魔と人のエース達
明日、更新するかもしれません
52話
「グビグビ…………ブハァ! 3年前は不味くて仕方
なかった暗澹酒も、今では美味くて仕方ないぜ!」
侍風の男が、墨汁を思わせる色合いの酒を、一気
飲みしている。酒を飲んで5秒ほど経つと、男から
放たれる闇のオーラが増大した。
「分かるぜ。飲めば飲むほど美味くなるよな。どうも、
闇のオーラが強ければ強いほど、美味く感じるらしい」
戦士風の男もまた、同様に闇のオーラを纏っている。
「それでもって、酒自体に闇のオーラを高める作用が
あるってな。極めて合理的だよな」
「ただ、代償なのか知らねぇけどよ、人間時代の記憶
が、日に日に消えていくんだよなぁ」
「なんというか、徐々に霞がかっていって、気付いたら
全く思い出せないって感じだよな」
どうも、彼等は元人間らしく、何らかの理由で魔王城に
来てから、この酒を飲まされて記憶を消されているようだ。
「今でこそ、優雅に飲めているが、3年前は良く分からん
理由で暴れる俺に、皆が無理やり飲ませていたからなぁ。
迷惑かけちまったぜ」
「俺も同じようなものだ。今、人類側の最強兵器と
されている男の名前を叫び散らして、暴れまくった
そうだ。あの時は大分殺しちまったようで、今でも
大勢に嫌われてるなぁ」
「アンタも暴れたのか…………。以前はS級だったらしい
が、まぁ、暴れたら意図せず殺してしまうのも納得だな。
因みに俺が暴れている時、どんなことを喚き散らして
いた?」
「えーっとな…………確か…………誰かの名前を叫んで
いたぜ。後、救われた恩は返すけど、人殺しだけは
加担しないって喚いていたな」
「そうか、人殺し…………ねぇ」
「まだ、加担しないつもりか?」
「数ヵ月前まではそのつもりだったが、今はどうでも
良い。魔王様が命じられたら誰でも殺すまでだ」
「そりゃよかった。ようやくこちら側に染まってきたな、
闇鳥」
侍を包む闇が、彼の全身に羽毛を形作った。
「クックッ、闇こそ、力こそ俺の全て。そして、魔王様
に仇成す者は、全て刀の錆にするまで。そうだろう?
黒鬼さん」
戦士を包む闇もまた、彼の屈強な肉体に幾つもの棘を
形作った。
「ああ。人間、竜、愚かな魔物問わず、叩き斬る」
「竜…………そういえば、最近突発的に竜が狩られている
事件が多発しているな」
「2月前に人間界に派遣された猫女の仕業か?」
「いや…………痕跡からして、1人は人間。もう1人は
未知の存在の仕業だといわれている」
~魔界入口付近・竜の道~
『グオオオオオオオ!!!』
SS級竜種・レッドドラゴンが、咆哮を上げながら
炎を蓄えている。
「フッ!!」
2振りの剣を構えた目付きの鋭い男が跳躍後、短い
叫びを上げた。
『ブォオッッ!!』
すると、二刀の側面から業火が吹き荒れ、男の身体を
超加速・超回転させ始めた。
『ズギュラルルルッルルルルッッ!!』
『グギャアアアアアッッ!?』
幻惑的な挙動と圧倒的速度を有した男は、その勢いの
ままに竜の全身を切り裂き、瞬く間に絶命させた。
刃は全て、竜の鱗の隙間を的確に抉っていた。
『クオオオオオオオッッ!!』
次の瞬間、新たなSS級竜種・ホワイトドラゴンが、
上空から破壊光線を放ってきた。光速の一撃は、人外の
力を持つ男を呆気なく消した。
「陽炎騙し」
『!?』
永きに渡り、散々高温下で激闘を繰り広げた自身が、
"熱のイタズラ"ごときに騙された。ホワイトドラゴンに
とっては、実にあり得ない現象であった。
「フッ!!」
『シュッッ!!!! ドガゴゴゴガァァァン!!!』
『コォアッッ!!?』
動揺による一瞬の隙を突かれ、背を高速移動しながら
斬撃を入れられ、切り傷を瞬間的に熱せられた事で発生
した爆発により、脊髄を粉砕されて絶命した。
『グルルル…………』
『カァアァア…………』
『ジャルルル…………』
『ゴルルル…………』
更に、大地のグリーンドラゴン、氷のグレードラゴン、
風のオゥカードラゴン、鋼鉄のシルバードラゴンが、
男を包囲した。
『ゴル?』
しかし、シルバードラゴンが、男の異変に気づいた。
"いつの間に、30以上の数に増えた?"
『ジャルルッ!!』
"幻影だ!!"
『カアアッッ!!』
"消してくれる!!"
熱由来ならば、温度を下げれば良い。そう判断した
グレードラゴンだったが、その判断は致命的に誤って
いた。
「業火瞬撃・爆死刑」
『『『『ズギュラルルルッルルルルッッ!!』』』』
『『『ドドドドドドドドパァァアアアン!!!』』』
『『『グギャオオオアアッッ!???』』』
"3体"の強竜は、自身に何が起きたかすら分からずに、
絶命した。
『ゴルル…………!!』
しかし、並外れた耐久力のシルバードラゴンは、この
絶技を耐え抜き、絶技のカラクリを見抜いていた。
何体もの幻影を生み出し、高速で散開させつつ、
その内の本物が何処からか飛ぶ斬撃を放ち、大半を
幻影とシンクロさせずに当て、少数を幻影にシンクロ
させ、ごく僅かのみを実際に接近して切り裂いた事で、
攻撃手法を分からなくしていたのだ。
『ゴルルルァッ!!』
"今、開いた傷口に全力の一撃を貰うのはマズい"。そう
判断したシルバードラゴンは、皮膚以外を構成する金属
を、"低質量な組成"にすることで、機動力を大幅に向上
させた。皮膚・鱗表面は硬く、魔力を無効化する鉱石で
構成されている為、飛ぶ斬撃による狙撃は無力化出来る。
後は、機動力任せに逃げるだけだ。
振り返り、全力で加速し始めた時だった。
「業火速攻・内爆四散」
『バグァァァアアン!!!!!!』
『…………』
鳩尾から腹全体を爆ぜ散らされ、焼けた複数の心臓
を次々と断ち切られる感覚を味わいながら、シルバー
ドラゴンは自らの敗因を悟った。
連携時の敗因は、グレードラゴンが冷気を吐いたこと。
この冷気と男の炎熱によって出来た、"見えなくなる空間"
を利用され、男の姿は自身の知覚の外へと消え失せた。
そして、孤立後の敗因は、金属組成を変えたこと。
初めの絶技は斬撃こそ食らえど、全ての金属を魔力無効化
鉱石にしていた為、他の竜達のように細胞を熱で爆発
させられる事態にはならなかった。
しかし、軽量化によって体内へのダイレクトな魔力付加
攻撃が通じるようになってしまい、知覚の外に隠れていた
男によって、"傷口から刃を入れられ、瞬間加熱で爆ぜ
散らされた"のだった。
「さて、俺と死骸を回収しろ」
男が誰かに命じた瞬間、謎の回廊が現れ、男と竜達の
死骸を回収した。
~ギルド長の部屋~
「フレイさん、お疲れ様です。今回の襲撃は如何でしたか?」
俺は、10分前に死地へ赴いたギルド長を帰還させ、
目的の達成度を聞いた。
「頗る順調だ。力の向上を確認できる上、人類の驚異を
これ程効率的に殺す手段があるとは思わなかったぞ」
「なんだか、俺まで経験値のおこぼれを頂いているのは
やはり少々罪悪感があります」
等と言っていると、殺意を向けられた。
「以前気にするなと言った筈だが?」
「はいっ! 気にしませんので、殺意を納めてください!」
フレイさんは、自らの意思を踏みにじる者を極度に
嫌っているらしく、該当する者には容赦しない。今回
俺は、"気にするな"という意思を踏みにじったが、
悪意を持っていなかった為に、事なきを得た。
「一瞬で現地に連れていって貰えるのだ。これくらい
の報酬は当然だろう」
「成る程、そういう考えでしたか」
「お前は引き続き、魔王軍の監視を頼む。くれぐれも、
"悟られねぇ"ようにな。俺は素材の解体をする」
「分かりました。此方へ」
俺は、フレイさん専用の解体場への回廊を作った後、
地球経由でこの世界を監視し始めた。ただし、直接魔王城
を監視することは出来ないので、魔界の岩盤に極小召喚
の穴を開け、望遠鏡で遠巻きに見ている。
(以前は本当に一瞬心臓が止まったよ。まさか、女王様
警護SPすら欺く、俺の視線に気付くとは思わなかったな)
そう、直接魔王を監視しようとした時、いの1番に
インテリ系の幹部に察知され、危うく逆探知されそうに
なったのだ。
"心臓が止まった"は事実で、フレイさんの目の前で
吐血してしまった。俺が渡されたハンカチで口元の血を
拭いている間、フレイさんは本当に念入りに熱消毒を
していたな。
(…………硬く閉ざされているなぁ…………うわ、アイツ
じゃん。監視終わりっ!)
魔王城は硬く閉ざされ、よりにもよって、窓際に
あの幹部が現れたので、監視を終了した。
(悟られる方がマズいし、奴らに殺られる前にフレイ
さんに殺られかねん。正直に言えば納得して下さる
だろう。おっとお呼びだ)
俺は大召喚で回廊を開いた。
「解体は終わった。そっちはどうだ」
「収穫無しです。城門は閉じたままで、あの幹部が窓際
から見えたので、中断しました」
「やむ終えんな。今日はこんなところか、素材報酬だ。
昼飯の足しにでもしろ」
「ありがとうございます」
俺は竜肉等を貰い、修行場への回廊を開いた。
「折角だ、俺も共に昼食を楽しむ」
この人はまた突然、トラブルの火種になりかねない
ことをおっしゃる。
「…………前みたいに暴r…"死線の抜き打ち訓練"を皆に
課さないで下さいよ」
「分かっている。少々唐突すぎたとは思っている」
「では…………」
こうして、共に修行場へと歩んでいった。
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