エピローグ
大好きな青を視界に映した私は、気が付くとファクルの広場でフィロに抱きしめられて座り込んでいた。
周囲は荒れに荒れていて、私があの空間に連れて行かれてから数時間しか経過していなかったそうだ。
私を吸い込んだ後のあの空間は映っていたアルディナの風景を消して闇に包まれた状態になり、私がアルディナから門を潜って外に出ようとした時と同じように、目に見えない壁で覆われ通れなくなってしまったらしい。
しかしそこで通れないと判断した私とは違い、レオス様が様々な魔法で私が引きずり込まれた空間を消えないように維持しながらもその空間に攻撃し、結果的に穴をあけたそうだ。
あの部屋が大きく揺れて崩れかけた理由は最後にあの声が言っていた通り、レオス様の攻撃によるものだった。
人が通れる大きさにはならなかったものの、私ならばフィロの声に反応して帰ってくるだろう。
そう判断したレオス様はフィロに呼びかけさせながらも魔物たちと協力して穴を広げ、ようやく腕が通る大きさになったところでフィロが腕を伸ばしたらしい。
フィロが腕を伸ばした場所はしっかり私のいた場所に繋がっていて、私がフィロの名を呼ぶ声も彼にだけかすかに聞こえたそうだ。
入れた自分の手すら見えない真っ暗闇の中で必死に手を伸ばして私の手を見つけ、ファクルの方へ引っ張ってくれた結果、私は無事にここへ戻ってくる事が出来た。
レオス様の力に加えて魔物たちの力もあったのに腕が通る程度の穴しか開かなかったということは、あの選択肢が現れずに門のところまで行ったとしても私の力では町の外へは出られなかったということだろう。
穴が開いていたとはいえ人が通れる大きさではなかった壁を私が通り抜ける事が出来たのは、きっとあの時この世界を選択したからだ。
声は約束通り、ファクルを選択した私をここへ戻したことになる。
もっとも私がそのことを聞いたのはフィロの体温やファクルの空気を感じ、そして駆け寄ってくる魔物たちを見て安堵から気絶してしまったせいで、一日経って目が覚めてからになってしまったのだけれど。
目が覚めてすぐにまたフィロに力一杯抱き締められて……そこからは怒涛の日々だった。
ゲームや前世のことは誤魔化しつつもあの空間で起こったことを説明し、プルムがアルディナで同じ日々を繰り返している事、プルムに手を貸していた何者かの存在、その存在はここにはもう関わらないと言っていたこと……思いつく限りの重要な事はしっかりと伝えた。
アルディナの民はプルムの願いに巻き込まれる形でその世界に閉じ込められたのだろう、というのが魔物たちの考えだったけれど。
意味ありげな笑顔で私に視線をよこしたレオス様はきっと色々と察しているのだろう。
もしもこの先何かあった時はレオス様は真っ先に私に話せとやってくるだろうし、その時までには私も話す覚悟を決めておかなければならない。
それを話さなくてはいけないほどのことが起こらないことを祈ると同時に、やはり私はこの人を攻略するのはごめんだとしみじみと感じた。
アルディナは世界から文字通り消え、国があった場所は開拓すらできないような荒野になっている。
小国とはいえ大騒ぎになったが、世界ではファクルの魔物たちが消したと思われているようだ。
「さすがに建物の残骸すら残さず消すことは我らにも難しいのだが、絶対に出来ないというわけではないしまあ良いさ。脅威だと思われることが増えるのは大歓迎だ。真実は我らだけが知っていればいい」
そう笑ったレオス様が見せてくれたファクルに伝わる数百年前の世界地図、そこにアルディナは存在していなかった。
これまでこの世界地図を見ても違和感など感じていなかったのだから、あの声の力は本当に凄まじいものだったということだ。
その地図の中でもアルディナがあった場所は荒野が広がっていて……おそらく今見えているどうしようもない荒野こそが元々のこの世界の姿だったのだろう、と感じさせられる。
無事に帰って来られて良かった。
……もしもあの時三つの扉のどれかを開けていたらどうなっていたのだろうか。
一つが続編、一つがアルディナなら、最後の一つはもしかしたら前世の世界へ繋がっていたのかもしれない。
私の中で前世の世界はもうすでに過去の事だ。
完全に割りきってしまっているからこそ、前世の死の真相を聞いても酷く取り乱したりはしなかった。
前世での日々は確かに充実していたけれど、過去は過去。
私が生きたいと思うのは、今のこのファクルなのだから。
アルディナはこの世界から消えたが、ゲームの世界であの子はストーリーを繰り返している。
嫌だ嫌だと泣いていたプルムだが、あの声の言う通りならば彼女の願いは今も叶え続けられていることになるはずだ。
それは彼女が思い描いた幸せとは違うものだけれど、彼女が願った幸せではある。
……実は少しだけ思い付いていたこと、けれどあの場では口にしなかったことがある。
あの声はプルムの願いを聞くのはもう飽きた、と言ってあの子の願いを聞くのをやめた。
ならばきっと、声がプルムのループをつまらないと判断すればあの子は解放されるだろう。
イレギュラーなことが好きそうだったし、予想外の行動をして気に入ってもらうという手もあるけれど。
あの声がつまらないと思うこと……それはきっと、なんの抵抗もせずにひたすらゲームストーリーをなぞる事だ。
攻略相手、恐らく一番可能性が高いのはあの子が一番興味がないと言っていたユート王子だろうか。
彼を支え続け、ゲームのエンディングの様に魅力的に成長させる。
それもプルム自身が心から支えたい、そして心から愛しいと思いながら。
他のキャラたちを見ることなくそれをユート王子相手に何度も繰り返せば、あの声はきっと飽きるだろう。
プルムが泣いて怒って、こんなはずじゃなかったと叫んでいることが、あの声にとっては愉快に感じることなのだろうから。
そのことに気がついたのにプルムにヒントすら伝えてこなかったのは、私からの最初で最後の個人的な恨み返し、と言ったところか。
あの子を置いてきた最大の理由は復讐でもなんでもなく、ただあの子がファクルの敵だったからに過ぎない。
地位ある人間として、国に害を持ち込む人間を連れ帰る真似だけは絶対に出来ないのだから。
いつあの子は気がつくだろう、あのままではきっと難しいとは思うけれど。
最後まで気がつかないまま、あの声に見捨てられる形でループの中に放っていかれる可能性の方が高いかもしれない。
もっとも、あの声が飽きたところで放置される可能性もあるのだが。
そこは私よりもあの声との付き合いは長いのだから、あの子が声と自力で交渉して頑張ればいいだけだ。
選ぶのも思いつくのも自己責任、あの部屋で私がそうしたように。
私にとってのフィロやレオス様を筆頭にした魔物たちのような、手を貸してくれる人がいるかどうかも、それまであの子が歩んできた人生次第だろう。
どちらにせよ、私とあの子の人生はあのゲームの様に別れたことになる。
続編でどうなっていたのかは知らないが、ここは続編のゲームのファクルではなく、未来など定まっていない現実の世界なのだから。
そんなことを考えている間にも時間は過ぎていく、あれだけの大騒ぎを過去にして。
色々と忙しなく落ち着かない日々も、時間が過ぎれば落ち着いてくるものだ。
私が戻ってきて一か月が過ぎる頃には世界も落ち着きを取り戻し、ファクルは友人の国から得たあの石でさらに力をつけていった。
プルムの持っていた石はレオス様が握り潰したので、もうこの世には無い。
利用すれば力を得る、けれど得体の知れない物を使ってまで手に入れるつもりはない、ということだ。
そしてそんな風に落ち着いてきたからこそ、私は新しい問題に悩まされている。
夢見が悪い、おかげで寝ても眠った気がしなくて寝不足気味だ。
夢の中の私はプルムの部屋にいて、いつも窓の存在に気付かずに三つのドアのどれかを開けてしまう。
そして開けてしまった後に窓の外にいるフィロの存在に気が付くことになる。
窓の外、絶望の表情で私を見る彼に。
気が付いても体はドアの中に吸い込まれたところで目が覚める、その繰り返しだ。
今日も結局同じ、慌てて起こした体は戻ってくる事が出来た家の中を見回すことでようやく落ち着きを取り戻した。
「リウムさん」
「ごめん、起こしちゃった」
「あなたが苦しんでいるのに起きられない方が俺にとっては問題で苦痛ですよ」
そう言って腕を広げてくれたフィロに導かれるまま、彼の腕の中に収まる。
感じる温かさはファクルに帰って来た時と変わらず、ようやくホッとして体の力を抜く事が出来た。
起こしてしまうのが申し訳なくて別々で眠ることも提案したのだが、目が笑っていない笑顔で却下されてしまった。
……夢を見る原因はわかっている。
今回私が無事にここへ戻って来られたのも、被害があの子の作り出したアルディナだけで終わったことも、すべてあの子の甘さが原因だ。
プルムがもう少し頭の回る子だったら、もっと我慢ができるタイプだったら、アルディナどころか世界ごと自由にされていただろう。
それにあの声……私たちで遊べる存在があることを知ってしまった以上、あの声の主がいつか同じ様な願いを持った子を連れて来てしまうのではないかと不安だった。
あの声は私たちにはもう手を出す気はないと言っていたけれど、いつそれが覆されるかが分からなくて、そのせいであんな夢を見るのだと思う。
「不安ですか?」
「そう、ね。不安だわ。でも今は大丈夫」
ゆっくりと頭を撫でてくれるフィロの手に甘えながら、もっと、とくっつけば頭上から微かな笑い声と共に額に彼の唇が降ってくる。
ここが、フィロの腕の中が私が世界で一番安心できる場所だ。
あのアルディナでも、私は一度たりともフィロが私から離れたり敵になったりすることを考えなかった。
レオス様が敵になるかも、とは覚悟したのだが……今思うと失礼にも程がある。
あの場所はそんな風に私の不安を煽ってくる場所だったけれど、フィロのことだけは常に信じて行動できた。
私の中で彼に対する疑いという感情はまったく無いに等しい。
「もしも似たようなことが起こっても、俺は絶対にあなたの味方です」
「ええ、知っているわ」
大丈夫だ、きっと。
こうしてフィロと触れ合う何気ない日々で、きっとこの不安は解消されていくはずだから。
あの声は今の時点でも私が外と縁を結びすぎて戻せないと言っていたから、こうしてここで縁を強めて新しく結んでいけばもっと難しくなるだろう。
また何かあってもフィロと一緒に精一杯抗えばいいだけだ。
だからこの悪夢も時間が経過するか、もっと大きな幸せで上書きしていくしかないことだとわかっている。
「……あなたが不安に思っているのに、俺が迷っている場合ではないですね」
「何かあるの?」
「少し悩んでいました。ですが答えは出ましたので、明日の夜にでも聞いていただけますか?」
「もちろん。むしろフィロが私の不安に気が付いて気を使ってくれているのに、私があなたの悩みに気が付かなかったことの方が申し訳ないわ」
「いえ、これに関してはあなたに知られているほうが俺にとっては気まずいことですので」
「……どういうこと?」
不思議に思う私の顔を覗き込んだフィロが、明日まで待ってくださいと笑う。
よくわからなかったがフィロが私に害を与えることをするわけがないし、彼がゆっくりと背中を撫でてくれる感覚が心地よくて、結局目を閉じることになった。
次の日、一度お兄さんの所へ行ってくるというフィロを見送り、再開した仕事を済ませていく。
悪夢でうなされて寝不足だというのに仕事をしている自分に苦笑するが、こういう部分があったからこそあの世界から抜け出せたのだと思えば悪くない気分だ。
時折フィロや魔物たちに笑顔で書類を取り上げられることもあるけれど……加減って難しい。
そろそろ休憩時間だと顔を上げたところで、旅用にまとめた荷物が目に入る。
私の精神面のこともあって出発を見送っていた旅だが、環境を変えてみるのも一つの手だということで数日後には出発する事になっていた。
ずっと楽しみにしていたフィロとの二人旅、そして初めて出会うことになるフィロのご両親。
楽しみだ、と素直に思う。
これも私が欲しいと思っていた日常で感じる幸せの一つなのだろう。
夕方にはフィロも帰ってくる。
彼が私に何を言いたいのかはわからないが、きっと悪いことにはならないはずだ。
仕事を無事に終え、フィロの好物ばかりの夕食を作り終えたところで玄関の扉が開く音が聞こえた。
少しの間をおいて部屋に入ってきたフィロに笑いかける。
「おかえりなさい」
「はい、ただいま戻りました」
そう返してくれたフィロの表情は笑顔だったものの、どこか苦笑いに見える。
私のおかえりの言葉にはいつも本当に嬉しそうに笑ってくれるので、どうしたのだろうと少し不安に思った。
よくよく見れば少し緊張しているようにも見える。
少し視線を泳がせたフィロがまるで緊張を吹き飛ばすかのように小さく息を吐き出し、私の前まで歩いて来た。
「その……」
彼にしては本当に珍しく、私に話しかけているというのに視線が合わない。
いつもならばしっかりと視線を合わせて笑ってくれるのだけれど。
不思議に思っていた私に、体の後ろに隠していた手を差し出すフィロ。
その手の中には三センチほどの小さな青い花が握られていた。
「あなたに」
「くれるの?」
「……はい」
小さな花をそっと受け取って、思わず笑みが浮かぶ。
すごく嬉しい、胸の奥がふわふわする。
「ありがとう、フィロに花を貰うのは初めてね」
「そうですね」
喜ぶ私とは裏腹に、フィロはなんだかがっくりと来ている様だった。
「……どうかしたの?」
「ファクルに来た次の日に、あの子たちが俺とリウムさんに花をくれたでしょう?」
「ああ、あの子供たちね」
笑顔で花を差し出してくれるチンチラのような二人組を思い出す。
今も会うたびに彼らは魔法で花を出して私たちにくれるのだが、それがどうかしたのだろうか。
「アルディナにいた頃はあなたに堂々と花を贈れる立場ではありませんでしたし、せっかく恋人という関係になれたので俺も花を贈りたかったのです。最初は買うつもりだったのですが……あなたは俺が魔法を使えることを喜んでくれましたし、どうせなら俺も自力で出したものを贈りたくて」
「ならこの花はフィロが魔法で出してくれたものなの? 嬉しい……ありがとう!」
「……はい」
「……フィロ?」
様子がおかしいフィロは沈んでいるようにも見えるし、どこか拗ねているようにも見える。
私が不思議に思っていることに気が付いたのか、また視線を泳がせたフィロが観念したように口を開いた。
「本当はこんな小さな花ではなくて、もっと大きな花を束にして渡したかったのです。ですが植物を生成する魔法は俺と相性が悪いらしく……ファクルに来てからずっと練習していたのですが上手くいかなくて。最近ようやく花びらが出せるようになったので、そろそろ一輪くらいは出せるかなと思っていた所だったのですが」
「そう、なの。でも私、あなたが出してくれたというだけで十分すぎるくらいに嬉しいわ」
「……あなたの元気がなかったので、それを吹き飛ばせるくらいに大きな花を出してみせると昨日決意したのですが、兄のところで一日かけて初めて出せたのがこれで」
「フィロ……」
それを聞いてしまえば更に嬉しさが倍増する。
フィロが苦手だったにも関わらず、私の為に魔法で出してくれた初めての花。
私の大好きな、彼の瞳を思わせる青い花。
私にとっては何よりも、どんなものよりも価値がある贈り物だった。
嬉しさがどんどん溢れ出て来て、小さな花を潰さないように両手でそっと包む様に茎の部分を持つ。
そんな私の手を、大きく息を吐き出したフィロが上から握り込んだ。
私よりも少し高い位置にある彼の顔を見上げれば、真剣ながら緊張した面持ちの彼と目が合った。
「リウムさん」
「は、はい」
「本当は今日しっかりと告げるつもりでしたが、返事は後にしてほしいです」
「返事?」
「これから俺は毎日この花を出す魔法を練習します。成果はあなたに渡しますので」
「いいの? 嬉しい……」
私の手を握るフィロの手にさらに力が籠ったのがわかる。
「いつか、いえ、近いうちに必ずあなたに大輪の花束を渡します。その時は俺に、あなたの夫という地位を下さい」
「え……」
真っ赤になった彼の顔を見て、一瞬置いて自分の顔も真っ赤になったのがわかる。
言葉が出ずにパクパクと口を開け閉めするだけの時間。
「あ、あ、あの……」
「っ、返事は後でお願いします!」
「は、はい!」
ようやく言葉を返そうとした私の言葉を遮り、フィロが叫ぶようにそう言って来たのを呆然と見つめる。
今すぐにでも了承の返事をしたいのに、まさかのプロポーズして来た本人のせいで返事が出来ないとは何事だろうか。
しばらく見つめ合った後、私の手を離したフィロ。
私も彼もそれ以降の会話はちぐはぐで、夕飯の味もわからなかった。
隣り合ってベッドに入った後の記憶も朧気で、ただ胸の中に満たされた幸せの感情のせいか、悪夢なんて欠片も見ずに目を覚ますことになる。
いつもとは別の意味で眠った気がしない状況に陥ることにはなってしまったけれど。
一晩中自分の目蓋の裏の暗闇を見ていた気分だ。
目覚めた後も昨日までの不安は何だっとのかと思うくらいに、幸せと照れくささと戸惑いが入り混じった感情が胸の中を一杯にしていて。
お互いに照れた状態で行ってきますと行ってらっしゃいの挨拶をして、それぞれの仕事場に向かった私たち。
フラフラと書庫に行った私は、偶然出会ったレオス様が不思議そうにした後に何かを察して吹き出した挙句、大笑いしながら咳き込んでしゃがみ込んだあたりで、ようやく冷静になる事が出来た。
そしてその言葉通り、フィロは毎日私に花を持ち帰ってきた。
毎日違う色、違う大きさ、違う花、同じところが何一つ無い花。
魔法のおかげで長持ちする花が、私の部屋の花瓶に溜まっていく。
毎日のように手渡される私の幸せの象徴が、だんだん大きな束になって私の部屋の窓辺を彩っていく。
手渡してくれる時のフィロの表情や言葉、それに返す私の感情も毎日少しずつ変化して。
私が以前願ったような日常で感じる幸せが、そしてまったく同じでない幸せが増えていく。
旅に出てからもその習慣は変わらず、夜寝る前に私の目の前で出して手渡される花。
花が増えるたび私の悪夢を見る回数は減っていき、扉を開ける前に窓を振り返ることが出来るようになっていった。
そうしてそろそろフィロのご両親との合流予定の場所に差し掛かった時、私は少し得意げに笑うフィロから大きすぎるほどの花束を差し出されることになる。
やっと返事が出来ると笑う私に、やっと返事が聞けますと笑うフィロ。
心に湧きあがる感情のまま彼に抱きついて、海色の瞳をしっかりと見つめた。
「フィロ、これからもずっと、私と一緒に生きて下さい。夫婦になったとしても」
「当然です。いつでもどんな時でも、ずっと傍にいますよ」
今日、夢の中の私は迷わず窓を開けるだろう……悪夢は終わりだ。
ストーリーから飛び出して、私は最高の幸せを手に入れる事が出来た。
早く早くと追放の時を願っていた日々は、今このためにあったのだとすら思う。
フィロの腕の中で今まで生きてきた中で一番の幸せを感じながら、これから生きていく内に起こるであろう小さな幸せたちに思いを馳せる。
彼の両親には恋人ではなく、結婚相手として紹介してもらえるだろう。
ファクルに帰ったら、皆なんと言うだろうか。
きっとレオス様はすべてを察して笑っているのだろう。
フィロが私を呼び捨てで呼んでくれる日も近いはず。
思い浮かぶたくさんの幸せたちに、自然に笑みが深くなっていく。
苦しいことも悲しいこともあるだろう。
けれど彼と一緒ならば、この先なにが起ころうとも幸せへと向かっていける。
ゲームのストーリーのように決まった幸せではなく、毎日少しずつ違う幸せをフィロと二人で感じながら生きていく。
ゆっくりと合わせた唇から感じる幸福感に、さらに笑みが零れた。
~END~
【あとがき】
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
今回で完結となります。
短編投稿の段階で、続きのリクエストを送って下さった方、ありがとうございました!
おかげさまで一本の連載として完結させることが出来ました。
このお話の元になった短編の方は悪役令嬢の作品を集めたアンソロージーでコミカライズされております。
アンソロジーではない単話版の配信も電子書籍サイト様の方で先行配信が始まっておりますので、興味がおありの方は見ていただければ幸いです。
イラストレーターの方にリウムとフィロの姿を素敵に描いていただいております。
番外編を投稿することもあるかと思いますが、本編完結という事で一度完結扱いとさせていただきます。
応援して下さった方、本当にありがとうございました!
また新作投稿の際は、よろしくお願いいたします。