルディが突然所長が
飼っている、スーパータイガーの檻をねじ曲げて、
侵入したの」
(…………いや、どういう動機!?)
「彼の奇行を見慣れている皆も、流石に食い殺される
と冷や汗をかいたわ。案の定、檻の中でデスマッチが
始まったけど、10分程互角の殴り合いを経て、今度
は食糧庫から持ち出した肉を2人で食べ始めたわ」
『…………』
「アイツな、ずーーーっと檻から俺達を見て、
遊びたそうにしてたから、俺の力が互角レベル
まで上がったら、遊ぼうって思ってたんだよ」
「で、当然所長がカンカンに怒って、バルディは
追放処分になるところだったんだけど、スーパー
タイガーが絶対服従している筈の所長に威嚇をして、
バルディの追放を取り止める意思を見せたら威嚇を
やめたの。偶然とは思えないわ」
「けど、反省文10枚書かされたぜ。アイツを
寂しがらせる事といい、つくづくセンスのねぇ
オッサンだったぜ」
「反省文10枚は優しい方だと思うけど…………
それにしても、モンスターとも仲良くなれるのは
羨ましいなぁ。山で遭難した時にスーパーボアに
襲われそうになったって言ってたけど、それと関係
してるの?」
「おうよ。そんとき助けてくれたスーパーグリズリー
と、一月過ごしたんだけどよ、母熊や小熊との関わり
で、俺は拳での狩りと語り合いを学んだぜ。それが
今だと相互理解のケンカに活かされているって訳よ」
『…………成程ねぇ?』
「ま、まぁ、直ぐに理解出来ないでしょうけど、
バルディは言葉より肉体のぶつかり合いの方が、
相手の気持ちが分かるみたいなのよ」
「それに、ニンゲンは言葉で簡単に嘘をつけるが、
拳なら、どう足掻いても本音しか言えねぇしな!」
「そっか、本音の語り合いか…………」
殴り合い等、理解出来ない分野だったが、
リョウはバルディのケンカに対しては、憧れに
近い感情を抱いた。
「リョウ、テメェももうちょい鍛えたら、1度
本音を聞かせな」
「うん! 君を驚かせてあげるよ!」
~玉座の間~
「フレイ、ワイルド、あなた方の主張は最もです。
我が権威も駆使し、冒険者総出で魔王軍の撃退に
当たりましょう!」
ドレスコードに基づき、スーツを着用した俺達は、
女王様に意見を通達した。結果、意見は可決され、
女王様の権限の元、冒険者総出で魔王軍の撃退に
当たることとなった。
「我々の意見をお聞きいただき、ありがとうございます」
深紅のスーツが似合うのは、この人位だろう。
フレイさんを見ながら、俺はそう思った。
「ありがとうございます」
焦げ茶色のスーツしか合わなかった俺も、
連なって頭を下げた。
「フレイ、あなたには人類の頂点として、より多く
のモンスターを倒して頂きます。よろしいですか?」
「喜んで拝命します」
後、想像以上に敬語を使えることにビックリした。
「ワイルド、冒険者になって一月のあなたには、心の
負担が大きな任務だと思います。しかし、魔王軍の
一斉討伐と、戦況に応じた人員の入れ替えは、あなた
にしか行えません。引き受けて頂けますか?」
「はい!…………えと、よ、喜ん「ぎゃ」でご拝命
いたっします!!」
シーン・・・・・・
静寂が、部屋中を包み込んだ。舌がズキズキ痛む。
「…………」
フレイさんから、呆れのオーラがこれ以上なく
強く放たれている。多分怒りを光速で突破したの
だろう。
「フフフ、緊張しなくてもよろしいのですよ。次に
敬語が必要な場面で、正しく使用できればよろしい
のです」
「じ、女王様の宇宙よりお広いお心に、全身全霊の
感謝を申し上げます!!」
「まぁ、嬉しいですわ…………。2人共、集まった皆様
共々、無事に帰還することを心からお祈りします」
「「お心遣い、ありがとうございます」」
こうして、謁見は無事(?)に終了した。
(ワイルド…………どうしてもショウを想起してしまう。
本当にそうだとしたら、どうして身分を偽っているの?)
~ギルド長の部屋~
「…………ワイルド、作戦終了後に敬語を教えてやる」
「是非…………お願いします」
「俺も、育ちの悪さもあって苦労したが、この
程度の敬語は習得できた。お前なら"死にそう"
と思うまでもなく、身に付くだろう」
「えと、お心遣い、ありがとうございます
(死にそうって、どんな覚え方すればそんな
感情が付随するの!?)…………」
「フッ、今は作戦に備えて休め。1時間後位に
詳細の放送をする」
「分かりました。失礼します」
動きは確定したので、昼ごはんを食べに修行場
に戻った。
(全冒険者ってことは、"アースヒーローズ"も参加
するんだよな)
戦力だけで見れば頼もしいが、内面を照らし
合わせると、"不安しか浮かばない"。
~修行場~
「そうか、ならば念入りに刀を手入れしなければな」
「僕、ポーション類の準備を整えます!」
「俺はコンビネーションの練習だ」
「アッシは詠唱のイメトレッス!」
「バラバラに分かれると思うが、全員無事に揃おう!」
「「「「ああ!」」」」
それぞれのやるべきことをしに行った。
「シャールさん、これまでの武術指南、ありがとう
ございました」
「礼は要らん、あくまでビジネスだったからな。
所で、その作戦は腕利きなら参加出来そうか?」
「大歓迎だと思いますよ」
「報酬金は、もらえるか?」
「そうですね、俺が交渉すれば確実かと」
「決まりだ。私も加勢する」
「ありがとうございます(ワーオ、現金!)」
~40分後~
『♪♪~…………うし、ギルドでウォームアップの
ケンカでもしに行くか」
無人になった修行場で歌い終えたバルディは、
一跳びで街の入り口へと着地した。
~ギルド~
『『ザザッ…………』』
「あん?」
「バルディだ…………」
「ありゃ大乱闘する気満々だぞ…………」
「目を合わせるな…………」
「カツアゲしてなくて良かった…………」
「チッ、小物だらけじゃねーか。幾ら数が多くても、
張り合いがねぇな」
状況が状況なのもあるが、半数ほどが悪事を
行っている時に因縁つけて倒された者達だった
らしく、目に見えて避けられている。
「おっ、脳筋のバルディじゃーん! ランクが
スッゲェ上がってるんだってぇ?」
「…………誰だっけ?」
「うわヒッデェ! 訓練所で一緒だっただろ!」
「そーいやそうだったかな?」
「今な、あそこに戦士三大美女が揃ってるんだよ!
君も来なよぉ!」
「女にゃキョーミねぇが、暇すぎるから行ってみるか
…………」
~数分後・街道~
「リョウ、落ち込んでばかりいても仕方無いわよ」
共に昼食を終えた2人が、並んで歩いている。
「そうだよね、確かに誰も加入しなかった分、
6人の連携は強くなった」
「後、リョウ自身もだよ。もう、私より筋肉質に
なったんじゃない?」
「ははは、物理攻撃力所か敏捷性も及ばないし、
脚の筋肉量だっt…」
「何ー? 私の脚が太いってぇ??」
「めめめめめ滅相もございませんっ!」
「冗談よ。努力を褒めてくれたのよね♪」
「勿論だよ。それに、膝と足首が細くてメリハリ
が付いているから、純粋に美脚だと思う」
「そっそ、そんなことっ…………」
突然真剣に褒められた事で、ミュールは大きく
動揺した。
「ワイルド君も言っていたけど、本能的に美しく
見えるものは、機能も優秀だよ。だから、もっと
自分を誇ろうよ!」
「リョウ…………」
そして、嘘偽りの無い根拠の提示に、顔を赤らめる。
「…………っつ!」
しかし、女性耐性皆無のリョウもまた、ミュール
の美顔に赤面した。
「? ど、どうしたの??」
「う、ううん、何でもない…………かな? あっ、
MP回復ポーションを買い忘れていたから、そこの
質屋で買ってくる!」
「分かったわ。先にギルドでクエストを見てるね!」
ミュールはリョウと別れてギルドに入った。
(あんなにイケメンなのに、人格まで出来ている
リョウって、本当にかけがえのない存在ね…………
一瞬、惚れるかと思ったわ。ヴィヴィアン様が
認めるのも頷けるわね)
以前、3日3晩ヴィヴィアンに振り回されつつも、
最後まで協力を惜しまなかったリョウの姿を思い返し、
納得していた。
「あっ、バルディ! 何か良いクエスト見つかったー
ーー………………」
ミュールは、先に来ていたバルディに良いクエスト
の有無を聞こうとしたが、直ぐ側の人物達を見て、
目の光が消えた。
「ミュール、丁度良いところに来たなぁ。何か
知らねぇけど、コイツらがお前と話したいってよ」
そう言ったバルディの側には、戦士にしては些か
派手すぎる格好の美女が3人立っていた。
最後までご覧くださりありがとうございます。




