様(サマ)を付けやがれ
56話
「…………成程な。ついに人類へ、一斉攻撃を
仕掛けるつもりなのか」
俺は、数分前に聞いた魔王軍の集会の内容を、
フレイさんに伝えた。
「はい。仕掛けられる前に、高圧水流で一掃
しましょうか?」
同時に、考えうる最善策を提示した。
「まぁ、それが一番早いとは思うが…………。確か、
例のインテリ幹部の仕事は、軍勢を送り込むだけ
だと言っていたな?」
「確かに、"お主ら第2軍団は、ワシの魔法で
反対方向に送る。そしてそのまま、目の前の街や
村を破壊するのじゃ"と、言っていました」
大分遠距離からの盗聴だったが、間違いなく
そう言っていた事を、俺の耳は聞き逃さなかった。
「だったら、俺に1つ考えがある。だが、リスクも
あるから、お前の意見も聞きたい」
「お聞かせ下さい」
要約すると、フレイさんは敢えて魔王軍と正面
からぶつかろうと提案してきた。
「そうですね…………今、奇襲を仕掛ければ、襲撃は
未然に防げますが、幹部の逆探知にあって、俺の
攻略法を編み出される可能性が高いです」
更に、確証を得られた訳ではないが、魔王城に
張ってある結界のせいで、"俺の技が通用しない"
可能性が高いという事情もある。
「逆に、俺の作戦なら、人類の実力を知らしめ
られるが、主にお前の負担があまりにも大きく
なる。それに、他の冒険者の命も危険だな」
当然だが正面衝突は、人類と魔王軍の戦争を
意味する。参加者の頭数が増える程、高度な連携
は難しくなり、死傷者の増加は免れなくなる。
「…………ですが、今の俺の能力なら、人員を一瞬で
適材適所に配置し、また、次の瞬間に死ぬであろう
者も回収できます」
「加えて、いざという時、お前が鉄砲水を放てば、
万事解決もする訳だ。必然的に責任重大となるが、
引き受けてくれるか?」
俺が作戦の中核を担う以上、責任のほぼ全てが
俺に乗っかる。…………だが、
「受けさせて下さい。今こそ、女王様に与えられた
使命を遂行する時です!」
「感謝する。早速、女王様にアポを取ろu…『ギロッ!!』」
「!?」
「「「「ニ"ャ!?」」」」
普通の会話の流れだったのに、いきなりフレイさん
に睨まれ、全身が強ばってしまった。俺の腕の上に
いた猫ちゃんに至っては、漏らしてしまっている…………。
「…………チッ、コソコソ嗅ぎ回りやがって」
「い、いきなり全力の殺気を向けないで下さいよ!」
俺だけならまだしも、部屋中の猫ちゃん達を
恐がらせていたので、思わず怒鳴ってしまった。
「あ? お前を脅してはいねぇ。教会の屋根辺り
から、俺らを観察しようとしていた不届き者を
脅したんだ」
「…………へ?」
今度は、気の抜けた返事をしてしまった。俺は、
気配なんて全く感じなかったからだ。
「なんだ? お前は気付いていなかったのか。全く、
奴が魔王軍の手先だったら、今の会話が筒抜けだ。
今から女王様に会うまでの道中、この街を徹底的に
捜索しろ」
「は、はい…………」
「…………後、これ以上この部屋に野良猫を連れ込むな。
ここは保護施設じゃねぇ」
「にゃ~」
フレイさんは、膝にのって来た猫を撫でながら、
呆れた声色で釘を刺してきた。
「…………大分貯金も貯まってきたので、更に幾つか
この子達用の保護施設を作りますね」
そう、多少の無茶振りを聞く変わりの報酬として、
野良達の保護活動に協力してもらっていたのだ。
そして、フレイさんに懐いた子達が居候を開始して
しまったのさ。
~教会の裏~
「…………フゥ、一時期は人類も末期だったのに、
あのギルド長サンが就任してから、盛り返して
来ちゃったわね」
グラマラスだが、極めて恐ろしい闇のオーラを
放つ猫獣人の女が、壁にもたれ掛かりながら息を
整えている。
「それに、アースヒーローズの没落に反比例する
かのように、ショウ陣営を始めとした冒険者達が
強くなっているわ。これは魔王軍も手を抜けない
わね」
魔王軍の斥候として、日々、情報収集を行って
いるようだ。
『ミア・バステ、人間観察の調子はどうかね』
幹部から、報告の催促が来た。
「これはこれはゼブル様、さっきショウとギルド長
の会話を盗聴しようとしたのだけどー、ギルド長に
スッゴク睨まれて失敗しちゃいましたー」
『…………ちゃんと気配は消していたのだろうな?』
ゼブルは、威圧的に確認を行う。
「正面から勝てない相手に、殺気なんて向けられる
わけ無いでしょー?」
しかし、ミアは少しも怯えずに、軽い調子で答えた。
『そうか…………ワシの策が漏れているやもしれぬが、
お主はどう思う?』
「分かんないわよー。魔法とかナニソレオイシー
ノー? って分野ですしー」
『まぁ、勘づかれた所で、全ての都市を守るなぞ
不可能じゃ。無力感にうちひしがれておれば良い
わぁ』
「ウフフッ、そうですねぇ。そういえば、アタシ
もどっかのタイミングで、人類虐殺に参加すれば
イイのー?」
ミアはショウとフレイの存在を思い浮かべながら、
個人的に重要な動きの確認を行った。
『いいや、お主は次回の作戦時まで、殺人は無し
じゃ。斥候の仕事を全うするのじゃ』
「ハイハーイ」
『それでは、連絡を終えるとするかの』
「ゼブル様、ばいにゃ~~」
終始、軽い調子の連絡が終了した。
「…………さぁて、どうやってショウとコンタクトを
取るかな。後、人間達が、今回の襲撃にどこまで
対応できるのか、見物ね。キトン・フォーム、
にゃんにゃ~ん♪」
そして、背が低く、可愛らしい子供の姿に変身し、
幼子同然の振る舞いで、軽快に駆けていった。
~絶壁地帯~
「…………あー、お前ら。その、嘘ついちまって
悪かったなぁ」
バルディは先刻、尋常でない殺傷力の飛ぶ斬撃
を意図せず放ち、とどめを譲ると言った敵を倒した
ことを謝罪した。
「…………まぁ、この際とどめを取られたことは
問わないわ。でも」
「さっきの斬撃、明らかに意図せず放っていたよね。
どうしてこうなったのか、心当たりはある?」
「全く分からん。鼻歌口ずさめるくらい、事が順調
でテンポ良くぶっぱなしたら、なんかグアーーッ!
ってスゲー威力になったんだよなぁ」
「グアーーッ! って…………」
「全く、分からないわね。でも、自身の技の仕組みが
分からなかったら、いざというとき暴発したり、火力
不足で倒しきれなくなるわ」
ミュールの言うとおり、自身の技の論理を理解
出来ていない事は、致命的に問題となる。…………そう、
「っ何か来る!!」
『ジャルルルルルッッ!!』
「豪風竜!?」
「一先ず落ちろや!!」
急に強敵が現れ、機動力を奪おうと咄嗟に飛ぶ斬撃
を放とうとしたところ。
『バシュッ!!』
『ジャルゥアアアアッッ!!』
「あんだとぉ!?(このダルさ…………MP切れか!!)」
MP不足で斬撃のサイズが半分になり、軌道のズレ
も相まって、片翼の半分も切断出来なかった。…………
等ということになりえる。
(まだ、4、5発は撃てる想定だったがなぁ…………)
「早速マズイ事になったわね!」
ミュールはこの事態を想定していたらしく、即座
に地面に戦鎚を叩きつけた。
『『『『ドギュルルルルッッ!!』』』』
すると、4本の岩の棘が勢い良く飛び出した。
『ジャルァッッ!!』
だが、その内2本は回避され、まだまだ機動力は
満載だ。そして、豪風竜は音速に近しい速度を有する
斬れる旋風を、3人の方へと飛ばしてきた。
「怨霊変化! レオンさん!」
『ウム! 盾犀阻立!!』
リョウは、前方に躍り出たスーパーゲイルを防御
に秀でたスーパーレオンに変化させる事で、巨大盾
で旋風の掘削機から3人を守った。
「オラオラァ!! 足場頼むぜヴィヴィアン!!」
バルディは、斧の面で風圧を起こすことで、旋風
を逸らしながら駆けていき、ヴィヴィアンに足場の
生成を頼んだ。
『様をつけな、獣少年! 浮遊岩軍!』
ヴィヴィアンの魔法によって、無数の岩が浮き上がった。
「んな事も言ってたなぁ!」
『ドォン!!』
返事の直後、バルディは音速を超え、浮いた岩を
足場に、縦横無尽に跳び回り始めた。
『ジャルルッッ!?』
未だかつて見たことの無い速度の敵に、豪風竜は
動揺を見せた。
「オラァ!!」
『ザギュルルルッッ! ドゴッ!!』
『ジャルルアッッ!!』
そして、その隙を付いたバルディは、身体ごと
回転させた連続斬撃を浴びせつつ、豪風竜の肉体
を通過する寸前で、脇腹を蹴って浮遊岩に着地した。
「怨霊変化! アンドレさん!」
『絶技・無銘鎌鼬の乱・遷音!! っ鱗は竜種ならでは
の硬さか』
スーパーアンドレも、鎌鼬と剣技の合わせ技で
攻撃したのだが、鱗に沿った斬撃でも、バルディ
程の決定打にはならなかった。
『ジャルルルルルッッッッ!!!』
だが、鎌鼬で翼の大部分に風穴を開けたお陰で、
豪風竜は遂に落下を開始した。
『ミューちゃん、思い切りやっちゃってぇ!!』
「はあッッッ!!!!」
『ジャアアアアアアアアアッッッ!!!!』
そこに、ヴィヴィアンの魔力で強化された
ミュールのアースアッパーが炸裂。A級竜種・
豪風竜も虫の息だ。
「コイツぁ、貰うぜ」
豪風竜の真上の岩に着地したバルディは、
そう一言呟くと、真下へ音速で加速した。
「音速断頭!!」
MP無消費の、単なる高速高火力の大根斬りに
よって、豪風竜の頭蓋骨は真っ二つに割れた。
『バジュッ!!』
「っと、脳髄が爆発しちまったな」
更に、バルディとキリングアックスに蓄積
していた振動エネルギーの伝達により、豪風竜
の脳ミソが飛散した。
「あ~あ、ワイルド君に可食部のムダだって、
ボヤかれちゃうよ~~」
「というかバルディさ、そんな衝撃蓄積して、
大丈夫なの?」
岩竜と同時進行で、豪風竜を解体しながら、
ミュールは疑問に思ったことを聞いた。
「まぁ、あんまり貯めすぎると、HPがガリガリ
削れるぜ」
「やっぱりね。ワイルドが言っていたけど、ずっと
音速で動いていたら、振動が貯まりすぎて身体が
爆発するみたいよ」
「ということは、音速で駆けるのは程々にした方が
良いって事だね。バルディ君自身も危険だけど、
キリングアックスの耐久力も減りそうだし」
音速未到達の2人視点でも、それがいかに危険かが
目に見えているようだ。
「自分の頑丈さ位把握してんだよ。それに、さっき
振動耐性ってスキルが2レベル上昇したし、鍛えりゃ
どーにでもなるだろ。キリングアックスも無j…」
『パキャン…………』
「「『『あ』』」」
新品同然の光沢を放っていた斧は、ガラス細工の
如く、バラバラに砕け散ってしまった。
「…………うっそだろオイィ!!!』
C級時代を共に爆進してきた相棒の損失に、虚しい
咆哮が木霊した。
~玉座の間~
「「失礼します」」
2人の男が、女王の座す玉座の間に入室した。
最後までご覧くださりありがとうございます。




