結託! 打倒ナルシストコンビ!!
「アースヒーローズのアーロンを恨んでいる。
違いますか?」
「…………フッ、いきなり背後を取ったかと思いきや、
突拍子も無いことを言うものだな」
スキル : 絶対音感レベル1。一見すると、音楽
関係者やカラオケ趣味の奴だけに役立つスキルに
見える。
しかし、常人には聞こえないモンスターの鳴き声
から、その存在を知覚したり、相手の脈拍数や
心臓の鼓動の周波数から、嘘を見抜くといった
使い方が可能だ。
そして、目の前のクレインさんは、
"隠し事をしている"。
「おっとぉ、俺に事実隠蔽は不可能ですよ。では、
もっと踏み込んだ事を聞きましょう。当然アーロンも
恨んでいますが、最も恨んでいるのはこの2人、
フォールとサニーのツカハラ兄弟ですよね」
「…………」
図星だったらしく、脈拍は加速し、鼓動音は
大きくなった。発汗も起きており、スキル :
臭分解析の方からも情報が入ってきた。
「俺が調べ上げた範囲では、おおよそこんな
ストーリーが出来ました。3年前、あなたは
クロウズ・ミヤモトという男と共に、E級昇格
クエストを受けた。しかし、彼に恨み等を抱いて
いたツカハラ兄弟によって、"転落死"に見せかけた
殺害をされた。これがツカハラ兄弟を恨む理由です」
「……………………」
目に見えて、彼女が怒りに打ち震えているのが
分かる。
「当時力不足だった貴女は、それからの2年半
あまりを死に物狂いで鍛練に打ち込み、漸く
復讐の期が訪れたかに見えた。
だが、奴等は強大すぎる後ろ盾を得ていた。
アーロン・スパーキング、奴等はランクでは
格下のE級の男にヘコヘコと媚びへつらう変わりに、
A~S級にも匹敵する実力のE級の男に守られるように
なった。
それから半年間、その男は今やランクでも貴女を
追い抜きつつあり、対する貴女は再び無力感に
うちひしがれている…………。これが、アーロン・
スパーキングを恨む理由です、いかがですか?」
「…………推論だけで…………よく、…………そこまで
掴んだものだ。…………そうだ、ツカハラ兄弟こそが、
我が親愛なる幼馴染みクロウズの仇。そして、
アーロンは拙者の復讐を妨害し、あまつさえ卑しき
視線を向けて、嘲笑う邪魔者だ…………!!」
いつの間にか、瞼に抑えきれない涙を溜めながら、
話しきっていた。
(アーロンについては、転生初日に剣術指南役の
4人の内、2人が侍だと言っていた。そして
パーティー全員がD級に上がった時に、件の2人が
パーティーにヘコヘコと頭を下げながら祝辞を
言っていたな。名前もカルロスに聞かれて得意気に
語っていたし、完全に繋がった)
「だが…………そもそも何故、私の事を調べ上げたのだ」
俺を見るその目は、疑念一色だった。当然だな、
誰しも自分を調べられていい気はしない。
「俺達の昇格試験の時、特に、危険行為の注意換気の
時と、俺が勝手な行動を起こそうとした時、貴女の
纏ったオーラが復讐者のソレでした。当然、あの場で
試験管を任された上位冒険者なら、大抵は似たような
対応を行うでしょうが、身勝手な俺を斬ろうとまで
した貴女の気迫は、尋常じゃなかった」
「…………そうか」
彼女は一呼吸おくと、あの時の鬼気迫るオーラを、
あの時の比にならないレベルで発揮した。
「…………1つ、忠告しておく。間違いでも
"復讐は虚しいからやめておけ"等と口走った
暁には、即刻貴様を斬首するぞ。この話題は
全て話し尽くした。これで満足か?」
オーラを納め、両手を広げて話を終わらせ
ようとした。
「いいえ、ここからが本題です」
「…………まさか、拙者の忠告をここで破るつもりか?」
再びオーラを出して刀に手を添え、俺が禁句を
発する瞬間に備えだした。
「とんでもない、その逆ですよ。俺も訳あって
アーロンに恨みを抱いています。奴に関しては、
貴女以上に恨んでいると断言できます」
「…………つまり、アーロンの復讐権を全て寄越せと?」
「まさか、ここまで正直に話して下さった
貴女から、復讐の権利を全て強奪するなんて
出来ません。するのは提案です」
「言ってみろ」
「アーロンへの直接復讐権を、半分下さい。その
代わり、貴女が真に討ち果たすべき2人への復讐を
全力で手助けします。具体的には、2人の殺傷を
貴女がやっていないように偽造します。
アーロンにも"妨害行為"として若干の精神攻撃を
出来ますでしょうし、俺の"召喚の方の能力"なら、
それが可能です。互いに利があると思いますが、
…………乗るか蹴るかはクレインさんに委ねます」
「…………アーロンにはどのような仕打ちを受けた?」
「…………まだ、全ては話せませんが、一纏めに
言いますと、俺の人生1回分を全て貪り食われ、
殺されかけた。こんな所です」
「(…………半年、一年…………そんなものではなく、
人生1度分…………か。)良いだろう。拙者はお前と
手を組む事にする」
「ありがとうございます。しばらくの間、よろしく
お願いします」
互いに右手を取った。
「拙者の方こそ、よろしく頼む」
互いの緊張がかなり緩和された所で、近付いてくる
2つの足音と空気の揺らぎを感知した。
「バルディにミュール、今そっちに向かうから
近付かなくていいぞーー!」
「うぉ!?」
「気づかれていた!?」
そりゃ、足音聞こえまくりだったからな。最も、
音を消せても、スキル : 空力感知レベル1によって、
空気の揺らぎを元にバレるのだけどな。
「2人とも全く忍べてなかったぜ。特にバルディ」
「ガサツだもんねー!」
「コソコソ動くのは専門外だっ!」
ミュールにからかわれ、バルディは開き直った。
「てか、何処の和風美人かと思ったら、クレイン
先生じゃね~か~。ワイルドをパーティーにでも
誘いに来たんです?」
バルディが微妙に敬語を使い損ねながら質問した。
因みに、異世界で和風という言葉が出てくる事に
違和感を感じたと思うが、この世界には過去に
日本人を大量召喚し、打ち立てられたヤマト王国が
存在している。
加えて、現在活動拠点にしている城下町の国名は、
アント・ネット連合街国という、城下町の連合国だ。
冒険者産業はこの国が殆んど執り行っているため、
首都である拠点の城下町に、自ずと冒険者達が集合する。
「あの時の筋肉自慢か。ワイルドについては、
パーティーの勧誘等ではなく、共通の目的の
ために手を組んだだけだ」
「ああ、関係者以外は他言禁止だから、踏み込む
なよ。とはいっても、しばらくは修行期間だがな。
ここからはクレインさんも加えて、物理鍛練をより
良質なものにしていくぞ」
「おおお! 敏捷性向上とか対侍の相手をお願い
しゃーすぜセンセぇ!」
「クレインコーチ、よろしくお願いします!」
「あ、ああ…………その時は相手になろう」
「それで、早速で悪いのですが、クレインコーチ
には、この2人の短距離走特訓の手伝いをして
いただきたいです。具体的には2人の内、片方が
動けなくなるまで走り、倒れた所を回収して
スタート地点まで戻して下さい。空き時間は
剣技の型の復習等に当ててください」
「運搬役か。だが、お前はその間何をするのだ?」
「俺は、筋トレに役立つあるものの回収に向かいます。
鍛治屋に特注で頼んだものの一部が出来ている筈なので」
「そうか」
「ワイルドコーチ! 全力疾走って、スタートに
戻ったら即再開するの!?」
「おっと説明不足だったな、2分毎に1人が走り込む。
つまり、4分おきにダッシュすることになる。休み
時間も動的ストレッチをしておくと、全速力に近い
速度が出る筈だぜ。順番はじゃん拳ででも決めると
良いよ」
「了解!」
ビシッ! と敬礼で返事を返してきた。バルディが
真面目だと評する訳だと思った。
「あ、勿論本当に身体が動かなくなったら休むんだぞ。
休息を長くして走るのもありだ。それとミュール、
君以外にカルロスの被害者が居たと思うが、彼の
居場所について何か知っていることはないかい?」
「あー、確か…………心の整理を着けるために、
数日休暇を取るってギルド長が言っていたような
記憶があるなぁ」
「ありがとう。それじゃあ、30分位で戻るよ」
『ゴオオッ!! ズダダダダダダダドゴォン!!!』
そう言って、縮地スタートの全力疾走からの
崖ジャンプで移動時間の短縮と脚関連のスキル
ポイントを蓄積させた。
「バルディ、見えた?」
「全ッ然見えなかったぜ」
2人は数秒間、ポカンとしていた。そして
正気に戻ると、
「「じゃん拳ポン!」っシャア! 俺が最初だ!
うおおおおおおおお!!!!」
じゃん拳で勝敗を決し、勝ったバルディが、
訓練生一の俊足を更に速めようと爆走し出した。
(カルロスとは…………確かアースヒーローズの団員
だったな。おそらくワイルドは、アーロンだけでなく
アースヒーローズそのものに恨みを持っているの
かもしれんな)
先ほどの会話を反芻したクレインは、脚が
動かなくなってコケたバルディの回収に向かった。
現時点ではバルディより筋力が上なので、彼を回収
する位何ともないのだ。
最後まで読んでくださりありがとうございます。




