ギルド長式・抜き打ち訓練(前編)
53話
~2週間前・修行の岩場~
『スッ…………』
ダンベル、バーベル、各種武器が置かれている事を
除けば、殺風景そのものの岩場に、突如謎の回廊が
出現した。そして、その中から誰かが出現した。
「あっ、ワイルドさn…!?」
「お帰りっ!…………!!?」
「来たk…ぬっ!!」
「あん?」
共に修行をする者達は、回廊の主の帰還だと思って
一声かけようとしたが、予想もしなかった人物が出現
したことで、一様に衝撃を受けた。
「あ、あの人…………」
「マジヤベー人ッスよ!」
「か、かつて…………ほぼ単身でグリーンドラゴンを
倒し、歴代最高ランクのSS級まで上り詰めて」
「それなのに、突然2ヶ月前にギルド長になった…………」
((((((フレイ・パイロン!!))))))
「…………ほぅ、超一流には程遠いが、見込みはありそう
だな」
フレイは周囲を見渡し、一言呟いた。皆、固まって
いたのだが、知識に乏しいあの男が静寂を破った。
「アンタ、誰だぁ? 光る穴から出てきたってこたぁ
よぉ、ワイルドの弟子志願者か?」
バルディ・I・ラッシュ。彼は、ギルドの頂点に
君臨する男の顔と、名前すら知らなかったのだ。
「バルディ君! ギルド長に失言はマズいよ!」
「ギルド長って、ギルドで1番偉い奴のことか?」
(このバカ。こんなことも知らないなんて…………流石に
予想できないわよ…………)
リョウに教えられても、疑問符が残る程度しか理解
せず、年単位の付き合いを持つミュールも、この有り様
は想定外だったようだ。
「その通りだ。随分イイ面になったじゃないか、リョウ」
「お陰さまで、大分自分の力を理解できるようになりました!」
リョウは、フレイに恩があるため、その事について
感謝を述べた。だが、この男がまたしても騒動の火種
をつける。
「んーだよ、クソ強ーオーラを放ってんのに、椅子で
ふんぞり返る役職かよ。ケンカ相手にはならねぇん
だろうなぁ」
バルディが、心底残念そうに呟いたのだ。
『『ドゴォン!!』』
刹那、バルディが立っていた場所と、崖のほうから、
同時に轟音が鳴り響いた。
「「「うわっ!?」」」
剣闘士・デュランと魔法使い・サタナヤ、運搬士
チックが、同時に驚いた。
「あのバカ…………」
「ここまでバカだと、逆に清々しいわね…………」
「同感だ」
ミュールは大きくため息をつき、雇われ格闘技顧問
のシャールも苦笑いが出るほど呆れている。クレイン
は何故か平常心そのものだったが。
「ケンカか、悪くねぇな。久々に思いきりやろうか。
来な」
フレイは落石の下敷きになっているバルディに、
攻撃を誘った。
「やっぱ、オーラは嘘をつかねぇなぁ。受けてたつ
ぜぇ!!」
バルディは承諾と同時に、巨岩を猛スピードで
投げつけた。
「ドルゥア!!」
更に、全速力で間を詰めて、岩を押して加速させる。
「良い筋力だ」
とはいえ、フレイにとっては止まっているも同然の
速度なので、最小限の移動で回避する。
「あたぼうよぉ!! オラオラオラオラァ!!」
バルディは反射神経任せに、フレイの動きに付いて
いき、突撃からの拳を振るい始めた。
「速さも中々だな。俺への不遜な態度も頷ける」
「うおおおおおおおおっっ!!」
フレイは涼しげにラッシュを避けながら、順当な評価
を与えていった。
「えぇ…………」
不穏な会話や轟音により、異常事態を察して戻った
俺だったが、何やらカオスな事が起き始めた事だけしか
分からなかった。
『『ガシッ!』』
「!!」
フレイさんが、バルディの両腕を掴んだ。
『『『ドゴォ!!』』』
「ゴフゥ!??」
鳩尾に3発、音が同時に重なるほどの速度で蹴りが
入った。バルディは血反吐吐き出すグロッキー状態だ。
「オラ、抜けてみろ」
そしてそのまま、容赦ない蹴りのラッシュを全身に
入れ始めた。
「グオオッ…………!!! ヌゥンリャアッッ!!」
「ほぅ…………」
一気にゲームでいう赤ゲージまでHPを削られた
バルディだったが、渾身の巴投げでフレイさんを
投げ飛ばした。
「殺す気で来な」
バルディの根性を気に入ったのか、フレイさんは
楽しそうな表情で呟いた。
「やってやらぁ!! オラオラオラッッ!!」
斧を構えたバルディが、飛ぶ斬撃3発を放った。
因みに、後2発程でMP切れだ。
「威力・速度はあるが、狙いがガバガバ過ぎだぞ」
それでも、宙であの範囲・速度の斬撃を軽く避けて
しまえるフレイさんには、脱帽だ。
「んだとぉ!!」
図星だったようで、これまでのダメージと合わせ、
バルディの怒りが爆発した。フレイさんの落下が
始まったと同時に、最高速度でジグザグ接近を開始
したのだ。
「ぬぅんりゃああああっっ!!」
「どうした? そんな攻撃が当たるわけねぇだろ」
MPの状態を理解しているかはさておき、通常攻撃
のラッシュも、素手で反らされて当たらない。
「ぬぅああっっ!!!!」
バルディの単純威力上昇技・パワースラッシュが
炸裂し、轟音と共に砂塵が舞い上がった。
「まぁ、頑張った方だな」
「な…………にぃ?」
しかし、フレイさんは剣を1本抜き、あの一撃を
片腕で軽く止めていたのだ。
「最後に」
「う、おおおおっ!?」
そして、炎を全身に纏いながら、その一部を連続で
炸裂させる事で、バルディが視認出来ない速度で縦横
無尽に飛び回り、
「俺の力を少し見せてやる」
「ガハッ!!…………」
クレインさんが全力で何度も殴らないと気絶しない
バルディを、軽く蹴り倒したのだった。
「さて、たまには羽を伸ばすのも悪くねぇ。お前らも
俺と、"ケンカ"してみねぇか?」
時折、超高難度任務をこなすとはいえ、机に拘束
されることが多いフレイさんは、俺の仲間達と手合わせ
したくて仕方なくなったようだ。
「受けて立ちます!」
ミュールが即座に名乗り出た。
「怪我は自己責任だぞ」
「承知しています。貴方を負かせた時には、要求を
1つ呑ませます!」
ボロ雑巾になったバルディを見ても怯まず、尚且つ
その目には僅かな憎悪が宿っていた。
「…………そういうことか。了承したぜ」
その様子を見たフレイさんは、思い出した何かと
結びつけて、納得した様子で開戦した。
「はあああああ!!」
ミュールが突撃する。
「奴と比べれば遅いが、戦士としてはまぁまぁ速いか」
「ダアッ!」
戦鎚が宙を凪いだ。
「フンッ!!」
しかし、ミュール自身も素早く回転を行うことで、
もう一撃繰り出した。
「ほぅ」
トリッキーかつ、隙も少ない一撃を回避しながら、
フレイさんは感心した様子を見せた。
「フッ!」
「はあっ!」
フレイさんが拳を突き出す寸前に、ミュールは
頭1つ分屈みつつ、戦鎚を突き出した。
「戦士とは思えねぇ技巧だな。面白ぇ」
先程ケンカした相手が脳筋・極な奴だったからか、
心底楽しそうに回避している。
「おおっ!」
「フンッ!」
「はあっ!」
ミュールが、距離を詰めようと加速した瞬間、
フレイさんも加速しつつ、蹴りを放った。しかし、
ミュールはこれを跳躍で回避しつつ、そのまま
戦鎚を頭へと振り抜いた。
(予測半分、反射神経半分って所か。…………更に)
フレイさんは、軽く屈んで避けつつ分析を行って
いるようだった。戦鎚を避けて直ぐ様、踵振り抜き
2連も襲い来る。
「フン」
これに対し、大きく横移動すると見せかけて、後に
振るった片足を掴もうとした。
「はああっっ!!」
しかし、ミュールはこれも見切り、足を引っ込めて
回避する。それだけでなく、回転軸が不規則になった
事を逆手に取り、変則的な一撃を繰り出したのだ。
「ここまで」
『ズドォ!』
しかし、バルディすら止まって見えるフレイさんは、
一瞬で反対方向に回り込み、超低姿勢の正拳突きを
繰り出した。
「ぐうっ!!」
「やるとはな」
が、ミュールはこれすら予測し、回避不能ならばと
両脚と片腕を組み合わせて、ダメージを最小限に抑え
込んだ。
「フッ! ハッ! ハッ! ハアッ!」
更に、低空を吹き飛ばされている間も、腰の捻りを
駆使した飛ぶ打撃を連発し、攻撃の手を緩めない。
「他のアホ戦士共とは比べ物にならねぇな」
遠距離攻撃にしても、空中で撃ったにもかかわらず、
殆んど威力が落ちていない。
「どうもです…………ね!!」
ミュールは、地面に着地するような動作を見せたが、
瞬時に切り替えて、大地に戦鎚を打ちつけた。
『ズギュルッッッ!!』
眼前に迫っていたフレイさんの足元から、勢いよく
岩のトゲが飛び出した。速度・鋭さは本当に凄く、
男なら大事故が起きかねないと思った。
「良い技だ」
距離を詰めていたフレイさんだが、突如後退し、
幾つもの火球を放った。
「フゥゥゥ」
ミュールは息を吐くことで、五感を研ぎ澄ませ、
体捌きを駆使して全て避けた。
(大きさは小さいけど、1つでも触れたら大火傷ね)
『バンッ!』
『ボッッ!』
2つの火球が音を鳴らし、表面の一部が弾ける事で、
ミュールの方へ方向転換した。
「フッ!」
「音さえ鳴れば、ノールックでいけるか」
フレイさんはミュールに合わせて後退しつつ、更に
火球を操作していく。
『パァン!』
『ゴウッ!』
『クンッ』
『ボッッ!』
ミュールの方へ向かった火球の一部は、"破裂
しなかった"。
「…………くっ…………っっ…………」
多少掠めたが、どうにか避けきる。
「成程、触覚と、俺の動きから見切ってるか。ならば」
『バゴオッ!!』
「!?」
フレイさんは、俺ですら残像しか見えない速度で、
ミュールの死角へと移動した。
(触覚だけで、避けきれるか?)
『パァン! ボワッ! ゴウウッ!!』
「グッ…………!!」
掠める回数こそ増えたが、射手が見えない状況でも、
五感を総動員させて全て回避した。
「合格だぜ」
「!!」
声に反応して攻撃しようとしたが、自身は宙を
舞っていた。
「フッッ!」
「っ!!」
そして、背中に手を置かれて一気に大地へ押される。
得意の空中攻撃も、手足が落下速度に負けて動かせない
ため、撃てない。
『ドガッ!!』
「ガハッ!!」
ミュールに出来た事は、呼吸や筋緊張を操作して、
打ち身の衝撃を軽減させることだけだった。
「フンッ!!」
「ぐうッッ…………!!!!」
フレイさんが流れるようにかけてきた腕と肩の
関節技には、成す術がなかった。
「降参しな。しなければ腕を粉砕するぞ」
複雑骨折は、回復術使いが相当優秀でなければ、
全回復まで長期を有する。
『タンタンタン!』
俺が居るから即座に良い病院に送れるのだが、
ミュールは即座にタップアウトした。
「楽しかったぞ、ミュール・M・ジョルニア」
「ど、どうして私の名前を…………」
ギルドの頂点に立つ男に名を覚えられていたことを、
不思議がった。
「名前はワイルドから聞いていた。その上で、身なり
と開戦前のお前の殺気から、3週間前に先輩冒険者
からの、暴行被害を届け出た奴だと気付いた」
「…………私を含めて、ギルドは上級冒険者から底辺
冒険者達への理不尽を揉み消します。どうしても
それが納得いきません」
「最もな主張だ。お前の場合、俺を倒してソイツを
逮捕させようとしたのだろう。だが、奴の立場上、
直ぐに逮捕するのは厳しい」
「…………やはり、私なんかより、あの下劣な上級戦士
が大切ですか?」
ミュールの目には、怒り以上に悲しさが見えた。
「それは違うな。むしろ、俺個人に限れば真逆の
考えだ。だから、もう少しだけ時間をくれ」
「時間…………ですか??」
「ああ。今現在、俺は協力者と共に、奴の行動を
締め付ける事で、一先ず悪事は行えなくした。しかし、
奴の自由を完全に奪うには、もう少し多くの罪を確定
させる必要がある。
歯痒いことに、魔の驚異がはこびる世の中では、
A級冒険者の地位はかなりのものになる。奴を抜け
させるとなると、代わりの実力者も必要だ。言って
いて情けないが、ミュールよ、そこで寝ている大男
と共に、強くなってくれないか? 奴の逮捕の暁には、
お前が直接拷問出来るように、俺が察に掛け合う」
「…………分かりました。ですが、絶対に奴の逮捕まで、
犠牲者を出さないでください」
「約束する。破った暁には、俺の万倍マトモな奴を
ギルド長に据え、俺自身が奴を捕縛して責任を取る」
「はい」
一先ず、ミュールは納得した。真に責任を取るべきは
前任のギルド長だが、フレイさんはその分を含めて責任
を取ろうとしているのだろう。
「さて、残りも俺に挑んでみるか?」
他の皆を見ると、レベルが低めのデュラン、サタナヤ、
チックが震えており、リョウと手練れのシャールまで
冷や汗をかいていた。
「拙者が挑もう。クロウズの雪辱を晴らす」
「フッ、初対面の事を未だに覚えていたか」
フレイさんは、昔の事を回想しながら返答している
ようだった。クレインさんも、物思いにふけている。
「親友の屈辱は、我が屈辱。一太刀だけでも入れてやろう」
「挑戦状は受けたぜ。来な、嬢ちゃん」
最後まで読んでくださりありがとうございます。




