表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/104

リベンジ・スープ(前編)

48話


「…………来たか」


「うむ。アーロンを確実に()る為の、検証実験と

いこうではないか」


~回想~


「おどれ、アーロン!! 我等の5つは年下の分際で、

力に(おぼ)れてイキり散らしおってぇ!!!」


「ミヤモト家のボンボンといい、何故力を持つ若造は

こうも我等に舐め腐った態度を取るのだぁ!!」


 突如壊れたアーロンの別荘から、全速力で逃げ

おおせたツカハラ兄弟は、早速愚痴をこぼし合い

始めた。


「年功序列に男尊女卑、これらの常識はヤマト王国

のみならず、世界中の共通認識だ!」


 兄は、開口一番、誤った認識を、声高らかに叫んだ。


「にも関わらず、クレインをいたぶっていた我等を

叩きのめしたクロウズ・ミヤモトは、死して当然の

男だった!」


 続いて弟が、彼等の故郷でも罰せられる蛮行を

正当化し、蛮行を止めた男の死をも正当化した。


「そして死して当然の存在は後2人、年上への敬意

を失くしたアーロン・スパークマンと、男への奉仕

を忘れたクレイン・ササキだ!」


「次にアーロンが来るまでに、こやつ等の始末する

手段を考えねばな…………」


 彼等は当然、年下のアーロンはおろか、女である

クレインにも実力で敵わないことを、恥じている。


「…………うむ、やはり罠を設置しよう。クレイン

のみならまだしも、一月の鍛練でアーロンを超す

ことは、現実的に不可能だろう」


 その上、自分達と2人との実力の壁は、妙に正確

に把握しており、


「ああ、図らずも材料費は、シノギの拠点でいくら

でも(まかな)える」


 アーロンの性格をも逆手に取り、


「突如、労働奴隷が消滅したことも、今となっては

好都合。鉱山の(きん)は全て我等の管理下だ!」


 戦力増強の為の、"資金"を一瞬で確保した。


 こうして、2人は文明の利器を駆使することで、

格上の相手を殺害しようと動き出したのだった。


~回想終了~


「さて、我等は最奥にて、万一に備えようではないか」


「フッフッフ、罠はまだまだ改良の余地だらけ。女が

半端に死に損なった時には、女として生まれたことを

後悔するほど陵辱(りょうじょく)してやろうぞ」


「フォールよ、それは妙案だな。後の楽しみに

しておこうか」


「グフフフフフ…………」


 2人は、侍の(きょう)()も品性も欠片すら持たず、

(けだもの)の妄想のみで行動を開始した。


「フン、策士気取りの半端者が仕掛けた罠など、

正面から破ってやろう」


 彼等のターゲットのクレインもまた、彼等に雪辱を

果たすべく、敢えて正面から向かい始めた。


『ボゴン……』


 早速、古典的な落とし穴が発動した。


「…………」


~回想~


「サニー様! フォール様! どうか私をお引き上げ

下さい!」


 幼き頃のとある日、拙者(せっしゃ)はツカハラ兄弟が()った

2m程度の穴に落ちた。


「やだね~」

「お前は一生、そこで暮らすんだー!」


「そ、そんな…………」


 昔の拙者の故郷では、男尊女卑が酷く(はこ)びって

おり、今でもこの2人のようにそれを崇拝(すうはい)する男共

が少なからず存在する。


「でもよー、これを耐えたら、日に一度おにぎり

ひとつ落としてやる!」


「石ころ百落とし~! オラオラ~~!」


「痛っ! お願いですっ! お止め下……さ…………い……

…………ッグス…………ヒグッ…………」


 今にして思えば、随分(ずいぶん)()(せつ)()(れつ)な罠だったが、

当時はこの世の終わりに等しい恐怖を感じたものだ。


「うわーww、泣いてるしーー!」

「女だから根性も無いんだーー!」


 そんな拙者の姿が面白かったのか、奴等は咽び泣く

拙者を指差しながら、大笑いしていた。


「おい!」


「はははーー! んu…ギャアアッッ!!」


 拙者は泣いていて気づけなかったが、上でサニーが

クロウズに殴り飛ばされていたのだ。


「こぉんの!」


(おっせ)ぇよ」

「カッッッ…………!!」


 そして、フォールはクロウズに石を投げようと

したところ、見事な早業(はやわざ)(のど)を突かれたのだ。


『ザッ』


 その上、2人の蛮行(ばんこう)を止めるだけにとどまらず、

穴に飛び降りてまで、


「ヒグッ…………クロウズ…………」


「…………可愛いクレインの顔に傷を付けやがって、

もう安心しろ、俺がおぶって抜け出させてやるよ」


 泣いてばかりの拙者を差別せず、助け出して

くれたのだ。


~回想終了~


『スタッ』

『ヒュッ』


 拙者が落とし穴の一歩前に着地し、穴の中を(のぞ)こう

とした瞬間、前方から矢が飛んできた。


『キィン!』

「少しはマシな罠を作れるようになったかと思ったが」


 矢を刀で弾きつつ、穴底の(とげ)を見ていると、今度は

全方位から矢が飛来した。


「発想の愚劣さは1つも変わっていないな」

『ぼとぼとぼと…………』


 しかし、こんなものは全方位に連続斬りを

繰り出せば、苦もなく落とすことが出来る。


「もう少しだ…………、もう少しで、お前の雪辱は

果たせるぞ、クロウズ」


 親友・クロウズの(かたき)を討つため、拙者は歩みを

止めない。


(奴隷達を俺に神隠しされた割には、しっかりと罠を

作り込んでいるな。まぁ、落とし穴を踏み込みの

反作用で、簡単に抜け出したクレインさんなら心配

無いな。一月で見違える速度になった…………)


 ワイルドは、クレインの一月の成長を感じ取り

ながら、悠々と付いていき、見守っている。


「ふんっ! 偶々回避できたからって図に乗るなよ女!」


「ここからが本番だ!」


 サニーが新たなカラクリを発動させる。


『ボゴォ!』


 六本腕のカラクリ人形が、その手に刀を携えて

地面から現れた。


「…………」


~回想~


「俺の動きをよーく見て」


「動きをよく見て…………」


 胴着を着た幼き日の我等が面と向かい合っている。


「避ける!」

『ブンッ!』


「…………出来た! クロウズの振り下ろしを避けられた!」


「良く頑張ったな。どんなに強い攻撃も、当たら

なければ痛くないんだ! これでお前は二度と、

あいつらに怪我させられる事は無いぞ!」


~回想終了~


(クロウズの本気と比べたら、止まって見えるな)


 拙者はカラクリの斬撃を避けながら、1秒ごとに

刀を一本、また一本と折っていき、6本目を折った

一撃を返した刀で、カラクリ本体を(ぎゃく)袈裟懸(けさが)けに

斬り崩した。


「フン、まさかとは思うが、貴様等は今のカラクリに

すら及ばないのか?」


 そして、右上から感じる下劣な気配に向けて、軽い

挑発を行った。


「グヌヌゥ…………、女のぉ…………、分際でぇぇ…………!!」


「だが、果たしてこの先の罠を潜れるかな?」


 少し進んでいくと、地形に溶け込んだ無数の

射出機(カタパルト)が見えてきた。


「数と質量で攻めてくる辺り、稚拙さも変わらぬ

のだな」


 刹那、無数の武具が拙者へ飛来した。


~回想~


「たりゃあああっっ!!」

「おおおおおおっっ!!…………何てな!」


 木刀での打ち合い中、拙者が押していると思って

いたのだが、クロウズが(わず)かな隙を突いてきた。


『ボカッ!』

「痛いっ!!」


 突風のような一閃が、拙者の(ひたい)を捉えた。


「ま、また負けたよぉ…………」


「まーな。けど、前より本気で対応しなきゃ、俺の方

が危なかったぜ」


「本当?」


「本当だ、お前は連撃の才能が俺以上にある。いつか

肩を並べて世界を見回ろうぜ!」


「うんっ! 私、クロウズと世界を旅する!」


~回想終了~


「小粒になるまで斬り刻んでやろう」

『パラパラパラパラ…………』


「…………嘘だろ?」

「アーロンって、あれを更に超すのか…………!!」


 2人は、クレインの想像を超える剣速に、

面食らっている。


「次は…………プッ、これは費用がバカにならなかった

だろうな。まあ、きらびやかな演出として利用しよう

ではないか」


 拙者は石を1つ手に取り、遠方を見据えた。


~回想~


「は、速~~い…………どうしたらクロウズみたいに

速く動けるの?」


「そうだな、地面を押すのではなく、目的地に

見据えた地面が、一瞬で此方(こちら)に来るイメージで

踏み込むのだ。クレインは十分に基礎が固まって

いる、後は実践あるのみだ!」


「分かった! クロウズより速くなる!」


「言ってくれるじゃないか。絶対に負けないぞ!」


~回想終了~


(…………もう、超えることは出来なくなったが、あの頃

の比にならぬ速度を獲得したぞ。見ていてくれ)


       "スキル : 縮地レベル5"


『ドッッ!!』


 拙者が目的地に見据えた100m先の地面が、一瞬

で目前に迫った。そして、その間の中央にて、石を

落下させた。


『ボゴォォオオオオオオオオン!!!』


 すると、背後で爆破属性の大魔法に匹敵する大爆発

が起きた。


『シューーー…………』


「一流の侍であれば、姑息な毒になぞ殺られぬ」


 毒霧を風属性の魔法具で送ってきているが、そんな

ものは飛ぶ斬撃の風圧で、吹き飛ばせば良いのだ。


~回想~


「そらぁ!」


 クロウズの木刀から、三日月形の魔力が飛び、

かかしを弾き飛ばした。


「刀から空気が飛んだー!」


「いいや、飛んだのは空気じゃねぇ、俺の魔力だ!」


「そうなのー!?」


 当時の拙者は、年齢以上に幼い性格だったと思う。

もう、あの頃に後戻りは出来ぬのだがな。


~回想終了~


「さて、とうとう追い詰めたぞ。観念(かんねん)しても

聞き入れぬので、精々自らの過ちを悔やめ」


 いよいよ、クロウズの無念を晴らす時が来た。


「「へっへっへっへ」」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ