68.ヲサイヤの過去2
滅多に啼かないフユゾラガラスの声が聞こえる、記憶に残る一日だった。この日、ヲサイヤとニンカは森に入り、山菜の選別テストを行っていた。食べられるものは青いバスケットに、食べられないものは間違って摘んでしまわないように、そして燃料とするために赤いバスケットにニンカが入れていく。
ヲサイヤの関心事は木こりとしての自身の次の任務にあった。父親がやっているように、空気の杭を作って飛ばし、木に傷をつける練習をしている。
「ニンカ、終わったか」
「もうそろそろ」
「早くしないと日が暮れちゃうぞ。ここら辺の山菜摘みは慣れているだろう」
よく来るルートの1つだった。白い雪がつもりつつあるこの森で、陽の光が届かなくなりつつある。このあたりの広場のみがスポットライトを浴びるように木が生えておらず、辺りの薄暗さに気付きにくい。二人とも夢中になる中、先にヲサイヤが我に返る。
もうそろそろ帰る時間だ。後ろを振り返り、ニンカの姿を認める。いつまでぐずぐずしているんだと思ったその視線の先に別の男の影を見つけた。
ヲサイヤは固まった。今やっと気づいたその男の存在に怯えてしまったのである。その男は何も言わず、真っ白な顔にただにっこりとした笑みを浮かべてずっとこちらを微動だにせずに眺めていた。いつからだ。いつからここにいた?この広場が二人にとって馴染む空間になってからの、この男の存在の主張は彼の心を恐怖で掴んだ。今この瞬間にもこの男は何も言葉を発しようとはせず、満面の笑みでこちらを見ている。何が目的でここにいる。何故何も言わない。
生物としての本能が、この男に近づいてはならないと告げていた。彼は直感に従い、ニンカにこの男の存在に気付かせることなく広場を離れることを決めた。
「ニンカ。帰る時間だ。行くぞ」
バスケットを二つ持つ。ヲサイヤの身体でニンカの視界を遮るようにその場を発った。広場から森に抜ける道にさしかかったところで振り返る。
その男は死んだように相変わらず生気のない表情で笑っており、その顔だけがこちらに向けられていた。




