後生楽な女
この女、名をニラード。現在は城下町を好き勝手闊歩していた。彼女の命は国内における白魔法の情報収集だった。しかしこの女、途方に暮れてフラフラとするばかりだった。国内で可能なことといえば、聞き込みと調べものくらいであるが、その程度のことなら王が部下に命じて行えばよい程度の難易度である。
「まったく役不足な仕事ね」
なんて言いながら足を止めた先はやはり、白魔法の教会―つまりスニークの勤めていた地―なのである。
短時間の聞き込みで得られる情報は粗方この建物に帰着するものであった。勿論、それだからこそスニークが王の目に止まったのであろうが、彼女なりに調べられることがなさそうなわけではなかった。
その教会はニラードも名前くらいは聞いたことのある程度の知名度だが、その実態については知らないものだから、彼女の好奇心を以て調べるには何とも都合の良い物件なのである。
扉を開けてみる。カギはかかっておらず、大して重くもないその鉄の板は、敷地外にまで響き渡る音を立てて動いた。内装は極めて「普通」であった。ただの人気のない空間だが、夜という事もあってさすがに不気味だ。蜘蛛の巣も散見できる。
辺りに注意を払いながらニラードは歩き続けた。特に目を引くものはなかったものの、異様に目立つ教壇を調べてみるべきだと、彼女の第6感はそう告げた。ニラードには触覚が欠けている。大地を踏みしめる感覚もなければ、寒暖や痛みを受信して適切な対策を打つもできない。代わりに、「異様なもの」に対しての本能的な機能か発達したようだった。彼女自身、このことに気付いているのかは定かではない。
教壇に向かっていると、更に彼女の脳はただならぬものを感じていた。しかし、それが何なのかは分からない。辺りを見渡してみてもやはり、これといって怪しい動きはない。それだけにいっそう、際立って教壇に向かって足が吸い寄せられた。
一見、なんということもない台である。
「おかしいなあ」
と言いながら、細部にわたって見てみる。やはり見かけ上には何も不思議なところはない。
「思い過ごしかなあ」
などどいいながら教壇を離れると、違和感は薄まっていく。
また近づくと、感じるものがある。
「何か隠されてるのかも」
今度は手触りで調べてみる。感覚などないのに、以前の習慣で手に頼ってしまうのである。
教壇の足元、つまり足を収める空間のある場所に手をかざしたとき、不思議と力を感じた。
「んっ」
更にその元を探ってみると、床の部分のくぼみである。だが、押しても何も変化はない。
ニラードは、先ほど感じた力に呼応する、自身の中にあるモノを探ってみた。それをゆっくりと引き出していく。
「間違いない。これは白魔法だ」
手に白魔法の力を集中させる。すると、下の空間が揺らぎ始め、次の瞬間には人が一人通れるほどの穴が生まれていた。
「結界ってやつかなあ」
白魔法のみを通す結界なのであろうか。ニラードはその小さな体のおかげで、すっと穴の中に入ることができた。
そこには更に部屋があった。




