北アサゴ
スニークは、王の言う通り、国の外れまで来ていた。彼にとって、障害物のあまり少ない郊外は行動するのに多少なりとも都合を与えていた。とはいえ、それだけの土地となると人口がかなり少なくなる。殆どの国民がその住居を王の目の届く範囲に構え、安心を確保したがるためだ。
「どうして王は私を、仮寓にすら選ばれなさそうなこの辺境の地に派遣したのだ」
人やものが「ない」ということは、すなわち情報の乏しさを意味する。スニークはここで期待される成果について、何の希望も持てないまま足を進めた。既にこのアサゴの北方といってもいいような土地に来ている。波の打ち付ける音を聞きながら、耳を頼りとする彼はこれ以上進んでもよいものかと躊躇った。行き止まりである以上は、踵を返すよりほかにやることもないのである。
「つまらん任務だ」
と言って彼は歩みを止める。方向転換をするためではない。何か禍々しい気配を感じ取った彼はとっさに後ろに距離を取り、全神経を耳に集中させた。
「安心しろ。危害は加えない」
人ともつかないようなその声を認めた彼は、声のする方向へ、拘束を具現化する魔法をかけた。
「そしてお前も同時に、私に危害を加えることはできない」
声の主はスニークの背後にいた。彼は力量差を感じ、逃避を試みようとしたが、逆に追跡をかけられることを危惧した。故に、しばらく様子を伺う姿勢を見せた。
「何者だ。何がしたい」
「今は名乗れない。名乗るときが来たとて、お前が覚えていない可能性もある」
「何を言っている。用がないのなら去れ」
「いや、用があってこの地に来た。お前だ」
「何?」
声の主は次第に遠ざかっていった。それに応じるように、スニークの足はその方向へと進んでいく。彼はこの足の動きが、自らの意志でそうしているのか、それとも自分が相手の魔法にかけられているのか判断できなかった。それほど自然に、彼の身体はもう少しの行進を続けた。
「ここだ」
相手は足を止めた。スニークの感知する限り、このあたりは何も障害のない平野である。何か行動を起こせるような対象など、何もないはずである。と、彼の手は下に引っ張られ、地に手のひらをかざす形となった。その腕を、少なくとも人間の感触ではない堅い「何か」がつかみ、固定している。
「使え。何かは分かるな」
スニークは自分の予感に従った。そいつは何故自分を求めているのか。それは白の魔法の力である。そいつがこの果てで彼を待っていたのは偶然ではないことを考えても、自分の中の何か特別な力に期待していることは火の目を見るより明らかなのである。




